第1章 14話
誤字報告お願いします。
出来るだけ直します。
#side フォールティア
戦闘が終わったので剣を拾い、近くの倒木に腰をかけていると、恒星ランヴォは地平線に隠れている部分はなくなり空には夜の名残は無くなっていた。特にすることがなく空を眺めていると、魔物たちと戦闘をしていた馬に乗っている騎士団(?)の一人がこちらに向かってくる。
「私はムライ都市の師団長の少将ハシャイバ・メギュリウスと言う」
白髪の整った顔の男で白い瞳に白い肌、軍服すら白いときた。後ろで戦っていた騎士団(?)の人も同じ服だから制服なのだろう。いや、師団長って言っていたから騎士団じゃなくて国軍かもしれないが。その出世コースまっしぐらの男、顔も多分だが女の人が見たらキャーキャー騒ぐような容姿なのだろう。リア充って奴だ、初めて見た。それとも僕もリア充に入るのだろうか?そう考えながらしっかりと返答する。
「フォールティア・ナータリウヌです」
「君が勇者か」
「そうらしいですね」
「ついてこい」
「なぜ?」
「いろいろあるのだよ」
「そうですか」
ここで押し問答をしても意味はないだろうし何か勝手に動いた苦情かな?やってしまった感はある。だけど外壁の前で待っていたら被害の大きい魔術など使おうものなら悲惨なことになっていただろうし……。あそこで打って出たのはいい判断だと思うのだが。
ハシャイバ少将は馬に乗ったままムライ都市の方へ行っている。乗せてくれたりしないんですかと言いたくなったが子供を乗せる気にならなかったのだろうか。それとも男を乗せたくなかったのかと思ってしまったのは僕の偏見か?そうだといいなと思ったのは秘密だ。だってもしもそうだったらハシャイバ少将は女好きか人嫌いということだ。まぁこれから接点が少なくなるならどうでもいいけど。
他の騎士団(?)の人や魔法使い、冒険者の人は戦後処理をしている。竜の死体を綺麗にしたり、ゴブリンやオークを燃やしたり大変そうだ。門は石で出来ていた。紋様が扉のちょうど真ん中に描かれておりそれを囲うようにしてもいくつもの模様が装飾されていた。荘厳という言葉がしっくりきそうな門だった。
僕が門に圧倒されているというのに、ハシャイバ少将はこちらをチラッと見て「速く来い」と言ってムライ都市の門をくぐって行った。置いていかれては嫌なので付いていく。そういえば聖騎士団の人達はどうしたのだろう、戦場にはいなかったしなどと考えながらハシャイバ少将の後を付いていく。街並みはオマラリ都市に比べると可哀想だから言わないが、それなりに発展しているのだろう跡が見受けられる。なぜかって?ムライ都市には大量の魔物の死体が転がっていたからさ。道路上からは魔物の死体は撤去されたのだろうが、屋根の上からぶら下がっている魔物の死体、滴る赤や緑の血が放置されたままの状態になっている。ムワッとする鼻に詰まる血の濃厚な匂い。道路上の死体を取り払っても残る死臭。
そんな悲惨な状況の街中を5回ほど曲り角を曲がった後、ハシャイバ少将はこの街の中でも上位から数えたほうが速いであろう木造の屋敷、もしくは役所に着いた。そこでハシャイバ少将はその建物の大きい出入り口から小走りで走ってきた若い同じ職場の人思われる人に馬の手綱を渡しこちらを向いてきた。
「ここは街の役所だ。お前は決して騒ぐな、走るな、俺の後ろから離れるな」
「はい」
心のこもっていない返事をしたのがいけなかったのかハシャイバ少将は胡散臭げな目でこちらを見た。それでも何か言っても時間の無駄だと思ったのか踵を返して役所の中に入っていった。
役所の中は豪華でもなければ汚れが目立つでもない、質素な感じだった。入ってすぐ前に受付があり出入り口との間には何も置いていない。けれど右を向けば椅子が置いてあり左を見れば奥へと続いていた。受付の女性の人はハシャイバ少将を見ると一瞬手を止めたがすぐに仕事を続け、男の人はチラッと見るとあからさまに気分を硬化させ舌打ちをつく人もいれば、姿を見ても完全に無視する人と両極端だった。ハシャイバ少将が必要最低限しか人に関わらないことが予想される光景だ。それともこれは僕の偏見か?あまり話さない男に神秘さと秘密めいたことを空想し、姦しく騒ぐ女性に、それが気に入らない男性という構図ではと邪推する僕の考えは。
くだらない空想をしている間にどんどん左の廊下へ先にいくハシャイバ少将を早足で追いながら周りを見る。木造でできている屋敷は中までも木造だった。いくつもの扉がありプレートが掛かっている。たまに人が出たり入ったりしている。一つ目の曲り角を曲がったと思うと前には階段があった。それをハシャイバ少将は躊躇うこともなく上がっていく。ギシギシと階段の木が軋む音が鳴る。これでもしも魔道具の光がなかったら肝試しをしている気分になるのだろうかと考える。階段が終わり廊下が続いている。廊下を歩くいて真っ直ぐ行くと突き当たりについた。曲がり角はなく異様な雰囲気を漂わせているように感じるのはなぜだろう。
