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ユリカ界  作者: 碾貽 恆晟
第1部 2つの勇者の物語
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第2章 6話



 #side フォールティア


 学園の内装は長い時間を感じさせる。劣化はしてない、どちらかというと一つ一つを見るだけだったら新品のように見えただろう。だが、この学園の雰囲気がそうさせるのか、どことなく古く、落ち着いた感じを醸し出している。


 と、学園内の様子を見て現実逃避をしていても始まらない。全ての人が逃げ出したいであろう試験について説明しよう。試験会場に入ってすぐ名前を名乗ると番号札を渡される。その番号を見て掲示板に書いてある……というか映し出されている?……まるでスマホやパソコンの液晶画面、言い換えれば液晶ディスプレイに表示された光のように光っていた。これが魔道具のなせること……。いや、知ってはいたけど学園で使うか? この技術。お高いんだろうな〜。そう思いながら眺める。


 おっと、本題を忘れていた。その画面には教室の配置と教室名が書いており。隣に教室名によって番号が振り分けられていた。僕の番号は『 Z ー 1067番』。これは今年の学園の受験生の人数が増えるとこの数も増えるらしい。なので、僕というか”聖”教会が学園に試験を手配したのが受験生の中で中等実技科の1067番目ということらしい。ここ重要『中等実技科』。解っていただけだろうか? 中等学科はこの4倍とまで言われおり、初等[学科/実技]科は中等[学科/実技]科よりは少ないがそれでも3分の2少なくなるだけだ。高等科はさらに熾烈な争いとなるらしい。まぁそれは置いておいて、試験日は違うがそれでもこの学園の大きさが解っていただけただろう。ちなみに、実技科より学科の方が5倍ほど合格者が多いい。なので、偏差値は実技科の方が多いい。


 受かるのは決まっているが、それでも緊張感は拭えない。あとで卑怯者とか後ろ指さされないかな? いや、国の決定なんだから大丈夫。オーリにも『代々続く風習のようなものよ』と言われた。もしもそう言われたら国家権力という防御でもしよう。そう心に決めながら、教室のある建物へ歩く。


 この学園には生徒が使う建物が16個ある。その16個のうち三つが午前中の筆記試験で使われる。一つが実技科、二つが学科で分けられている。僕が行くのは実技科の筆記試験が行われる建物だけど、その建物はそれなりに歩かないといけない。学科は近くの建物で行われるというのに。『なんて卑怯な、学科のやつらめ恥を知らぬと見た』『ふっ、結局は我らを弄ることぐらいしか出来ぬよ、なんと哀れな』と、くだらない寸劇を頭の中で思い浮かべる。実際のところ、実技科が遠いのは午後の実技試験の試験会場に近いところが今向かっている建物だったというだけだろう。これで本当に学科の思惑が関わっていたらそれはそれですごいと思うが。そんなことを考えながら周りの同じ実技科の人たちの波に流される。


 周りの人はほとんど緊張をしていて心ここに在らずのように思える。これ、大丈夫なのか? 僕の場合はもう受かるのが決まっているから呑気に構えてるけど、君たちはこれから人生の分かれ目といってもいい重大な試験を受けるんだよ? そんな気もそぞろな様子でいいの? 疑問に思いながら少し目を移動させると落ち着いている人も数名見受けられる。今僕の周りにはざっと20数名いるのにたった数名。本当に大丈夫かこの学園。まぁ定員は少ないんだからできる人しか残らないんだろう。えっ、僕はって? 知らないな〜。僕は自主的ではなく、強制的に試験を受けさせられて、しかも受かるのが決まってるから、学園の問題児になるかもしれない。僕の知ったことではないが。文句は国と”聖”教会に、僕が入りたくて頼んだんじゃありませんから。


 歩き始めて数分、やっと目標の建物についた。ここでライヒさんとはお別れだ。というか、ライヒさん僕が試験している間何をするんだろう。久しぶりの休暇という扱いにでもなるのか? まぁ、いいか。僕には関係ないし。


