第1章 4話
誤字報告お願いします。
出来るだけ直します。
僕は最近思うことがあるんだ。一人称が『俺』から『僕』に変わった事なんだけど、『僕』って言っているうちに定着しちゃってそう簡単には後戻りできない感じになっているんだ。けど鏡をみた自分を見ると『俺』って感じじゃないのは一目瞭然、もしも『俺』などと言おうものなら似合わない事間違いなし。という事で僕は甘んじて現状を受けいれる事にした。
現在の僕は1歳半(地球で2歳過ぎ)。9度のベビーベッド大脱走劇を経て魔素の扱いの腕も上がったり、体力がついたりして、ベビベーッドから普通のベッドになると思われる頃にはこのベビーベッド大脱走劇が終わるのが惜しく思えるようになった。食べ物も僕の分は少量だけど家族全員で食べることとなり、今日から家庭教師がつくことになった。習うのはこの国の一通りの作法、一般的な教養についてと、この世界の神様についての話ーー宗教だ。気は進まないがどうしたって時間は止まらない。家庭教師の人が来たみたいだ。青髪に瞳は白色。服は白い……だめだドレスという以外の言い方がわからない。だが裾が長いことぐらいはわかる。それしかわからないのかって?それしかわからないんだよ。うぅ、僕にはまだドレスの違いがよくわからないんだ。そんな僕の心境とは裏腹に挨拶が始まった。
「初めまして、フォールティア・ナータリウヌ様。本日より家庭教師を務めます、ミナリー・ギューフスと申します」
「こちらこそ初めまして」
フッフッフッ、半年の間にある程度はちゃんとした挨拶ぐらい出来るようになっているのだよ、と心でつぶやく。
「それでは、一般的な教養の授業を始めたいと思います」
早くない?雑談どころか自己紹介は名前だけって。そう思っている間にミナリー先生の話は続いていた。
「今日はこの国についての成り立ちについて話します」
「はい」
無邪気で満面の笑みを浮かべて答えてみたらミナリー先生は口を少し綻ばせた。すぐに戻ったけど。
「ではこの国について話しましょう。初代皇帝をハイリオウス・ミナル・サケリウスと言います。彼はこの地に降り立った《原初の神》の一柱、《聖精霊神サケル》様と話し、この地域一帯の4種族、人族・エルフ・ドワーフ・妖精をまとめ上げて国を作ることを誓いできたのがサケリウス帝国です」
「4種族?」
「4種族です。人族は私たちのことで、繁殖力が高く適応能力も他の人類と比べると高いでしょう。エルフは《風精霊神ヴァントゥス・風龍神アネモス》の影響を受けた者たちで、長寿の者が多く手芸が得意。ドワーフは《地精霊神フムス・地龍神エダフォス》も影響を受けた者たちで、採掘、武器の精製が得意。妖精は《幻精霊神ファートム・幻龍神ファンタズマ》の影響を受けた者たちで長き時を生きていない者は小さく、5000年を超える者は羽がなければ人族に見えないこともない。魔道具を作るのが得意だ」
「あの影響を受けた者たちってどういうことですか?」
「人だった者たちが神々の漏れ出た魔素を取り込むことで生まれたということです」
「僕たちは”人”ではないのですか?」
「私たちは人族です。人はもういません」
「どういうことですか?」
「う〜ん。これは今やる範囲じゃないんですが……いいでしょう。人はかつて魔法を使うには数年、数十年かかっていました。それは魔素を感知することがとても難しかったからです。けれどある時、人々が《原初の神々》の魔素を取り込むようなことがあったとされています」
「ある時?」
「それがよくわかっていないのです。《原初の神々》はこのことについて固く口を閉じているので」
「ふ〜ん」
その後、ご飯を挟むほど長かったこの国と作法についての話しは終わり、宗教の話しが始まった。童話で聞いた内容とほとんど変わらなかった。まぁはっきり言ってつまらなかった。これが後どのくらい続くのだろう。シャー姉が愚痴をいう気持ちが理解できた。
「何か質問したいことはありますか、なんでもいいですよ」
この数時間の間に物腰が少し柔らかくなったミナリー先生。この国の勇者について聞いてみることにしてみた。
「勇者って何なんですか?」
