第2章 2話
#side フォールティア
ーー新しい朝が来たーー
ーー素晴らしい朝だーー
ーー今ならば僕はなんだってできるだろうーー
「何してるの?」
ーーこの曇天とした空から落ちてくる水はーー
「は〜。ライヒさんもこんな勇者に使えるのが嫌になりましたら言ってくださいませ。私が責任を持って処理させていただきますので」
ーー平和を失った僕にとって何よりもの癒しの一つと成りかわり、この世界の全ての自然が輝いて見えるーー
ーーあぁ、この世界を汚す人類はなんと欲深く、愚かなのだろうーー
「いえいえ、これが私に下された任務ですのでご安心を」
ーー間違いの始まりは……
「ちょっと、いつまで無視しているつもりですか」
「なんだよ、煩いな」
「それなら煩くされないように努力をしたらどうですか?」
「僕は今、束縛されていく自分の人生について考えていたんだよ」
「束縛ですか」
「人とは束縛されるものではあるがそれにも限度というものが存在するはずなんだ。それが今や僕は勇者だというのに自由の『z』の字もない」
「はっ?」
「ちっ、通じなかったか」
「それよりも早く他の加護持ちの人と顔合わせに行きますわよ」
「はいはい」
そうして僕は聖女オラリエムイに引きずられるようにして部屋を出る羽目になった。もちろん部屋を出た後は普通に歩いたぞ。
= = = = = =
今日、教会の離れで起きてからご飯を食べた後、聖女と話し国からお目付役を紹介された。しかもなんとお目付役は近衛兵。近衛兵っていうのは帝王・王室の直属の軍人のことだったはずなのだけど。なぜそのようなエリートを年端もいかない子供につけさせるのだろう。そして、その近衛兵の名前はライヒ・シーウル。瑠璃紺色の髪に瑠璃色の瞳、なので髪の方が少し濃い色をしている。顔立ちは普通という言葉がしっくりくる。もしも近衛兵特有の制服ではなく、私服を着ていたら擦れ違っても気づか無いだろう。打つかって、顔をじっくり見る機会でもなければだが。
さて、その近衛兵特有の制服はというとだ。他の部隊と決定的に違うのは服の色だろう。白色と、王家の象徴として使われる黄色を使っている。下地が白で、ボタンや装飾などが黄色。他の部隊は実用性を追求しているからだろう灰色や茶色が多いい。もちろんこれには理由がある。防御に優れており最も格安で作れる防具の皮が茶色と灰色の皮というか鱗を持っている魔物だからだろう。
そんなこんなで紹介されたライヒさんは現在、僕の右後ろから付いてくる。今僕がどこへ向かっているかというとだ。聖女に引っ張られて暇をしている他の勇者と会うことになっている。
ここで言う勇者っていうのは全員”聖”勇者のこと。他の属性を司る勇者は誕生し無い。理由はサケリウス帝国には聖精霊神サケルの加護を受けたものしか存在し無いからだ。国の境界線は聖精霊神サケルの結界があり、その場所内でしか”聖”勇者は生まれ無い。
その結界だが通行の妨げになることはなく、性根腐っているようなやつでも素通りできる。なので、中に入っているからといってなにか他の場所と違ってなにかが変わるわけじゃ無い。”聖”勇者が生まれるか生まれ無いかそれだけの違いだ。だから結界内で魔物の大群が街に押し寄せようが、豪雨で土砂崩れが起ころうが聖精霊神サケルはなにもしない。破王との戦いも勇者に一任している神々の一柱だ、というか一任していない神はいなかったか。
もしも、神が戦っていたら簡単に片がつくだろうに。だって仮にも神だよ。創造神には及ばないらしいけど神なんだよ。なんで直接介入しないのだろう。そんなことを倩々と考えていると大広間というかサロンについたようだ。
真ん中には大きな円形の机。そこには使用人と思わしき人を除くと、二人の男性、四人の女性、壁に凭れ掛かっている男性が一人、普通に立っているのが男性一人女性一人、計九人がいた。
んっ?