 建物の中を歩きながら内装を見て、一言。


「金かけてるね〜」


 そう、確かにパッと見ただけじゃあよくわかんないけど使われている材質が魔素を大量に帯びていることから、それなりに時間をかけた素材に思える。ただ長年使われていただけではこうならないはずだ。流石は国立の学園だと感心した。


 目的の教室に入ると机と椅子が並んでいる。小学、中学、高校のように並んでおり、黒板? というか黒板すら液晶画面になってる。どれだけお金を使っているのだろう。戦々恐々としてしまう。その、液晶画面には廊下から三番目の列の一番後ろに僕の番号が書かれていた。なのでその席に座る。


 この教室の半分以上がまだ空席で、試験開始時間まで30分はある。なんでこんな早く来てしまったのだろう。今更ながら後悔をし始めている。筆記用具はいらないので持ち物はない。筆記も実技も試験の時に用意されるものを使うようにと試験要項に書いてあった。


 教室から窓の外の空を意味もなく眺めていれば、続々と受験生がやってきて席に座っていく。中等実技科はここ数十年は毎年2000人を超える。その中で受かるのは約500名。受験生が増えるごとに定員も増えていき今では500まで上がったというわけだ。4分の1が受かり、4分の3が落ちる。ということは倍率が4ということだ。怖や怖や。


 僕は受かるの決まってるけど。何回も心の中で唱える。じゃないと周りの雰囲気に負けそうになるので。このなぜかやる前から落ちるんじゃないか落ちるんじゃないか空気に。


 液晶画面が変わり一人の老人が映し出された。体の上半身が映っており、白髪で青い瞳をした好々爺とした感じを思わせる。服は黒の正装で、青いネクタイがよく似合っていた。


「初めましてじゃな、受験生の諸君。私はこの国立教育学園ハウリアの学園長をしているヒナリア・ルージズという。今年は学園始まって以来の受験生が中等科を受けてくれることになった。それによって問題も毎回難しくなっている。諸君が持てる全ての力を発揮できることを祈る。これで始まりの挨拶を終わらせる」


 受験生のために時間を割いて試験の始まりの挨拶なんてするのか。珍しいというか前世ではありえないぞ。多分ここだけが例外なんだな。多分そうだろう。始まりの挨拶についての考察はこれくらいにして、試験監督の教師が来た。いつになったら試験が始まるんだと思っていた僕にはまるで天使のようにすら見える。この精神的、地獄の拷問から解放される。


 教師はタブレット(?)のような魔道具を受験生、一人ずつに手渡していく。僕も手渡される。そのタブレット(?)はこの国の文字がキーボード一つ一つに書かれ、同一のものはなく……何が言いたいかというと見た目上は普通のタブレットということだ。教室にいる全ての受験生にタブレット(?)が行き渡ると液晶画面にタブレット(?)の使い方が出てきた。教師の説明を要約するとタブレット(?)を起動すると青い画面が現れ問題を表示するので、タブレット(?)を叩いて回答を書いてください。文字の消去ボタンは、次の問題にいくための方法とかいろいろあるけど一つ言いたい。何この高性能機器は。


 起動するとタブレットの奥側に光だけでできた透けた画面が現れ、練習とでてくる。ようは、使い方がわからなくて失格とならないための配慮だろう。


「練習は10分間です」


 僕は問題をすぐにうち終わらせる


「10分たちました。それでは問題を始めてください」


 そういうと画面が試験問題というのに変わった。最初は数学というか算数? 微妙だな。



 = = = = = =



 かれこれ1時間ぐらい経っただろうか、数学(?)は終わった。内容としては四則算、連立方程式、図形などなどといった問題がでた。今解いているのは歴史。初代の帝王は誰でしょうとか、この年のこんな戦の名前はなんでしょうとか、なぜその戦が起こったのか上の資料を見て100文字以上で書きなさいとか、そんなのばっかがでてきている。感想としては普通、期待はずれ。もっと捻りの効いた問題がないのかと思ってしまう。


