第1章 3話
誤字報告お願いします。
出来るだけ直します。
今日は赤飯を炊いていいと思う。
なぜかって?
それは遂に、俺ことフォーティは掴まり立ちを成し遂げたからだ。ベビーベッドの柵に掴まってだが。なので、もちろん魔素は一切使っていない。使ったら少しの間立つことはできるがすぐバランスを崩す。あの顔面から倒れた光景を思い出すとおいそれと同じことをする気は起きない。なので、多くの赤子が通過する普通の段階を踏んで最終的に魔素を使わず立つことを目標にした試みをすることにした。
けれどこの掴まり立ちも成功したのは1回目だからだろう、そんな長い間立ってはいられない。疲れたのでしゃがんで座る。そのまま転がりベビーベッドの布団の心地よさを堪能する。このままでは寝てしまいそうなので一回考えをまとめる。
まず、俺はこのベビーベッドから外に行きたいと思う。理由はそちらの方が楽しそうだからだ。えっ、傍迷惑?知りませんわ。今の俺の気分をいうとだ、まるで牢獄の囚人だ。ベビーベッドの柵がそう思わせる。
そう、束縛されているのだ。赤ん坊だから当たり前だが……。だが自由を奪われたり、閉じ込められたら出たくなるのが人の性。俺はこの牢獄(笑)から真剣に脱走することを決意したのだった。その為なら俺は手段を選ばない、たとえ悪魔にでも魂を売るだろう。
ベビーベッドという名の牢獄から脱走することを決意した次の日、俺は掴まり立ちをしていた。まずは物に掴まったりせずとも歩けるようになる、これができなければ何も始まらない。
俺は脱走計画を着々と頭の中で練りながら、体力をつけるために努力をした。今の赤子に毛が生えた程度の体力ではダメなのだ。俺は普通に外を歩くくらいの体力がつくまではひたすら反復練習だ。あぁ、詰まらない〜。もう今日は寝るわ。掴まり立ちをやめベビーベッドの布団に倒れこむ。お休み〜。
= = = = = =
数日後……成果は思わしくない。だが、掴まり立ちにも安定感が出来た。魔素を使えば少しだけだが捕まることなく歩くことができる。
そんな風に体力をつける努力をしていたら姉(小)が来た。名前はシャーメイル、愛称はシャーメ。けど俺は最近は簡単な言葉なら発音できるようになったのだ。なので、親しみを込めてシャー姉と呼んでいる。
「わぁ、掴まり立ちしているのねフォーティ。楽しい?」
「うん。僕、楽しいよ」
最近、思考が周りに取り繕っている口調の方に引っ張られている気がする。いつか思考内の一人称さえ「俺」から「僕」になっているんじゃにだろうか、まぁ別に一人称が変わるくらいいんだけど。
顔と口調があってないないことにならなければいいんだけど。目標はがっちりとした体つきなのだ。だが、考えても仕方がない。
この話題は放置することにして、我が姉シャー姉を紹介しよう。髪は肩にかかるぐらいの長さでなのでミディアムでウェーブがかっている、髪色は母親と同じ少し白っぽい金色ーー淡黄檗で、顔の彫りは前世の西洋人のように深く、瞳の色も髪の色と同じ淡黄檗。美少女といえるだろう。3歳(地球だと4歳半を少し超えたぐらい)で背の高さは1mを少し超えるほどで歳にふさわしい体型をしている。服はザ・お嬢様っていう感じの服。えっ、解らないって? 白で統一されたレースのあるドレスでくるぶしにはかからないほどの長さ。というか、我が姉(大)ことハーネイルも同じようなの着ていたと思う。というか全部のドレスがどう違うのか判らない。見たら確かに違うのだが、説明しろと言われると、
ーー⁇⁇⁇ーー
ご覧の通りとなる。最近の流行か何かだろうから判っていた方がいいのかもしれないが、俺はそういうことに詳しくない。赤子にそうハイスペックなことを求めるな。
