第1章 15話
誤字報告お願いします。
出来るだけ直します。
#side フォールティア
宿屋、『一時の楽園』の400号室の最奥室で1週間の半分以上を特にこれといったことはせず過ごした。もちろん、ずっと部屋の中にいたわけではないので、外に出たりもしている。そうして、僕は公園の噴水の端の石に腰を掛けていた。全ての迷える子羊が行き着く憩いの場の一つ。空は青く雲一つない。時は2月頃、少し肌寒いのは服を重ねていないからだろう。屋根上に散乱していた魔物の死体は撤去され、血や死臭の匂い一つしない。平和の場と言えるであろう場所で姿勢を変える。具体的には噴水の端に腰だけでなく足を乗せそのまま体を倒す。隣には噴水の水音を聞きながる考える。今日はなにしようと。
『一時の楽園』と言う、聞き様によってはとても物騒な宿屋から出て少し歩いたところの公園に来た時はヴォリオアナトリカ(北東)に見えていた恒星ランヴォも、今では空の頂点に近い場所に在る。公園を歩き回り、噴水に腰掛けたというわけだ。足を伸ばしたり曲げたりして取り留めのない思考に身を任せ、一つ欠伸をする。
「今代の”聖”勇者は公園でなにをしているんですか?」
目の前には僕より少し年上7歳(地球では10歳半)ほどの女の子がいた。金の髪に金の瞳、肌は白いけど真っ白っていう感じではなく、薄桜色。容姿は整っていて、おっとりとした雰囲気を持っていた。服装は教会の関係者が来ていそうな所謂修道服、いやシスター服(?)と思わしいが世界が違うからか普通の修道服とはずいぶん違う。白を基調とした修道服の袖口や胴着の首元の先には白金の布が使われている。白いヴェールも顔にかかる部分は白金だ。目立ちやがりですか?とつい聴きたくなった。言わないけど。
「平和を満喫しているんですけど?」
「……平和をですか」
「数日前に魔物と戦ったのでは?」
「だから?」
「平和を実感できるんですの?」
「逆だよ、戦闘があったからこそ平和を謳歌できるんだよ」
「そうですか」
「……ところで、誰?」
「今更ですね。私はオラリエムイ・ポラストウルスと言います。今代の聖女です」
「今代……マジ?」
「マジです」
それからの僕の行動は速かった、即行で前で組んでいた手を横に移動させ、足を曲げ立ちやすいように上げ勢いよく下ろす、それと同時に、背を曲げ上に勢いをつけて持ち上げ立ち上がる。そのまま噴水の端を駆ける。だが足元に僕もよく足止めに使う聖魔法の”光鎖”が絡みつこうとする。それを跳躍し屋根の上に飛び乗ることで回避する。そしてそのまま屋根の上を移動し『一時の楽園』に帰ろうとすると聖女オラリエムイが飛行して追いかけてくる。もちろん住民の人たちはなんだなんだと僕らを見ている。ここは遠回りをしてでも逃げようとして道路へ降りた瞬間、肩に手を置かれて……
「少し話を聞こうか」
問答無用で連れてかれ、警邏隊の人に怒られた。聖女様と一緒に。ザマァ見ろ聖女。街中で魔法なんか使うからだ。
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そして先ほどとは違う公園の長椅子で聖女と隣り合わせで座る
「とんでもないことをしてくれたな、聖女様」
「それはそちらもでは無いの?」
「僕は君から逃げただけだ、よって僕に非はない」
「私は勝手に逃げようとした勇者をとっ捕まえようと魔術を使っただけです。悪いのは逃げたそちらでしょう?」
「異議あり」
「被告人の告訴は不当で、事実性に欠けることから取り下げてください」
「裁判長にそのような権限は無い」
「だって私、最高裁判長ですもの。その権限を有しているのですよ?口を慎みなさい」
「最高裁判長はそんな上から目線で言わない」
「あら、それではあなたの視野が狭かったのですわ。勉強になりましたね」
「ふっそんなことに僕が屈すると?」
「どうするのです?」
「僕はこの国に反逆するよ。人道を踏みにじり、権力を不当に行使する腐った権力者……お前を扱き下ろすために‼︎」
「一生あがいて暮らしなさい」
