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ユリカ界  作者: 碾貽 恆晟
第1部 2つの勇者の物語
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第2章 嵐の前のプロローグ

第2章始まりました。



 #side サケリウス帝国


 サケリウス帝国、首都イルリアの帝城に隣接されている建物の一つ、最高会議場の中の定期会議室で皇帝、貴族の定期会議が開かれていた。会議室は天井にこれでもかと魔宝石を取り付け、球体になるように配置されている。魔宝石自体はまだ恒星ランヴォが空に昇っているため光を灯していないが、窓から降り注いだ恒星ランヴォの光を反射し、議会室内に光を満遍なく広がらせていた。


 その会議室の最高位の場所に座るのはこの国の帝王ヒーラリル・ミナル・ハーライル・サケリウス。帝族の象徴たる金の髪に瞳、歳を経ていてもなお失うことのない覇気を纏っている。右隣には宰相ミシリイウィ・キーチウ・ハーライル・ミナイール、皇帝と同じ髪色に瞳、線が細く今にも倒れそうに見えるがその金色の瞳は絶えることのない炎を灯している。年の頃は帝王と同じ70代だろう。左隣には皇太子ハシュラート・ミナル・ハーライル・サケリウス、父親譲りの金髪、母親譲りの緑色の瞳、歳は15歳(地球では22歳半)を越えた頃。まだ経験が少ないからか少し頼りなく見えるのは初対面の人だけだろう、なぜなら皇位継承権において弟を舞台に立たせることなく押さえ込むことに成功したのが彼の智略の強かさを物語っている。そして次に目につくのは皇帝の席の下段の場所に他とは一線を画す服を纏う二人。一人は貴族院の議長を務める公爵シャナヒル・ミーウル・ギャ・バージリウム、金髪に金色の瞳、まだ若いながらも風格を漂わせる。もう一人は、白金の髪に白い瞳、穏やかな笑顔を湛えた”聖サケル教”の今代の教主ミャーイリ・ハーライル・ジャエイリが座る。そして、その二人の前には長机がある。その長机を挟むようにして、その二人の横に重役を任された人物が並んでいく。


 帝王ヒーラリルは自分の目の前にある小机の上に置いてある小杯を持ち口に含む。飲み干しはせず小机の上に小杯を戻し、宰相ミシリイウィに目をやり、会議を始めるように促す。


 「全員揃いましたか。それでは、これより定期会議を始めたいと思います」


 宰相ミシリイウィがそう言うと同時に、部屋の脇の机に置かれていた何枚もの紙が浮かび会議をしている人たちの前に飛んでいく。ある者は書類を手に取り、顎にもう片方の手を当て読み耽り。ある者は書類を一瞥しただけで読もうとせず話の続きを待つ。


 「今回の最初の議題について話します。皆様、聞き及んでいると思われますが魔物の大群がムライ都市に襲い掛かった事です」


 「その問題自体は解決しているのだ。何を話すというのだ」


 議員の一人が声を上げる。これが許されるのは定期会議だけだ。理由は他の会議と違い形式というのが存在しないからだ。もちろん、最低限やってはいけない事はあるが、発言をするのも挙手などは必要ないし、また一切の発言をしない事で後ろ指さされることもない。この会議において最も重要視される事は情報の共有だからだろう。初代帝王から始まり、この会議は絶える事なく続いているのは格式張ったを好まないサケリウス帝国独自の気風があっていたのも一役かっている事は想像に難くない。


 「この魔物の大群が襲来した事で一番問題にするべき事は都市の結界が殆ど意味をなさなかった事です。どこから魔物が出てきたのは未だ分からないのですから情報部の怠慢と断じる事はできません。大規模転移魔法でも使った痕跡も、ダンジョンがある様子もないのですから魔王が十中八九関わっているのは間違いないと考えられますが、魔王の非常識さは過去を振り返っても分かる通り、考えるだけ無駄です」


