第2章 9話
#side フォールティア
『拝啓 フォールティア・ナータリウヌ様
この度、国立教育学園ハウリアの中等実技科の試験に受かったことをお知らせいたします。
敬具 学園長ヒナリア・ルージズ』
『手紙が来ていますよ』とライヒさんが渡してくれた封筒は、国立教育学園ハウリアからの合格通知の手紙だった。入っていた手紙は全部で8枚もあった。合格通知と、学園に入るにあたって必要な経費や学園のオリエンテーションに行く日付などなどの情報が満載。これを全て読めと? 両面に書かれている紙すらあるではないか‼︎
斯くして、その日は(合格通知の)書類との格闘になった。あとでライヒさんに全部任せればよかったのではと気づいたが、それは全ての書類を確認し終わり、紅茶を飲んでいる時だった。おのれ、これは聖女オラリエムイの呪いか‼︎ と、くだらないことを考えながら、僕は眠りに落ちた。
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恒星ランヴォの日差しが眩しく感じる朝。この眩しさは二度寝を誘う。誰も抗えない睡眠魔法すら凌駕するその効力、僕も脱帽せざるをえない。それでは、またあとで起きようと思い寝返りを打ち微睡みかけてーー叩き起こされた。
「起きてください」
ライヒさん。朝帰りですか? 思っても決して声には出さない。言ったらどうなるのかは目に見えている。わからない人は想像力がないからいつも苦渋を舐めている人だろう。ちなみに僕は前者だ異論は認めない。
「今日はいいですけど、明日は学園のオリエンテーションなんですから早く起きてくださいよ」
しっかりと釘を刺してくるライヒさんマジ有能。これさえ言えば解決する。
「ライヒさん。マジ有能」
「ふざけたことを言ってないで起きてください。早起きは三文の得ですよ」
「果報は寝て待て」
「ご飯なしにしますよ?」
「……起きます」
「よろしい」
よろしくない。あなたは人を無理やり起こして楽しいのか? 僕は男に起こされても何も嬉しくならないぞ。これならオーリに起こしてもらうほうがいいのではないだろうか? ……いや、オーリもオーリでなんかいやなので却下するとしよう。
寝間着を脱いで普段着を着る。水色の上着と、下半身は白色でズボンのようなもの、正式名称はエソルハ。けれどこのズボンは足首に近づくにつれて、裾幅が大きくなっていっている。まぁ、この国の男性の室内着は大抵こんな感じなんだけど……。こんな見た目とは裏腹に、寒暖差対策がバッチリという優れもの。理由は簡単魔法で服の中の温度を一定に保っているから。何て素敵なんでしょう。今だけお得で、1000シル(サケリウス帝国の通貨単位)だよ。ほら持ってけ泥棒。
「今日の予定は?」
「オラリエムイ様が午後来ると仰っていました」
「ないんだね」
「オラリエムイ様が午後来ると仰っていました」
ライヒさん、マジ有能。そして、もう僕の制御の仕方さえもう心得ている様子。感服いたしました。
「それじゃあ午前中はルースス・ラトルンクロールムやります?」
「……いいですよ」
ルースス・ラトルンクロールムはチェスのような遊びだ。ただ『ような』というだけでルールは全然違うところがいくつもある。まぁたいして複雑ではないから簡単に覚えられたけど。
「それじゃあ、僕が後手で」
「わかりましたよ」
ライヒさんがボードを出してくる。駒を並べて『よろしくお願いします』と挨拶をして始める。最初の駒の動きはは定常通り。6手ほど経つと、次第に独創的な盤上になってくる。そうして午前中はルースス・ラトルンクロールムをするだけで終わった。いや終わらされた。なぜならーー
「いつまで遊んでんのよ」
オーリが来たからだ。
「あっ、オーリだ」
「その言い方どうにかならないんですか?」
「ダメなの?」
「うっ、いいですけど」
ふっ、なんてちょろい。
「今なんて考えたの?」
「そんなことを話しにきたの?」
「明日のオリエンテーションについて話しにきたのよ」
「じゃあその話をしようよ」
「はぐらかそうとしても意味ないわよ」
「僕ははぐらかしてるんじゃなくて、建設的な話をしようと思って言ったんだよ」
「なら話すわよ」
こちらを挑むような目で睨んでくるオーリを見ながら『早く話せよ』などと言ってはいけないと考える。それをしたら折角纏まりかけた会話がおじゃんにんなってしまう。ここは協調性をもってことにあたるとしよう。
「明日はあなたも知ってるように学園のオリエンテーションがあるわ。あなたの両親は用があってこれないらしいわ。親御さんなしでオリエンテーションを受けることになるけど、教会は代りの人を用意できるけど、どうしますか?」
「代りの人はいいよ」
「そうですか」
その日の午後はそんな感じで終わった。
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大量の人が一つの建物にいる。どちらかというと押し込められていると思わなくもないが、その考えは焼却炉で燃やすべきだろう。
「初めまして、指導部のーー」
どうやらオリエンテーションが始まったようだ。これから長い時間をかけて説明をしてくれるのだろう。とてもじゃないが喜べないし、楽しめない。話は右耳から左耳に流れていくし、何より周りも真剣に聞いている人は少ない。いや、君たちはちゃんと聞こうよ? 僕はいいよ、前世を含めれば学校に入るのは4回目だから。記憶にあるかは置いておいてだけど……。僕も一応重要なところは聞いてるんだよ。大丈夫かこの学園。
それから1時間後
「それでは、オリエンテーションを終わらせたいと思います」
