第4章 第3話
#side フォールティア
サケリウス帝国では転移門を都市や町に貸し出している。大都市には首都と他の大都市、すべての場所に転移できるようにしてあり、町であれば最寄りの大都市と近くの町の転移門が設置されている。その中でも、転移門の交流が激しいのが僕の生まれた大都市オマラリだ。
サケリウス帝国のあらゆる物流、人の流れの中心部である。故に、サケリウス帝国で最も商業が盛んな都市と呼ばれている。外国からの特産品で溢れかえる市、毎日のように運搬される物資。この都市に貧民層などという階級はなく、誰もが仕事を持ち、生活をしている。
その大都市オマラリにて、一年に数回使われるぐらいの転移門が使用されようとしていた。転移門には二つで一つのものと、登録されている場所すべてに行けるというものがある。今回使われているのは後者だ。皇族専用の国外行きの転移門である。もちろん、皇族が一人で他国に行くことなどありはしない。なので、30人は同時に転移できるような大きさだ。行き先は神崇帝国ーープロトス神崇帝国の大使館である。
時の皇帝が何を思い、首都ではなく大都市オマラリに皇族専門の転移門を置いたのか、その真意は定かでない。ただ、他国から転移門を使い、攻め込まれると思ったのか、首都にあってはならない理由があったのか。噂は広まり、巷では都市伝説のように色々な憶測が今でも飛び交っている。しかし、皇族はその噂を揉み消しもせず、ただ静観するだけ。次第にその噂は一種の話のネタという程度のものでしかなくなった。
閑話休題
理由はどうあれ大都市オマラリには皇族専用の外国に行ける転移門があり、それを代々使っている。そしてそれは”対破王戦における条約”の会議に参加する為にプロトス神崇帝国へと行くのにも使われている。首都から大都市オマラリへと転移門で移動した後、外国へ行く為にある皇族専用の転移門とを繋ぐ廊下の間には騎士団が整列している。その廊下を歩いているのは皇帝ヒーラリル・ミナル・ハーライル・サケリウス。周りには護衛としてプロトス神崇帝国へとついていく近衛騎士団の団員たち。それと、聖サケル教から派遣されているマルチア・ジャフレ、それに僕とオラリエムイだ。
なんで直接帝城から行かないんだよとという言葉を心の奥に押し込め、これも仕事だと自分に言い聞かせる。けれど、ここに転移門を置いた時の皇帝には全力で罵詈雑言をぶつける。もちろん心の中だけでだが。
皇帝ヒーラリルが転移門の部屋に入る。門と言っておきながら部屋なのにはもう突っ込まないぞというどうでもいいことを考えながら列の後に続く。
全員が転移門に入った後、魔素が転移門の陣に注がれ光を放つ。目を少し細めた間に景色は変わり、僕がプロトス神崇帝国に来たことを分からせる。それは、気温が上がり、湿度が下がったことを肌で感じるからだろう。他にも、転移門のある部屋の窓から見える光の傾きから恒星ランヴォの位置が違うことがわかる。それは、今いる場所がサケリウス帝国とは遠く離れた場所に来たことを意味している。
「お久しぶりです」
「うむ、久しぶりだな」
皇帝ヒーラリルと大使館の人が話しているのを聞きながら窓から外を眺める。そこには洗練された街並みが広がっていた。もちろん、街並みがきれいなのは重要な要人などが住む場所だからだというのもあるだろう。それでも、その街並みはサケリウス帝国から何年も先を行ったような建築物が並んでいたのだ。技術もあるだろうが一番わかりやすいのはその装飾だ。とても細かく、濁りのない色で彩色された装飾は見ているだけで癒しをもたらしてくれる。
視力が良い僕だからこそこのように離れた場所からでも見ることができた。一応、護衛なので周りに気を配りながら窓の外をなんともなしに眺めていると大使館の人が少し声を張って言った。
「それでは案内いたします」
皇帝ヒーラリルと大使館の人の話は終わったようだ。