 「確かにそうだが、結界をどうしろというのだ」


 「それを今からみなさんで考えなくてはいけないのです」


 結界ーーこの星において都市、街を覆うほどの結界で使われているのは大きく三つに分かれる。一つ目は攻撃をそのまま防ぐ物、防ぐ事に特化した結界。二つ目は攻撃を反射させる物、攻撃を反射させる、大抵は空に反射させる事が多いい。三つ目は攻撃を取り込む物、物理、魔法問わず結界に使われる魔素として分解・吸収する。どれも許容範囲を超えると結界は壊れるのは察せるだろう。問題は何に重点をおいて選ぶかだ。大抵は三つ目の結界を選ぶ国が多いい。実際この星の3分の2の国はこの結界を使っている。


 「問題はこれからあの様な魔物の大群が出現した時どう対応して結界の部分的破壊もしくは崩壊を防ぐかという事です」


 「それについては大昔に議論し尽くされているだろう」


 「そうです、大昔にはですが」


 「何が言いたい」


 「現在の技術でできる事を考えなくてはいけないと宰相殿は言いたいのだろ?」


 「その通りです。その議論がされたのは1000年も昔の事、今では技術は格段に進歩し昔の考えを修正しなくてはならない時期となりました」


 「ふん、魔物など簡単に倒せる」


 「ムライ都市の人口は20万を超えます。今回の魔物の大群の襲来で命を落とした民の数は1000を超えました。これで簡単に倒せるというのですか?」


 「俺が出れば簡単に片がつく」


 今いる者は全員がこの脳筋がと思ったのだろう、数名がその物言いに突っ込む。


 「貴方の部隊が出動して解決しました、ではいけないのですよ。どの都市・街でも貴方の言うように簡単に魔物の大群を追い返せるような方法がなければいけないのです」


 「そうです、貴方がすぐ出動できるとも限らないのですから」


 「そもそも、お前が転移で行くにしてもだ。どれだけ時間がかかると思っているのだ。出動のための書類審査などもあるのだぞ」


 「緊急時には効果をなさなかったと思うが?」


 反論する大将軍に突っ込む統帥、高等官達。


 「それは帝都がそうなった時だけだ‼︎」


 「少しは自分に関わりのある法律ぐらい覚えろ」


 「まったく、これだから文官の苦労を知らぬ者は」


 辛辣な言葉が怒涛の如く大将軍の口を塞ぐ。遂には


 「なぜ彼が大将軍になれたのか」


 と嘆く者まで出た。


 「会議は踊る、されど進まずとまでは言わないが会議が進まない事は同じだな」


 帝王が一言そう宣うと一瞬で沈黙が場を支配する。


 「それで、建設的な意見を思いついた者はいるか?」


 誰一人として口を開く者はなく皆一様に考え込むようにして思い思いの考えに引き込もろうとする中一人声を上げた人がいた。


 「この問題は結界を壊されない事が目的なのですよね?」


 「そうだな」


 「では、結界そのものについて考えるのですか?それとも結界を壊されないような設備を新たに作るということですか?」


 「両方だ。その中から最も技術、予算的に実現可能で実用性の高い物を選ぶのだ。もちろんこの場ですぐ思いつく物も少ないだろう。今後、議題にすることがあるということなので持ち返って双方検討しておくように」


 「それはありがたいですね」


 「それでは次の議題に行きます。前の議題に関係が完全にないとは言えないことです。新たな”聖”勇者についてです」


 「見つかったのだから取り立てて騒ぐようなことわないでしょう?」


 「いえ、”聖”勇者ーー名前はフォールティア・ナータリウヌ、あのナータリウヌ家の次男です。更には5歳でありながら魔王の幹部級と思われる魔物の撃破。早急に彼の待遇を決めなければいけません」


 「なるようになるだろ」


 「教会に預けるだけでいいかということです」


 「ウチが信用できないのかね?」


 これまで一言も口を開かなかった教主ミャーイリが不服を全面に出した声を発する。鷹のように鋭く白い瞳が宰相を睨む。


 「信用はしておりますが、これからの”聖”勇者の思考について一番影響を持つのがそちらとなると、こちらが”聖”勇者を信用できなくなりますので」


 「そのために勇者を学園に通わせているのだろう?」


 「今代の”聖”勇者はそれだけではなく何かこちらが信用に足りることを追加させていただきたいのですよ。それほどにナータリウヌ家の影響力は『別にそちらにいようが何も変わりません』と一蹴できるようなことではないのですよ。あなたもそれは解るでしょう?」


