第2章 12話
#side フォールティア
学園に着いてから、自分の教室に行くまで4つの建物を横切ることになる。それは敷地の大きさがバカでっかいからに他ならない。学園生活3日目にしてもう慣れてきた道を歩きながら今日の朝言われたことを思い出すーーーー
彼女が現れたのは食事をとった後、学園の制服を着終わり教会の離れから出ようとした時のことだった。彼女ーーオーリは僕と同じ学園の上級生、中等実技科の3年だ。なので僕と同じ(ズボンかスカートかという違いはあるが)制服を着ている。そして、彼女が開口一番目に言った言葉は、
「学園に行く理由を覚えてる?」
だった。
これを見れば、僕が今すぐ回れ右をして自室に引き籠ろうと決意したのを非難するものは誰もいまい。いや、誰もが手を叩き賛同し、『よくやった』と言ってくれると思う。なぜなら、こめかみをピクピクと痙攣させこちらを睨んでくる彼女はなにやら腹に据えかねた様子だ。だが、それを見ても僕が逃げ出さなかったのはひとえに『よく見るような表情だ』とくだらないことを思っていたからにすぎない。そして、逃げる機会を失い、前門の虎、後門の狼がいる状態。これは絶体絶命のピンチ。今日この日が、僕の命日となるだろう。と縁起でもないことをナレーションしながら現実逃避に勤しんでいるなか、声をかけられた。
「ちょっと、聞いているの?」
「はい、少し思い出していただけです」
「なら答えられるわよね」
「はい、皇族貴族とキャッハ、ウフフするのですね?」
「ふざけているの?」
師匠の絶対零度にも匹敵するほど温度が下がった気がする。その爛々と光る目はまるで一睨みで心の臓を止めんばかりだ。あぁ、くわばら、くわばら。彼者に幸せがあることを祈る。思っていても口には出さないが。
「いいえ、彼らと知り合っていい関係を築くのですよね」
「まぁ、そういうことね」
おぉ、合っていた。これで外れてたらどんな目にあうか解ったものではなかった。自分を褒め称えたいね。
「ごまかしてない?」
「そんなことはないよ」
目を逸らしながらそう答える。真実味の欠片もない。
「本当に?」
口笛を吹いてみる。
「何口笛吹いてるの」
「場を和ますために」
「オーリ様。流されてはいけません。話を逸らされていますよ」
ライヒの援護がここで入る。これは痛恨のカウンター。これは僕にも予想外‼︎
「はっ」
「やっと気づいたか」
しかし、僕にも矜恃というものがある。ここはいたって冷静なように振る舞う。
「な、騙したのね‼︎」
「僕は一度たりとも騙してなどいない。それに、もしも君が騙されたと思うならば、騙された方が悪い」
「よくも……」
ふっ、これで本題から離れたところに話を持っていけた。オーリ、なんと他愛もない。
「それで、その王族貴族と親交を深めるぐらいのことをしないといけないの?」
ライヒが何か言おうとしたので強引に話を戻す。危ない危ない。
「……はぁ。いえ、王族だけでいいわ。それ以外の貴族については仲良くなったらいい程度だし」
「そう、ならまだ大丈夫か」
「何が大丈夫なの?」
「昨日、同じクラスの貴族だと名乗る方が声をかけてきまして……。どうしようかと悩んでいたのですよ」
「なんでそんな改まった口調になってるの?」
「話を聞いてもらうときは誠意を見せないといけないと思ったので」
「そう、それを常に続けてくれたら嬉しいのだけど」
「それは、海水中にしか住めない魚に川に行けだの、陸地に上がれだの言っているようなものです」
「はぁ〜。わかっているならいいわよ」
あれ、僕のボケはスルーですか?