「その必要は無い。お前を扱き下ろすだけなら簡単だ」
「どうするのです」
「これは蓄音機だ。聴くがいい」
魔道具の蓄音機から音がなる。
『だって私、最高裁判長ですもの。その権限を有しているのですよ?口を慎みなさい』
「これを聞いたら人々はどう思うだろうな?」
「……用意がいいですね」
「そうだろ、必需品だ」
「蓄音機がですか?」
「いつも僕が持っていると知っていれば改竄された内容でも白は黒になり黒は白になる。ふっふっふっ」
「最低ですね。勇者の風上にも置け無いですね」
「どうとでも言うといい。この人類社会においてどれだけ相手に嘘を事実のように語るかが重要だ。もしくは99%の事実に1%の嘘だ。この使い分けで相手を推し量れる、相手が兎か龍かを」
「最初とずいぶん口調が変わってますね」
「あっ、つい地が出ちゃった」
「可愛い風に言ってても騙され無いわよ?」
「てへっ」
「なに舌出してるの」
「可愛くない?」
「それは可愛いけど……」
「でしょう〜」
「はっ」
「はっ?」
「乗せられた」
「や〜い」
「っ、この」
「で、聖女様は一体なんでここにきてるの?」
「急に話題を変えましてね」
やはり流しに弱い聖女様は乗せることが出来た。
「ここにきたのは、今回の魔物の襲来で聖サケル教会が民の気持ちを盛り上げるために呼び出されたのが私ーー聖女ということです。勇者と聖女がいたら気分が上がりません?」
「知らないけど?」
「そういうものなんです」
「君はひとの心をそう簡単に量れるほど人生経験が豊富なのかい?」
「他のひとが言っていたの」
「他のひとが言っていたことをまるで自分が考えたように言ってたんだ。ふ〜ん」
「なによ」
「いや、僕はもう帰るよ」
「そう、また明日の式典で」
「また明日」
これが僕と聖女の初めての出会いだった。けど、印象悪いと思うけど、聖女様とはどういう関係になるんだろう?考えても仕方がないので保留にすることにした。
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ーーside オラリエムイ・ポラストウルス
は〜。もう陰日だというのに陽日の疲れが残っています。ことの起こりは領主様に『勇者様に会っては?』とこちらに転移陣で来てすぐ言われ、場所を教えてもらい行ってみましたが、あれが勇者ですか。確かにどこか人外めいた雰囲気を持っていましたし、何よりあの容姿。浮世離れしたあの容姿はいつまでも見ていると心を掴まされそうでした。あの全てを見透すような水色の瞳、人とは思えないようなほど白い髪。その白はあらゆる束縛から解放されたかのような単色。しかも、地顔まで美人ときた。いや、どちらかというと美女なのでしょうか?どちらにしても女泣かせになることが予想できる顔でした。私が同じ歳だった頃だったらなにかとんでもないことでも口走っていたでしょう。2歳長く生きて良かったですね。
立ち振る舞いから見ても、あのほっそりとした体型からはありえないようなーー屋根の上に飛び乗るという曲芸を披露して見せてくれました。魔技で体を強化しているのも理由の一つでしょうが身のこなしは達人といってもなんら問題なさそうです。なぜ今代の勇者を聖サケル様が教会に保護の神託を下さなかったのかがよく解りました。教会では、彼の家庭教師をしていたという聖サケリウス帝国最強の魔導師と鬼剣を連れてくるのは無理でしょうから。いいえ、できてもしないでしょう。教会のプライドで。いえ、建前は聖職者(神殿に所属する人のみを指す)以外の人が勇者の世話をするのは神の意思に反するとかなんとか言うでしょうが。
判ったのは彼が噂の飛行する魔物を消し飛ばしたとか、魔王幹部級の化け物が為すすべなく倒されたとか、眉唾なものばかりですし、現場での聞き込みでも同じようなことになっていることからなにか行き違いがあったのではと思われていましたが、全てが間違いではないとゆうことでしょう。
