第1章 1話
誤字報告お願いします。
出来るだけ直します。
狭い袋の中、ぬるま湯に浸かっている気分だった。いや実際そうなのかもしれないし、違うのかもしれない。自分の自我がこの体に根づいてからどの位経ったのは判らないが自分がどうしてここにいるか思い出しながら状況を整理した。まず、自分は転生した、神の使いと名乗る者ーー天使(仮)によって。自分には使命のような物を命ぜられた『魔王を殺害』と。これは避けては通れない道だろう。神の使いの言い回しから察するに魔王は星を壊すことができると考えていた方がいいだろう。もしそれが本当ならば考えなければいけないことがいくつか存在する。魔王というのはどのような存在かということだ。残念なことに今このよく解らない状況ではこれは保留だろう。そして、よく解らないと言っているがこの状況についてだがいくつかの可能性は思いついている。まず一つ目、俺が転生していることを大前提として考えるならばぬるま湯に浸かっている感覚、狭く袋に入っていること、今気づいたが、ヘソに何やらへんな感じがする。……あっ、これは母体の中だと思ったのは最後のが決め手になった。
その後の俺の思考の切り替えは早かった。『母体の中にいるのに魔王についてウダウダ考えてられるか‼︎‼︎‼︎‼︎』ということだ。もちろんいま俺がいる世界に魔王が存在していて厄災を振りまいていることは想像に難くない。だがそれとこれとは別のことだ。俺ができることなんてたかが知れている。なんてったって胎児だ、赤子ですらない。現在の発育状況についてはよくわからないが地球の時間換算だと8ヶ月を過ぎたころだとは判断できるがあとどの位で生まれるために行動を開始すればいいかは不明。幸いなことに臍の緒が首に絡まったりはしている感覚がないのが唯一喜べることだ。
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あれから、意識は浮上しては落ち、浮上しては落ちを繰り返して十数回。どの位経ったのかわからないが、そろそろこの母胎内からも出ていかなければならない時が迫ってきた。それなりに気に入っていたこの生活(?)からもおさらばしなければならないとは、食っちゃ寝ならぬ寝っちゃ寝だったがそれなりに良かったのに。なんでだって?それは出産された方がいいって本能的なものが囁いているからだ。囁いているっていうかそろそろ出ないとあとが怖いっていうかなんというか、俺と同じ胎児も同じようなことを考えるのだろうか、などと考えながら俺は最初の一歩(?)を踏み出したというか動き出した。
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疲れる。必死になってやっと頭が出ただけって。母胎の収縮に合わせて外へ出る。1mmぐらいはいまので出たか?どっちにしろまだ半分以上残っているし……。けど頭は出たんだから後は楽(だと思いたい)。その後も出ないと死ぬぐらいの気持ちで頑張った。いやマジで出ないと母胎の負担が激しくて母親(まだ顔見てないけど)が死んでしまうかもしれない。手を動かし方が出た後は簡単だった。すぐに上半身がでると娑婆に出られた。娑婆というのは違うか?まぁ自由な世界という点では合ってるだろう。後少しだと思い下半身を出そうとすると、助産師の人と思わしき人が俺の脇に手を回して引き抜いたというか取り出した。本当に助産師なのかそれ以外の誰かなのかはわからないがここは喜んでおこう。
「ああぁ~~ん あぁああ~~~ん」
俺は泣きたくなったので泣いた。正確に言うと泣かなければいけない気がした。言い訳に聞こえるかもしれないけど泣かないように肺とか胸に力を入れたら泣かなかったと思うよ。今は泣いているけど。けど意外と疲れる。あれだな、泣くときは泣きたくないのに泣きたくなる、けどここまで大声で自分が泣かなければいけない理由はなんなんだろう。
解:赤ん坊だから。
これがしっくり来る。なんてくだらないことを考えていると今度は眠くなった。はぁ、赤ん坊って以外と疲れるんだななどと思っているうちに俺の意識は落ちた。
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周りの風景がわからない。赤ん坊のときは目が見えないというが本当だったんだなと一人納得している。生まれてからいろいろなことがあった。まだ意識がはっきりした回数は3回程度だというのに。けどこの3回の間に俺は違和を感じた。前世では感じなかった血の流れのようなもの。脈が拍動しているように、普段は気にしないようなものが体の中を移動する。けどなんとなく地球にはなくてこの世界にはあるもの、魔法を使うためのもとがあるのは理解できた。というかそうあって欲しいと願っている。違うとかいうことになったら俺は泣くぞ。本当に泣くかはそのときにならないと判らないが。
