幕間
誤字報告お願いします。
出来るだけ直します。
#side ターニャ
初めまして、私はナータリウヌ家に仕えている使用人です。ナータリウヌ家というのはサケリウス帝国の3分の2の武器・兵器を仕入れている豪商です。豪商という言葉からわかる通り、最近の売れ筋が武器であるだけで食べ物から日用品までナータリウヌ家は仕入れています。
何故、武器が売れているのかというのはみなさん知っていると思いますが、破精霊神デーストルークティオーの眷属であり側近の破王フィーニスが6年ほど前に宣戦布告をしたのが事の始まりです。サケリウス帝国歴1242年、破王フィーニスは光の勇者ガイラと相打ちになり敗れたと思われていました。何故ならその戦いの光景を光の勇者のパーティーメンバーが見ていたからです。もちろん彼らは勇者を助けようとしましたが、破王フィーニスの呪いを受けパーティーメンバーの聖魔法の治癒や浄化などは一切効かず、死んでしまったそうです。これが全世界の教会の共通認識でした。そこに80年以上経った今、突如として破王フィーニスを名乗る者が宣戦布告をし、光の国ことフォスティオスを滅しました。その時から我がサケリウス帝国を含む国々は挙って武器を買いあさり新兵器をつくる実験をしたりと、他の国の目を憚らず行動し始めました。これが許されるのは魔王を幾人も従えることができる破王が再び現れたからこそでしょう。御蔭で武器商人たちは毎日休まる暇もないのです。もちろん国内の武器・兵器の3分の2を捌いているナータリウヌ家は大わらわで仕入れ売りをしなければなりまっせんでした。
なので、ナータリウヌ家の奥様は第一子の長男ファークイラ様、第二子の長女ハーネイル様、第三子の次女シャーメイル様、何れも自分の手で育てることはできませんでした。だからでしょうか、破王フィーニスが鳴りを潜めている時に生まれた次男のフォールティア様のことをこれまで育てられなかった子の分までの愛情を注いでいるように感じます。さてそのフォールティア様ですが、これがとんだじゃじゃ馬なのです。最初の1年ほどは特にこれといって何事もなく過ごしていたのですが、ある日ベビーベッドから抜け出していたのです。どうやったのかはその時は判りませんでした。すぐに同僚に声をかけて探し始めたのですが、すぐ見つかりはしました。ただどうやってそこに行ったのか理解できない場所で。一階と二階を繋ぐ階段の折り返しの地点の壁の高いところに光が差し込むようにと作られたであろう窓があります。縦に長く奥行きもそれなりにあり横幅は壁の横幅の3分の1といったところでしょうか、そこにいたのです、フォールティア様が。
あの時は驚きました、本当に。寝ていたので浮遊魔法で降ろしてベビーベッドに戻しましたが、一つ間違えていればフォールティア様が床に落ちてしまっていたかも知れないと思うと気が立って仕方がありません。あの日からフォールティア様がベビーベッドから逃げ出さないように人が一人部屋を見張っていることとなりました。そうなっているはずでした。けれど一階の通路で目の前にはフォールティア様がいました。一瞬硬直してしまいました。唯一の救いは危なくないところにいたことでしょう。
それからも4回ほどフォールティア様はベビーベッドからいなくなっておりどこか違う場所にいることがありました。ときには応接室に、またあるときは誰かの部屋に入っていたりと、神出鬼没でした。気の休まる暇もありません。一体どうやって逃げているのか。少し目を逸らした瞬間に忽然と姿が消えるらしいのですがまだその場で見たことがないのでわかりません。
そうしてある日、私が見張ることになったのでベビーベッドに結界を張って頼まれていた仕事を片付けることにしました。数分経った頃です。一応何度も確認していたのですがフォールティア様がいなくなっていました。私はすぐに部屋のどこかに隠れていないか確認をしてから部屋を出て探し始めました。けれど意外と早く見つかりました。初めてフォールティア様がベッビーベッドから逃げたところと同じところにいました。つまり、窓の出っ張っているところに。けれど以前と少し違うところがありました。クッションのようなものの上にいたのです。そのクッションはたしか……。
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#side ユラミ
ここはナータリウヌ家の前、今日俺ーーユラミはサケリウス帝国に来たので親友のクラリウスの家へ遊びに来たのだ。もちろん男だ。だが、ここに商売の話とかを持ってきたわけではない。俺も商人だが3代もの間培ってきた情報網に勝るほどの情報は今俺の手元には残念ながらない。あれば3代もの間に培ってきた情報網もたかが知れていると鼻で笑ってやるのに。と思っているうちに扉の前に着いた。一応アポは取ってある。扉が開いた。
「入っていいよ」
相も変わらず最新の技術を取り入れてやがる。その財力には敬意を評するよ、知り合いでも気後れしそうだ。まぁ俺は幼馴染だし気後れしないんだけど。
