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ユリカ界  作者: 碾貽 恆晟
第1部 2つの勇者の物語
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第2章 11話





 #side フォールティア


 学園・学校、名はどうあれ本質は同じだ。同年代の子供が幾人も蔓延る巣窟。そこにはただ無垢なるものもいれば、善人も、悪人もいる。けれど、そこに隔たりはなく、いついかなる時も相手への風潮は変わり、更新されていく。何かが正しいということではない。けれど、相手を善人か悪人かを知る上では大事な知識。ゆえにその風潮を皆は気にし、本来の自分を曝け出すなどということはせず、殻に閉じこもる。何が言いたいのかというと、それを無視して自分の無気力さを曝け出すような奴がいたらそいつは目立つ。多くの人に蔑みを思わせる視線で見られ馬鹿にされる。誰のことかわかっただろうか? もちろん僕だ。


 なんでか知らないが、初日からして誰も声を掛けてきやしない。時折チラチラと見られているのはわかるが、それだけだ。この学園に入る前から知り合いの人がいる奴らはもうまとまっているし、僕の席の周りだけポッカリ空いているのを見ると、皆が口裏合わせて見せしめの為にでも行なったのかと邪推してしまう。まぁ、これも初日だけだろう。………いや、このままずっとこのような感じが続くのかもしれないがそれはその時。今の僕が考えることではない。ないったらない。


「貴方、ナータリウヌ家の次男なんでしょう?」


「……そうだけど?」


「私はシャルリシーノ・ビュバル。私の隣にいるのがフイミラージュ・ジャンネル」


「それで、何の用ですか……ヒュバルさん?」


「ビュバルです‼︎」


「まぁ、それは置いておいて」


「ちゃんと覚えてください」


「昨日の自己紹介もまともに聞いてなかったからな〜」


「はい?」


「そ、それはいけないと思うんですが」


 ビュバルだけではなくジャンネルとやらも僕の人格否定をしてきた。特に何かしなくてはいけない時でもないのに行動を起こすのは良くない。疲れるだけだ。果報は寝て待て、いい言葉だ。まさに僕の為にあるようだ。


「大丈夫だよ。昨日の自己紹介で名前を覚えた人が一人でもいる人ですら珍しいと思うから」


「それはそうかもしれませんが」


「なので大丈夫。何も心配はいらない」


「そうですか?」


「そうそう」


「言い包められてるわよ」


「そ、そうなの⁉︎」


「そうよ、こいつ心の中で貴方のことを嘲笑しているに違いないわ」


「な、なんて酷い人」


「おい、そいつの虚言にこそ言い包められているぞ」


 ここはこちらの無実を証明しなければ。僕は決して嘲笑などしておらず、面白がっていただけだというのに。


「私のこと信じるわよね?」


「う〜ん」


 おっ、これは彼がいつも彼女の言動によって苦労していることが伺える。こちらがもう一押ししたら僕の無実は証明される‼︎


「いつもそう言われて苦渋を舐めてるんだろ、そういう奴は従えば従うほど助長するんだよ」


「煩い。私とフイに決裂を促すような暴言を吐く奴め。万死に値する」


「お前こそ、僕が平和を満喫していた中声をかけるだけでなく、あまつさえ悪口を言ってくるとはなんという奴。自己中と言われたことはないか?」


「生憎、私にはフイさえいればいいから他人の評価なんて知らないわ」


「はぁ、こんな人の知り合いなんて将来苦労するね〜」


「なによ、私がいればフイが困ることなんてありえないんだから」


「頭の中がお花畑な人は置いておいて、本当に何の用なの?」


「ちょっと、誰の頭の中がお花畑なの‼︎」


「いや、僕たちもこれといって用はないけど、強いて言えば友達を作ること……かな?」


 哀れ、親友に流されてしまったビュバル。惜しい人を亡くしてしまった。おっと、ビュバルを陥れた親友に答えなければ、もちろん亡くなってしまった人は置いておいて、だが。


「なんで疑問系?」


「ちょっと、なんで無視するの」


「それは君の素行が悪いからに決まっている」


「ふん、私ほど素行がいい人はいないと思っているわ」


 ぎゃあぎゃあと騒ぐビュバル。そういえば声の大きさを気にしていなかったので周りがこちらを注目している。これだから、所構わず騒ぐ誰かさんは。今だったら例の聖女にすら寛大にする心を持ち始めている。人との価値観は更新されていくものだが、ここまで大きく変わる様なことをなせるのは数少ないだろう。その点において彼女は驚くべきことをしたと言える。


「今すぐ全世界の貴族に謝ってこい」


「私も貴族なんですけど‼︎」


「…………そうなの?」


「そうよ、今すぐ平伏し、謝罪の意を見せるなら今後の対応について考えなくもないわ」


 ここはどうすべきだろうか。普通に謝るのは嫌だ。あと、面倒だ。何か、面白くする方法があるならばそれに飛びつくのだが……。どうする、ここは思い切って靴を舐める勢いで土下座でもしてみるか? ……却下だ。ここは自分の矜持を失う時ではない。こういうのはもっと大事な時にとっておくものだ。ここは堂々と言うべきだな。