長かった。地獄のような時間を過ごした。理由は簡単だ。覚えなければいけないことが多いいだろと思ったのは新入生全員納得してくれること間違いないほどの情報量だったからだ。興味のないところを聞き流していた僕でさえそうなのだ。全部の要点を押さえて覚えている奴がいたら素直に褒めてやる。
僕はこの学園に入るのかと引き気味に思いながら帰り道を歩いた。
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#side ナタイ
見慣れない天井だと思った。目を瞬きさせもう一度見るも、目に映る景色は変わらず。間をおいて自分がどこにいたのかを思い出す。
「豪華なベッドだよな」
独り言を呟き、体を上げる。部屋の温度は暖かく、快適だ。布団から出たくなくなるようなことはない。
「おはようございます」
使用人が扉を開け入ってきた。何か言おうと思ったが咄嗟に言葉が出ず、会釈するに止める。ベッドから降り立ち、寝間着から普段着に着替えようと思い、手が止まった。
「僕は何を着ればいいのでしょうか?」
「持ってきました」
なんと準備のいいことだろう。まぁ、いいに越したことはないが。
「着付けましょうか?」
使用人の女性が取り出したのはいかにも上流社会の男性が着るような服だった。着方を知らないので仕方なくお願いする。
「お願いします」
「わかりました」
そう言うと、使用人は服を僕の腕に通し、紐を結び、着せてくれた。
「終わりました」
「ありがとうございます」
鏡を見ると、最初感じた固い服装ではなくラフな格好だったのだと思った。動きやすく、肌触りも良い。よし、今日はどこにも出かけない。そう心に誓った。そう決意した時扉を叩く音がした。
「はい」
言うと、扉が開いた。入って来たのは”氷”聖女ヴァセリシャだった。後ろにはいつもの付き人がいる。
「おはようございます」
「……おはようございます」
今度は声が出た。
「行きますよ」
「……どこへですか?」
「聞いていませんか?」
「聞いていませんが」
会話が途切れ、沈黙が場を支配する。
「それでは私が説明させていただきます」
付き人が前に出て話し始めた。
「ナタイ様が魂観を持っていないということなので、それは勇者としてはいけないということで作るために教会に行くことになったのです」
そう端的に説明をされた。確かに、長年探してきた”虚”勇者が魂観を持っていないというのは外聞的に悪いだろう。一体どんな生活を送っていたのかわかったものではないとかなんとか言われるんだろう。主に貴族とか貴族とか。大事なのでもう一回、貴族とか。
「わかりました」
「それでは行きましょう」
部屋から出て行く。そしてなぜか一階の部屋にヴァセリシャと付き人が入って行く。しょうがないので僕もついて行く。
「転移門ですか?」
「そうです。ここから、教会の裏の建物に行きます」
そう言って彼女は魔素を注いで魔法陣を起動した。起動したヴァセリシャはもちろん、魔法陣のなかに入っていた僕と付き人も一緒に転移をした。
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着いたのは閉塞的な空間だった。周りが全て岩で形成され、出口一つないように見える。けれど、よく魔素の流れを読んでみると不自然な点があることに気づく。一箇所だけ、多く魔素を含んでいる物質があるのだ。
「ここは、転移門でしか入れないようになっている部屋です。魂観の重要部分となる物質はとても繊細で、気を配らないといけないのです。なので、密閉されたうえに、限定した人のみが入れるようにしなければいけないのです。そうして、この場所が生まれたのです。ほぼ全ての国でこの方法は採用されています。暗黙の了解ですが……」
「そんな話をしていいんですか?」
「勇者になったんですから、これより暗い国の裏事情ってやつを知る機会は増えると思いますよ」
「もう、お腹いっぱいいっぱいなんですが」
「胃を鍛えるといいわよ」
「どうやってですか」
「時間が解決してくれるかもね」
「それまでに何度、胃に穴を開けるような羽目になるんですか?」
「知らないわよ」
「……無責任」
「なんか言いましたか?」
「あなたには関係ありませんよ」
「……そうですか」
こちらを不満そうにヴァセリシャが睨んでいるが、それは無視するとしよう。突っ込んだら負けだ。
「それでは待たせている人もいるので行きましょうか」
そう言ってヴァセリシャは多く魔素を含んでいる物質のある壁に手を置き魔素を流す。変化は目に見えない形で起きた。魔素が流動し、ゴゴゴと音がし始めた。数秒して岩が溶けるようにして形を変え、一つの出口ができた。無言で歩き出すヴァセリシャとその付き人に僕も遅れないように着いていく。部屋を出ると、右斜め下に傾斜のついた洞窟のような一本道があった。その道を降り切ると、広い場所に出た。宝石のようなものが煌めく部屋だった。
「きましたか」
「今日はよろしくお願いします」
「用意は出来ています」
声をかけてきたのは白衣を着た男性。片手に魂観を持っている。それを彼はヴァセリシャに渡し説明をする。
「これは普通の魂観と何一つ変わらないので登録の仕方も魔素を流して完了します」
そう言うと興味を失ったのか、はたまた他の用事があるのか去っていった。
「それでは行ないますか」
僕は彼女から渡された魂観に魔素を流す。そうすると、魂観は薄く光り登録が終わったことを示してくれた。
「今日はこれで終わりですね」
「帰るんですか?」
「そうですね。もうここには用はありませんし」
そう会話をし僕らはその場所からお暇することにした。
次話は2月1日(予定)です。