「相変わらず金持ってるな〜」
「君も相も変わらずだね。この家に来た人は貴族だって警戒心を露わにするっていうのに」
「そりゃ〜幼馴染の特権てやつの一つでだな。幼馴染の相手だと何をされても相手の心が大体わかるんで動じないのさ。例えば俺がびっくりするのを見て楽しもうとしているのが一目で理解できるとか」
「それができるのは君だけだと思うよ」
「おっ、驚いただろ。ってことで金貸してくれ」
「お金ならいっぱい稼いだんじゃないのかい?」
「いやそれがさ〜。全部賭けで擦っちまって」
「そんな報告はきてないんだけど」
「…お前、いつから俺を監視していたんだ?」
「昨日の陰日、君がサリの目をかいくぐって風俗街へ行こうとしてたところを捕まってこっ酷く怒られたことぐらいだよ」
「お前、人権侵害だ‼︎今すぐ訴えてやる」
「あれ⁉︎本当にやってたんだ」
「嘘だなお前、目が笑ってるぞ」
「まぁまぁ。玄関でずっと話すのもなんだし、いつもの部屋へ行こうよ」
「いつもの応接室だろ。わかったよ付いて行ってやるさ」
「それは良かった」
見慣れた光景だ。いつもここに遊びに来るたんびに通っているのだから当たり前かもしれないが。んっ?これ何か探知機でも付いているのか?こんなものなんで家につけてるんだよ。はっ‼︎ここでなにか重大な研究でもしていてそれを隠すために付けているのか⁉︎
「確かに、幼馴染が何を考えているのかが手に取るように解りますね」
「そうか。何がわかったんだ?」
「ここでは君の思うような重大なる実験はしていませんよ」
「なっ⁉︎なんだと」
「これは脱走防止です」
「脱走防止?誰の」
「私の第四子の次男フォーティですよ」
「おぉ。そういや生まれたんだってな。お祝いの品そういや送ってなかったな」
「別に気にしていませんよ。君は私の家に来るたんびに金をせびろうとするのですから」
にこやかな顔の中にはきっと黒いあれやこれやが詰まっているのだろう。あぁ怖や怖や。
「着きましたよ」
思考に潜っていた意識を引っ張り出して。部屋を見てみた。いつもと同じ光景なんだが何かが違うと感じた。どうやらクラリウスも気付いたようだ。
「なんでクッションがないんだ?」
「おかしいね〜。今日ここを使うことは昨日君がアポ取った時に使用人達には伝えるように言ったんだけど」
「これもお前の策略か何かか?」
「いや違うよ」
「今日来たのが俺で良かったな」
「あぁ、本当に君なら口封じが簡単だ」
「……おい」
「冗談だよ。けどこれは多発しないようにしないとね」
「一緒に原因を突き止めてみるか?」
「随分と口に悪い笑みが浮かんでるよ」
「いや〜。お前には負けるだろ」
「ふふふふ。そんなことを言っていいのかい?」
「どういうことだ?」
「昨日、サリの説教が終わった後、風俗街に君が行ったことをサリが知ったら」
「おい。お前判ってて言ってるだろ」
「大丈夫だよ、けど一応原因を突き止めてもらうのには手伝ってもらおうか。偶にはいいだろ」
「はいはい。いいいですよ」
丸め込まれた。いっつもそうだ。今度は丸め込まれないぞと誓ってもすぐ丸め込められる、けどまぁいいだろうと思って流してしまう。応接室から出た後クラリウスは近くの使用人に質問をしたりして理由を探ろうとしている。歩いているうちに階段の近くに来た。
「降りてください‼︎」
と誰かが言っている。クラリウスの方を向くと、
「あれは多分ターニャだよ」
「ターニャ?」
「使用人の一人だよ」
「お前、使用人全員覚えているのかよ」
「当たり前だろ」
そう言いながら声のする階段の上の方へ向かおうとした。そして階段を上ろうと上を見たところで……固まってしまった。
「おい、あれはなんだクラリウス」
「なんだろうね?」
「お前の家だろうが」
「ん?あそこにいるのはフォーティだよ」
「よし、質問だ。お前の息子のフォーティとやらはどうして空中にいるんだ」
「多分ターニャの浮遊魔法だね。彼女、無属性の魔法使うのが得意なんだよ」
「それでどうして彼女は慌てているんだ」
「それは多分だけど誰かに魔法を干渉させられて自由に魔法を使えないようになっているからだろ」
「誰がターニャとやらの魔法に干渉してんだ」
「ここには君と私、ターニャを除いたらあとはフォーティだけだと思うけど」
「一応聞くがお前が何かしたんじゃないのか」
「ここに来た時はもう彼女の魔法は誰かに干渉されていただろ。」
「わかんないだろ。なんか仕掛けをした魔道具が誤作動したとか」
「それこそありえない。室内に魔法に干渉する魔道具は置いていない」
「じゃああれかお前はフォーティとやらがしたと思うか」
「魔力の流れからしてもそう見えるけど、君は?」
「あぁ。俺にもそう見えるよ」
「じゃあそういうことなんだろう」
「いつからお前の子供は1歳ぐらいで魔力を扱えるようになっているんだ」
「知らないよ」
「けどこれならあれも納得だ」
「何がだ」
「フォーティはね、少しやんちゃでベビーベッドからよくいなくなるんだよ。一回目以降はちゃんと見張りをつけているのにいなくなるのは我が家では未だにわかっていなかったんだ。それが今わかったよ」
