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ユリカ界  作者: 碾貽 恆晟
第1部 2つの勇者の物語
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第2章 24話





 #side フォールティア


「ビュバルは大丈夫?」


「そうね。蘇生はしたし大丈夫でしょ」


「やっぱり、死んでたんだ」


「わかってたでしょ?」


「わかっててもそれを実際に知るってのは心にくるものがあるんだよ」


「……そう」


 オーリの言葉は僕の心を抉った。


 覚悟はしていた。


 恐怖がなかったと言ったら嘘になるけど、心は決めていたはずだった。


 これまで必死で目を背けていたものが押し寄せてくる。


 自分は死んでこの世界で生き返った。


 そして、この世界は元の世界の住んでた国より、死と隣り合わせでいることが多く、また生と死の境界がとても近い。


 魂さえあれば蘇生することができる。


 それは、とても甘美で残酷だ。


 望み、努力すれば手にすることの出来るもの。


 分不相応ではなく、手を伸ばせば届く。


 だからこそ、人はそれに縋ってしまう。


 死んでもやり直せるかもしれないから。


 絶対できないのではなく、努力をすれば、出来る人に頼めば、金を積めば、いとも簡単に死者を蘇させられるから。


 それは毒だ。


 慣れてはいけないものだ。


 僕には覚悟が足りない。


 死んだ後、生き返らせれるからという前提で計画を立てたくない。


 人が死ぬことに、そして蘇生をするということに慣れたくない。


 そういうのは本当の本当に必要な時だけでいい。


 だから、僕は強くなろうと思う。


 本当に必要な時がなくて済むように。


 保険程度に考えられるようになるため。


 覚悟を決めよう。


 敵を殺すことを。


 躊躇しないことを。


 困難を、理不尽を、笑って対処できるように。


 僕は善人じゃない。


 自己中な考えだ。


 わかってる。


 剣を持つ。


 これまでより重く感じたのは心のどこかでは恐怖してるからか。


 けど、止まらない。


 止められない。


 僕が生まれる前から始まっているこの因果は生きている限り僕に纏わり付き、離さない。


 いいだろう、この命が尽きるまで全力で争ってやる。


 僕の平穏を成就するために。


 覚悟はーー決まった。



 = = = = = =



 何もない世界。


 目も見えなければ、肉体の感覚も一切感じられない。


 だけど、軽くなったことはわかる。


 けど、その軽さは、大事なものを失ったような喪失感だった。


 意識を自分から周りに向ける。


 さっきまで何も感じなかった世界にとても大切な何かが近くにあるように感じた。


 そして、溶け合う。


 自分ではない何かと一つになった。


 そして、それはなぜかとても心を幸福で満たしてくれた。


 まるで二つに分かれてしまったものが一つに戻ったような満足感。


 気持ちが安らいでいく。


 満たされていく。


 全能感が湧き上がる。


 なんでもできる気がした。


 ーーフイーー


 僕を呼ぶ声がした。


 その瞬間、全てがわかった。


 僕とビュバルは今一つなんだと。


 だから答える。


 ーービュバルーー


 ーー思い出した?ーー


 ーーうん、思い出したよーー


 ーーこれが、死ってことなのかなーー


 ーー大丈夫だよ。なんたって聖女様が全力を尽くしてくれるそうだからーー


 ーーふふふ、そうだったわねーー


 ーーあぁ、心配なんてするだけ無駄だよーー


 それに勇者もいるし、とフイは心の中で付け足す。しかし、その考えに水を差すものがいた。


 ーーそれはどうだろうかな?ーー


 突然だった。まるで何を言っているのだろうと事実を正すような様子で聞こえて来る。


 ーー誰だ‼︎ーー


 ーーさてな、天使とでも名乗っておこうかーー


 ーー天使だと?ーー


 天使、それは聖精霊神サケルの魔素の影響を受けて生まれた種族であり人類だ。


 ーー君たちはいま混じり合って、溶けようとしている。もしも蘇生をしようと思ったら混じり合った魂を二つに分けないといけないーー


 ーーありえない。僕の魂は今魔道具にあるはずだーー


 ーー私が招いたのだよ。ただ、魂が混じり合うようなことになるのは予想外だったがねーー


 ーーそれで、なんで私たちを呼んだの?ーー


 ビュバルが天使と名乗るものに聞く。


 ーー簡単な話だよ。地上にね誰か天使を送り込みたかったんだよ。けれど、今の天使たちは用事があって手が空いているのはいなかった。いても生まれて数年程度でまだ流石に君たちの星に送れるようなものはいなかった。そこで、久しぶりに”天使転生”の秘儀を使おうということになった。そして、偶然君たちの話を知ったのだよ。わざわざ一度死んだあと蘇生をするってことを。これは良いものを見つけたと思ったよ。なにせ、勇者の知り合いだ。しかも貴族。情報はよく集まってくるだろうし、彼奴らよりいち早く知ることすらできるかもしれないとねーー


 ーー目的はなんなの?ーー


 ーー君たちの星で悪魔どもがのさばんないようにするためさーー


 ーー悪魔?ーー


 ーー知ってるだろう? 咎人どもが成れ果てた種族のことだよーー


 ーーどんなことをしろって言うんだーー


 ついビュバルと天使と名乗るものの話に割り込んでしまった。だが、これは聞かなくてはならないことだ。


 ーーそちらの星の情勢、そして一番重要なのがどんな悪魔がいるかだよーー


 ーー拒否するかもしれないぞーー


 ーー魂を融合されて、蘇生できない状態を回避させてあげる。それがこちらからの提案だよーー


 ーーくそっーー


 ーー良いわーー


 ーービュバルーー


 ーー言ったて仕方がないわ。最低限話をしてくれるだけでも喜ばなきゃ。本当だったら何も言わずに転生されていてもおかしくないんだからーー


 ーーははは、そんなことはしないよ。それじゃあ力に溺れた馬鹿が生まれるだけだーー


 ーー提案に乗るわーー


 ーー賢明な判断だよ。流石に魂の全てを引き剥がすことはできないからちょっと変なことになるかもしれないけど許してくれ。それじゃあ、またこちらから連絡するよ。それまでにゆっくりじっくり話すことだねーー


