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ユリカ界  作者: 碾貽 恆晟
第1部 2つの勇者の物語
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第2章 14話





 #side フォールティア


 そして、一週間が過ぎ、その間色々ある、訳もなく。変化のない一日を過ごしていた。強いて言うなれば、オーリがもっと皇族貴族と積極的に仲良くするようにだとか、ビュバルとワーワーギャーギャーと騒いだりとか、魔法理論の授業中に寝ているとき、これでもかと執拗に問題を出されてそれらを全部正解で解くことを繰り返すうち放置されるようになったり、今住んでいる教会の離れの構造を理解し、秘密の通路を発見したり、ということぐらいだ。そう、なので特にないという言葉に偽りはない。そう自信を持って言える。


 ただ、一つ言及するとすれば、離れの秘密の通路、というか扉はまだ入っていない。何かあるのだろうが、僕には関係ないと思い無視をすることにした。決して臆した訳ではない。はい、ここ重要。


 そして、学園になれ始め、ようやく皇族のシャーチル殿下と話す機会ができた。終始、一歩引いたところに行こうとしていたけど……。今も。


 前回は噛みっ噛みでまともなことを一切出来なかったシャーチル殿下だが、今回は噛むことなく話してくれる。一体何がいけなかったのだろう。それが唯一の謎だが放っておくことにした。なにか、触れてはいけないものに触れた気がしたので。気のせいかもしれないが……。


「聞きたいことがあるのですが」


 今は、取り巻きがいないからか、シャーチル殿下はどこか心細そうに目を色々な方向へ向けており、沈黙に耐えかねたからだろう。話を切り出してくる。しかも、なぜか毎回遜ったような物言いをしてくる。大丈夫か第三皇子と思うのは僕だけだろうか? それはさておき質問に答えるべきだと思い口を開く。


「なに?」


 ちなみに取り巻きの人たちは学校の委員会に出席しており、一人になる殿下のお相手がいないかという話に実技の時間になり、暇なので立候補をしたのだ。


「…巷でよく聴くあなたの噂はどれくらい本当なのですか?」


 チマタデヨクキクアナタノウワサって何ですか? と思ってしまったのを責める人はいないはずだ。というか、逆にどんな噂が流れているかこちらが知りたいぐらいなのですが。なので、探りを入れるためにも質問をする。