”聖”勇者は今同じの4階の最奥室にいるそうなので、会おうと思えば会えますが。さっき会ったばかりなので会おうとは思いません。どうせこれから嫌になる程顔を会わせることになるのでしょうから。日課の今日の振り返りが終わったので私はベッドで寝ることにしました。すぅ〜、お休みなさい。また明日。
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#side ナタイ・カータル
「仕事の変更だ」
そうナタイの義父のフイラーミが切り出した。
「どう?」
「今回の仕事は明日お前がやるはずだった仕事の依頼を出した方の人間だ」
「情報は?」
「ヒートライ・ヤ・ウールダウヌ侯爵だ。場所はこの資料に載ってある。ここで読んだらすぐ燃やせ」
「はい」
資料を見ながらナタイは計画を組み立てる。
「期間が明日まで?」
「そうなっているな」
「今日やるの?」
「可能ならな」
「無理」
「では明日やるんだな」
「……解った」
そう言うとナタイは紙を火に焼べ、部屋を出た。自分の部屋に帰りながらナタイは考えた。一体なぜ仕事の内容が変わったのか。いくつか思いつくことはあるがどれも確証が持てないことばかり。思考が堂々巡りをしそうなので早々と考えるのを放棄しナタイはどうやってやるかを考えた。
部屋に戻りベッドに横になり、仕事は今回ぶっつけ本番でやらなければならないことは決定事項、明日になってすぐに対象者について回り隙を窺うしかない。そう結論付け明日すぐ起きれるように眠ることにした。
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ーーside クラミャール・ウルイ・ヤ・パーゴジウム
することもなく椅子に座り本を読む。二日前に読み始めた分厚い本はあと数ページで読み終わる。書いている内容は前年に発表されたの魔法についての研究報告だ。それを纏めて解りやすくしたのが今年に出たというわけである。この書物を出したのはウィールス民主主義国。国名からわかるように民主主義国で、もっとも学問が進んだ国と言われている。最大の理由は天に届くかと思うほどの高さを誇る魔道具。この世界の知識全てを内包しても有り余る情報の容量があるとまで謳われる。それは新しいものを作ることはできないが保存し、整理するという点では右に出るものがない。
最後のページを読み終え、顔を上げる。いつも通りの部屋が広がっていた。光を発する魔道具のシャンデリア、天井に描かれている自然の風景の絵、壁は身の花・茎・葉の絵、豪華な装飾が施された椅子や机、あって当たり前のもの。けれどどれだけの人の努力の果てにこのようなものが出来ているのだろう。どれだけの人がこのようなものを欲しがっているのだろう。私は欲しいと思ったこともなく最初から当たり前のように置かれていたものを。
本を手前の机の上に置いて最近出たという小説に手を取った。
トン
扉の近くで音がした。なにか落ちたのかなと思いそちらを向くとそこには赤い血溜まりが広がっていた。扉の前に控えていた侍女の血が。体は倒れており首から上がなかった。視線を下に向ければ首が転がっている。見たものを理解するのに時間がかかった。
「ひっ……」
悍ましい光景だった。死ということに対して私はあまりに無知で、遠く離れたところに存在するものだと思っていた。私は死というものを知ることはないとすら思っていたのかもしれない。実際、私は死というものを身近に感じることになっただけで、私自身は死んでもいないし傷一つ付いていない。目の前に突きつけられている刃物が私を刺さない限り。
「まだ成人前とは聞いていたが、小さいな」
「おい、無駄話をしている時間はないぞ。ささっと拘束して連れてこい」
「解ってるって」
そう言って彼は魔道具で私の体を動けないようにして肩の上に担いだ。彼は私を担いだまま窓を蹴破った。”時”魔法の”時間固定”が掛かっている窓を。そして彼はそこから飛び降りた。そのまま私の意識は薄くなっていき最後には闇に飲まれた。
えっ⁉︎ クラミャール・ウルイ・ヤ・パーゴジウム(王女)が誰かわからない?
→12話をよく読んでください。