間違えた。普通に立っているのではなく女性を男性が口説いているようだ。他の人がなにも言わないってことはよくある光景なのだろう。というか他の人も独特な雰囲気を醸し出しているし、なにやら喋っているし。僕も彼・彼女らは無視して僕を引っ張ってきた聖女オラリエムイに一言。
「僕はどこにいればいいの?」
「座ればいいじゃない」
「この混沌とした場所で席につくほど僕の胆力は強くないよ」
「混沌?あぁ、このこと。先輩として言うわよ。慣れなさい」
「解った」
そうして僕は長椅子の空いているスペースに座った。するとどうしたことかオラリエムイーー略してオーリや他の勇者達が珍獣でも見るかのような目でこちらを見てきた。
「あなたがフォールティア・ナータリウヌね」
”聖”勇者の女の人が声をかけてきた。白金のような髪に紫の瞳、凛とした雰囲気が大人な女性という感じに見える。背は低く腰に下げている細剣の長さと不釣り合いだというのが一目でわかる。まぁ勇者なんだからよくわからない力で使えるんだろう。それとも普通に魔技を使って剣を使うだけかもしれないけど。
「はい、そうですが?」
「本当なのね、ナータリウヌ家の次男ていうの」
「それが……?」
「私ね、ナータリウヌ商会の特注品の武器を使ってるんだけど。そこでたまにあなたのことを聞いたことがあるのよ」
「どういう風にっでしょうか?」
「あなたの父親がチラリと口を滑らせたことがあってね。それから暇つぶしにあなたの話を聞いていたのよ」
「それで?」
「いや、聞いた通りの性格だなって思って」
「一体僕にどう返答して欲しいのですか?」
「別に返答は期待していないから大丈夫」
「……そうですか」
どうやら相当独特な人らしい。
「ところであなたのお名前を伺っても?」
「あぁ、私は勇者のシャーティ・キウギウスという。どうせなので紹介しておこう。まずこの国には9名の”勇者”と聖者”がいる。私の隣にいるのが私と対となっている聖者のヒシウス・レイシス」
「どうも」
にこやかな顔で挨拶をされたので頭を下げておく。彼のような聖者とは勇者と対になっており聖女というのは女性の聖者を指す。公式では”聖者”と記録されるが大抵は聖女と言われることが多いい。理由はいろいろと諸説あるが初代の聖者が女性だったために最初は全て聖女で統一していたが男性の聖者が出てきたことで改正しなければならなくなりいまの形に落ち着いたのだとかなんとか。
「あそこに座っている、緑色の髪色の男がいるだろ。彼が勇者ルキワァ・イーオン。二つ名がグリーンウルフ。本当に狼みたいに怖い顔してるけどいいやつだよ」
確かに僕の右側、離れたところにある席に威圧的な顔をしている人がいる。というかひと睨みで心臓を止められそうな勢いだ。
「で、その隣にいるのがルキワァの対になっている聖女シャルティア・ホーディオ」
犬みたいというのが聖女シャルティアを見た感想だ。金糸雀色の髪に金色の瞳をしている。ルキワァと何か喋ってるけどなぜか犬の尻尾がみえてきそうなのは彼女の雰囲気がなせる技か。
「私を含めて女性の勇者は二人しかいないんだけどその内の一人というか最後の一人、ミネミア・バーナー。母親が火山大陸の出身らしいからあの赤髪は珍しいだろ。あんまりしゃべんないから何考えてるのかわからないとか言われてるけどおちょくると可愛いぞ」
確かにその猩々緋の色の髪と鳶色の瞳は珍しいと思うがあの無表情の方が相まって僕にとって近寄り辛い雰囲気が天を貫いている。どう接しろと?
