ユリカ界 第4章 反撃の狼煙のプロローグ
#side フォールティア
研究室のような場所で二人の男女が話していた。
「……フイミラージュ・ジャンネルが死ななかったのは痛いですね」
「そうでもない」
忙しそうに手を動かしながら男は女に答える。
「何故ですか?」
「一つ収穫があっただろう?」
「収穫……ですか?」
「神に連なる者の介入があったということがわかるだろ?」
「……少なくとも朗報ではないですよね」
「あぁ、朗報ではない。しかし、まだ神に連なる者の敵がいるというのが早々にしてわかったことは僥倖だろう」
「ポジティブですね。私には真似できませんよ」
「別に真似をする必要はないだろう」
「……確かにそうですね」
「さてと、それでは始めるか」
「始める……ですか?」
「さてと、最近細々とした謀略を巡らしていたけど、僕たちの本業はなんだったかな?」
「それは、魔王ポイエイン様の能力の再現でしょ?」
「そう。そして、ついに僕は紛い物なんかじゃなくて本物を作って見せたんだよ。ふふふ」
男は笑いながら手元の溶液を見ながら言う。
「ここまで来るのには大変でしたよね〜」
「あぁ、廃棄物の処理と廃棄物の処理と廃棄物の処理に苦辛することになった」
「……全部同じじゃないですか」
「いいんだよ。それじゃあ、僕たちの計画を始めようか」
男は女に笑いかけながらそう言った。
= = = = = =
6月5廻日、歴史上では『災厄の日』とも呼ばれる日の翌日の廻日、陰日の時。サケリウス帝国のキシャン帝城で、皇帝ヒーラリル・ミナル・ハーライル・サケリウス、宰相ミシリイウィ・キーチウ・ハーライル、元帥ミエチスラフ・クムーラが皇帝の執務室にて一堂に会している。執務室の一番奥の机に皇帝ヒーラリルが座り、そのすぐ前に置いてある客席に宰相ミシリイウィと元帥ミエチスラフが座っている。最初に口を開いたのは元帥ミエチスラフだ。
「37都市が滅びたそうだな」
「先の報告書では38になっていたぞ」
答えたのは宰相ミシリイウィ。
「破王どもが重い腰を上げたってわけか」
「それよりは仕込みが終わったと見るべきでしょう」
「仕込み?」
「つい先日、わが国でも破王の配下の思惑によって一人の貴族が操られていました」
「そのような報告は受けていないのだが」
「一昨日、確認されたことです」
「……しかし、それでもありえんだろ」
「魔法探知のことですか?」
「そうだ」
「彼はシハウ領地……辺境と言える領地の領主でした。ここ数ヶ月帝都に来ていないのですよ」
「それで、か」
「えぇ」
「現在、我が国のどれ程の人が傀儡に成り下がっているのか……。考えるだけでも鬱陶しいですね」
「粛清はしないのか」
「それはダメだ」
元帥ミエチスラフの言葉に意を唱えたのは皇帝ヒーラリルだ。ミエチスラフは視線を宰相から皇帝に移し、続きの言葉を待つ。
「破王側の魔法はこちらの魔道具で感知できるかわかっていない。さらに、破王側が魔法だけを使っているというのも楽観的すぎるだろう。使えるものはなんでも使う。それが彼らの理念だというのは戦い方からしてよくわかる」
「解せないですね」
宰相が口を開く。
「何がだ?」
元帥ミエチスラフが問う。
「破王は神です。破神の眷属神でありその力は星など容易く消滅することができるでしょう」
「……全力を出せないのだろう?」
「そうです。自戒しているのか、それともある目標のために使ってはいけないのかは知りませんが。少なくとも今のうちは使う気がない」
「そうだな」
「その理由がわかれば少しはこの戦いの終わりが見えてくるのですが……」
「終わりどころか開戦すらしているかどうか怪しいような状況だぞ?」
「……どういう意味でしょうか?」
「ふん、ただたんに破王やその配下にいいように慌てふためいているような状況で戦後の話をしてどうする」
「……少なくとも、あちら側の戦争の終わらし方がわかれば作戦を立てるのがしやすくなると思ったので言っただけですが?」
「騒ぐな。見苦しい」
嫌気がさしたように皇帝が宣う。
「実質、何をしようといいように転がるように計算しているのだろう。しかし、破王も、その配下も完璧に見えるが全知全能の神ではない。どこかに抜けがある。絶対に、だ」
「それでは泣き寝入りをしろと?」
「少なくとも、今動くのは得策ではない。機を伺わばければ」
「……わかりました」
ふぅ〜
と皇帝ヒーラリルは溜め息をつく。
「それで? 話がこれだけではないだろ?」
「はい、先ほど来た”対破王戦における条約”についての会議に参加をするかどうかの書状が来ております」
「神崇帝国で行うのか?」
「そのように書かれております」
「日時は」
