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ユリカ界  作者: 碾貽 恆晟
第1部 2つの勇者の物語
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第2章 22話





 #side フォールティア


 ”勇者”が国境に接している領地に行くというのは他国への牽制というのが強い。これは勇者の多いい大国ではよく使われる方法で、これがある限り迂闊に他国に攻めようものなら勇者に返り討ちをされるのだ。それなら勇者を攻め入らせればいいのではと思うかもしれないが、肝心の魔王が来て対処が出来なくなったりする可能性があるため普通はしない。なにせ魔王相手に勇者一人だけだと荷が重い、長年生きている魔王がその気になれば数十年程度しか生きていない勇者など赤子に等しいのだ。もちろん勇者の中にも魔人に至り、1000年以上生きている例外もいるが、そんな人はそれこそ国に一人いるかいないかだ。そして、大変喜ばしいことにサケリウス帝国の近隣国において勇者を戦争に使えるほど人数に余裕のある国はない。なので、サケリウス帝国は勇者を国境に接している領地に派遣するのもちょっとした経験を積ます程度のことなのだ。


 そう、経験を積ますこと。なので、今僕は領主お抱えの騎士団と一緒に魔物の狩りに出かけている。オーリも一緒だ。とても嬉しくないが。ここ重要。なにせ、少しでもふざけようものならば一体どんな罵声が飛んでくるかわかったものではない。ここは慎重に、一つのミスも許されないぞ、僕! 後ろから呆れの籠った視線が突き刺さっている気がしなくもないが気にしない気にしない。大丈夫だ!


「さすがは勇者様ですね」


 騎士団の今、居る中で一番上の立場にいる副団長さんがそう声をかけてくる。ふっ、心の中でどんなことを考えていようとゴブリンやオークなどの亜人種など簡単に倒せるのだよ。ロゴス族ならいざ知らず知能の低い亜人種など棒人形と大して変わりはない。ちなみにだがロゴスとはゴブリンやオークなどといった種族の知能のあるものを指す。そして、ロゴス族は国を作っており、貿易、外交なども普通に行っている。そして、知能の低いものと区別するためにロゴス・ゴブリンやロゴス・オークなどと呼ばれている。


 僕たちがゴブリンを殺すことを非難したりしないのかって? もしもそんなことを聞こうものならぶん殴られたって文句は言えない。人族に猿を殺したことを非難しないのですかと言っているようなものだ。下手をしたら気絶するような一撃を喰らうかもしれないので注意が必要だ。どうでもいいと思うかもしれないがロゴス族は普段だと温厚らしい。


 まぁ、そんな些事は置いておいて。


「この森にも慣れてきましたからね〜」


 シハウ領に着て早8廻日、この訓練(?)を毎日(恒星ランヴォが照っていない陰日は違うが)やっている。しかも毎回同じ場所しか通らないので大体の道順は覚えている。そう、目を瞑っていたって歩けるのだ‼︎ 魔素感知(周りの魔素の動きや量で空間を把握する)を使っているのだろうという文句は聞かない。


「もう慣れたのですか?」


「細かいところは分かりませんが、表面上は」


「それでも凄いですよ」


「煽てたって何も出ませんよ?」


 男にやるようなもんはない。誰もが同意してくれることだろう。


「はっはっはっ、なくても大丈夫だよ」


 この副団長やりおる。きっと女性関係が荒いのだろう。取り繕っていても僕にはわかる‼︎


 ゴツッ


 オーリに杖で頭を叩かれた。痛い。


「痛い」


「自業自得では?」


 まさか、オーリは遂に僕の考えを読めるようになったのか‼︎


「僕は何もしていないけど?」


「くだらないことは考えたんじゃない?」


「それだけで叩くのか‼︎」


「つい」


「何がいけなかったんだ‼︎」


「全てが?」


「なんてことだ‼︎」


「まぁまぁ、それくらいにして」


 副団長が会話に割って入らなければこの言い合いはもっとヒートアップしていたことだろう。それを防いだ副団長の手腕に拍手を送りたくなった。じゃあ、やめろよという言葉には耳を貸さないぞ。無視だ無視。


「はぁ、帰るわよ」


「確かに、そろそろ時間ですな」


「そうですか」


 はぁーとため息を吐いて剣を腰の鞘に収める。またフイとビュバルのお熱い場面に立ち会うと思うと心が落ち込んでいく。あの二人さっさと結婚しろよ。婚約者なんだろ。もう成人したんだろ。憂鬱な気分を押し殺し、副団長に笑顔を浮かべて話を合わせる。魔物を倒しているのは決してストレス発散ではないことをここに明言しておく。



_____________________________________



 #side ナタイ


 空気中をまるで水を泳ぐようにして”水”勇者アナティコは移動する。それを追うようにして紫の光線が『サタナス・ゴニビオ』を放つ。しかし、その光線をアナティコは悠々と簡単に避け、避けきれないものは魔法で相殺させるなどしている。避けてあらぬ方向に向かっていった光線も結界に阻まれ周辺に被害は生まれない。ただし、その結界を張った張本人の”水”勇者の対である”水”聖女マルティータ・クリヴィレスは面白くないようで、ムスッとした顔つきで戦いを眺めている。


「遅い! 遅い、遅い、遅い‼︎‼︎」


 その言葉に周りの衛兵、駆けつけてきた近衛兵が萎縮している。


「なんなの、あんな奴に時間かけて。私よりあっちの方が大事なの?」


 マルティータ、彼女は嫉妬心が(アナティコに限ってだが)凄まじいのだ。礼儀作法は誰もが絶賛するだろう。しかし、アナティコに一つでも色目を使った女がいようものなら社交界から姿を消すという噂が(噂より実際は酷い)あるぐらいのありさま。それは平民相手でも同じで、首都追放になったものもいたとかいなかったとか……。頼まれた仕事はきちんと行なってくれるため表立って批難するものは少ないが、彼女は一種のアンタッチャブルの存在として首都全域に知られている。しかも、田舎のものが首都に行く時には『マルティータに気を付けろ』などと言われているところもあるとか……。