 放心したように僕は天使の声を聞いていた。けど、その言葉は理解できないことだらけだった。


 ーーフイ。戻ったらちゃんと話しましょうーー


 そう言うと同時にビュバルと引き離されるような感覚がした。僕は言いようのない喪失感を持ちながら意識が閉じていくのを感じた。



_____________________________________



 #side ナタイ


 どこからか短剣が飛来し、男の腕を消し飛ばした。


「やってくれますね」


「そほどでも」


 ナタイは謙遜するようでいて、どこか馬鹿にするような含みを込めてそう言った。


「邪魔をしないでもらいたいですね。……勇者ですよね?」


「”虚”勇者のナタイ・カータル」


「そうですか。それでは私も名乗りましょうか。ガイラル・シュハイリと申します。短い間ですが宜しくお願いします」


 ガイラルはそう言うと、手を肩の高さほどに掲げ魔法を発動する。


「”強制転移”」


 その言葉とともに発動した魔法は『サタナス・ゴニビオ』だったものを強制にこちらに転移させたのだ。圧倒的までの質量がそこにはあった。当たり前だ。彼は首都の外で待機していた『サタナス・ゴニビオ』だけではなく、実験中の『サタナス・ゴニビオ』まで強制的に転移させ纏め上げ、一つの生物になるようにしたのだ。それが、小さいわけがない。


 城の上空を覆い隠すようにしてその赤色の肉塊は球の形をとって浮かぶ。


「さてと、貴方には早々に退場してもらいましょうか」


 ナタイの周りに紫の光が一瞬に生まれ、体をいとも容易く貫いていく。そして、それに追い打ちをかけるようにして巨大な光線がナタイの体を丸ごと飲み込み城の地に穴を穿つ。ガイラルは口元を歪め笑う。


「口程にもないですね」


「そうだな」


 その声が聞こえるとともにガイラルの首が刎ねられた。しかし、その首は地に落ちることなく空中で止まった。ガイラルの首の亡くなった体の方が手で髪を掴んだのだ。そう、首から大量の血を吹き出しながら。ニヤニヤとガイラルは自らの頭を抱えながら笑う。


「いきなり首を刎ねるとは、行儀がなっとらんだろ」


「いきなり魔法で串刺しするよりはましだろ」


「ははは、どっちも変わりませんよ」


「そうだなっ」


 魔法が発動し一瞬のうちにガイラルの右足を消滅させる。ガイラルが右足がなくなるだけで済んだのは、ナタイの魔法を逸らしたからだ。これを『逸らせた』というのか『逸らすことしかできなかった』と言うかはその人次第だろう。だが、ガイラルにとっては後者だった。不満気な表情を前面に押し出し、一言。


「君は嫌いだ」


 肉塊が落ちてくる。それは遅くはないが速くもない。しかし、城を完全に崩壊させるまでに1分とかからないことがありありとわかる。


「”脱水” ”流水”」


 どこからともなくアナティコの声が聞こえ広範囲に及ぶ魔法が発動し、肉塊の水分をすべて奪い取る。そして、奪い取った水で肉塊を切り刻む。


「”氷結”」


 さらに、バラバラになった肉塊の湿りを利用しヴァセリシャが魔法を使い氷に閉じ込める。


「”虚滅”」


 そして、ナタイは強制的に転移させた肉塊の操作に意識を向けていたガイラルに魔法を放つ。避けようとするガイラルの動きをマルティータが”水縛”で阻害する。そうして、ガイラルの体は余すところなく魔法に飲まれ消えていく。


「ありえない、ありえない、ありえない」


 そう叫びながら。そしてついにはガイラルの魂すら虚滅に飲み込まれた。後には何も残っていない空間があるだけだった。



 = = = = = =



「一件落着だ」


「……確かに主犯は倒したけど首都はボロボロだね」


 ナタイの言葉に”幻”勇者のハネリウが椅子に凭れ掛け、存分に休憩をしながら答える。


「これから大変ですね」


 ヴァセリシャは城の露台から見える壊れた街並みを眺める。


 真剣な面持ちで話しているナタイやハネリウ、ヴァセリシャを背にアナティコとマルティータの二人は恋愛劇を繰り広げているがそれに注意を向けるものは一人もいない。誰も望んで馬に蹴られにいくものはいないのだ。それが本人の意思がどうあれマルティータにそう思われたら社会的に死ぬ。それにより何人の命が散っていったか……。


「一旦ナタイとヴァセリシャは寝に戻るといいよ。あと数時間で夜が明けるけど寝かしてくれるだろう」


「それじゃあ、お言葉に甘えまして」


 ナタイはそう言って今すぐにも戻ろうとしてーーヴァセリシャに首を掴まれそうになるのを避け露台の手すりに足をかけ、空の上を疾駆していった。


「は〜。それでは私も行かせてもらいます」


「うんうん、若い内はちゃんと寝るのがいいよ」


「はい、そうします」


 そう言ってヴァセリシャはナタイを追うためにナタイと同じように露台から空中に足を踏み出し”空歩”の武技を使っていく。ハネリウはそんな二人を目で追いながら溜め息をつく。


「これから大変になりそうだ」


 心底嫌そうにそう言って、彼はアナティコとマルティータの恋愛劇を尻目にして城内に入っていった。



皺は月3月19日(予定)です。

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