「各国と調節した上で後日知らせると」
「……仕方がない。いくつか日にちを見繕っておけ」
「承りました」
宰相ミシリイウィが答え、国家の重鎮三名による秘密裏の会合は終わりを告げた。
_____________________________________
#side ナタイ
ドン
「なんだと‼︎」
パーゴジウム王国の城内のある部屋。そこで、机を叩く音と共に怒鳴り声が部屋に響く。
「で、ですから”対破王戦における条約”についての協議が神崇帝国にて行われるので出席をとの連絡が入ったのです」
バーゴジウム王国は三日前に首都パデルリアが半壊したため、貴族の大半は命を落としている。内政が回っているのも不眠不休で働いてる人々があってこそだ。三日も経ち、貴族街はともかく平民街は整理整頓され家々が立ち並ぶ元の姿を取り戻している。魔法を使った建築は長い時間を浪費することない。しかし、受けた損害は大きい。5年分の国家予算を使い潰してなお、完全に元どおりとはいかなかった。
「こっちには今協議に行けるような人はいないんだぞ‼︎」
「そうは言われましても……」
「くそ」
「どちらにしろ、上に判断を仰がなければ……」
「あぁ、それは僕がもらっておくよ」
声がした方ーー扉の横を見やれば一人の男性が立っていた。
「はっ、ハネリウ殿」
「陛下に渡しておけばいいんだろ?」
「…はい」
「それじゃあ、君たちは仕事を頑張ってね〜」
そう言いながらハネリウーー”幻”勇者ハネリウ・スーヴェルティウは手を振りながら部屋から出て行った。
= = = = = =
「はい」
「……はいでは解らんぞ」
”幻”勇者と謳われるハネリウ・スーヴェルティウの言葉に呆れた声を出したのはパーゴジウム王国の国王ジャーマイル・ウルイ・ヤ・パーゴジウムだ。
「”対破王戦における条約”の協議が神崇帝国で行われるから来いってさ」
満面の笑みで伝えてられた内容に頭を抱えたくなる気持ちを抑え、国王ジャーマイルは少しの間の熟考で返答を導き出す。
「……特命全権大使に任せると送っておけ」
「前時代的な対応だと誹られるのでは?」
「もっとひどい中傷が飛んできてもおかしくないな」
「分かってもやるの?」
「分かっていてもやらなければいけないのだ」
鬱陶しそうに吐露する国王ジャーマイルの言葉を聞いたハネリウは呆れたようを溜め息をつく。見計らったかのように扉を叩く音がする。
「入って良い」
扉が開き一人の男が入ってくる。
「何用だ?」
「緊急のご報告が……」
「聞こう」
「先日、調べるように言付かりました国庫や押収物の確認のさいに消失しているものが見つかりまして……」
「なにが、だ?」
「ウールダウヌ侯爵家から押収してい”理外の宝玉”がなくなっていました」
「……他には?」
「いえ、それだけです」
「……物の見事にうまくやられたな」
「困ったね〜」
「また仕事が増えるな」
「がんばれ〜」
「いくらか仕事を押し付けーー頼むのでお願いしてもいいだろうか?」
「今、押し付けるって言おうとしたよね」
「聞き間違いでは?」
「い〜や、長生きしていても魔人だから耳の調子は良いんだよね〜」
「わかったわかった、そういうことにしておこう」
「……むむ〜」
不満そうに”幻”勇者ハネリウは唸り、国王ジャーマイルは朗らかに笑う。これから始まる混沌とした戦の前に、二人とも一切の恐怖を覚えていないようである。
= = = = = =
暗い闇で包まれた廊下を歩く。かすかに声が聞こえたので足を止め、声が聞こえた扉を少し開ける。そこでは二人の男が話していた。
「どういうことだ?」
「パーゴジウム王国を落とすのはまた今度だ」
「……だから何故だと聞いている‼︎」
「知っているだろう? パーゴジウム王国の研究は完成したが、特別捜査衛兵の介入によって計画を前倒しする必要ができた。しかし、計画を早めたためにここで齟齬が生まれた。姫を攫ったことが民に知れ渡ることなく、混乱が起きる前に計画が始まってしまった。これまで計画してきた下準備は全部パーだ」
「しかし、それでは……」
扉を全開にし、部屋に入り、言葉を発する。
「安心しろ」
「誰だ‼︎」
「なっ、貴方は」
「みなまで言わなくて良い」
「……はい」
「計画が頓挫したと言ってもこれだけ見れば大した損ではない。それに、一つ片付けなければいけない作業が増えただけだ。これからどうとでも修正はできる。言いたいことはわかるな? そんなことでいちいち騒ぐな」
「……わかりました」
「それで良い」
部屋を出て再び廊下を歩く。本当の目的の場所へ。”獄氷”魔王クリュスタッロスは足を少し早め歩いて行った。
次話は4月25日(予定)です。




