第2章 17話
#side フォールティア
魔法、それは武技より覚えることが多く頭を使わなくてはいけない。なので、僕はもともと出来ていたからとイーザ先生はすっ飛ばしたところを今、授業でやっている。授業の題は『魔殻へ込める情報量と指定方向の関係性』だ。これはこれまで授業でやってきた属性の特徴などとは違う。これまでは魔法を発動した時の結果を教えていたのに対して、今やっているのは魔法を起こす過程と結果をやっている。
魔殻に情報を刻んで魔法を発動するということは初歩中の初歩だが、それを全ての魔素粒子一つ一つに均等に情報を刻むのはまた別の話だ。例えるなら物を押してただ動かすのと、力をあまり使わず効率よく物を動かすのは別の話ということだ。似て非なる物ということである。結果が同じでもそれに至る経過が違えばまた違う知識を覚え、使わなくてはいけない。
それに必要なのは、魔素を同じ情報量だけ魔殻に刻み、同じ方向に魔素を向ける。これだけで魔素を使う量を少なくしたまま同じ威力が出せるようになる。ようはどれだけ自分の魔素を自由に使用できるかということが試されるわけである。少しでも魔素の動きが自分の思ったものとずれると違った結果が生まれるかもしれない。ということがあり魔素の緻密な操作をできなければ三流程度の扱いをされる。
どうだっていいかもしれないがある一定以上この魔素を完全に自分の腕のように扱うことができるようになると魔人と呼ばれるものになる。もちろんその他に魔素と肉体の親和性が高くなることや、魔素に情報を込める量などが挙げられる。そしてこれは魔法であろうが武技であろうが魔素を使うのは変わらないため魔人に至るのに魔素の量も職業ーー魔法使いも剣士も関係ない。魔素を扱う人は魔人にはなれる可能性があるということだ。イーザ先生が凄かったのだと改めて納得する。さすがサケリウス帝国最強の魔導師の二つ名を持つだけある。
そんなことを考えていても授業は続いていく。場所は屋外、魔法の実技を行うときに使われる場所だ。そこに中等実技科の1組は集まっていた。説明をしているのは魔法理論 Ⅰ の授業を担当している教師だ。
「……ゆえに魔素を自由に扱うことはとても難しいことです。私たちは自分の体さえも完全に扱えている人はほんの限られた人だけです。そして、それが魔素となるとそもそも自分の意思で動かすことすらできない人まで少数います。だからこそ……」
長い、この先生は本題に入るまでどれほど時間をかけるつもりなのだろうか。早く魔素を自由に扱うためのいい方法とやらをご教授頂きたいものだ。
そして1分ほどのち
「それでは、魔素の扱いについて板書されていることをよく見ておいてください」
授業で前世の黒板代わりに使われるのはいわゆる液晶画面のようなものだというのはどの座学の授業の時も変わらない。そして今そこに魔素を扱う上で、よく使われるイメージが映されている。
「魔素というのは水のような粒子です。水のような形をとることもあれば空中に粒子として浮いていることもあり、固体となることもあります。そして、私たちがその魔素をうまく動かすには水を一定の方向に流すようなイメージを持つのが一般的です。固体、液体、気体。これほど幾つもの状態に変わりやすいのです。もちろんその他の物質も固体、液体、気体の状態は存在するのがほとんどですが普段はどれか一つの状態しか見ることはありません。一番身近に感じるために水をイメージすることが多くなったのでしょう」
今の説明を聞いた限り、体内にある魔素を水と例えて操作をするという方法が主流ということらしい。僕の場合は何も考えずにやっていたが皆はここで努力しないといけないらしい。とはいえ僕もこれ以上の魔素の扱いをできるようになるため練習をすることにした。
「魔素に同じ量の情報を込められるということは、魔素の動きがバラバラにならないということです。簡単に言えば、魔素に込める情報の量で魔法が発動する早さは変わります。情報量が多ければ多いいほど遅くなりますが、逆に発動した後の魔法の威力は格段に上がります。これを自由にコントロールできるようになって初めて一人前と言われます。それでは今からは目の前にある的にひたすら魔法を打って反復練習を行なってください」