 歴史も終わり、魔法の基本についての問題を解き終わると、残り時間まで30分も残っている。これは試験が終わるまで寝ろという天啓だな。そう思いタブレット(?)を机の端に置き、机に頭を乗せて、お休みなさい。グゥー。



_____________________________________



#side ナタイ



「勇者……彼がですか?」


 驚いているのは僕だけではなく、”氷”聖女の後ろに控えていた付き人も信じられないと目を見張っている。


「彼は勇者です。間違いなく」


「貴方の年は?」


 ”氷”聖女の付き人が質問をしてくる。


「6歳ですが……」


「魂観に勇者と記載されているはずでは?」


 持っていない。これは、叔父のフイラーミと話して決めた。闇ギルドにこれから過ごすからには、身元が暴露るのは良くない。何より、元から魂観を持っていないのだから貰わなくてもいいだろうとなった。それが今では自分の首を絞めているわけだ。


「闇ギルドに所属するものは魂観を捨てます。僕は魂観を持つ年齢になる前から闇ギルドに所属していたので魂観は持っていません」


 これはある意味正しいが、ある意味正しくない。屋敷に使用人として侵入する場合は魂観は絶対に必要だ。なので、正確に言うならば『闇ギルドの主に潜入し、目的を果たすことを専門としている人以外は魂観は基本的に持っていない』というのが正解だろう。もちろんここまで詳しく言う必要はないだろう。


「貴方は魂観を持っていないということですか?」


「そうですが」


「今からいきましょう」


「はい?」


 思わず”氷”聖女に聞き返してしまった。


「だから、魂観を貰いにいきましょう」


「……ですから、僕は闇ギルドに所属しているので魂観は持ってはいけないんです」


「それなら個人用の魂観を作らなければいいんです。魂観以外にも魂観と同じことができる魔道具はあります」


 そう言って”氷”聖女は僕の手を引いて部屋を出ようとする。当然のようにして付き人が僕たちの後をついてくる。そこは”氷”聖女を止めるところではないのですか? そんな僕の疑問をよそに扉を開けてルンルン気分で歩く”氷”聖女。いいのだろうか聖女ともあろうお方がこんなような人で。切実にそう思った。


 ”氷”聖女は迷う事なく廊下を歩き、階段を降りて偉い人がいそうな扉を叩く。さすが聖女の立場にいる人、恐れを知らないと見た。と、現実逃避を始めた僕の頭ではまともな考えが働いていないかもしれないけどこれだけは言える。ノックもせずに扉を開こうとするのはどうかと思うのは僕だけか?


「お久しぶりです」


 ”氷”聖女が部屋の中央の机に座っている女性に声をかけた。


「おや、ここに来るなんて珍しいね」


「はい。今日は見て欲しい人がいるんですけどいいでしょうか?」


「どんな人だい?」


「彼です」


「新しい勇者かい?」


「魂観を持っていないので属性がわからないんです」


「それが目的かい?」


「はい」


「ちょっと待ってな」


 僕が呆然としている間にあれよあれよと言う間に話は進む。部屋にいた女性は口調こそおばあさんらしいが外見は20代後半といったところだ。初対面で独特な言葉使いだなと思ったのは僕だけではないはずだ。


「これは魂観でなくとも人の魂を見るものだ。使い方は魂観と同じだけど、違う人でも使えるというのが最大の特徴だね」


 持ち出してきたのは長方形の金属板。


「ほら、これで確認できるでしょう?」


「本当にやるんですか?」


「あなたが本当に私の探している勇者かどうかを確認するのよ? 必要なことじゃない」


 渋々従い、その金属板に魔力を流す。結果は一目だ、目に付くのはある一行。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 《名前》ナタイ・カータル


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 《加護・祝福》”虚”勇者


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 という一行。僕の人生は大きく変わっていくことを初めて実感した瞬間だった。認めたくないこと、あの闇ギルドという微温湯に浸かることは、僕には二度と来ないだろう。そう直感的に悟ることになった。とても不本意なことに、なのだが。



次話は1月23日(予定)です。

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