第4章 第2話
#side フォールティア
「久しぶりだな、フォーティ」
声をかけてきたのはシャーチル・ハーライル・サケリウス、サケリウス帝国の第三皇子だ。彼に会うことになったのは”対破王戦における条約”で皇帝の護衛につくことになったからだ。近衛兵だけだと聖サケル教と親密な関係を築いていることを外国に知らせることができないとかなんとか。要は、政治的な要因が絡んでるというわけだ。それに、新人のペーペー勇者(僕)だけではなくベテラン勇者のマルチア・ジャフレさんも来てくれるため、僕も肩の力を抜いた状態でできる。
「久しぶりです」
しかし、だからと言って肩の力を抜きすぎるわけにはいかない。なにごともほどほどが良いのだ。肩の力を抜きすぎて失策を起こすわけにはいかないのだから……。
「またくだらないことを考えてるのか?」
「くだらなくありません。今自分が考えていることは、全人類の為になることなのですから‼︎」
「……あぁ、わかったわかった」
投げやりに答えるシャーチル殿下の言葉が僕の心に火をつけた。
「良いですか。この世界のすべての人は繋がっているのです。ほんの些細なことでも、その些細なことで人の心は変わり、動き、行動も変化する。故に、僕が考えて行うことは全て、余すことなく、全人類に影響を及ぼすのです‼︎」
「……暴論だろ(ボソッ)」
「何か言いましたか?」
ゴン
頭を叩かれた。後ろを振り向き、文句を言おうとしてーー止めた。なぜなら、僕の後ろに立っていたのはオラリエムイーーオーリだったのだ。あの邪智暴虐なるオラリエムイに僕は頭を垂れて、跪くことしかできなかった。あぁ、メロスのなんと偉大なことか、僕にその勇気を少しでも分け与えてくださっていたら……。
「またくだらないこと言って殿下を困らせてるんじゃないでしょね?」
「……大丈夫ですよ」
「そういう風に甘やかすからこれが付け上がるんですよ」
「そうだそうだ」
「黙ってなさい」
とほほ、いつからオーリはこんな世俗に塗れた聖女になってしまったのだろうか……。
「顔に出てるわよ」
「何がでしょうか?」
「今更取り繕ってもダメよ」
「ワタシニハ、ワカリマセ〜ン」
「棒読みになってるわよ」
「ピュ〜」
「口笛吹いったって騙されないわよ」
それならこれでどうだ‼︎
「そっ、そんな目をしたって許しません」
なに⁉︎ 渾身のうるうる目が効かなかかっただと……。
「そんな〜、ご無体な〜」
必死にオーリを宥めようとするがその甲斐虚しくーー
「黙ってなさいって言ったわよね」
ーー無情なる言葉が返ってきた。
グスッ グスッ
泣き(真似をし)ながら、チラリとオーリを見やればーー
「こんなやつの言葉をまともに受け取らないでくださいね」
「ははは、相変わらず大変だね」
ーー和やかに談笑しているお二人が目に入る。
こんちくしょう。
「それじゃあ、父上が待ってるから行こうか」
「そうですね」
穏やかな日差しに照らされ歩く二人の姿はまるで一枚の絵から飛び出してきたようだ。
「いつまで突っ立てるの?」
「僕の傷心が癒されるまで」
「そんなに待てないわよ」
「なんて酷い……」
「はやくきなさい」
しょうがないので金魚の糞がごとくついていく。歩いていけば着いたのは広い中庭、そこで優雅にお茶を飲んでいる皇帝ヒーラリル・ミナル・ハーライル・サケリウスだ。背後には近衛兵、隣には僕の大先輩である”聖”勇者マルチア・ジャフレが腰かけている。シャーチル殿下は僕らが部屋に入るのを見届けると、扉を閉めて部屋から出て行く。それを横目にした後、前を向く。
「来たか」
ゆったりと落ち着いた声が耳朶に触れる。オーリと同じタイミングを見計らって最上位の礼をする。
「そんな堅苦しくせんでも良い。まぁ、座りたまえ」
「「ありがとうございます」」
僕とオーリは答えて席に着く。
「さてと、今回は顔合わせが主旨と言っても良いのだが……まぁ、お菓子でも食べて話そうではないか」
これで食べないのは不敬に当たるし、ガツガツ食べるのはさらに不敬になる。は〜、だからこういう集まりは嫌いなんだよ。
「それでは、話そうか」
張り詰めたような雰囲気が場を支配する。