これまで魔法を使うとき一つの魔素の魔殻にどれだけの情報を込められるかをやっていた。その情報を全ての魔素に同じ量だけ魔素を込める。普段使う魔素の3分の1ほどの魔素で魔法を放つ。それだけで普段の魔法の威力より上回った。
「これは使える」
そう独り言を呟き、より一層の魔素の節約、威力上昇を目指すために頑張ることにした。
これで、魔素切れの心配が減ったと思いながら。
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#side ナタイ
その前身の皮膚を剥ぎ、筋肉だけの存在。もう少し詳しく書くなら、どこかの某最終戦争で世界を灰塵と化した某巨大人口生命体の手足を捥ぎ、丸くしたような存在ーー『サタナス・ゴニビオ』の放った魔法は”光”属性の魔法に”魔王の属性”とも言われる”破”属性を付与させた、まさに破壊に特化したものだった。しかし、それも当たればの話である。魔法に限らず、どんな攻撃でも対象に当たらなければ意味がない。爆風などの2次被害も当たらなければ意味がない。そう、それをアバディは行なった。視界をも埋め尽くすほどの破壊の魔法を、シシリアを含む自分たちの空間をねじ曲げることで逸らしたのだ。『サタナス・ゴニビオ』が放った魔法は力でのごり押しだ。魔殻に込める情報の量は統一されず、魔素の量で持って威力を出しているだけである。それに代わりアバディの魔法は量ではなく魔殻へ情報を同じ量だけ込め、統一された力で持って『サタナス・ゴニビオ』の魔法を逸らしたのだ。
これが、『サタナス・ゴニビオ』の全力の魔素の量で持って放たれた魔法であれば逸らすことすら出来なかっただろう。魔素の密度が高ければ高いほど威力は上がる。それをアバディは今、痛感されているだろう。なにせ、これがあともう少し魔素の密度が高かったらと顔を青くしているから。だが、そんなことは御構い無しに事態は動いていく。
ガガガガガガガガ
魔法が逸れたことで、白い半球型の岩のちょうどアバディとシシリアの後ろの方に衝突する。白い半球型の岩には魔法陣が刻まれており、魔法が触れれば妨害するようになっているようだが薄い岩に金槌を打ち込まれ続けているようなもので、遂には魔法陣の防御が効かなくなり岩が削れていく。
ビシビシビシビシ
さらに、岩が罅割れる。蜘蛛の巣のような網目状の罅が出来上がった。そして、崩壊。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ
罅割れた岩が崩れる。そして、その落ちてくる岩はアバディとシシリアの上にも降ってくる。幾つもの人の握りこぶしほどのものからあの肉塊ーー『サタナス・ゴニビオ』とは比べられないほどの大きさのものまで。
アバディがシシリアとともに『サタナス・ゴニビオ』の真上に短距離転移を行う。シシリアは懐から、自分の得手物のナイフを3本取り出し、魔法をナイフの刃に付与する。そして、そのナイフを『サタナス・ゴニビオ』に投げる。すると、『サタナス・ゴニビオ』のナイフの刃に触れた三つの部分が赤い色を失い灰色へと変わり、それと並行し張りのあった筋肉が萎んでいき、最後には消失した。
シシリアが自分のナイフに付与した魔法は”時”属性の経過短縮の魔法。あらゆる時間を加速させる。この魔法によってナイフの刃が魔法の影響を受けなかったのはナイフ自体が高い魔力抵抗を受けているからだ。なので、そのナイフは魔素の影響を受けない。そのナイフを作った本人の魔素以外は。
『サタナス・ゴニビオ』の体の一部を消滅させたナイフは行き場を失い、重力に従い池に落ちていく。しかし、その時ナイフはまるで転移をしたかのようにシシリアの目の前に戻っていた。”時間交換”、過去にあった物の位置が現在と変わり動いたのを、現在どこかにその物だけの時間を過去に戻す魔法。魔素の消費はものの大きさ、戻す時間の長さ、魔力抵抗に比例する。しかし、ナイフはシシリアが自ら手掛けて作ったため、ナイフの特性である作った本人には魔力抵抗を起こさないということから実質魔素の消費は大きさと戻す時間の長さだけである。
上々の結果だと思うがシシリアは不満な様子であり、アバディも渋い顔をしている。
