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ユリカ界  作者: 碾貽 恆晟
第1部 2つの勇者の物語
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第2章 21話





 #side フォールティア


 転移門で目的の領地にきた。領地の名前はシハウ、そして、今僕がいる町の名前がキハイルだ。そして、この領地の領主である貴族はパトリッシ・ウラル・ジャンネル侯爵という名前からわかる通り、フイミラージュ・ジャンネルの父親の領地である。そしてこの領地の特産品といえば、ミヤカという。3日で種から根を張り、茎を伸ばし、花を咲かせ、実を結ぶという特殊な植物の販売額が領地の財政の4割を占めているのが特徴だ。花は綺麗で毒なども持っていないので飾り付けにしてよし、実も大変美味しいので食べてよし、更に実を絞った汁は肌荒れを治す効果がありいい匂いがあるので化粧品に使ってよし、枯れた茎も紙の原材料となるなどこれでもかといろんなことが出来るという超優れもの。しかも、栽培するのに栄養価の高い土ということで腐葉土の多いいこの領地ほど適した場所はサケリウス帝国のどこを探しても存在しないであろう。


 そして、その大変美味しいと評判のミヤカの菓子料理をご馳走になっている。あの小姑オーリがあそこまで顔ののこやかさを見せている。恐るべしミヤカ。これからはこれを常備して、オーリが怒りそうになったら渡そうか。そう検討をしてしまうほどだ。しかし、このミヤカは十数年前にとある学者、名前をミヤカという人が開発したもので、本人の名前から肖っているのだ。なので、このミヤカの歴史は最近からということなので万全な流通網が整っているとは言えない。なので店で販売しようものならすぐに完売になるのだ。しかし、僕にはここの領主の長男ーーフイミラージュ・ジャンネルの友人なのだ。それくらい融通してくれると信じている。それにあれを渡しているのだ。それくらいのことぐらいなら軽く引き受けてくれるだろう。やはり持つべきは友達だ。


「フイくん。あとで二人だけで話があるんだけど」


「……空けておくよ」


「さすがフイくん。頼りになるね〜」


「ちょっと、フイに何か変なことを頼むんじゃないでしょうね」


「いったい僕をなんだと思っているんだ。ビュバル殿?」


 フイのところに着ていたビュバルが口を挟んできたので文句を言う。


「貴方に殿なんてつけられたから寒気を感じたじゃない」


「ちゃんと答えてほしんだけど」


「貴方たちっていっつもこんな感じなの?」


 オーリが物珍しそうにこちらを見てくる。なんだ、何かおかしいか‼︎ 思わずそう怒鳴りたくなった。だが、ここは慎重に行く時だ。冷静沈着に、それでいて大胆に相手の思惑を看破するんだ。僕ならできる。


「そうだけど?」


「貴方には聞いていないわ」


「ぷっ」


「くっ」


 ビュバルとフイが失笑をしただと‼︎ ここに仲間はいないのか‼︎ 僕が嘆いている間にも話は進む。


「えぇ、だいたいこんな感じですね」


「否定できないね」


 面白そうになに人の赤裸裸な話をしてるんだ‼︎


「人の黒歴史を穿り出すなんて感心しないね」


「黒歴史だったんだ……」


「聞こえてるぞビュバル‼︎」


「僕もこれはシャルに賛同するかな」


「ちょっとフイ、僕もってなによ、”も”って」


「うっかり本音が漏れたんだろ」


「貴方には聞いていない」


「フイ、お前もこんな嫉妬深い女が許嫁なんて可哀想に……。僕はいつでも話を聞いてやる。裁判の時もちゃんと事実だけを話してやる。だから耐えられなくなったら安心して破談か離婚をしろよ」


「ははは、大丈夫だよ。嫉妬深いってことはそれだけ僕に恋してるってことなんだろ? 僕はそんな彼女が好きなんだ」


「お熱いね〜」


 惚気てきたので囃し立ててみたのだが効果がないようだ。


「そうだろ」


 そう返してきやがった。なんと憎きリア充よ。爆ぜろ。魔眼”怨嗟の魔眼”を発動する。もちろん実際にある魔眼ではない。なので説明しよう、”怨嗟の魔眼”とは‼︎ 恨み辛み憎みから生まれた心の憎悪の塊から生まれた魔眼である(嘘)。その魔眼で睨まれたものはそのリア充度(それだけリア充であるかの指標 *僕が作った)の大きさだけ相手に苦痛を、人によっては死すら与えるのだ‼︎(嘘)しかし、当のフイは一切の効果が現れない。まさか‼︎ 僕の魔眼が効かないのか‼︎(ふざけてます) なんたるやつ、この恨みいつか晴らしてやる‼︎(遊んでます)