「……すまない。今、耳の調子が悪いらしくてね。よく聞き取れなかったのだよ。もう一度言ってくれるかい?」


「だから、平伏して謝罪するなら許すって言ってるのよ」


「許す、何をだい?」


「今貴方が私にした仕打ちについてよ」


「僕はなんら間違えた対応はしていないと自負しているのだが」


「本気で言ってるの?」


「なにか気に触ることでもあったのかい?」


「……そうだったわ。無能には何を言ってもわからないということを失念していたわ」


「そうか、僕も圧倒的言語理解力の懸け離れた相手と話しても理解できないというのを今思い出していたよ」


 張り詰めたような空気が場を支配する。しかし、これまで黙っていたジャンネル(ビュバルが呼ぶにはフイ)が強制的にビュバルの首根っこを掴んで僕に頭をさげるようにした。


「すみません。今度から暴走しないように言っておきますので今日はこれでご容赦を、それでは。ほらシャル行くよ」


 そう言って彼らは去っていった。これが僕と彼らの出会いだった。とても不本意なことにだが……。



 = = = = = =



 例の二人が去ってから数分後。担任教師が来た。言っていることは型に嵌めたような定型句。その後、授業が始まる。授業は全部教室を使っており、特別教室というか特殊施設と言うかは人によるがまぁそんなところにも行かず。どれもこれも本当に顔合わせといった趣旨が強いようで授業と呼べるようなことは一切しなかった。5時間ずっと同じようなことを繰り返すのは飽きると思うのだがそこらへんは教師陣はどう思っているのだろう。僕はちょっと楽しみにしていたのだが……。まぁ、明日の楽しみが増えたと思っておこう。


 そんなこんなで初日は終わった。……あの迷惑二人組のことしか印象に残っていない。大丈夫か、僕の学園生活。教会の人とかにも心配……はされないか。唯一それが問題だったが、今解消された。僕はのんびり過ごす。これを学園での目標にすると心に誓い、毎日朝の魔素の修行に空中に『のんびり過ごす』と形作ることを決めた。果たして日課に定着するだろうか? まぁ、未来の自分に期待だ。そう問題を棚上げした。



_____________________________________




 #side ナタイ


 雪が降っている。一寸先さえ見えないほどの吹雪が降っている。露台に積もりに積もっている雪を見ると、大寒波が来たことがよく分かる光景だ。毎年恒例行事の一つと言っても過言ではないこの吹雪だが、未だになれない。1ヶ月も降り続け、雪が少しでも弱まることがある方が珍しいと言われている。魔道具で除去されると言ってもそれでも常に稼働するのには余りにコストが高い。なので一廻日のうち1時間だけ作動させるというのが当たりまえだ。よって現状のこの露台に積もった雪というわけだ。


「何を見ているのですか?」


「雪を」


 問うてきたのは”氷”聖女ヴァセリシャ。この時期は吹雪を気にしてか、出張で出かけている他の勇者も多くこの教会の関係者専門の建物内にいる勇者、聖者はほんの6名だけ。さすがに一年を見ても雪の降り止まないときがないと言われるほどの時期、問題があって首都から動いていたのでは間に合わないというわけでこの人数まで減っているのだ。そして、そんなときに何かすることもなく、ヴァセリシャがこの部屋に来るのはもはや日課となっている。


「雪、ですか。確かに、見ていて飽きませんよね。それに心が浄化されるようにも感じられます」


「……心が汚れていたんですか」


「人は誰しも汚れた部分を持っていると思うのですが?」


「聖者が言っていい言葉なのだろうか」


「いいんですよ。事実を言っているだけなんですから」


「……そうでしたね」


「そうでしょ」


 ドヤっているのがうざく感じるのは僕だけではないはずだ。これでいいのか聖者。


「そういえば、魂観は見ているのですか?」


「魂観?」


「忘れていたのですか……」


「一回も見てませんが」


「……はぁ、まずは魂観を出してください」


 魂観は魔素を流した後、手で持つと利き手に魔法陣が刻まれそこに仕舞われる。というか利き手以外にも魔法陣は刻めるがわざわざ場所を変える必要もないし、利点もない。なので僕も利き手に魔法陣が刻まれている。出そうと思わないと魔法陣は起動せず、魔素を直接見なければ魔法陣を捉えることはできないが。


「これですよね」


「それだよ」


「見てどうなるんですか?」


「……病気や重症を負った場合《状態》と言う項目ができるんだよ。これは前使った魔道具では判別できないから今見て、すぐに」


 自分の手元にある魂観を眺める。確かに《状態》という項目があるが、これは何を意味しているのだろう」


「これってなんだと思います?」


「……魂耗?」


「知ってますか?」


「わかるわけないでしょう。こんなもの、初めて見たわよ」


「珍しいってことですか?」


「少なくとも私は知らないってことよ」


「ということはこれは保留ですか?」


「そうね、私にはわからないからそうするしかないわね」


 その日は、この話題について一度たりとも話すことはなかった。しかし、どこか蟠りが残ったような、痼りができたようななんとも言えないものが心に影を落とした。



次話は2月7日(予定)です。

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