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ユリカ界  作者: 碾貽 恆晟
第1部 2つの勇者の物語
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第4章 第1話





 #side フォールティア


 シハウ領地での長閑な生活にも終わりが来た。フイやビュバルの蘇生をすることになったことについてはもともとの予定だったので長閑と言えるのだ。言えるのだったら言えるのだ。魔物の間引きはともかく、美味しい食事にふわふわのベット…精神的疲労のない一日。なんて良い生活。しかし、その長閑な生活は今日で終わりで、目の前には見送りに来てくれたフイとビュバルがいる。


「楽しかったね」


 とフイ。だが、言わせてくれ。ねぇ、一度死んだんだよね? 精神がタフネスすぎない?


「うん、本当に」


 そして返答したのはうっとりとした表情でフイを見ているビュバル。なぜ二人だけの世界を作っているのだろうか? ねぇ、君たち僕とオラリエムイを見送りに来たんだよね。隣のシハウ領騎士団の人たちが呆れてるよ?


「は〜」


 なぜだろう。これから帰るのに転移門を使っていくというのに帰ったらとても疲れた気分になっている自分の未来が予想できてしまった。


「それじゃあ、またな」


「あぁ」


「ふん」


 お分かりだろうか? この雑な態度を、もちろん前者がフイで後者がビュバルだ。


「それじゃあね」


「はい‼︎」


「また会いましょう」


 見ろ‼︎ この僕とオラリエムイとの対応の差を‼︎ なんでだ、なんでこんなにも対応が違うのだ‼︎ そんなことを考えている間に転移門の準備が整ったようだ。


 サケリウス帝国管轄シハウ領地委託転移門管理施設、通称シハウ領転移門の個室部屋に入り思う。シハウ領の転移門は質素だ。上流階級のための個室転移門も帝都と比べると壁紙の彩色や床板の素材、魔法陣の精度と魔法陣を描いているものが見劣りしている。いや、比べるものが間違っているか……。


 くだらないことに思考を没頭している間に魔法陣は起動し、僕たちはシハウ領を後にし、首都イルリアに戻った。



 = = = = = =



 首都イルリアに戻った次の日、ミャーイリ教主に呼び出されたために教会の執務室で肩身を狭くする思いで立っている。こうなった理由が思い出されるーーーー


 教会の別館で惰眠を貪ろうと布団の中に芋虫のようにくるまって寝ている僕に向かって使用人が部屋に入ってきて一言。


「教主様がお呼びです」


 と、言ってきた。


 …ん? ………ん、ん、ん? 呼び出しをくらってしまったのだが…。


 バタン


 使用人が部屋を出て行き、扉が閉まる。


「は〜、着替えるか」


 嫌々ながら服を着替えるために僕は布団から体を出すのだし……服を着た後二度寝をかましてしまったのだ。


 ーーーーなぜあそこで二度寝をしてしまったのだろう。ベッドの上に腰をかけてしまったのがいけなかったのだろうか? それとも、ベッドに寝転がったのがいけないのか? それともそれとも、寝転がった後に目を瞑ったのがいけなかったんだろうか?


「何か言い訳はあるかい?」


「いえ」


「そうか」


「しかし、ベッドの上に腰をかけてしまったのがいけなかったのか、ベッドに寝転がったのがいけないのか。それとも、寝転がった後に目を瞑ったのがいけなかったんだろうかを教えてください」


「うん、全部がいけないね」


「……誠に申し訳ございません」


「うんうん、いきなり呼び出したのも悪かったし今回は不問にしておこう」


 沈黙が生まれる。気まずい沈黙だ。


「それじゃあ、本題に入ろうか」


 今度は、程よく張り詰めた沈黙がおりる。


「知ってると思うけどいうよ。6月5廻日ーー昨日のことだけど破王と魔王が動き出した。それによって”対破王戦における条約”の会議が神崇帝国で開かれることになった。開催されるのは約1ヶ月後。その間に参加する国は都合の良い日を送り、それに沿った日にちが決まる。それに護衛として君とオラリエムイが選ばれた。これは、とても名誉なことなんだよ」