「なにかしたいことはある」
「う〜ん。べつに〜」
「そ、そう」
「そうなの」
どうやら暇つぶしに来たみたいだ。それとも外面は可愛い弟を見るためかな? そうそう、自慢じゃないが俺はそれなりの美少年といっても差し支えない顔をしているのだ。現在1歳(地球では1歳半ぐらい)で顔の造形も整ってきたからだろう。この世界は地球よりも人間の成長速度が速いと思うかもしれない。けれど、よく考えて欲しい。この星は昼と夜で日が変わるとカウントされるほど星が大きい。一年は716廻、1432日。前世風に分けると1日は10時間、1時間は200分で、さらに1分は100秒。単位は違うが当てはめるならこうなるだろう。1秒が前世より遅い気がしなくもないが。なのでこのユラマ星の人の成長速度は遅いといってもいい。これは多分、魔素の影響だろう。というか今の俺の知識ではこれくらいしか考えられない。だからなのか成人年齢は10歳と低いように感じるが、地球だと大体15歳程度の成長具合だろう。
「あ、けどあった」
「なに?」
「シャー姉の話が聞きたい」
「また〜?」
「うん」
最近シャー姉が来る度に話をせがむ。最初は母とかターニャとかに聞いた童話だとか宗教の話だったんだけど、ネタが尽きたらしく今では愚痴となっているが……。
「判った。じゃあ話すね」
「うん、話して」
「今日ね、朝起きてご飯を食べた後、習い事があったんだけど先生の言っていることが詰まんなくて窓の外を見ていたら先生が言ったのよ『貴方は良い淑女になれなさそうですね』ってね。だから私は皮肉って言ってあげたの『先生の言う《良い淑女》というのは人に言われたことを忠実にこなすお人形か機械か何かですか?』っていうふうに。そうしたら『言われたことを最低限できない人のことではありませんよ』と返答してきたの。そうしたらなんか火がついちゃって『先生。最低限できないのとやらないは違いますよ。私はこの時間に意義を感じないからやらないんです』って言っちゃたのよ。そうしたらこう返ってきたの『できるならやってください』って。だから『私にこれを勉強するだけの意義を教えてください』と言ったのよ。その時ねファイラが『フォーティに良いとこ見せたいなら勉強したほうがいいよ』って言われてそのまま丸め込まれっちゃったのよ。だからねファイラと話す時は細心の注意をしないといけないんだからね‼︎」
「なんで?」
と無難な質問をする。なぜかって?シャー姉の後ろにファイラ兄がいるからだよ。ファイラ兄のファイラは愛称で本名はファークイラ。背は一番早く産まれたのが関係しているのか高い。髪色は父と同じ熨斗目花色 (のしめはないろ)で、瞳の色は鉄紺。
「それはファイラが人の事を人とも思わぬ仕打ちをする極悪人だからよ。しかも絶対に証拠は残さない。たとえ残っていてもあの手この手で証拠を隠滅するのよ。暗殺者も政治家も真っ青な所業なのよ」
「面白い事を話しているね」
くっくっくっ、本当にそうですよね〜。俺はファイラ兄様に付いていきますよ、今回は。と、ニヤニヤしそうな頬を必死で引き締めて事の成り行きを見守る。
「おっ、おっ、お兄様。いつからここに?」
「それはフォーティが君に話をねだっているところからだよ。フォーティも気づいてはいたみたいだよ」
背後に黒いオーラを立ち昇らせながらニッコリ笑いながら話を続けるファイラ兄。
「話を続けたらどうだいシャーメ」
「はっ、話はまた今度したいと思いますわ」
「別に遠慮する必要なんてないよ、精一杯僕に対する愚痴を吐けばいいよ」
まるで猫に睨まれた鼠のように震えているシャー姉。可哀想に。こちらに視線を送り必死に助けを求めている。
「シャー姉」