「そうですね。勇者というのは《原初の神々》に加護を与えられた存在なんんです。この勇者には生まれた時から加護を得ている者もいれば英雄的な行動をしたことによって後天的に得る人もいます。しかし、勇者になる条件というのは判っていないんですよ。生まれた時から、先天的に加護を持っている人には周期があるんです。私たちが崇める《聖精霊神サケル》様の場合は一番周期が短い10年なんです。これは生まれながらの魔王の周期と同じで、それに合わせているのではと考えられています。本当ならもう生まれていておかしくはないんですが去年がその日だったんですよ」
「生まれた瞬間に判らないんですか?」
「そうなんですよね、普段だったら生まれた数日後に勇者の名前が神託で下されるんですけど、今代の勇者は神殿で育たないほうがいいと神託が下ったそうなんですよ」
「そういう場合もあるんですか?」
「珍しいですが5歳になる時、神殿で加護の有無などの確認をするんですけどそのときに判るのでそこまで深刻には考えられていませんね」
「そうなんですか」
そうして1日目の家庭教師のいる勉強は終わった。
今日は収穫の多い日だったと言っても差し支えないだろう。これで作法の授業がなければ良かったのにと思う。本当に嫌になる。今度は『授業放棄作戦』でも考えようかな?とくだらないことを考えながら自室で暇をつぶしていた。窓からは日が差している。今から寝ないと陰日に起きられず生活リズムが崩れてしまう今では慣れたが睡眠時間大人と同じぐらいになってきた頃には戸惑ったことを覚えている。窓から見える空には我が国が崇める《聖精霊神サケル》が住まう恒星ランヴォと破精霊神デーストルークティオーがいるナツラーミがある。僕は布団に入って寝ることにした。
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サケリウス帝国の首都イルリア。《聖精霊神サケル》に『聖女』の加護を与えられた9歳ほど(地球で13歳半)の歳の少女が祭壇に向かって祈りを捧げていた。その少女は腰まで届いているスーパーロングだろう月白色の髪に、足首まである真っ白な修道服のスカート、肩からかかった白いコートの裾が膝を聖女が膝を曲げているため床に着いていた。その聖女のいる教会の聖堂は荘厳で音一つなかった。《聖精霊神サケル》を模したであろう石像に、これもまた《聖精霊神サケル》の姿を手本にしたであろうステンドグラスの向こうに今にも沈もうとしている恒星ランヴォの光が当たっていた。もしその部屋に入ろうとする人がいたらその光景を見て気後れするだろう。なぜならそれほどまでにその部屋は神聖不可侵のように見えるだろうから。幾人かの例外を除いてーー
「やぁここにいたのか聖女様」
年の頃は11歳(16歳半)に見える男で、教会であるこの場所にいるのが不自然に見える、軽薄そうな雰囲気をしていた。金色の髪に紺青色の瞳。男性用の修道服を着ていることから聖女と同じように《聖精霊神サケル》を信仰する教会の関係者だということがわかる。
「いや〜探したよ、本当に君は熱心だね。僕だったら本来の礼拝や行事以外で聖堂に来たのなんて何年ぶりか数えられないよ」
「そのような方が教主だなんて聞いたら暗殺でもされるんじゃないんですか」
と、初めて聖女が口を開いた。
「いや〜それが1000年くらい勤まっているんだよな〜。これが」
1000年の時を生きるハイエルフの教主は言った。
「世界七不思議にあなたがなぜ《聖精霊神サケル》の教主なのかを載せたいですね」
「もしも僕がその世界七不思議に載るんだったら君も載せないとね」
「……それで何のようなんですか」
「解っているだろ。破王フィーニスのことだ。再び動き出そうとしている」
「そうですか」
「君も気を付け給え。今回の勇者が見つかるまでは」
「勇者が見つかったら安全にでもなるんですか」
「少なくとも時代は動くだろう」
「何故そう言い切れるんですか」
「聖精霊神サケル様が勇者を教会で育てないようにするときはいつもそうだったからだよ」
「それは建前じゃないの」
「そうかもしれない、そうじゃないかもしれない。いずれにしろ君が知るにはまだ早い」
「ふ〜ん」
聖女は教主の去っていった扉を眺めていた。恒星ランヴォは地に沈み、教会の天井にある窓を見上げれば、空は暗く星々が瞬いていた。
次話は第六回『ベビーベッド大脱出作戦』です(マジです)。