「噂?」


「はい。サケリウス帝国最強の魔導師と鬼剣に修行をつけてもらったとか、魔王幹部級の魔物を倒したとか、色々です」


「今いった中には嘘はなかったけど」


「そうなんですか」


「僕がどういうふうに言われているか知らないけど、それ以外のことは大抵デマだと思っていいよ」


「1〜2歳頃から魔技を使っていたというのは?」


「……」


「その沈黙はなんですか?」


「言うようになったね」


「不快でしたか?」


「いや、だけどビュバルと話している気分になるね」


「……それは心外ですね」


「いや、自覚がなかった方が心外だよ」


「それは心外の意味が違うと思うのですが」


「いや、両方とも同じ漢字だよ?」


「意味合いは違いますよね」


「それは認める」


「それで、話を戻しますけど、1〜2歳頃から魔技を使っていたというのは本当なんですか?」


「それは事実らしい」


「らしい?」


「君は1〜2歳頃の体験を覚えてるのかい?」


 いや、転生してるからもちろん覚えてるよ? けど、僕は自分がそのころの記憶がないとは明言していないから大丈夫だ。そう信じたい。


「確かに、それはそうですね」


 どことなく納得したようなのでここで追い討ちをと思い言葉を出す。


「(覚えてなくて当たり前)そうだろ?」


「勇者なら覚えても不思議はありませんね」


「違う〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜‼︎‼︎‼︎‼︎」


「えっ、違うんですか?」


「どこをどう聞いたらその結論に落ち着くのかこちらが聞きたいです‼︎」


「勇者っていうのは神の加護を得ている数少ない存在。それに、後天的ではなく先天的に加護を得ていたのですから、別におかしくはないと思ったからですが?」


「その理論はおかしいと思うけど?」


「どこらへんがですか?」


「……どこがだろうね」


「ではやはり正しいということですか?」


「いや」、僕は(前世の)1〜2歳のころの記憶はないよ」


「……そうですか」


 どこか、期待を裏切られたような顔をして彼はこちらを見てくる。そんなことを言ったって事実は変わらない。


「帰って来るの遅いね」


 取り巻き達が遅いので言葉がこぼれる。


「みんな自分の役割を頑張ってるんですよ」


 言ってる言葉の割に、悲しそうな顔をしている殿下。だからだろうか、つい言葉を投げかけてしまった。


「そういう貴方はどうなんですか?」


「私……ですか?」


「なにかしたいことがあるんですか?」


「私は、なにかやろうと思う前に皆が先回りをして片付けたり、引き受けてくれますから」


 どこか達観したような目をする彼。


「僕は逆ですけどね」


「逆ですか?」


「問題が次々やってくるし、押し付けられる。不幸な役回りです」


「そうですか? 皆に頼られているということでは?」


「そうですね、だから本当にやりたくないことだったら断ります。そのために普段はそんな役割をあえて受け入れているのですよ」


「それは、それでいやですね」


「そうでしょう。一つ、知り合いとして言うとしたら。本当にしたいことができたら率先して行なった方がいいですよ。自分しかできないことだと思ったときもですが……」


「そうですね。考えてみます」


 数日後、『やりたいことができました』と言われた。そうして僕と第三皇子の奇妙な人脈が築かれた。これでオーリも文句を言うまい。ふっふっふっ。



_____________________________________



 #side ナタイ


 銀世界が広がっている。視界を埋め尽くす雪、雪、雪。少し弱まったと思うと数分後にはすぐに、今の光景に変わる。そんな国の首都において、歩く人はほとんどおらず、家々の窓から光すら漏れないよう、厳重に戸締りというか隔離しているところが目立つ。それは、貴族の住む一角や平民街と違い、ここがスラム街ーー裕福ではないため、魔道具で家を防寒出来るような費用を持っていない人が大半を占めているからだろう。そして、その銀世界のスラム街の中を歩く二人組がいる。声からして男女の二人組、双方とも大きな声をあげているのは風の音で声が聞こえないからなのだろう。決して互いを罵り合っているわけではない……多分。そして、その会話内容といえば、10数秒前から見てもらおうーー


「雪の中仕事をするって乙ですね〜」


「お前の頭の中はおかしいのか?」


「おかしくはないと思いますけど」


「そうだった、得てして変人は自分のことを変人とは言わないのだった」


「馬鹿にしてますよね」


「なるほど、それがわかる程度には馬鹿ではなかったか」


「それはわかって言ってますよね」


「当たり前だ。お前を弄るのが俺の最近の日課なんだから」


「そんなものを日課にしないでください」


「そこにシシリア(おもちゃ)があると弄りたくなるんだ」


「もはや取り返しがつかないところまで染まっていましたか」


「対象が副隊長からお前に変わっただけだ」


「それでどのような反応をお望みで?」


「それでは泣き叫んで、哀願するんだな」


「何が悲しくて貴方に哀願なんてしなくてはいけないんですか」


「そうしたら俺のやる気が上がる」


「仕事をしているのは私なんですけど」


「そうだったな。何か欲しいのか?」


「そうですね。有給をくれると私の笑顔を見ることができますよ」


「お前の笑顔に価値があると思っていたのが意外だな」


「いい度胸ですね」


「早く仕事をしろ」


「思いっきり話を逸らしましたね」


「ここが行方不明者が多いい地域だ」


「……よく調べましたよね」


「それが俺らの仕事だからな」


 着いたのはスラム街でも特に建物が貧相なところであった。


「よく倒れていませんね。この一角街の家」


「そうだな、撤去するのも金がかかるからな、それをケチってるんだろ」


「身も蓋もない」


「そうだな。だがここから見つけないといけないわけだ。危険だとしてもだ」


「だいたい事件が起こっていたのって雪が降る前だったのに。なんで今動かないといけないの」


「それは、今だったら誰にも余計な詮索をされないからだろ」


「……本当ですか」


「それが唯一の利点だろ」


「そうですね」


 不機嫌そうにして女ーーシシリアは溜め息をつくが、その音は吹雪の音で男性ーーアバディには聞こえなかった。聞こえていたらどんな文句を垂らしていたのかは本人にしかわからない。


「それじゃあやりますよ」


「おぉ、ちゃんと周りには気を配っておくからしっかりと身を粉にして働け」


「はいはい」


「うむ、いい返事だ」


 返答するのにも疲れたのか、シシリアはその言葉を無視し、作業に入る。魔素を目に集め、魔殻に情報を込める。情報の量は多く、すべての魔素に均一に込める。そして、彼女の目が輝いた。使われたのは”過去視”、その場所の過去を見て、知ることのできる。破格の力。彼女は周りを探るようにして歩き出す、言葉を呟きながら。


「時間は一カ月ほど前、人攫いをしている。行方不明者が発見されたのは、たまたまスラム街付近に用があり、お忍びで身なりを変えていたため、犯人がスラム民と間違えて襲った可能性あり。”過去視”以外の方法でここまでたどり着くも、それ以上の情報は得られず。犯行の団体は不明、人数不明、容姿不明、種族不明、性別不明、年齢不明……」


 書類に書かれていたことを整理し、”過去視”で見える人と当てはめていこうとするも、結局のところ犯人につながる情報はないと言っていい。ようは”過去視”で犯人が実行した瞬間を当てられなければ見つけることは不可能。さながら、砂漠から一粒の砂を見つけるようなもの。救いがあるとすれば、砂粒は一粒ではなく100程あることか。


「……見つけました」


 シシリアが立ち止まり、アバディに言う。


「早いな」


「確認をしに行きます」


「ちゃんと見張ってるから安心しろ」


 そうして二人は犯人を追うために、再び銀世界を歩き出した。



次話は2月16日(予定)です。

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