第3章 第4話
岩石大陸エダフィミネは大陸の75%が山脈である。そして、それ以外の25%の土地は海岸や砂丘といったものが占め秘境と言っても過言ではないような場所だ。しかし、この大陸にはドワーフ、そのドワーフが作った武器などを得るために商人などが訪れる国がある。名をイネリア民主国と言い、巷では商業国イネリアと呼ばれることもある。そして、商業国とまで謳われる国にとって港は海外と貿易をするための生命線である。その、商業国の生命線である貿易に使われる港の名前は砂丘都市キルア、もしくは海岸都市キルアと呼ばれる。
その砂丘都市キルアは名前の通り、砂丘の上に建てられた港であり、外装はがっしりとした構えで、この大陸一の大きさを誇っている。街並みは整頓された区画ごとに分かれており、ほとんどの家の色が砂丘と同じ砂色だ。正確に言えば、砂丘の砂を固めて作った家だから同じ色なのだ。
そして、この砂丘にはここでしかお目にかかれないような特殊な魔物が生息する。代表的なのは砂喰い鼠。名前の通り砂の中に潜んでいる虫などを食べるのに砂をそのまま吸い込むことから名付けられた名前で、都市キルアでも街でよく見かける鼠だ。特にこれといった害がないため放置されており、人の街に住むことで外敵から身を守っていることもある為か、噛まれたりすることはこちらから攻撃をしない限りありえない。そのため、一種のマスコットのような存在として受け入れられている部分もある。なので、この砂喰い鼠を敵視している住民はほとんどと言っていいほどいない。
その砂喰い鼠が、街から逃げ出したのは丁度、夜中ごろ。陰日に入って1時間ほどしか経っていない頃のため、多くの人々は寝ていた。多くの誰もがいつものように平和を噛み締め、明日も平和であると信じきっていた。しかし、その幻想は打ち砕かれた。
キィィィィィィィィィィィィ
数え切れないほどの砂喰い鼠が甲高い鳴き声をあげ都市から逃げ出す。”何か”に追われるように、逃げていく。都市を囲む壁をいとも容易く上り、砂丘を飛び跳ねながら逃げる。砂丘を覆うほどの大量の砂喰い鼠が逃げていく。街の住人は叩き起こされたように起きるものもいれば、未だにぐっすりと寝入っているものもいる。後者は少数派だが……。
いずれにしろこの砂喰い鼠の鳴き声で起きた人数は数知れない。そして、領主代理人のアードも砂喰い鼠の声に叩き起こされた一人だ。現在、国の直轄地である都市キルアの領主は国の定期会議に参加しているため事実上アードが都市キルアの最高権力者だ。そして、アードの心境を一言で表すならば『とても辟易している』だ。
理由は簡単だ。ここ数時間内に入ってきた情報の重要度と、その情報量の過多さと言ったら……。第一報が『破王、火山大陸フローギウスの国、ゴーギウス共和国の重要都市、港街シギアを壊滅す。なお、現場に急行した”炎”勇者ハジと”炎”聖女ミラクの戦死も確認』だと来たもんだ。本格的に破王が動き出したってだけでも胃に穴があきそうなのに、本人(?)が直接街を滅ぼしにかかるってどういうことよと文句を言いたい。しかも半時間の間引っ切り無しに報告は来る。そして第十三報が届く、同じ火山大陸フローギウスの”枯れることなき森”に魔王が率いる破王軍が進撃す。魔王とその幹部を”炎”英雄シュバリスが撃退するも、その破王軍に着いてきていた”獄炎神”バネッタと戦い、生死の境を彷徨うような大怪我を負い、戦場となった”枯れることなく森”が溶岩の大地に様変わりした、と。
さらに頭の痛いことに第十四報がいけない。”獄炎神”バネッタが溶岩に変えた大地から破王軍はゴーレムを作り出し、ゴーギウス共和国に進軍を開始しているだそうだ。情報過多にもほどがある。こんな位早くから情報が素早く来るのは”対破王戦における条約”があるおかげだと素直に喜ぶべきか、知りたくないことを早くから知ってしまうことを嘆くべきか。