 とても胡散臭そうなことを平然と言うミャーイリ教主を見る。そして、もう一度そのいかにも張り付けたような笑顔を見て心を決める。


「わかりました」


「ふふふ、よかったよ。もっとごねるんじゃないかと心配だったからね」


 にこにこと笑いながらミャーイリ教主はいう。


「是非を問わず決定事項のように語っていたのでごねるだけ無駄だと思ったので」


「うんうん、有能な部下を持つというのはとてもいいね」


 どう答えるのが正解かわからないので無言を貫くことを選んだ。


「それじゃあ、伝えたからまた細かい日取りが決まったら教えるよ。戻っていいよ」


「……失礼します」


 そうして、僕は執務室を後にした。また面倒なことが出来たな〜と思いながら。



_____________________________________



 #side ナタイ


 アバディやシシリアを含み特別捜査衛兵は唯一、先の事件で死者が出ていない隊だ。そして死者のない特別捜査衛兵だからだろうがこき使われている。睡眠時間は普段の半分もあればいい方で、不眠不休の仕事もやってくる始末。仕事を完遂しない度に陰湿な上司にいびられ、怒声が降り注いでくる。


 しかし、そんな日々は終わりを告げ、ついに待ちに待った休暇がシシリアに訪れた。前の日から何をしようかと心をときめかせ、仕事に身が入らなかったのはご愛嬌だ(と本人は思っている)。


 その休日は朝から早く起き、顔を洗う。そして、窓から外を見てーー絶望する。外では一面雪が降っていた。


 「……最近、未来視の効きが悪いのはきっと神が関わってるからだ。そうに違いない。だから……恨むぞ破王め‼︎」


 言っていることは事実であるのにただの八つ当たりにしか聞こえないのは彼女の性格が為せる技か。尚、彼女ーーシシリアが過去視が得意でないことには目を瞑る。


 とにかく不毛なことに声を荒げ、一気に気分が沈んだシシリアは部屋の椅子に凭れ掛かり……家内業に励むことにした。


 シシリアは錬金術で短剣に魔法陣を描く 。自分の魔法の影響を受けないように。使うのは魔素干渉無効などで、自分の魔法を纏わせて魔法を放つ時、短剣自体がその魔法の影響を受けて攻撃が意味を為さないなどといったことが起きないようにしっかりと作る。


 ただただ新しい短剣に魔法陣を描いては次の短剣に魔法陣を描き、これまで使ってきた短剣の手入れをしたりということで陽日の半分を使い果たしたシシリアは、布団に潜り込む。部屋の中は魔道具で暖かいが、それとこれは別と言わんばかりに布団の暖かさを堪能する。


  そして、そんなシシリアに恐怖と絶望を呼び込む悪魔(とシシリアが思っている存在)がやってきた。


 チーン


 来客を知らせる音だ。


 雪の降る中をやってきたのはシシリアの母親ーーミリア・ハーティコだ。


「久しぶり〜」


 とても明るい声で入ってくる母親を娘は布団に潜り込むことで一時的撤退をする。


「まだ布団に入ってるの〜?」


 しかし、虚しいかな。いとも容易く布団は剥がされ、シシリアは母親に叩き起こされることになった。実質、シシリアは数秒程度しか横になれなかった。そして、その母親はーーーー


「むぅ〜」


 シシリアは抗議の声(?)を上げる。


「か、可愛く文句を言ったってこれだけは譲れません‼︎」


「いやだ〜」


「……ちょ、ちょっとだけですよ」


「お母さん大好き〜」


 ーーーーとてもちょろいのである。布団を両手で持ちながらうるうるとした目でシシリアに見つめられた母親はいとも簡単に遊ばれたのであった。


 布団に腰掛け、横になるシシリアをミリアは見下ろし声に出す。


 「 大きくなったわね」


 と。……性格にはあまり変化がないようだが、と心に付け足したのは誰にも言えない秘密だ。


 「でしょ」


 そんな相手の心を読めないシシリアは呑気に母親に答える。


「最近、困ったことはない?」


 少し憂いを帯びたような声でミリアはシシリアに問う。


「……困ったことはないかな〜」


「恋愛の相談でもいいのよ」


 さっきとは打って変わっていたずら心で言ったことがよく分かる質問にシシリアはあきれた顔で問うてきたミリアに目を向ける。そして、笑い出す。


「ははは」


 予想外の反応を見てミリアはーーあっ、これはいないな、と思い溜め息をつく。


「いるわけないじゃん」


 案の定の回答が帰ってきたことでミリアは額に手を置き頭を小さく振る。


「少しは努力しなさいよ」


「そうだね」


 一切する気の無い回答が、又してもミリアに頭痛に催す。


 しょうがないのでミリアは話題を変えることにした。その日の休日はいい日だとシシリアは思ったそうだ。



次話は4月29日(予定)です。

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