「止めないのか」
「いつか、フォーティの方が根負けするさ」
実際その通りだった。だがフォーティの方もただでは負けぬと粘っていたが10分ぐらいが限界だった。10分でも十分すごいのだが、その間俺たちは高みの見物をさせてもらった。最後の方は呆れてきたが。一体この子供はどこを目指しているのだろう。クラリウスに聞いてみた。そうしたらーー
「魔法使いでも目指してるんじゃない」
「それはあいつがじゃなくて、お前がそう仕向けるんだろ」
「そんなことはないよ。子供の意思が大切なんだから」
「そうかい。俺はそろそろ帰らせてもらうよ」
「ふ〜ん。まぁいいけど。死なないでよ、今大変な時期なんだから」
「当たり前だ。危ないやつがいたら速攻逃げるに決まってるだろ」
「じゃあまた」
「おう」
俺は借りている宿の部屋に戻ることにした。
= = = = = =
#side ターニャ
今日は大変でした。なんであんな魔力の操作がうまいのでしょう。私の方が歳をとっていたからどうにかなりましたが、あれが若いということですか。私も12歳と十分若いうちに入るはずなのですが、こんなことを考えていると老けてしまいそうです。けれど、今のこのような平和が続いたら良いのにと思います。このように呑気に過ごせられたら。このような時代では叶わないかもしれない願いですが、願うこと自体には罪はないはずです。明日の陽日を楽しみにしながら私は眠ることにしました。
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#side 破王フィーニス
ギャアアアアァァァァァァァ
悲痛な声とも呼べぬものを叫ぶ《ナニカ》。もはや嘗て強っかったであろう面影はなく、ただ搾取されるような存在となったその《ナニカ》に腕を突き刺すものがいた。
「フフフ、良いですね、貴方の怒りが恨みが私の糧になることも知らず叫ぶ獣は見苦しいですが、力を奪う存在としてはとても良い」
萌葱色の髪に蒲葡の色の瞳。背は高く体は引き締まった女性の肉体。服は着ているより掛かっているという方が近いだろう。そして体からは似せ紫色の粒子がオーラとなって立ち昇っている。異様という言葉がしっくりくるだろう、手から滴り落ち、彼女の足元に水溜りのように広がっている獣であろう存在の体液が醸し出す光景は。彼女ーー破王フィーニスは獣であろう存在を貫いてはいない方の手で頬に着いた獣であろう存在の体液を拭った。
「力も落ち着いてきた。あと少しだ。あと少しで我らの悲願が達成される」
傾国の美女と、見た誰もが評するであろう顔の口元を歪ませ不敵に笑う彼女の笑顔は人々に恐怖と破滅を与える化身と言えるであろう表情だった。彼女は手を下ろしふと考えるような仕草をして《ナニカ》の方へ歩いていった。その息絶えた獣のような《ナニカ》は破王フィーニスが片腕を振り払うと同時に彼女の体の周りを渦巻くオーラのような霧になり、消えて無くなった。
まるで《ナニカ》が消えるのを待っていたように突如として空間が割れた。そこからは人程の大きさの暗黒のようなものが出てきた。姿形は判らない、なぜなら体にまるで暗黒のような霧を纏っていたからだ。
「其方か、我が眷属を召喚しては殺すことを繰り返していたのは」
霧を纏っている者が入った。
「おやおや、気付かれないように弱い存在しか召喚していないはずだったのですが、どうしてばれたのでしょう。貴方のような化け物がこないように考えていたのですが」
「もし化け物に来て欲しくなかったら化け物の仲間には手を出さない方がいいと思うのだが。まぁ、其方に言っても詮無きことか、同じ穴の狢であろうし、な」
「貴方たちみたいなのと一緒にして欲しくはありませんね。私は貴方たちほど理不尽な存在ではありませんよ」
「どの口がほざく、その理不尽な神の眷属を殺しておいて」
「それは神様には負けますから」
「ではここからは忠告とさせてもらう。これ以上、我が眷属を殺したら其方の言う理不尽な存在が其方の魂を滅ぼしにいくぞ」
「これは怖い。もし嫌と言ったら私の魂は貴方のおもちゃになるというわけですか」
「本当にそう思うならこれに懲りて止めるのだな」
「そうですね」
「今回はそれだけだ」
「私も引き際には気をつけているのですが貴方だけは別です」
破王フィーニスが霧を纏っている者に音速を超える速さで攻撃をする。しかしその一撃は霧に触れた瞬間に止まった。
「交渉は決裂か」
霧を纏った者が呟いた瞬間全てを飲み込む一条の線が破王フィーニスの体を欠片すら残さず消し飛ばした。
「偽物だったか。攻撃して初めて気付くとは我も耄碌したか」
霧を纏った者は現れた時と同じように空間を割って帰っていった。
「あれは本当にやばいね、何か対策を考えとかないと」
破王フィーニスは今起こった霧を纏った者と退治したところから遠く離れたところで一人独白した。
破王フィーニス初登場。今後も出てくる予定。
ところで皆さん、こういう性格の人(破王)どう思いますか?