「横にいるのが聖女キィフォ・クンツェ。」
白金の長い髪と瞳、達観したような目に無表情な顔が相まって、まるですぐにでも消えてしまいそうな儚げな雰囲気を醸し出している。
「あそこの壁に寄りかかってるのが勇者マルチア・ジャフレ」
白の髪に蝋色の瞳。寡黙で近寄りがたい雰囲気をまとっている。
「それであそこでいちゃついてる男女。軽薄そうな男性の方が勇者のガエターナ・トゥルーリ。女性の方がスージー・チェッカレッニ。これで今ここにいるのは全員だね」
「あの、マルチアさんの対の聖者の方はどこにいるんですか?」
シャーティさんは一瞬、虚をつかれたような表情をして虚空を見つめ、意を決したように話し始めた。
「これは有名な話だけど彼は対となる聖者を失っているんだ。理由は破王の宣戦布告が行われてから最初の戦争。蘇生魔法ですらかの聖者ーールイガル・パウリークを生き返らすことができなかったってわけさ」
そう、なにか奥歯に物が挟まったような言い方をシャーティさんはした。しかし、ここで言い募って話を引き出そうとしてもあまりいい結果にはならなそうなので話題を変えることにした。
「そういえば、皆さん僕が入ってきても特に反応をしなかったのは何でなんですか」
「来ることは解っていたからさ」
「……それが理由なんですか?」
「あぁ」
さっきからなにか隠してることはわかるのに迂闊に口を挟むことのできない雰囲気を出してるから引き下がらざるをえない。いつか話してくれることはあるんだろうか。……気にするだけ無駄か、どうせ今はわからないんだし。必要だと思った時は話してくれるだろう。けど、少し探りを入れるぐらいはしようと思うが。ニヤッ。
「僕がくるよりも気にかかることがあったからじゃないんですか?」
「……よく判ったね。そうだよ、今から来るミャーイリ教主のことをみんな恐怖してるんだよ。あの若い顔をして1000年以上の時を生きている化け物にね」
「所属している教団の教主を化け物呼ばわりですか」
「あなたも会って話したら私たちと同じ感想を抱くことになると思うよ」
「……それは怖いですね」
「そうだろ」
気配がした。これまでどこにもいなかったのにふっと彼の気配がした。すぐ後ろに。バクバクしている心臓、気持ちを表情に出さないようにして後ろをチラリと向く。
「やぁ、初めましてだね。フォールティア・ナータリウヌ君ーーでいいかな」
「初めまして。それで、どちら様でしょうか」
本当は解っている。彼が教主だってことぐらい。なるほど化け物だ。周りの人は慣れたことなのかあまり驚いてないけど数名少し肩を揺らしたり、瞼を持ち上げたりしていた人もいた。
「この国の国教の聖サケル教の教主をしているミャーイリ・ハーライル・ジャエイリという。種族はハイエルフだよ」
これが僕とミャーイリ教主との最初の出会いだった。
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#side ナタイ
恒星ランヴォは未だ顔を見せないが空は白み始めている。布団は暖かく、室内も魔道具のおかげで暖かく保たれている。たとえそうだとしても布団から出たくないという欲求には負けてしまう。
そんなことをことを考えているのは現在13歳という若さで特別捜査衛兵に任命されているシシリア・ハーティコ。普通であれば長年かけて出世しなければ捜査をする部隊にすら所属できない。しかし彼女が捜査隊のさらに一部の人しか任命されない特別捜査衛兵に所属できているのは偏にある魔法が使えるからだ。
世界に存在する基本属性でありながら十万人に一人しか存在しない”時”属性。それのさらに希少な”時見”の力があるからだ。一口に言えばその時を見る力。彼女は”時見”の”過去視”に異常なほどの才能があった。普通であれば過去視で過去を見る時は完全にランダム。自分の意思でその力を制御するには人生の半分を有するはずである。しかし彼女は自分の意思で『見たい時間』、『見たい場所に自分がいる』という条件さえ達成すれば簡単に見ることができる。もちろん見たい時間が古ければ古いほど魔力を必要とするなどコストがそれなりにかかるため本人は10回が限界だが。
そして、この”時見”はほんの一部の人しかできない技能である。100年に一人出るか出ないかというほどで、今では同じくパーゴジウム王国の『”時”の魔女』と謳われるミリア・ハーティコーーシシリア・ハーティコの母親しかいない。
