第4章 第4話
#side フォールティア
”対破王戦における条約”の会議が行われる会場は広い。護衛も入れるようにと一つ一つの席は離れており、さらには他国の要が集まる。珍しいのは、この条約の会議で国家元首がいないのは少数派という点だろう。
ほぼ全ての国の国家元首が席についている。ある者は近くの者と歓談し、またある者はニコリともせず黙考している。国家元首の後ろには護衛が控えている。また、その後ろには文官たちが座っている。これは、彼らの後ろに座っている国家元首への配慮であろう。会議の場は広い。それでも、各国の国家元首とその護衛、文官たちが並ぶため、一つの円になるのは無理であった。ゆえに、この部屋は円の形をしており、真ん中(つまり円の中心)を起点として段々になっている。
サケリウス帝国の席は真ん中に一番近い段だ。順番に意味はないが、発言力の高さで席の順番が決まるのは暗黙の了解といっても差し支えない。
真ん中には一つの席がある。演壇と言えばいいものであろうそこに、一人の人が立っている。彼が手を軽く挙げるとーー
カーン
カーン
カーン
ーー会議内を鐘が鳴り響く。ざわめきが収まり、多くの人々が出で立ちを整える。
「それでは、”対破王戦における条約”に於ける臨時会議を開催したいと思います。彼女ーー議長は急遽開かれたため、暫定的にプロトス神崇帝国から人員を用意させていただきました」
演壇に立っている男は議長のいる席を見やる。議長のいる席は最も上の段であり、どの国の人々もその段にはいない。横にいるのは同じく副議長、書記と言った、役職の人々だけだ。
議長が立ち上がる。それと同時に横に並んでいる役職の人々も立ち上がり。そして、同時に礼をする。そして、席に着き、議長が口を開く。
「それでは、今回の臨時会議の開催を提案したプロトス神崇帝国から、議題の発表と、それに至った経緯について説明を」
「はい」
にこやかな笑顔で、演壇に立つ男は話し始める。
「事の発端は皆様ご存知の通り、破王が本格的な侵攻を開始しました。それも、ご丁寧に各国の主要都市を滅ぼすという、余りにも我々人類を舐めきったはじめ方です」
彼はここで少し口を閉じ、周りの人々を見渡す。
「多くの方がわかっていると思いますが、議題は”破王大戦における本格的な戦闘の準備”です。経緯を説明しましょう。破王ーー彼らが一国の首都に一切侵攻をかけてこないのはなぜでしょうか? 導き出される答えは幾つかありますが…、ある計画のために行なった侵攻と考えるのが一番簡単でしょう。そして、今ここで各国との連携を深め、破王軍の侵攻に備えるのです。我が国からの議題と経緯は以上です」
最後までにこやかな笑顔を絶やさず言い切った男はプロトス神崇帝国の文官が並んでいる列に戻る。その間、他の国々の反応は様々だった。
「…茶番だな」
皇帝ヒーラリルはそう呟く。しかし、その声は周りのざわめきにかき消されたため、多くの人は気にも留めない。
カンカン
「静かに」
議長が木槌で机の上の台を叩いて静かになるのを待つ。
「次は、各国の被害報告です。まずはーー」
どの都市に、どれだけの被害があったのか、復興の目処はついているのか。詳細に、それでいて簡潔にそれぞれの国の文官が報告をしていく。各国が数年の国家予算に匹敵する規模の被害を受けている。報告をするたびに、各国の国家元首の表情が曇っていく。
「ーー以上。破王、魔王またその配下による被害についての報告を終わります」
議長が次の議題へと移ろうとした時、声が上がった。
「…我が国の報告は必要ないのですか?」
議長は声の方を向いて一言。
「……意見を具申する場合はお手元の魔道具で報告をと事前に説明されていないのですか?」
「もちろん説明されていました。しかし、魔道具を起動したのですが一向に取り合ってくれないようでしたので、この魔道具が壊れているのかと思い、失礼ながら割り込ませていただきました。しかし、話の途中に割り込みましたことは謝らせていただきます」
随分と皮肉が効いているように思えるのは僕だけではないはずだ。明らかに、議長に対して喧嘩腰で話している。
「……それについては、各国との共有は必要と判断しないとされたので必要ありません」
ムッとした雰囲気を漂わせる議長。
「ほぉ、その必要と判断されなかった理由を是非教えていただきたいのですが」
ガタガタだな。破王との戦いが控えているというのに、各国はまるでもう勝った気でいる。本当に危機だとは思っていないのだろう。こんなんで本当に破王とまともに戦えるのだろうか?
