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ユリカ界  作者: 碾貽 恆晟
第1部 2つの勇者の物語
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第2章 13話





 #side フォールティア


 あの討論が終わり授業が始まった。1時限目は共通言語 Ⅰ 、国の同志の会談や、国を跨いでの商業を行う時は必須なので僕は家庭教師のミナリーさんに習ったことを思い出す。共通語って言いやすくて分かりやすいし、書きやすい言葉なんだけど、言葉の種類というか数が阿呆みたいに多いんだよ。で、だいたいその言葉を覚えるっていうところで皆んな躓くんだよ。似たような意味を持った単語が10以上あるのは当たり前、ものによっては100を超えるっていうんだからその恐ろしさは言わずとわかるだろう。なので、最初は丁寧な言葉遣い以外は習わせないという方向で大抵は進んでいくんだけど……。この学園に入っているとうことは文法や尊敬語、謙譲語や丁寧語はできているていで授業が進んでいく。いわゆる言葉の裏という物を知るためによく使われる遠回しな言い方をこれでもかと紹介していく。これが一年間続くと思うと気が萎える。だが、その気持ちを同じくしているのは僕だけではないようだ。なぜわかるかというと、一番後ろで端にいる僕にはクラスの態度が両極端だというのがよく見えるからだ。真面目に取り組む人もいれば、机に突っ伏して寝ている人すらいる。……大丈夫なのだろうかと心配になるが、本人のやる気次第だ。そこには深く追求しない方向で行こう。


 2時限目はサケリウス国史 Ⅰ で、3時限目が世界史 Ⅰ だった。両方とも耳に胼胝ができるほど聞いた話だった。今はまだ簡単だが一ヶ月後、半年後は一体どうなっていることやら。多分だが『なんだこれ〜〜』となるに違いない。


 4時限目、数学。これはアホみたいに簡単だった。もちろんこれは前世での下地があったからこそ言える言葉だが、それでも一つぐらいは楽ができる教科があって僕は笑顔が止められない。


 5時限目、実技。


「言ったことは守ってもらうよ」


 ジャンネルに向かってそう言う。『僕は君と友達になりたいと思うから、手伝ってあげようか?』と言ったこと、忘れてはいないぞ。


「……あぁ、あのことか、よく覚えてるね」


「あぁ、毒を食らわば皿までだろ?」


「僕は禁忌を破った覚えはないのだけど」


「なら、みんなでやれば怖くない」


 なぜこうなっているかというと、男女で別れた上に班を決めることになっているからだ。その中で準備運動や試合をするのだ。一班につき6人から7人の人数わけをする。オーリに散々言われた帝族の男子は取り巻きを含め4人。これに僕ら二人が声をかければオーリの言ったことは達成できる。一石二鳥というやつだ。是が非でも、この機会を逃がしてなるものかと思いジャンネルと一緒に王族の取り巻きたちの方へ向かう。


「お前声かけてくれよ」


「なんでだよ」


「あそこにいる奴一人も名前を知らないんだよ」


「……それはどうかと思うよ」


「大丈夫だよ。今代の皇帝様の名前は覚えてるから」


「自慢にならないよ」


「当たり前だよ」


「わかってるならいいんだけど」


 ジャンネルが不審げな目でこちらを見てくる。言いたいことがあるならばはっきりと言えばいいものを。


「お久しぶりです。シャーチル殿下」


「久しぶりだな。要件は?」


 シャーチル殿下と呼ばれた男子は要件はわかっているようだが形式上聞いているような振る舞いをしている。


「私と彼を含めれば班の定員人数に達すると思って来ました」


「ふむ、そちらは?」


「勇者だそうです」


「……お前がか」


「ご紹介にあずかりました、フォールティア・ナータリウヌと申します」


「私も名乗ろう。シャーチル・ハーライル・サケリウスだ」


 取り巻きの人も名乗ってきたけど全然覚えられない。未来の自分に期待だ。


「よし、班ができたようだから準備運動の仕方を教えるぞ」


 実技の教師がそう言って、説明を始める。


「準備運動をするとき体内の魔素を常に放出せずに流動させるのがコツだ。これによって体の筋肉がほぐれ、怪我をしにくくなる」


 そうして授業は始まり特にこれといったことはなく終わった。



 = = = = = =



 王子とは何も話さなかったというか、こちらを避けられていたというかそんな感じだったので、僕のライフポイントは底をつきかけている。百歩譲って無視されるのはいいとしてなんで避けられるのだろう。そこはかとない不満を感じたことをライヒに話すと妙に納得したような顔をされた。げせぬ。