その母親は今父親と一緒に住んでいる。シシリアは独り立ちをしたいということで一人暮らしをしている。しかし、自立したはいいものの自律は苦手なようで、布団の中で数分ゴロゴロしていることが多いい。さらにここ最近は外が冷えてきたので室内が暖かかろうが関係なく布団に包まっている時間は増すばかり。それでも特別捜査室には定時に出勤している。
ピィー ピィー ピィー
と魔導通信機が鳴り出した。これは特別捜査衛兵に所属している人に配られる。緊急時や、急ぎの用の時に使われたり、長距離に別れて捜査をする時などに使う。
「う〜ん、煩いな〜」
嫌々ながらも通信をつける。
「なんですか?」
「今すぐ部屋に来い」
プツッ
そう通信の相手が言うとすぐに魔導通信機が切れた。
「もう、出勤時間にはまだ早いじゃないですか」
そう、聞く人もいないのにシシリアがブツブツ呟いてしまうのは日々のストレスのせいだろう。部屋着から出勤着に着替えて凍結しているであろう道へ足を向ける。
晴れた空を見上げると、恒星ランヴォが地平線に顔を見せはじめた。
= = = = = =
嫌々ながらシシリアは特別捜査室の部屋へ来て呼び出した元凶を睨み、出会い頭に文句を垂れだした。
「それで、なんなんですか?まだ出勤時間になってませんよ」
「安心しろ、今回は有給とったやつも駆り出されてる」
「もっと安心できなくなったんですが〜」
「煩い、早く行くぞ。腕に捕まれ」
「はいはい」
「はいは一回」
「はい」
シシリアが腕に手を置くと二人は特別捜査室から消えた。
= = = = = =
「何度やってもなれないですね」
シシリアを呼び出した上司ジラル・アバディは”空”属性の魔法を得意としており、隊長の任を受けている。今したのは”転移”だ。
「そのうち慣れる」
「今回で10回目だったと思うんですけど」
「それならば100回やってから言え」
「むぅ〜」
むくれた顔をしてジラルを睨むが飄々と受け流される。
「見て欲しいのはここだ」
シシリアの知識では家紋があることからウールダウヌ侯爵の住む屋敷だということはわかるがそれ以外はわからない。
「機械でやらないの?」
「機械でも判明しなかったんだ」
機械ーー魔道具”過去視”記録機械。過去視と同じ魔法を使いその時起こったことを記録し、専用の機械に接続することで何が起こったかを写すことのできる機械のこと。
「今それあるの?」
「あぁ、仕舞ってる」
「だして」
「あぁ?」
「機械」
「ほらよ」
ジラルは空中に物を引っ張り出すようにして異空間からその機械を取り出した。
「すごっ、最新型じゃないですか‼︎ なんで魔素感知・選別を使わなかったんですか?」
「なんだそれ」
「魔法を使った時に起きる魔素の痕跡を辿ることができるんですよ」
「おい、それ初めて知ったぞ」
「ちゃんと説明書読みましたか?」
「うっ、それは……」
「読んでなかったんでしょう。ここをこうして、ここを押すと」
シシリアは機械を操作する。魔法を使った痕跡を調べるには何を調べたいのか正確に設定しなければいけない。調べるのは魔法の種類、属性。それ以外に時間も設定しなくてはいけない。
「それで、何を調べるんですか?」
「あぁ、ここの屋敷の主ヒートライ・ヤ・ウールダウヌが今朝ここで死体となって発見された。機械で調べるも誰がしたのかわかっていない」
「呪詛を使った魔法とかじゃないんですか?」
「少なくとも発見当時そのような痕跡はなかったそうだ」
「それじゃあこれ起動しますね」
「勝手にしろ」
「残業手当を私は欲します」
「公務員に残業もクソもない。これは自主的な奉仕活動だとでも思っておけ」
「思いっきり国家の利益に関係しています」
「人民の心を落ち着かせるための間違いだろう」
「ああ言えばこう言う」
「ふっ、それが国家てものよ」
「国家権力の犬‼︎」
「給料をもらっておきながら国を貶す反逆者め‼︎」
「いちゃついてないで仕事してください‼︎ 私は有給を返上する羽目になったんですよ」
二人のコントに怒りの思いが限界突破したシシリアの第二の上司でありジラル隊長の部下。通称ーー副隊長(男性)。もはや誰にも本名を覚えてもらっていないというほどの可哀想な人がさらに有給を返上したのだという悲痛な叫びを揚げていた。さすがにこれにはジラルも気まずく思ったのか。普段は言い返すであろう言葉を受け流し素直に従う。どちらが上司か判ったものではない。
「記録は取れたか?」
「これで大丈夫なはずです」
「はず?」
「大丈夫です」
「……それなら、もう部屋に戻るぞ」
「「はい」」
ここにいるシシリア、副隊長は揃ってジラルの腕につかまり特別捜査室へ戻って行った。