「それでは用事も済んだようなのでいきましょう」
そうライヒが言い、今に至る。
ーーーー思い出してみても、なんてことを言ってしまったのだろう。仲を深める? そんなことできるわけがない。絶対高飛車で天上天下・唯我独尊と言っていてもおかしくないような奴らだぞ(偏見)。
「はぁ〜〜〜〜〜〜〜」
「なんでそんな長い溜息を吐いてるの」
ビュバルが不思議そうな顔をして近づいてくる。そして、後ろにはジャンネルがいる。普通は男女反対の立ち位置ではと思ったのを心に押し止め口を開く。
「面倒なことをオーリに押し付けられたんだよ」
別に秘密でもなんでもないので吐露する。まぁ、昨日あれだけ言い合いをしたからまともに取り扱われるかは知ったものではないが。
「ふ〜ん。大変そうね」
「僕はそれよりオーリって言う人の方が気になるんだけど」
そっけなく対応するビュバルと、質問をしてくるジャンネル。
「あぁ、オーリの本名はオラリエムイって言うんだけど」
「それって聖女のこと?」
「……そうだけど?」
「なんで君は聖女と愛称で呼べる間柄なのか小一時間ほど問い詰めたいんだけど」
「それなら一言で済むから小一時間もいらないぞ」
「それは是非聞いてみたいわね」
なぜかビュバルまでも話に乗ってきた。まぁ、どうだっていいので答える。
「それは、僕がオーリと知り合いだからだよ」
「どんな知り合いなのかを聞きたいんだよ」
「それは……仕事仲間? 同僚?」
「なんで疑問系なの」
「いや、今一しっくりくるものがなくて」
「フイ、それよりも同僚という言葉の方に注目すべきよ。本当に同僚ってなによ同僚って」
「あっ」
「なに」
「僕らの上級生」
「それは知ってるわよ‼︎」
「なら、僕が勇者の加護持ちってのは?」
「「はっ?」」
「だから僕は勇者の加護持ちだから。同僚っていうのが一番近いと思うんだけど」
「……貴方が例の勇者?」
「例の、っていうのが気になるけど多分そうだと思うけど」
「……人は見かけによらないね〜」
「どういうことだ」
「いや、もっと高貴な感じを思い浮かべていたんだけど」
「フイ、ナータリウヌ家なんだから高貴じゃないの?」
「それもそうか」
なぜか悪口を言われている気がしなくもないが気のせいだと思うことにした。というか二人の世界に入ってるし。
「それより、面倒なことってなによ」
「この国の王族とか貴族とかに人脈を作っておけっていう話。しなくてもいいだろうに」
「それは重要だと思うんだけど」
「いやいや、僕には一欠片もそうは思えないんだよ」
「大丈夫か、この勇者」
「大丈夫じゃない」
「本人が言うな」
「本音を言っただけだ」
「もっとダメだろ」
「僕が許す」
「というか、私たちと知り合ってるんだから人脈作ったってことにならないの?」
「そうか‼︎ そういえばオーリもこれ以上追求はしない‼︎」
「あとは王族だね」
「…………」
「そこにいるよ?」
「僕には対人恐怖症というのがございまして」
「昨日、私を散々罵ったわよね」
「それは僕の正義に基づく正当なる行為ですから」
「それじゃあ、王族と人脈を広げるのも正当なる行為ですね」
「嘘だ‼︎」
「本当だよ」
「本当ですのよ」
「なぜみんなそろって外堀を埋めていく‼︎」
「昨日の仕返し」
「オラリエムイ様に怒られていいならしなくていいのでは?」
「くそ〜。僕に味方はいないのか‼︎」
「いないわね」
「僕は君と友達になりたいと思うから、手伝ってあげようか?」
「これが悪魔の囁き……」
鳥肌が立ったぞ。
「僕は悪魔じゃないんだけど」
「どの悪魔も『自分は悪魔じゃない』とか言ってるんだよ」
「偏見ね」
「偏見だね」
「だ・ま・れ。僕が黒だと言ったら黒なんだよ」
「暴論」
「最低」
「ふっ、なんとでも言うがいい。それでも僕の心は変わらない」
「取り返しようのない馬鹿だったんだ」
「おい、馬鹿いうな」
「そろそろホームルームが始まるよ」
「そうね」
「おい、無視をするな。僕は馬鹿じゃない。馬鹿だったらそもそもこのクラスに入れるわけないだろ。って待てよ」
担任教師が来たのでこの話は有耶無耶になった。決して僕が馬鹿ではないことをいつか証明してやる。そう心に誓った。
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#side ナタイ
「話があるわ」
そうヴァセリシャは話を切り出してくる。それを言われたのはナタイ。少し困惑した表情を見せるも話の続きを促す。
「昨日言ってた魂耗について暇だったから聞いたり調べたりしてみたの」
空は相変わらずの雪。吹雪ではなく雪。久しぶりに外一面銀世界ではなく、外の風景が見えなくもない程度だがすこしは見通せる。この天気なので暇なのだろう。ちなみにナタイも特にすることもなく今日を過ごしていた。いや、外がすこし見通せたので、窓の外を見ているようだったが。
ともあれ、彼らは概ね暇だったというのが変わるわけではない。そして、ヴァセリシャがナタイの自室に来るという日課になり、冒頭の会話になったという経緯である。
「それでね、調べたんだけど結局それらしい文献は一つぐらいしかなかったわ。もちろん教会の書庫を引っ繰り返して調べたわけじゃないから断定はできないけど」
「それで」
「魂耗っていうのは魂が消耗をしている時に使われる状態のことらしいわ。特に害があるとかそういったことは確認されていないみたい」
「なら大丈夫」
「だけど、油断は禁物よ。何が起こるかわからないからちゃんと毎日魂観を確認すること」
「わかった」
そうして、毎朝の日課に魂観を見るということが追加された。特に問題が起きなければいいんだけど。そう一抹の不安を覚えたが。それは知らないふりをすることにした。
次話は2月10日(予定)です。