「そんな目で睨んでも僕の幸せは誰にもーーそれこそ親友にだって分けてあげないよ」


「いつか見返してやる‼︎」


 と、男性2名でしょうもない争いとも呼べないなにかをやっている横で手持ち無沙汰なオーリとビュバルはというとーー


「楽しいのかしら?」


「男子はどうでもいいことで盛り上がれるのよ」


「まぁ、フイが楽しいならいいんだけど」


「ふふふ、そうね」


 ーーオーリとビュバルはなぜかいい雰囲気になっていた。


 領主の屋敷で4人の世間話は夜が更けるまで続いた。



_____________________________________



 #side ナタイ


 崩れた外壁から人型の肉塊がザワザワと押し寄せてくる。そう、忌むべき軍勢だ。死しものを偽りの魂で蘇らせ、その魂を冒涜し、穢されたものたちの軍勢だ。あってはならない存在だ。しかし、否定しようとも、その軍勢は存在し、人ならざる者として蘇ってきた者たちなのだ。そして、その軍勢は崩れ飛び散った外壁の岩の上を歩く。規則性はなく。しかし、向かうべき場所は同じだ。そこは『城』だ。パーゴジウム王国の王城であり、建てられて2300年経った今なお荘厳たる雰囲気を見る者に感じさせる。決して揺るがないような構えを見せる城に向かっていくその軍勢は異質だ。


 赤く爛れたようにすら見える外見をしている者もいれば、肌や筋肉の見える者もいる。共通点を挙げるとすればその足取りの遅さだろう。だが、それは崩れた外壁によって出来た瓦礫の上でも歩みを遅めることなく、生半可な攻撃では興味を向けることすら難しいのだ。現に、衛兵たちの魔法や強化された弓でも傷一つどころか歩みを遅めることすらできていない。近距離での攻撃しようにも、一定の範囲内に入ると迎撃をされるようで近づくことすら不可能だ。衛兵側は押されて引いているのに対して、歩みを遅めることのない軍勢。


 ゴロン


 音がした方を見れば、人型の肉の首を刎ねられ、頭が地面に落ちていた。不思議なことに、首から血のようなものは吹き出ず、一切の変化がない。そう、一切の変化がないのだ、倒れもせず歩みを止めることもしない。しかし、数秒経つと首から筋肉が膨張し、頭が生えるようにして治った。


「おいおい、首をはねても死なないって……化けもんだな」


 そう呟いたのは、叩き起こされ、外壁の前に出向くことになったナタイ。


「気持ち悪いですね」


 ナタイのそばでそう言葉を漏らしたのはナタイと同じく、同じく叩き起こされ、連れてこられた聖女ヴァセリシャだ。


「肉片一欠片も残さず消し去るって方法があるけど……」


「随分危ない方法では?」


「魔法一つでちょちょいのちょいだよ」


「一つで片付くんですか?」


「数と範囲が広いから微妙かな」


「まぁ、やるだけならただなのでいいですけど」


「……じゃあやるよ」


 ナタイはヴァセリシャの言い分に思うところがあったようだが聞かなかったことにして魔法を発動する。


「”虚滅”」


 その一言で魔法が発動し、魔素が黒の色を纏ってその場を支配する。この魔素に触れたすべてのものは存在が虚になる。虚とはこの世界ーー現界にはないものということだ。現界にあるすべての原子単位に含まれている魔素は”在”の属性を宿している。そして、その”在”属性の反対の属性(”創”の反対は”滅”、”生”の反対は”死”、”聖”の反対は”魔”のように)は”虚”なのだ。反対の属性を打ち消すというのは魔素の情報量と、魔素の密度が重要になる。どちらの魔素の方が干渉されやすいかこの点につきる。なので、相手の肉体にある魔素の属性を”虚”に染め、現界に存在できないようにしたため原子が崩壊し、滅びるというプロセスで行われるこの魔法は、普通であれば相手を倒す点において非効率で、無駄が多いいのだ。しかし、相手は首を刎ねようとも1分もかからずに再生するような化け物だ。今回においては相手を倒すのに見合うだけの攻撃といっていいだろう。


 黒色の魔素で相手は見えないが、それでもナタイにはなんとなく相手を倒せたかどうかという感触はある。だからナタイには分かる。存在を消し去れたのは魔法の効果が高かった範囲にいた半分程度でしかないことを。魔法が解け、敵が再び目の前に現れる。どれもこれも人の形を保っているものはいない。逆に言えば人の形を保っていないけれど、生き残っているとも言える。


「厄介だな」


「半数は片付けられたし、残ってるのも戦いにはならないでしょ」


 その言葉に異議を申したいのか、半分以上消えた筈の肉体が再生していく。定まった形を放棄し、肉体が膨張する。元の質量や密度からもあり得ない速度で大きくなっていく。そしてついには膨張が止まり、元の形を取っていく。