「今回の”対破王戦における条約”についての会議だが……十中八九、何かあるだろう」
皇帝ヒーラリルの瞳が僕を、オーリを射抜く。恐る恐るオーリが口を開く。
「と言うと?」
「破王かそれ以外の国々か……どちらにしろ動く」
「……大丈夫なのでしょうか」
「元々、”対破王戦における条約”の会議に集まらなくても良いといえば良いのだ。お互い牽制し合っているだけだしな」
「………」
「危険があると言うことを知っていて欲しかっただけだ。何があるかは起こるまでわからんがな」
「………わかりました」
「さてと、下がっても良いぞ」
結局、お菓子には手をつけることなく帰ることになった。オーリと示し合わせ、席を立つ。
「「失礼します」」
オーリが前を歩き、僕は後についていく。部屋を出ると、壁にシャーチル殿下が凭れかかっていた。物憂げに天井を睨んでいた目をこちらに向けて、一瞬、恥ずかしげに頬を赤らめたあと表情を引き締めて言う。
「はやく終わったな」
オーリは上の空で先に先にと行ってしまうので、急いで僕もそれについていく。シャーチル殿下は僕の歩みに合わせて隣を歩くので僕は答える。
「注意喚起をされただけだしな」
「注意喚起?」
シャーチル殿下は不思議そうな顔でこちらを見る。
「今回の護衛を舐めてかかるなってさ」
少し考えるようなそぶりを見せたあとーー
「それは不安にさせられるね」
ーーと答えてくる。
「だろ?」
「だね」
「どうするの?」
「じたばたしたって変わらないからね。心構えだけはしておくよ」
「そうだね。それがいいね」
うんうん頷きながらシャーチル殿下は足を止めた。
「それじゃあ、少し用事ができたから失礼させてもらうよ」
「あぁ」
「また」
「また、お会いしましょう」
最後は一応、堅苦しい挨拶をして僕はオーリを追っていった。………というか、オーリさんや、そんな急いでどこへ行くというのですか? それと、ちゃんと前を見て歩かないと転けますよ? そんなことを思い、廊下を早足で歩くのだが、オーリに追いつくにはもう少し早く歩いたほうがよさそうだ。これだからと、オーリに注意を促すためにもはや駆けるようにして歩いていく。あ〜、オーリのお守りは辛いね〜。
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#side ナタイ
「ふん、いいご身分だな」
母親と過ごした休日の翌日。意気揚々と職場にやってきた瞬間に、そう言葉をアバディから浴びせられた。
「何がですか?」
「お前、昨日御飯食べられたんだろ」
「……」
予想外の言葉にシシリアはあきれる。
「休日に御飯を食べないバカがいますか?」
「だからだよ、だからいいご身分だなって言ってるんだよ」
「……失望しました。たかが、たかが御飯を食いそびれたぐらいで人に当たるような人だったんですね」
「あぁ、この御飯の恨み。晴らさせろ」
「嫌ですよ」
「なに⁉︎ 上司の言うことが聞けないのか‼︎」
「あなたは上司であって上司にあらず。あなたは闇に囚われた存在に成り果てた。その魂、解放してやろう」
ダンッ
机を叩く音がする。アバディとシシリアの二人が音のしたほうを向けば、そこには般若の顔をした副隊長が……。
「二人とも、ふざけてないでちゃんと仕事をしなさい」
有無を言わせぬ命令口調。その言葉に平伏することしかできないアバディとシシリア。
悲しいかな。弱肉強食の罷り通る特別捜査衛兵の序列のトップ、不動の一位は副隊長の座だ。誰一人として逆らうことができない。それが隊長のアバディであってもだ。
「……わかりました」
「……分かってる」
しぶしぶ揃って頷く二人を特別捜査衛兵の人々は笑いを噛み締めながら見つめる。
「それでは、ふざけていた二人にはこれを担当していただきましょうか」
「なっ」
「えっ」
驚くアバディとシシリア。二人に副隊長が見せた書類の一番上にはこう書かれていた。『破王配下の研究所の特定、及びその研究所の調査』と。
アバディとシシリアの二人は絶望したかをしたまま見つめあった。そしてーー
「イヤァァァァァァァァァ」
「クソォォォォォォォォォ」
ーーと二人して叫ぶのであった。
次話は5月2日(予定)です。




