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ユリカ界  作者: 碾貽 恆晟
第1部 2つの勇者の物語
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第2章 20話





 #side フォールティア


 僕は教会の離れの庭で恒星ランヴォの光が当たる部分の木の幹に腰掛け、日光浴を楽しみながら学園の卒業ーー娑婆しゃばに出ていることを満喫していた。これまで散々勉強をしてきたのだ、羽目を外してもいいだろう。なんたって、1週間後からもう勇者としての仕事が始まるのだから。とは言っても戦うことが目的ではない。サケリウス帝国の国境に接する領地に行くことが仕事だ。理由を説明しよう。サケリウス帝国の首都イルリアが森に囲まれている。この森は『聖なる森』と呼ばれている。そしてこの森に道は4つあり、僕の故郷のオマラリに続く道と、その他の国境に接する重要都市に続く道がある。そして、その4つの都市には勇者が一人在留することになっている。その内の一つの領地に僕は行くことになるわけだ。


 そしてもちろんオーリも付いてくることになる。なんたって対ですからね〜。なんで彼女と僕は対なのだろうか疑問に思う。えっ、対ってなんだって? それはだ、神が勇者を生み出す時それに対となるようにして”聖者”(女性の場合は”聖女”)が生まれる。素質の関係上か数年離れて生まれることが多く、こちらもまた”勇者”と同じく神託を下されたあとすぐに保護されることが多いい。そう、僕とオーリは運命の糸で結ばれてーーオロロロロロロロ。考えただけで吐いてしまった(心情的になので実際には吐いていない)。


 なので”勇者”と”聖者 or 聖女”の対はほぼすべての行動において一緒に過ごすことが多いい。僕もオーリと一生行動をしないといけない⁉︎ あの毎日小姑ばりの小言を言ってくるオーリと⁉︎ 絶望的だと思ったのはもう何度目か数えられない。そうしてその度に僕はオーリに頭を小突かれる。むぅ、いったいどうやって僕の考えを読んでいるのやら。


「顔に書いてるわよ」


 幹で陰になってる部分に座って、そうおっしゃるオーリ。さすがオーリ。略して『さすオリ』。オーリが半眼で睨んできた。恐ろしや、哀れフォールティアは生涯に渡り、オーリへの恐怖を味わったのでした。


「どうせまたくだらないことを考えているんでしょうけど、大丈夫よ」


「……何が?」


「ここを離れるといっても数カ月程度だから」


 どうやら彼女は僕が首都を離れて他の領地に行くことを不安に思っている為に現実逃避をしていると思ったのか。残念ながらそうではなくてオーリといることが精神的に苦痛を伴っているとは口が裂けても言えないな。言ったら……どうなるか分かったもんじゃない。


「……そのことを心配してるわけじゃないんだけど」


「だけど?」


「これからの未来に付いて考えてるんだよ」


「未来?」


「僕は”勇者”になってから何もしていない。けど、このご時世で順風満帆に心置きなく生きていけるっていうのはあり得ない。ただでさえ自由に生きるということが難しいのに。それで思ったんだ。僕はこれからどうなるんだろうって。数年前は歴史に残るような偉業を成し遂げるっていうのが夢だった。けど、これから僕の道は決まっていてただ作られた道を歩いていくだけのように思えた」


「それで」


「これからすることに僕の意志はなくて他人の意志が重要になっていくように思えるんだ。だから、僕は不安なんだ。これから魔王と戦うことになった時、最後までやり遂げる気概が必要な時に、挫けないかが」


「……これから考えていけばいいでしょ」


「これから?」


「そう、これからその理由を考えればいいのよ。今どれだけ悩んだって袋小路に陥るだけでなにか新しいことを思いつける保証なんてないんだから。じっくり、後悔をしないように生きればいいのよ」


「難しいことを言うね」


「誰もが直面する当たり前の物事よ」


「僕もそう胸を張って言える時が来るといいのに」


「来るでしょ」


「本当に?」


「本当」


「なら、その理由を見つける為に頑張ろうか」


「そうそう、その調子」


「煽てたの?」


「たまには必要でしょう?」


「やっぱオーリと一生付き合っていくのは難しそうだ(ボソッ)」


「何か言った?」


「なんだもないよ」


 そう言って僕は木の幹に再び凭れて目を瞑る。心の痞えが取れたので、久しぶりに安眠を成就できそうだった。



_____________________________________



 #side ナタイ


 時はシシリアとアバディが『サタナス・ゴニビオ』と研究所らしきところで戦っていた頃、パーゴジウム王国の首都パデルリアの正門在留の衛兵が在留所の屋内にて二人で話し合っていた。