話を戻して、不思議なことだが胎内のときはこの魔法の元は感じられなかった。理由はわからないが今は感じられるのだから修行をしようと思った。
ここで疑問だ、魔法の元、仮に元魔とでも名ずけるが、こんなものをどうやって鍛えるかということだ。元魔について自分がわかってることは少ない。そう、全身の体内と体外を行き来しているということ位だ。『全身』ここ重要。体を這い回っている水を思い浮かべて欲しい。ああ言う感じなのだ。それが一日中(もちろんそんな長い間起きてはいられないが)起きる度に慣れない感覚に悩まされている。そして遂に4回目に意識が覚醒した時(今)、僕は決心した。慣れるよりなれろ。僕は修行を始めることを決意したというわけだ。
けれどその前に、食事の時間が来た。
「∂†∫˜©π∂˚˚†˙˚∂ƒ˙π˚†√./“º“-≠πー」
多分「いっぱい飲むんだよ~」とか「元気だね~」とか言っているんだろう。母乳は少し甘く感じるからいいんだけど、最初の方は血のような味がしたのでびっくりした。もちろん今はしない。なんで血の味なんてしたんだろう?どうせ考えても解らないので放置。ということで母乳を飲むということについては現状には慣れてきた(毒されてきた)。なんで味覚があるんだって?知るか。あるからある、それでいいじゃないか。
もちろん不満はこれだけじゃなくていろいろあるけど次に挙げるとしたら、自分の体なのに自分の思い通りには動かないことだ。まだ筋肉が付いていないし骨も柔らかいだろう。だから動く時も慎重にしないといけない(動かなければいいだろという言い分には賛成はするが実行せず)。そんな日々が続くのは気分のいいものじゃない。けれど、時間が経てば慣れてくる。どうせ時間が解決してくれるのだからと思って考えるのを随分前に放棄した。これは決して負けたのではない、戦略的撤退というやつだとかなんとか言い訳する相手もいないのに言い訳する俺って……悲しいやつにしか見えない。
きりがついたのでまずは魔素を操ることから始めようと思う。魔王とやらを倒すのに使える物は使っておいて損はない。本当は暇に耐えかねたというのは誰にも言えない秘密だ。さてと、魔素に意識を戻そう。まずは指先の魔素を操ることから始める。集めて、圧縮、伸ばして、薄く。あら、以外と簡単にできた。だけど、これは体感的にというだけで、実際にこれでどうこうできるわけではない。なのでこれからは(暇なので)修行を日課にしようと思う。
それからの日々は天真爛漫に過ごーーせるわけもなく、いじめだった。日に日に意識を保てる時間は長くなったことによってーー糞尿は垂れ流し、お腹が空くと勝手に泣きたくなる、という現実を直視させられることになった。唯一の救いは、母乳を飲むときはなんとも思わないということ。理由は簡単、見えもしない、だいいちお腹が減っているんだからそんなことに気を配っている暇はない。そう現在のように。
まぁ、そんな些事は置いておいて。魔法を使うためのもとーー魔素の話だ、これがいろいろ試してみると判ったが非常に役にたった。魔素を感知できるようになったら周りの物の位置がなんとなくだがわかるようになった。ただこれは本当になんとなくなので色なんてわからないし細かい形もわからない。けれど自分が今どんな部屋にいるのかは予想できる。魔素で感知するときの感覚は熱感知みたい。空気と物で魔素の温度が違うように雰囲気が違うのでそれに注目してだいたいの形を理解する。
最近は全体的に魔素を感じるんじゃなくて特定の場所に注目している。そうすると魔素のいろいろな違いがわかってきた。体内の魔素、体外の魔素。特に体外の魔素は物に宿っているのかいろいろな種類があって感知するのに飽きない。しかもこのおかげで人の区別ができるようになったのだ。二人しかいないので判らないが、人にはそれぞれ独自の魔素を持っている。なので最近は意識しないでもどちらが来たのかわかるようになった。
さてと、次の話へ行こう。俺が今いるのは赤ん坊を寝かすにはそれなりに大きい部屋。これだけで我が家は貧乏でなくお金持ちの部類に入ることがわかる。でなきゃ赤ん坊に一つの部屋を使わせることなんてできない。しかも俺が今寝かせられているのはベビーベッドだ。不思議なことにベビーベッドの魔素と壁や床、天井などの魔素がほぼ全て違う。材質が違うから魔素の雰囲気が違うのかなと考えている。ということはこれを極めれば目で物を見るよりも詳細にその場所把握することができると思い、気持ちを新たに魔素の違いが判るように努力することにした。
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魔素に気を取られていてあまり考えていなかったが、俺が知っている家族は記憶のある限り二人しかいない。普段俺が意識を保っているとき部屋に入って来たり、もともと、いたりする人と母乳をくれる人。前者は使用人か可能性は低いが家族の誰か(我が家が裕福と予想されることから)、後者は多分僕の母親か乳母だと思う。
