第3章 第6話
人型ゴーレムは腕を切った程度では周りの砂を使ってすぐに再生する。四肢を切り落として初めてゴーレムは砂に戻る。だからだろう大型の獣のようなゴーレム以外の人型ゴーレムはいともたやすく倒されていった。凝固した砂は斬りつけるとあとを残しそこを更に切り削っていけば体勢を崩す。または、一部の縄使いが、ゴーレムの上半身を縄で巻き付け倒す。あとは袋叩きにするようにして解体すれば砂に戻っていった。
その間、四つ脚のゴーレムの肩に座っていた少年は笑みを絶やさずその様子を高みの見物をするがごとく見ていた。都市キルアの戦闘員は得体の知れない相手に迂闊に近寄ることをせず、様子見をしている。理由は、魔素濃度が余りにも多いいためだ。可視化出来るほどの紫色の魔素が漂っている。危険だということは一目でわかる。四つ脚の獣ゴーレムを中心として、半球状に展開されているその魔素によって変色した砂、濁りきったように見える空気。どれを取っても安全の『あ』の字もない。これで無謀に突っ込んで行く者がいたら呆れを通り越して感心をしてしまうことだろう。
「いやはや、意外だよ。今回用意したゴーレムだけでどうにかなると思ったんだけど……。舐めすぎたかな?」
四つ脚のゴーレムの肩に座っている少年は呑気に欠伸を噛み殺しながら言う。
「貴様にはいい教訓になっただろう?」
総司令官殿が厭味ったらしく言い返す。
「う〜ん。そうでもないかな。けど、やられたらやり返さないとね」
少年は右手を広げる。そこから砂が巻き上がり、周りの魔素を取り込み、渦を大きくする。怪しい紫の魔素を取り込み、桑の実色の砂が竜巻となり舞っている。不安を掻き立て、恐怖を撒き散らす竜巻だ。死と破滅を連れてくる死神のようなもの。その竜巻は次第に大きく膨れ上がり、あらゆる物を引き寄せる風を生み出した。砂竜巻と名付けるに相応しいと思わせる’それ’は人をいとも容易く、浮かし、竜巻に巻き込み、千切りにする。血が宙に舞い、血の匂いをあたり一面に撒き散らす。
どれほどたっただろうか、竜巻が消えた後には、数名の男女が立っているだけ、四つ脚のゴーレムは傷一つなく、悠然と立ち、そのゴーレムの肩に乗った竜巻を作り出した化け物は笑みを絶やさず未だ死んでいない人を見下ろす。
「へ〜、意外に残ったね」
口では意外と言っておきながら、彼らを見下ろすその目は軽蔑に満ちている。無価値な物を見るようなその冷たい瞳は口元の笑みと相俟って残酷さを醸し出す。
「こっからは本気を出すから、そんな簡単に死なないでよ?」
のそりと、これまで微動だにしなかった四つ脚のゴーレムが身を起こす。少年が肩に乗っていない方の腕を振り上げ、地に振り下ろす。
ドンという音とともに砂埃が舞い上がり、クレーターを作る。5姉妹の長女は飛び散った砂の粒がピシピシと頬を、腕を、足を打つのを感じた。次女にアイコンタクトを取り、セイバーを構える。
地を蹴り、瞬間的に音と同じ速さで走る。目の前にはゴーレムの顔。振り切ったセイバーで長く伸びている角を斬る。驚いた表情をしている少年を見るのが嬉しいのか長女は右の口角を薄くあげる。まるで、無邪気な子供のような笑みだった。
そして、次の瞬間少年は我が目を疑った。四つ脚のゴーレムの前脚が斬られたのだ。急に支えを失い、倒れていくゴーレムに追撃がかかる。もう片方の前脚を斬られたゴーレムは完全にバランスを崩し倒れていく。そして、地面に体を倒したゴーレムに生き残った人々が我先に止めを刺さんと剣を握りしめ振りかざしながらゴーレムに突撃をする。
サラサラサラと砂が動く音がする。前脚が再生し、ゴーレムは立ち上がる。まるで何もなかったかのように立つその姿はまさに天災の如く、人々の心へ無慈悲に変わることなき恐怖を植え付ける。
ゴーレムが前脚を踏み下ろす。人はいとも容易く体を潰され、命を散らす。血が砂に染み込み陰惨な光景を作り出す。
5姉妹の末っ子の五女がゴーレムの手首を斬る。しかし、砂丘から砂を補給し元通りの手となる。魔素がなくならない限り永遠に倒れることのないゴーレム。それは人の心を挫くのは容易かった。
「ア”ァァァァァァ」
奇声をあげ逃げまどう者、無理な突撃をし命を散らす者、終わることなき戦いに地を這い蹲る者。一様にして戦う気力を持つ者は減り、ただただ、生き延びることだけを考える者、せめて華々しく散ろうとする者がいるだけの場所となった。
キキキンッ
そんな中、最後の賭けに出ようと5姉妹が未だ悠々とゴーレムの肩に座っている少年を殺さんとした。首は長女、肩は次女と三女、足は四女と五女。5人全員の攻撃はどれ一つ取っても”人”であれば致死に至らせるものだ。しかし、少年にはどの剣もまるで石にぶつけたように動くことも、傷一つ付けることすらない。
「僕に攻撃を当てられたことに敬意を評するよ。だから、僕の手で殺してあげる」
そして、その言葉とともに5姉妹は同時に呼気に入った砂で肺を潰した。全員の口から血がこぼれ出る。体から力が抜け、重力に逆らうことなく地に落ちていく。
「意外と呆気なかったね」
少年はそう呟く。
「つまんないな〜」
少年は右手を宙に突き出す。それと同時に砂が巻き上がり、砂嵐となる。次第に大きくなる砂嵐。それは都市どころか砂丘全体をも覆い隠す。そして、都市キルアは砂嵐によって、風で家を壊され、砂で都市を飲み込まれ、最後を迎えた。
次話は4月9日(予定)です。