「ハシャイバです」
ハシャイバ少将が扉を叩いて言う。
「入っていいよ」
ハシャイバ少将は扉に手をかけ開ける。扉は内側ではなく外側のこちら側に開いた。ハシャイバ少将は先に入るように目で促す。中では三人の男女がコの字になって座っていた。入って右の長椅子に座っていたのは首都イルリアへまで僕の護衛をしてくれている聖騎士団の副団長のガイラル。入って左はこれも男性でほっそりとした体型。赤髪に青の瞳、容姿は特徴がなく、一回面と向かって話しても数日したら思い出せないように思えた。そして前方には同じく赤髪で美人の女性、瞳まで赤だった。雰囲気は勝気の強そうな女性に見える鋭い眼光がこちらを睨む。はっきり言って怖い。あの四つ首の竜よりも絶対怖いと思うのは僕くらいだろうか?もしかしたら怖いじゃなくて苦手の方がしっくりくるかもしれないが。
「君が勇者か」
「……そうですが」
「なんと言う名だ?」
「勇者の名前も調べられないのですか?それと、先に名乗るのが礼儀では?」
多分だがこの人はシーオンネイス家の当主だろう。冒険者の多いいムライ都市の領主が女性だったのが印象的で覚えている。べつに女性が当主をやっているのは多くはないが数人いる。それでも普通に森に出て馬を駆けて魔物をバッサバッサと薙ぎ倒していると聞いたときは呆れたものだ。確か名前は……
「そうか。では名乗ろうマーニミウ・ウェラル・シーオンネイスだ」
『ウェラル』というのはサケリウス帝国の女性貴族で当主になった人に付けられる敬称だ。ちなみに男性だと『ウラル』となる。とこの情報からでイメージカラーは真っ赤なマーニミウさんはムライ都市の領主だということがわかった。これで何も言わなかったら後が怖いのでちゃんと返答する。
「……”聖”勇者フォールティア・ナータリウヌです」
「さてと、なぜここに呼んだのかというとだ。一つ目は魔物の大群相手に戦ってくれた感謝だ。君がいなかったらもっと酷い損害を被っていただろうし、死人の数が2桁は増えてしまうところだったかもしれない。まずはそれについて助力をしてくれたことに感謝するよ」
「気持ちは貰っておきますよ」
「ここからはしてほしいことなのだが領民の前に顔を出してもらえないか?」
「なぜです?」
どうせ魔物に怯えている領民の心を落ち着かせるとかだろうけど。
「いまわが領は空からの魔物が結界を破壊して街中に入っていることが影響で殆どの人は慌てていたり、打ち拉がれている。その心を少しでも軽くしたいのだよ。新しい勇者が誕生したということの宣伝を兼ねて。これは教会も許可している」
「教会は勇者の戦闘能力で公表する時期を考えているのでは?」
「それはもちろんこの国は勇者の出現頻度が高いから強くなるまで待つってこともあるけど君は一人で魔王の幹部に入れるレベルの魔物を2体同時に相手をしてその後も同レベルの魔物を1体倒しただろう、これだけできるんだから魔王はもう普通に戦える実力を持っているということだよ。君の年齢で、しかも魔物の大群が現れたのに引かずに打って出るなんて」
「普通でしょう?」
「普通?君の言う普通が何基準か知らないが本当の普通というのは魔物の大群が現れたら逃げるか、恐怖で体が硬直するかのことだよ。さすがの私でもあんな魔物の大群が現れたら逃げるね」
「あなたの普通は解りました。しかし、襲ってきたり殴ってきたもしくはしようとしている奴がいたらやり返すか、やる前にやるでしょう?それと同じですよ。しかも”聖”勇者っていうご大層な看板まで背負ってるんですから」
「……勇者でも最初は恐怖心やらを感じるのだが」
なにやら頭を抱えている領主さんは一旦無視して左側に座っている男の方を向く。ニコニコとこちらの会話の応酬を見ていた彼は僕がこちらを向いたのに気付いたのか挨拶をする。
「初めまして。私はムライ都市の冒険者ギルド長を務めておりますジャイラー・フイズイーラと申します」
「これはご丁寧に、聞いたと思いますが”聖”勇者フォールティア・ナータリウヌです」
「先ほど領主様が言ったと思いますが魔物の大群から生き残ったことなどを感謝する式典なようなものをやろうと言う話が持ち上がっていまして、それに勇者様に出てきてほしいというわけです。具体的には1週間後になると思いますが」
「それは予定的に大丈夫なのですか?」
「はい、それはさっき確認したばかりです。首都も今回の魔物の大群の襲来で業務が忙しいので国王は”聖”勇者との謁見が直ぐには難しいとのことでして1週間程度なら待ってもらってくれた方が、首都で手持ち無沙汰になるよりは良いのではとのことです」
「そういうことでしたら」