パッとこちらを向き、救いの神でも見たような顔をするシャー姉に 嘘泣きをしながら一言。
「貴方の事は決して忘れないでしょう」
捨てられた子猫のような顔をする我が最愛の姉。だが俺も巻き添いは食らいたくないのだよ。さらば。貴方の未来に幸あらんことを。
翌日、何もなかったようにまた俺の部屋にシャー姉は来た。話をせがむと懲りもせず愚痴をこぼして。
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陽日、『ベビーベッド大脱出作戦』を決行する。この日のために魔素を使って空気中に足場を作る事という無謀な試みを成功させたのだから。魔素を実態化させる事は意外に簡単に出来た。問題は乗っても俺が動けるようになる事だ。だがこれは練習したが未だできない。多分だが足場を広くしているからだろう。そこで俺が足を置く場所にだけ魔素の足場を作り動くようにした。これにより劇的にこの作戦は現実味を帯びてきた。何度もの失敗や魔素切れと戦い成功に漕ぎ着けたのが一昨日、検証をして今日の確認をしていたのが昨日。斯くして俺は使用人及び家族が自分の部屋の中にいない事を魔素の感知も使って確認してから、魔素で足場を作って悠々とベビーベッドから出たのであった。
床に降り立つと近くの部屋の壁に近づいて、手を壁について転ばないように歩き始める事にした。一つ目の部屋の角、未だに自分のいる部屋から出ていない。そうして数十秒後、扉についた。運がいい事に少し空いていたので押すだけで開くだろう。ここで扉をドアノブを使って開けなければいけなかったとしても魔素の足場でどうにかなっただろうが。
そんな思考を振り払い、慎重に人がいない事を確認して開けようと思う。右、人影なし。ゆっくり部屋から顔を出して左を見る、人影なし。体を部屋から出す。床は灰色の石が切れ目なく続いていた。というかこれ石なのか? しかし、考察は止めておく。ここで止まっていたら見つかるかもしれない。なので右に進んでみた。最初の曲がり角の手前で止まり左右を確認する。なっ、右から人が。俺は急いで魔素で足場を作って天井に張り付くようにした。背中に魔素の足場を作り人がどこか行くまで待つ。人は緊急事態となると思わぬ力を発揮するものだ。今と同じ事がもっと前からできたら足の踏む場所だけ足場を使うなんてコントロールが難しい事をしなくて済んだだろうに。だが、この経験はいつか役に立つだろう。そう信じたい、切に。
数秒後、右通路からきた人はそのまま真っ直ぐどこかへ行った。ふぅ、と一息ついて床に降り立ち脱走を続ける。右に行くと階段があった。階段の折り返しをする広いところ、自分の目の前の壁の上には大きな窓がある。そして窓は外に出っ張っており、その出っ張りに花瓶が置いてある。ここだと思い、俺は魔素の足場を使って出っ張りの木の上で花瓶を倒さないように奥に寄せ寝転がった。
意外と木の地面は痛いが窓から降り注ぐ光が俺の心を癒し、痛みを忘れさせてくれた。
その後寝てしまったらしく、気づいたらベビーベッドの上にいた。起きた後、怒られると思ったが何も言われず、その日は過ぎた。もちろん晩御飯は食べた。昼御飯はって? そんなものないわ。一日2食それが当たり前ですが? そんなことを考えながら眠りについた。
そして次の日から常に誰かが俺のベビーベッドのある部屋にいるようなこととなった。聞いた話ではそろそろベビーベッドを使わなくていいのではとかなんとか両親は考えているらしい。
こうして俺の第一回『ベビーベッド大脱出作戦』は終わった。えっ、第二回目はって? もちろんやるに決まってるじゃないか。怒られるまでは辞める気なぞないさ。ニヤッ。
次話は第二回『ベビーベッド大脱出作戦』です(嘘です)。