 「そうですね、彼はあの歳で考えると強すぎる。さらには我が国最大の武器卸しの商人の次男。家族関係も悪くないという噂ですしね。これからどう化けるか判らない者には早めに首輪を着けておかなければいけないという訳ですか。しかし、何か方法があるのですか?もう考えているのでしょう。教えてくださいよ」


 「彼には国直属の近衛兵などをつける予定です」


 「それを私に承認して欲しいと」


 「話が早くて助かりますな」


 「ふむ、その位ならいいだろう」


 「そうですか。では次の議題に移りましょうか。最近活発になってきている属国や近隣国についてですが……」



_____________________________________




 #side パーゴジウム王国



 時の刻は陰日の3時頃。パーゴジウム王国の王城にて国王ジャーマイルと宰相ルイミナルが執務室にてもはや定期的になっている密談をしていた。


 「……それで、聖女が”氷”以外の属性を持つ加護持ちを見つけたと?」


 「そう聞き及んでいます」


 「その場で追いかけることは?」


 「人混みに紛れて何処かへ行ってしまったようです。しかし、いくつか無視できない情報を入手することができたようです」


 「どのような情報だ」


 「人間であるならば背丈からしてまだ成人をしていないと思われる。けれどとっくに魂観を受け取る時期は過ぎていると」


 「なに⁉︎」


 「謎が深まったようなものです。一体どこにいたのやら、服装からして旅人か社会の闇に生きるものでしょう。でなければ説明がつきません。まぁ人間の場合という前提の上に成り立った憶測ですが」


 「王都にいたとなるとどこにいたのか。聖女がいたのはどこなのだ?」


 「大通りだそうです」


 「そうか」


 顎に手を当て思考の渦に入り込もうとした国王ジャーマイルを宰相ルイミナルは流し目しながら手元の通信機を眺める。そのとき通信機に光がついた。


 「結果は」


 通信機に喋りかけ返答を待つ宰相ルイミナル。耳には通信機に対応している聴機から声が溢れる。しかしその声は宰相の耳にしか届かず国王ジャーマイルは聞き取れなかった。報告を聞いた宰相ルイミナルは口元を綻ばせ国王ジャーマイルに言う。


 「クラミャール王女の奪還に成功したそうです」


 「容体は?」


 「精密な検査はまだですが、傷一つなく魔法の類も掛けられていないようです」


 「そうか」


 「あの国とも長い間小競り合いが続いていましたがそろそろ終わりが近いでしょうか」


 「そうしたいものだ」


 「そうですな」


 「何はともあれ朗報がきたのだ。今は素直に喜ぶとしよう」


 そう言って国王ジャーマイルは小杯にワインを注ぐ。


 「朗報というよりは我が国の諜報の力が衰えていないという再確認程度でしたでしょう」


 国王ジャーマイルから渡されたワインボトルを手に取り自分の小杯に注ぐ宰相ルイミナル。


 「そのために泳がしていたのだからな。さすがにクラミャールを攫われたときは焦ったがな」


 「それだけオリラ国も追い詰められてきているのでしょう」


 「……歴史が動くな」


 「簡単に片付いてくれれば嬉しいのですが」


 「そうはならないだろう。破王のこともある。これからどう世界が動くのかは神ですら知らないであろうからな」


 「そうですね。厄介なものです。できればもっと楽ができる時代に生まれたかったですな」


 「はっはっはっ。そうだな」


 「本当にそうですよ」


 そう言いながら二人は小杯を持ち上げ乾杯をする。直接小杯同士を打つけてはいないので音はならなかった。小杯を傾けワインを飲む二人には好々爺のするような笑顔があった。

次回も一週間後かな……?

予定→1月4日になると思います。

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