ーー”対破王戦における条約”とはもともとあった”対魔王戦における条約”に幾つか項目を増やしただけだ。もともと、”対魔王戦における条約”は魔王と戦ったとき、諸外国はどう対応するかという問題を解決するためにある。鎖国などをしている国を除いて全ての国が加入しているこの条約は言ってみれば国が魔王と交戦したとき10年以上他国はその国に対して軍事的行動、及び経済措置を行わないなどのことが取り決められている。そしてこの条約では一国だけではなく、二国以上が魔王と直接、兵や加護持ちなどを派遣した場合もこの例に当てはまる。他にも細々とした条約があるがそれは置いておくーー
どちらにしろ、アードは今回の破王の進軍について、出来れば朗報が欲しいと切に願っている。なんと言っても破王はフォスティオス国が滅ぼしてから数十年鳴りを潜めていたのだ。それが今日になって本格的な侵攻を始めたのだ。他の国々の上層部だって朗報を切に望んでいることだろう。
そしてその想いも虚しく、アードは第20報目の芳しくない知らせを聞くと、これ以上聞くのが嫌になったのか眠りについた。そして、1時間も経たずに叩き起こされたのだ。ただでさえ、これから起こるであろう破王との戦争に奔走しなくてはいけないであろうに、その前に面倒ごとがやってきた。
砂喰い鼠が脱兎のごとく砂丘の上を逃げていく光景を自室の窓から眺め、なんて壮観だと現実逃避を始めるアードを領主の秘書を務めている女性が睨む。
「睨むなって、少しくらい現実逃避をしたっていいだろ」
「ちゃんと迅速な対応を決めてください」
「じゃあ、砂喰い鼠がなんで逃げたか予想はついてるの?」
「予想というか、もはや理由は考えるまでもなく解っていますが?」
「……良い知らせ?」
「悪い知らせといえるでしょう」
「……聞きたくない」
「聞いてください」
「嫌じゃ〜」
「ここからおよそ歩いて10分ほどのところに砂でできたゴーレムが数十体、侵攻してきています」
「……良いか? 俺は何も聞いてない」
そう言って、布団に潜り込もうとするアードに追い打ちをかけるように秘書は再び口を開く。
「あと数分でこの街に到着し暴虐の限りを尽くした時、あなたの命はどうなっているでしょうか?」
「…脅すのか?」
「事実を言っているだけです」
「はぁ、それじゃあ準備を始めるか……」
アードは寝間着を脱ぎ、着替えようとして秘書に頭を叩かれた。そして一言ーー
「着替える前に一声すらないんですか? デリカシーに欠けますね。女性にもてない理由を垣間見れましたね」
ーーそう言い捨て、部屋を出て行く。
あとには頭を殴打され、幻の星を見ているアードが残された。
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人の大きさを優に超え、家ほどの大きさがある30以上の人型ゴーレムが進軍する。砂丘の砂から作られた体は岩のように凝固しているようで関節は人間ではありえない流動的な動きをしている。しかし、その足取りは遅く、威圧するように地を踏みしめ揺らす。
その中に一体、他の家ほどの大きさのゴーレムとは比べ物にならないほどの大きさを誇るゴーレムがいる。そして、そのゴーレムは人型ではなく獣のように立つ。肩幅は広く、首は短い。そのがっしりとした巨体は人型ゴーレムの2倍はある。鳥のような口に、まっすぐに伸びた一本の角。どのような生物にも当たらない異形の肩には少年ぐらいの外見をしたものがいる。砂色の髪と肌に色に天色の瞳。固く結ばれた口と鳥のような目は冷徹さを思わす。
海風が砂色の髪を撫でる。少し崩れた髪型を少年は直し、空を見上げ笑う。視線を前に戻すと、前には砂色に統一された壁が立つ。都市キルアの壁だ。
少年は腕を前方に向け、何かを掴むようにして開いたていた手を握りしめる。
「いこうか」
その言葉とともに、ゴーレムの歩みが速くなる。
化け物が都市キルアに迫っている。
次話は4月5日(予定)です