何故そんことを考えているんだって?それはだな、今俺のほっぺたをぷにぷに、ぷにぷに触っている奴がいるからだよ。背丈は使用人か母(乳母)より半分もない位。髪が長いことから女子と予想することができる。
別にそれだけなら良いんだが、いや……よくはないがそれよりも俺は言いたいことがあるんだよ。そのほっぺたを弄っている女子の後ろに、3人程いる。一人は魔素の雰囲気からしていつもの使用人、もう二人、背丈はもその女子よりも高い。よって年上と判断できるわけだ。それでだ何が言いたいかというと、そいつらがその女子の行い(ほっぺたを突く行為)を止めないことにある。解ると思うが俺の言いたいことは一つ。
止めろよ‼︎
なんで傍観してるんだよ。この女子、最初は優しく突いていたはずが途中から遠慮がなくなってるぞ‼︎虐待だ‼︎
それから体感的にして優に数時間後、地獄のほっぺた突きも終わった。それなのにまだいる兄&姉と思わしき人達。片方は髪が伸びていることから女子と断定できる。もう片方は髪は短いから男子だと思う。魔素で探ると、彼・彼女らはベビーベットの柵の上から俺を眺めている。俺を見て何が楽しいのだろう、はっきり言って鬱陶しい。3対の目がこちらを見ていると思うと自然体ではいられない。確かに赤ちゃんを見るのは飽きないのかもしれない。けれど、いざ自分の身になってみると解る。これほど苛つくものだったとは……。
「©ˆ∂øπ˙π∂˚ß´®øˆ¬¨o©t˙ˆ©∂y∞•£™¡ªº˚¥∆,“®,˜」
なんか兄と思わしき人がしゃべり始めたんですけど。
「¬†≤ƒˆ˙ƒ…˚©˚π˙˚˚©∫π¨©∆∆©˚ø˜µƒ©π∂ƒ≈」
追随するようにし、立ち上がって話し出す姉と思わしき人(大)。
「ƒ¨˙˚ˆøˆåˆπ∂œø“©π∫ π∫√“ƒ©.‥」
答える兄と思わしき人。
「π˙˚¥,ƒ˜˚π∫˜∂®πø∂˙πø˜˙ƒ©k˙ƒ©˙π∂†ø˙jº†∂®˙t∂π∫∂©˜∫√∫∂ƒ©」
なにかが気に食わなかったのか立ち上がり指を突き出している姉と思わしき人(小)。
こういう時は無視して寝ることが最良の逃げ道だ。ということでさようなら兄&姉よ……。
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朝日だ。最近は魔素で光の強弱がわかるようになった。というより昼と夜で空気中の魔素の雰囲気が違うことがわかった。このことによって判ったことがある。俺、夜起きるの多くない?ということに。一般的な赤ちゃんの起きる頻度なんて知らないが2回3回と連続して夜起きるってないよね?しかも毎回毎回母乳が欲しくて泣いてるんだけどちゃんと母(乳母)は来るんだよ。罪悪感が半端ない。しょうがないんだよ。お腹が空いているんだもの。と言い訳する相手もいないのに言い訳する俺……悲しい。
そんな夜だけれど、魔素の雰囲気はなんとなく好きだ。日中の魔素は元気というか動き回っているけど、夜はあんま魔素が動かないからかもしれない。落ち着くというかなんというか、暖かいものに包み込まれている感じ。だから僕は安心して寝返りを打って行動をすることができるというわけだ。
何が安心かって?この包み込まれている感じがする時は俺は無敵なのだ(メンタルが)。今では筋肉も骨もある程度頑丈なので自分で動く分には何も影響もないので寝返りをうつと普段見えないものが見える。例えば、窓と思わしき四角い枠。ここは周りの材質とは違う魔素の雰囲気だから判るのだが、そこは外側に出っ張っていて、花が置いている。毎日変わるのを魔素を感知して確かめるのがここ最近の日課。最近ではわざわざ顔を向けなくても感知できるようになったんだけど細かいとこまでは判らない。いつか真後ろでも詳細に感知できるようになりたいと思っている。
今日はそれと並行して体内の魔素を体外でも自由に動かすことをやってみようと思う。前はそこに魔素があると言うことしか判らなかったが、魔素を感知する技術を得た今ではなんとなく魔素を自由に体外でも動かす為の糸口はつかめた。どんな物であれ魔素を少しだけ取り入れたり排出したりしている。えっ、どうして判ったんだって?なにもすることがなく天井を眺めていたからだよこん畜生‼︎
おっと、取り乱してしまった。まぁ、そんなこんなで俺は魔素を操ることから始めることにした。手から出ている魔素に量を足していくイメージでやってみた。少しずつだが出せる量が増えていっているーー微々たる量だが。だるくなってきたところで止める。時間はある、急がずゆっくりやっていこうと思う。さてと、だるいし疲れたので寝るしよう。
I’ll be back. そんなくだらないこと思いながら俺は眠りについた。
どうでもいいと思うかもしれませんが、作者は母乳ではなく、乳製品しか飲んだことしかないらしいです。