「もっと効果があると思ったのですが」
「……想像以上に魔力抵抗が高いな」
「これではアバディの魔法は効かないと思ったほうがいいですね」
「直接的な効果は得られないな」
「あそこの岩を頭上に出現させて押し潰すというのは?」
「試してみるか?」
二人は、先ほど転移した場所から一切動くことなく空中で止まりながら話している。これはアバディの持つ”空”属性の初級魔法に分類される魔法、空間固定である。それをアバディが二人の足元だけに空間そのものを固定し足場を作っているのだ。これは結界にも使われる魔法だが空中に留まるだけなら簡単にできる。なにより初級魔法は魔素の減りが少ない。見えない階段を作って走る、などということをしなければ魔素の減りは微々たるものだ。
「それより、こんな状況で大丈夫なんですか?」
「大丈夫……ではないな」
「……まじですか?」
「あぁ、ここから特別捜査室に直接、長距離転移を行なおうとしたんだがここの場所の魔法陣か何かが関係してるんだろうが、完全に妨害されてる。まったく、あの肉の塊といい、よく解らない研究者といい、一体ここはどこなんだ?」
「赤の谷ですけど」
「はぁ〜。しょうがない、まずはあれをどうにかするか」
そういうとアバディは削れて魔法陣が刻まれていない巨大な岩を見つけ出し、『サタナス・ゴニビオ』の上にーー二人の真下に転移をさせた。巨大な岩が『サタナス・ゴニビオ』に迫る。それを『サタナス・ゴニビオ』は真っ向から受けて立つようだ。『サタナス・ゴニビオ』の体の上からまるで腕のようなものが突き出した。それはあっという間に巨大化し、その大きさに見合うまでに巨大化した腕となった。
ガン
巨大な岩と腕が衝突する。結果は岩が砕け散り、腕には傷一つない。土煙が立ち昇り、アバディとシシリアの二人のところまで小石が飛び散る。
「……なんだ、あの理不尽の塊は」
「肉の塊では?」
「ハハハ、シシリアも冗談を言えるうちは大丈夫だ」
「大丈夫?」
「まだ怪我一つしてないだろう?」
「そうですね、まだしてませんね」
キィィィィィィイイイインンンン
鼓膜を直接揺さぶられるような激しい音を出し始めているのは『サタナス・ゴニビオ』だ。腕を体に戻しながら口を上空にいる二人に向ける。その口には人ではあり得ないほどの魔素が収束している。先程の”光”属性に”破”属性を付与した魔法がまるで挨拶ぐらいのものだったと言わんばかりだ。そして、今度の魔法は”破”属性だけで放つ魔法だ。紫色の怪しい光りが『サタナス・ゴニビオ』の口元に灯る。その光りは次第に大きく、色合いは濃密になっていく。そうして、その力は全てを飲み込まんと放たれた。
短距離転移で『サタナス・ゴニビオ』の後ろに移動する。『サタナス・ゴニビオ』によって放たれた魔法は岩場を穿ち、地上まで吹き抜けの穴を作った。空は雪雲で覆われていたであろうが今やその影も形もなく、夜空が広がっている。星々とオーロラの光りは幻想的であり、岩の光りがなければ星々とオーロラの光りはもっとはっきりと視認できただろう。だが、それよりも驚くべきは地中と地上との距離だ。普通に歩けば優に半時間を使うであろうほどの長さ。その穴を穿った『サタナス・ゴニビオ』という存在を畏怖しないほうがおかしいであろう。
「おいおい、あれはなんだ?」
「……魔王の因子を持つ化け物でしょう?」
「化け物?もっと悪質なものだろ。あんなのさっさと片付けさしてほしいな」
「向こうにその気はないみたいですけど」
身体中に魔素を張り巡らせ、身体強化をしている『サタナス・ゴニビオ』はもうこちらには興味がないとばかりに今自分で開けた穴を歩いていく。そして地上に到着するまでの時間わずか3秒。
「って逃げるのかよ‼︎」
「どちらかというと破壊を撒き散らしに行ったと言うべきでは?」
「いいや、こっちを倒すのが難しいと思って敵前逃亡をしたに違いない」
「現実逃避をしても現実は変わりありませんよ?」
「冗談を言っただけだ」
「はぁ〜」
「行くぞ。王都にあれが向かうなら足止めぐらいはしないとな」
「そうですね」
そうして彼・彼女は『サタナス・ゴニビオ』を追って行った。
次話は2月26日(予定)です。