 = = = = = =



 #side シャーチル


 今日、話題の勇者に会った。話題と思った理由は言わずもがな、所構わずよく聞くからだ。庭で洗濯をする侍女たちが姦しく騒いでいたり、衛兵たちが面白半分に食事中に話していたり、文官たちが議論をしていたりだとか。それに、先日の定期会議でも協議の一つとして取り上げられたらしい。


 そして、その話題の当人といえば眠たそうな目で授業を受けていた。前の5時限目の実技では一睨みで誰もが逃げ出したくなるような雰囲気を放っていたのだが、6時限目の魔法理論 Ⅰ については聞く気がないのか前の時間の影も形もないときた。かくいう俺もここの範囲は家庭教師に習わされたので真面目に聞いていないのだが……。


 それでも、聞いている振りはしているのだ。これでも一応皇子だ。自分の立場に実感がなくてもこの看板は下ろしたくても下ろせそうにはない。なのに、勇者という立場でありながらだらけているような反応をしているのを見るとどこか頭にくるというかなんというか。今後の彼への対応を今のうちに考えよう、そう決意し思考に沈むことにした。




_____________________________________




 #side ナタイ


 特別捜査室にて、特別捜査衛兵のシシリアはジラルから渡された新しい仕事の内容に憤慨していた。


「私にこの事件をやってほしい?」


「そうだ」


「このアホみたいに人手がかかりそうなことを一人でやれと?」


「俺がいるだろ」


「貴方は今回役に立たないじゃないですか‼︎」


「そうだな、高みの見物をかましておくとしよう」


「……こっこっっこっこ」


「鳥の真似か?」


「この人でなし上司‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」


「人だぞ?」


「そうじゃない。そう言いたいんじゃない」


「何が言いたいんだ?」


「私に面倒ごとを押し込めたいだけでしょ‼︎」


「ほれ」


「なんですか」


「今の特別捜査衛兵の行なっている仕事とその捜査に当たっている人の名簿」


「私に見せていいんですか?」


「見たらわかる」


「……なんですかこれ」


「ここ一週間だな。問題が引っ切り無しにくるわ、副隊長が有給を取るわ、災難続きなんだよ。で、必然的にあまり裏方役が多いいお前まで仕事が回ってきたってわけだ。喜べ」


「なんでですか〜」


「これが社会というものだ。しかと心に刻み込め。ここでの理不尽は理不尽とならない」


「意味がわかりません」


「今はわからなくていい。どうせいつか悟る時が来る」


「悟るんですか⁉︎」


「そうだ、悟るんだ。そして、絶望するのだ」


「さ、さすがはただ長いこと生きているだけではないのか」


「今俺を馬鹿にしたな?」


「いえ、褒め讃えたのです」


「…そういうことにしておこう」


「寛大なお心に感謝いたします」


「やっぱ馬鹿にしたんだな」


「決してそのようなことは」


「白々しい口だな」


「お褒めいただき…」


「褒めてねぇ」


 それを横で聞いていた特別捜査衛兵所属1年の新米さんは思ったそうな。


 ーーこの人たち、話してるだけで全然捜査に行こうとしないなーー


 それを敏感に察知したのかどうかは甚だ疑問だがシシリアとジラルは捜査する内容について話し始めた。


「今回問題となってるのは行方不明の人が急増していることだ。自宅を持たない浮浪者が多いいということがわかっている」


「どれくらい減ったのか書いてないんですが」


「ここ一ヶ月で、ざっと100人ぐらいだろう」


「さすがにこれは不味いということですか?」


「そうだ、いつか貴族に飛び火しないかと上層部は懸念しているわけだ」


「保身ですか」


「理由はどうあれ俺たちの仕事は言われた仕事をするだけだ」


「良くない未来が待っていそうなんですが」


「どうした、未来視でもできるようになったか」


「いえ、そのような力がなくても予想できます」


「そうか、ではその予想は頭の傍へ追いやっておくんだな」


「いやですよ」


「どちらにしても、そろそろ行くぞ」


「調べにですか?」


「頼りにしてるぞ、その”過去視”」


「もっとやる気が出るような言葉を言ってください」


 そう言い合いながら彼らは外の大雪の中動きやすい服を着るために特別捜査室を出て行った。



次話は2月13日(予定)です。

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