「まっ、まぁアナティコ様も頑張っているんですし、応援してあげたらアナティコ様も喜ぶのでは?」


 当たり障りのないことを近衛兵三番隊の隊長は言ったつもりだったのだろう。これが勇者や聖者、聖女に接する機会の多いい近衛兵の団長や副団長などが聞いたら『おい馬鹿やめろ』と言ったことだろう。なにせーー


「何言ってるの?」


 『あっ、やばい』と、その場にいた全員が思った。


「あの人は私よりも戦闘が楽しいから戦ってるのよ‼︎ それが許せると思うの? 私は戦いよりも軽んじられてるのよ‼︎ いつもそう。この前だって、手強い魔物が現れたからって簡単に倒せるはずなのにあの手この手で遊んで。その前もそう、あの時は魔物にあの女が捕まったていうのでティコ(アナティコの愛称)が助けた時も色目使ってたのよ‼︎ あれは初恋よ初恋‼︎ 私のティコに初恋しただけでなく色目を使いやがったのよ‼︎‼︎」


 『どうすんだ?』そんな視線が三番隊隊長の背中に注がれる。肩を竦める隊長を見た瞬間周りの人は悟った。『こりゃダメだ』と。


「大体なんの? 私はずっとアナティコに振り向いてもらうためにいろいろ頑張ってるのにぽっと出の女なんかにこの幸福を分けてやるわけないじゃない。私たちは相思相愛なのよ‼︎」


「ティータ(マルティータの愛称)‼︎」


「はい!」


 アナティコに呼ばれたことで満面の笑みを浮かべるマルティータ。犬かよ。いや、海人種の海星ヒトデ族だった……。


「こいつの魔法を止めてくれ」


 見ると、『サタナス・ゴニビオ』はアナティコの攻撃をすべて魔法で弾いている。この『サタナス・ゴニビオ』は攻撃ではなく防御がしっかりとしているようで簡単な攻撃では傷一つつかない。


「魔法阻害でいいの?」


「水結界だ」


「そこまでやる?」


「必要だ」


 水結界と一言に言ってもいろいろな種類がある。その中で、半円球状の水の渦を作り出す魔法を”水”聖女は得意としている。この中であれば、海人種がもっとも得意な戦法を取ることができる。しかも、その半円球状の水の中では水魔法しか使えないようになっている。”破”属性が得意な『サタナス・ゴニビオ』では手も足も出ないだろう。


「やるわよ。”水渦”」


 魔素が変質し、水になる。湧き出るように水は現れ、その水は永遠に出るかと思われるほどである。そうして、水はアナティコと『サタナス・ゴニビオ』の周りを円状に渦巻き、一人と一匹を飲み込んでいく。水は渦巻きいともたやすく『サタナス・ゴニビオ』を翻弄ーーしなかった。


「うそ、抵抗されてる」


「大丈夫だ。あとは俺がやる」


 水がうごめき、渦の流れが変わる。そして、水が圧縮された。音もなく『サタナス・ゴニビオ』は肉体を四散させる。肉片一つも残らず砕かれる。水が引いたあとには原型すらわからないような赤い血のようなものが残っているだけだった。


 『サタナス・ゴニビオ』(その場にいた人々はこの名前を知らないが)は倒れた。皆がそう思いホッと息を吐いた時、天から紫色の光が落ちてきた。神の断罪の光のように。それは、無慈悲に、パーゴジウム王国の首都パデルリアを飲み込んだ。



 = = = = = =



「ふふふ」


 笑いが止まらない。『サタナス・ゴニビオ』は魔王の因子を持ちしものだ。倒すには、それこそ細胞一つに至るまで原子レベルにしない限り復活する。それか、『サタナス・ゴニビオ』の魂を破壊するかだ。それははっきり言って勇者の中でも才能があり、なおかつ長く生き魔人に至った者ですら難しいのだ。”創” ”滅” ”死” ”生” などと言った概念系の魔法でも魂を破壊することはできる。しかし、魔王因子によって魂まで魔王に近づいた存在をそう簡単に倒せるわけがない。


 『サタナス・ゴニビオ』にとって体を壊されるということは鬱陶しいだけのことだ。だから、怒ったのだ。これまでは羽虫を叩く気分でしかなかった。羽虫を叩くのに対軍隊規模の魔法を使う馬鹿はいないだろう。そう、普通ならば。例えば、叩いても叩いても羽虫が出たらどうする? 叩いたと思ったのに殺しきれなかった羽虫がいる。それがなんども続けば苛立つだろう。だから、使ったのだ。『サタナス・ゴニビオ』はあの破壊の魔法を。対軍隊規模? そんな生温いもんじゃない。自然破壊規模だよ。あの魔法は。流石は私の研究のすべてを注ぎ込んで作ったものだ。


「あぁ、笑いが止まらないよ。どうか、私が介入する前に落ちてくれるなよ。パーゴジウム王国、かつては帝国だったのだから」


 男は整理し終わった荷物を持つ。男が地中の岩をくり抜いて作られた部屋を出た後には何も部屋には残っていない。そしてその後、部屋は音もなく岩が侵食していき、ついにはそこに部屋があったとは誰も考えられない岩の地中となった。



次話は3月13日(予定)です。

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