「……あれを見て言えるか?」


「そうね、訂正するわ」


 鬱陶しそうな気分を隠さない表情をするヴァセリシャ。


「しょうがないわね、私もやるわ。”這氷”」


 彼女が発動した氷の魔法は地面を這うようにして再生したばかりの人型の肉塊に向かっていく。その魔法で足を氷で絡め取り、体の表面を覆っていく。一体、二体と動きを封じられ前方のものたちは腕を振り回すだけの意味のない動きをしている。それでも、衛兵は遠巻きにそれを眺めながらいつでも攻撃ができるように準備をしている。


 しかし、その準備は無駄となる。氷が粉砕されたのだ。一体の人型の肉塊から大量の魔素が噴き出す。その魔素は氷を砕き地面を割り周囲に撒き散らされる。そして、それを引き金にして他の肉塊も魔素を体から放出する。


「魔法を!」


 ヴァセリシャのその言葉で衛兵たちがそれぞれが得意としている魔法を放つ。しかし、その魔法は肉塊が腕を振るという動作で発動させた、紫色にそめられた魔素の純粋な破壊力で、たちまちのうちに消したのだ。


 格が違う。そう、否が応にも衛兵たちに思い知らさせた。一番先頭のものが拳を振り上げる。そして、振り下ろされた拳は地を砕き人ひとりほどの大きさのクレーターを作った。そして、そこにいた衛兵を含めた人々は初めて、そこに体が動かせずに逃げ損ねた人がいたことを理解した。四方に飛んだ血の跡が残酷にその痛ましさを伝える。


「ウオォォォ」


 衛兵のひとりが我慢できずに斬りかかった。それにつられて他の衛兵が攻撃に移った。しかし、その攻撃はなんの障害とも成り得なかった。


 パン


 最初に斬りかかった衛兵の体がまるで水風船のように弾け、血を撒き散らす。肉塊が斬りかかった剣ごと腕を振ることで粉々に砕き、衛兵に攻撃をしたのだ。そして、それを皮切りとして、衛兵が為すこともなく命を散らしていく。ある者は、何もできず体を四散させ、ある者は、攻撃を届かすも相手の動きを阻害することすらできず胸を貫かれ、一体を倒すに至るものの二体目を倒す力が残っておらず腕を捥がれ多量出血をし、幾体ものを倒す者は囲まれ遂には頭を潰される。とても凄惨な光景だ。


「おい、どうするんだよ。このままじゃ突破されるぞ」


「わかってます。そちらも何か手がないか考えてください」


 ナタイとヴァセリシャはそれぞれ思い思いの行動を取ろうとした。そのとき、空から落ちてくる神の裁きと見紛うような紫色の閃光が彼らの視界に入った。その光は丸々都市を飲み込むほどの範囲だと言うのは疑うまでもなかった。



 = = = = = =


 目の前で一人の白髮で青目をした初老に入った程と思われる男性が荷物を片手に、転移門へ入る準備をしていた。


「行くのですか。尻尾を巻いて」


「尻尾を巻く? 儂は戦ってすらいないのに?」


「戦っても勝てないから逃げるんでしょう?」


 その言葉に腹を立てることもなく、初老の男性は不敵に口元を歪め挑発するように言う。


「それは貴様が負けるかもと思っているから出る言葉でしょう?」


「私は負けない‼︎‼︎ 私の研究は少なくともあの弱国なんかに対処されるようなものじゃないんだ‼︎‼︎‼︎」


「魔王因子を使った生物兵器というのは着眼点は良かったが、些か理想と現実が乖離していたと思うがの? それに、知識が貴様に必要だったから博識と知られている儂を呼んだんじゃろ? その程度の知識しか持っていないものが語るのはまずは夢ではなく現実でなければ」


 嘲るように、それでいて諭すように、もしくは哀れむように言ってくる態度が自分を怒らせているのだ。しかし、反論できない。それはある意味事実であり、ある一点については誰よりも知識を所有し研究を重ねたと自負しているから。


「私はそんなことを聞きたいんじゃない‼︎ なんでもっと有用なことに使わないのだ‼︎」


「上はその程度だと認識したのだろう。それに、作ろうと思えばいつでも作れる。技術はもう上に渡っているからのう。しかし、これからの貴様の努力次第では貴様にもチャンスがあるやもしれぬ。精々、努力をせい。儂はもうここには用がないでな」


「くそっ‼︎ くそっ‼︎ くそっ‼︎ やればいいんだろ‼︎」


 彼は今しがた転移門で大陸を離れた初老の男性に、上の決定に悪態をつきながらもそれでも任務に従う。最後に男が言った、チャンスがあるやもという言葉に突き動かされて。部屋に閉まっていた錠剤を3粒取り出し片手で握れるていどの箱に入れて、初老の男性が使った方ではない転移門を潜った。



次話は3月10日(予定)です

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