「こんなんで…」
つい声が漏れる。しかし、その声は誰にも聞こえない。周りは議長と異議を唱えた国との熱弁に気を取られ、話し合っている。ざわざわとする会議の雰囲気に苛立ちが募る。嘲笑を扇で覆い隠す品のある女王もしくはそれに類する国家元首の瞳、手に顎をもたれ掛け笑みを隠そうともしないがっしりとした体つきの国王、皇帝もしくはそれに類する国家元首の表情が、この瞬間が楽しくて仕方がないと物語っている。
ギリッと思わず唇を噛む。そんな僕には御構い無しに話は進む。
「異論は認めません」
議長の揺るぎなく冷たい言葉。
「小国は黙ってろってか」
戯けているようで、言葉の端々に棘を持った言いようをする男。
「……黙りなさい」
「……チッ」
文官と思われる男は舌打ちをして席に着く。
「すみませんね〜。うちのものが」
声を出したのはその文官と思わしき男の所属する国の国家元首であろう人が形だけの謝罪をする。
「…大使風情が偉そうに」
とても小さい声で国家元首であろう人ーー大使館員の重役と思われる人だったーーを罵る。
「これは、長くなるな」
皇帝ヒーラリルの小さいはずの呟き声がいやに耳に響いた。
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#side ナタイ
灰色のいかにも人工物といった廊下があった。すこし傾いて見える廊下に足をシシリアは踏み込む。隠し廊下はこれまで歩いてきた道とは違い光が灯っていない。
「暗いですね」
「だな。俺が先に行く。ついてこい」
「わかりました」
アバディはシシリアの横を通り、前に立つ。
「行くぞ」
ゴクッ
唾を飲み込む音をさせたのはシシリアかアバディか、はたまた双方ともか。どれにしろ、二人とも緊張感を持っている。腰に常に持っている光をつける魔道具を片手に持ち、下に傾いた一本道を歩く。
一寸先は闇、まさにそれを体現しているような暗闇が待ち構えている。いつ、どこから危険な罠が発動するかわかったものではない。シシリアとアバディは沈黙を保ったまま行き止まりーー否、扉のあるところまでたどり着いた。押せども、横にスライドしようともビクとも動かない。
「……開きそうにないですね」
「仕方がない。強行突破と行くか」
「……何をするつもりですか?」
「魔法でぶち壊すしかないだろ」
「……扉の中を壊さないようにしてくださいよ」
「当たり前だ」
「その、どこから来るかわからない自信があるから心配になるんですよ」
「なんか言ったか?」
「なんでもありません」
「…そうか? なら開けるぞ」
そう言ってアバディは扉に手を置く。そして手を離し、人差し指だけで扉の一番上から下までの扉の結合部分をなぞる。そして、指が一番下まで来た瞬間、ピシッと扉から音が出る。
再びアバディは扉に手を置き、今回は扉を押した。すると、いとも簡単に扉が開く。さっきまでビクとも動かなかった扉は開き幾つもの書類が乱雑に積まれた部屋を見ることができた。
「……」
「……?」
二人の反応は無言とういう点で同じだったが、片方は達観し、片方は小首をコテンと傾げ頭を?マークで埋め尽くしている。どちらがどちらかは語るまでもないだろう。一応だが後者はシシリアだと言っておく。
「また忙しくなる…」
アバディの声が部屋に響く。その響いた声がより一層彼の哀愁漂う背中から涙を誘う。……合掌。
次話は5月8日(予定)です。