「ここ最近雪が弱くなってきたよな」


「そうだな、そろそろ吹雪の季節も終わりだな」


「そうなると嬉しいな」


「あぁ」


 一ヶ月間雪が降る季節は家に帰れる数はとても少ない。理由はいつでも緊急時に人員を交代できるようになのだが、その為にこの季節は借家に住むことになる。故に、家族のいる多くの衛兵はこの季節、心配事を胸に抱えながら職務を行わなければならないため雪が早く止まないかと常に気を張っている。だからだろう、空を見上げることが多いい為、何よりもことの事態を最初から最後から見ることができたのだ。


 雪が弱まったと言っても結局のところ離れた場所は微かに輪郭を見える程度である。けれど、それは彼らの目にはっきりと見たのだ。そう、地上から濃密な魔素で放たれた輝く魔法が雪雲を消し飛ばす光景を。魔法の軌道の関係上消し飛んだ部分の形は楕円形であり、そこだけ星空が覗いているのを見れば、そこは隔絶した空間がごとくであった。


「見たか?」


「あぁ、見たぞ」


「あれがなんだかわかるか?」


「魔法だろ」


「じゃあ、どこの誰が使った魔法かわかるか?」


「一般人じゃないことは確かだろ」


「報告どうする」


「いや、事実を言うだけしかないだろ」


「「はぁ〜」」


 二人は揃ってため息を吐く。一体どんな報告をすればいいのか皆目見当がつかないが、魔法で雲が消え去ったぐらいのことしか言うことがない。そう思いながら、通信魔道具を取り出す。


 ーーそして、その通信魔道具が作動することはなく地に落ち、二人の衛兵は首を刎ねられ頭が雪上に転がり、首元から大量の血を吹き出し、雪を赤色に染めて体が倒れた。


 厄災が音を立てずに、首都パデルリアを陥落させんとしていた。



 = = = = = =



 まだ夜も更けており、さらには雪が降っている。そんな中、都市の外壁が崩された。外壁の岩が飛び散り、家々に落ちてくる。そして、家が潰れた。10棟もの家々が全壊し、それを超えるほどの家々が半壊をした。小石がパラパラと飛び、土煙が舞う。その中を堂々と歩く外壁の一部を簡単に崩壊させた化け物ーー『サタナス・ゴニビオ』が歩く。その体はアバディとシシリアが対面したものよりも遥かに大きい巨体を誇っており、何より先に挙げた『サタナス・ゴニビオ』と明らかに姿が違う。太く短い足、とても大きい巨体は象に似ており、顔は河馬かばのようになっている。何より特徴的なのは、下半身の馬に似た尻尾だ。けれど、その毛と思わしきもの一本一本から火の粉が舞っている。まさに異形と呼ぶに相応しい存在だ。


 それが雪の降る首都内を堂々と、家々を踏み潰しながら歩いている。衛兵が駆けつけて、足止めをしようと剣を『サタナス・ゴニビオ』の足に刺すが、傷一つ付けることなく吹き飛ばされ、踏み付けられ、倒れていく。『サタナス・ゴニビオ』は眼中にないとでも言いたいように悠々と足取りを止めることがない。


 ピキッと音がする。その音で、誰もが止めることができずにいる『サタナス・ゴニビオ』の歩みをいとも簡単に止めた。それは氷だった。『サタナス・ゴニビオ』の足を氷漬けにし、身動きを取らせないようにしたのだ。そして、その水と氷の合成魔法を放った者が現れた。海人種の”水”勇者であるアナティコ・ハーテッドだ。


「醜いな」


 周りの衛兵が、彼が来たことで、避難誘導をしている。彼はそれを横目にし、気合いを入れる。目指すは完勝、欲を言えば被害を最小限に抑えてだ。


 氷が『サタナス・ゴニビオ』の足だけではなく、体にまで這い上がっていく。『サタナス・ゴニビオ』は体を動かし抵抗をしようとするもその甲斐なく、遂には氷で封じ込められた。そして、アナティコが気を緩め、周りに気を向けようした瞬間ーー氷がはじけた。


 紫色の濃密な魔素が立ち昇り、その魔素はアナティコにまで届く。『サタナス・ゴニビオ』との戦いは、未だ始まったばかりであった。


どうしても割り込めなかった設定 2


魔法理論 Ⅱ


1. 魔素は魔殻に情報を刻まれ魔法を発動することで、分離する。魔殻の原子を変質させていたエネルギーが魔核のエネルギーへ、魔核のエネルギーが魔殻のエネルギーへとなり、魔法を使った後の魔素はこの世界の法則に従い、均等なエネルギー量を持つ魔核、魔殻になる。


2. この時、余ったエネルギーは原子などに吸収される。原子一つあたりにつきどれほどの量の魔素エネルギーを取り込むことができるかで原子の魔素エネルギーの吸収率は変動する。そして、この魔素を吸収しやすい原子は特別な物質としてよく使われる。


 次話は3月7日(予定)です。

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