皇帝ヒーラリルは話していた大使館の人と近衛騎士団員を伴って歩いていく。僕とオラリエムイ、マルチア(先輩?)それと今回の会議のために来た文官などは、違う廊下を歩くことになった。
大使館はとても広かった。それこそ、豪邸といってもいいようなほどに。一階では小さいとはいえ舞踏会の催せるほどの広間、二階の皇族専用の部屋に、客室、それらを横切っていく。
着いたのは二階の広間だ。
「それでは、皆様にはそれぞれ部屋をご用意させております」
そう言って使用人が一人一人を部屋に案内していく。僕を案内してくれたのは鋭い目をした女性の使用人。その後、部屋で食事をとりそのまま僕は寝ることにした。とくにこれといった用もない。夜更かししている方が明日の護衛に支障が出る。
眠気が思考を混濁させ、意識がぼんやりと薄く消えていくようにしてなくなった。
_____________________________________
#side ナタイ
ポチャン
水が跳ねる音がする。雪の溶けた水が『赤の谷』にある洞穴の地中まで浸透し、岩の凹凸に沿って落ちる。そして偶然、そのいくつもある水滴が落ちた下にシシリアがいた。
「ヒャッ」
そして運悪く、シシリアの首筋にその水滴が落ちたのだ。そして、さらに哀れなことに、シシリアは驚いた拍子に躓いた。
「……情けない声を出すな」
その躓いたシシリアをアバディは片手で支えてやるとともに呆れた声をかけた。
「むぅ〜」
いじけた声を出してアバディの手を振り払い服装を整えるシシリア。ふん、とアバディのいる方向とは反対の場所に顔を向け怒りを表現する。尚、そんな行動をするシシリアをアバディは呆れたように見ている。
「情けなくありません」
服装を整えた後に改めてアバディの方に向き直り言うシシリア。憤然とした表情で見てくるシシリアに一々対応していられないと手を振って一言ーー
「はいはい。そうですね」
ムキッー
全身で怒りを表現するシシリアを見向きもせずアバディは自分に振り下ろされるシシリアの拳を受け止めそのまま引きずるようにして歩き出した。
そして数分後ーー
「おい、もう自分で歩けるだろ」
未だにワーワーと叫び、今はアバディの腕に捕まるシシリアに疲れたようにアバディは言う。
「無下に扱われた私の心は氷河のように冷たく荒んでいます。そしてその原因ーー諸悪な権化ことアバディに私は抗議し、立ち向かうのです‼︎」
「そうか、だったらどうするんだ?」
「それは、もちろん諸悪の権化であるアバディを倒せばこれは全て丸く収まると思うのですよ」
「そうか、それは良かった。それで副隊長に叱られるのはお前だけだからな」
「……なっ、卑怯ですよ」
「ふっ、俺は諸悪の権化だからな」
「ならば諸悪の権化を倒した私を副隊長は褒めることこそすれども責めることはないですね」
「……お前の頭はお花畑か?」
「いえ、私は現実主義です‼︎」
「ほう、そうか。ならお前は現実を知らないんだな」
陰惨な笑顔をたたえて言うアバディ。
「ふふふ、そのようなお前に絶望というものを教えてやろう…」
続く言葉は太く、響くような声だ。それを聞いたシシリアはーー
「……もうやめません?」
と現実的な提案をした。
「……だな」
急に真面目になった二人は早速とばかりに仕事を始める。
「それにしても調べ尽くしたんですよね〜。必要あるんですか?」
「いや、実際は研究室だけを調べたのであって他の通路やら道などは一切調べていないらしい。それを今、俺たちがちまちまと探してるってわけだ」
「嫌ですね〜」
「仕事だろ」
「……」
「そうやって、楽な方へいくから、って聞いてるか?」
アバディはシシリアの方を向く。そして、シシリアは口を開く。
「……見つけました」
ガコ
シシリアが壁の一部を押すと壁が動く。
ゴゴゴゴゴゴ
岩と岩とが擦れて音が出る。
現れたのは一つの人ひとりほど通れる道だった。
次話は5月5日(予定)です。