「それではまず滞在場所の宿をとってありますのでそこで疲れを癒していただければと思います。場所は聖騎士団と同じなのでガイラル殿に案内を任せます」
「承りました。それでは勇者様こちらへ」
僕はガイラルさんに連れられて部屋を出た。宿はそれなりに豪華な家々が立ち並ぶ場所に来た。多分貴族街の近くなのだろう領主のマーニミウさんが住んでいるであろうムライ都市最大の屋敷以上の土地の広さ、大きさ、4階まであろう高さを誇る宿だった。なにの素材で出来ているかは判らないが高級感漂っている、見る方向が変わるたび色合いを変える黒い大理石のような石畳。それは出入り口から、屋敷の開け放された扉の奥とを繋いでいる。その屋敷は全体的に清潔感があふれている鳥の子色の外壁に、所々に中黄色の模様や生物が装飾がされている。だからなのか開け放たれた扉の前に来ると厳かな雰囲気を感じた。僕の実家は装飾より実利を重んじているからか、ただ派手なのが嫌いなのかここまで飾り付けられて、豪華さを前面に出した建物は見ていない。見入っている僕を放置してガイラルさんは中へと入ってしまった。遅れて迷わないように付いていく。
「お帰りですか」
受付の人がガイラルさんに向かっていった。多分一度ここに来たのだろう。決して僕は僕が戦闘していた時この女の人と話していたのかなどとは思っていないぞと考えていると。ガイラルさんに鍵を差し出された。
「これが部屋の鍵だ。部屋番号は400の最奥室だ」
「ありがとうございます」
「用があったら呼びに行くし、俺逹の部屋ーー401室まで呼びにきても良い」
「解りました」
ガイラルさんはこの宿の従業員さんに何かを頼んでいる。多分もう行っていいのだろうと思い階段を探す。
「階段ってどこにあるんですか?」
部屋の脇で待機をしている従業員さんに聞く。
「この宿には普段は階を昇り降りできる魔道具があるのです。もちろん非常用階段もありますが。その魔道具が使われているのはあの扉です」
指を指されたところには銀色の装飾が施されている白の扉があった。扉が横に開き人が出て行く。ちょうど良いので中に入る。中は円形の足場に周りは白色の壁、乗り込んだ中にはと女の従業員の人がいた。
「何階にお泊まりですか?」
「……4階です」
そう言うと女の従業員の人はその魔道具の操作部分を弄ると上へと上がっていく感覚がした。少し待つと魔道具は止まり扉が開いた。
「4階です」
従業員の人が言う。僕はエレベーターのような魔道具から出ると広間のような場所にでた。一本道なので部屋番号を確認しながら進む。だが悲しいかな401から405のように数字は増えて行くのであって400などという部屋番号は見つからず突き当たりの廊下で見つけた。他の扉とは取っ手や扉の形に沿うようにしている金属の部分の装飾が良くなっていた。
鍵を差し込み開ける。魔力を少し奪われたが開けるのに使ったのだろう。中の部屋は豪華だったが少し奥に見えたベッドを見ると周りを確認する気も失せたので、そのままベッドへダイブをし寝ることにした。確認したところで豪華だという以外自分に解ることはないのだから。
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#side ナタイ
「明後日は仕事?」
シィがそう聞いてきた。今いるのは自分がいつもいる実家(?)の屋根の上。満天の星空に見入っていたナタイは視線を声を発した相手ーーシィへと向ける。どこか愁いを浮かばせた彼女の顔を見た。
「そうだよ」
「ねぇ」
「なに?」
「ナタイはさ、うちがここに来た時にはもう仕事をやっててさ、どこか遠いところにいる人のように見えたんだ。だけど、他の人と違ってどこか達観した目をしてたんだ。他の仕事をしている人はどこか諦めた目をしてたり、心のどこかが破綻しているような人ばっかで、いまここにいることを許容しているんだ。君は違かった。若かったっていうのもあるけどいまでもそれが変わっていないから私の考えは間違ってなかったんだなって思ったんだ」
そこで彼女はいったん区切った。いい表現が思い浮かばないのか空に視線を動かし少し首を傾げた後、空を見たまま言葉を紡ぐ。
「それは君が他の誰よりも強いことだと思った。なにが起きても絶対に諦めない心っていうのかな。そういうのがあるんだなって思ったんだ」
「シィはなにが言いたいの?」
「なんでかな?なぜかいま言いたくなったんだ。けど強いて言えばナタイ、迷ってるでしょう?だから少しでも後押しできないかなって思ったんだ」
そういって晴れやかな笑顔を湛えて空に向いていた顔をナタイにシィは向けた。
「迷ってる……。そうかもね、僕は迷っている」
「なにに?」
「いまの仕事に」
「どうして?」
「お父さんも祖父さんもやっていた仕事。けどふと考えたんだ。これは正しいことなのかなって。他の道もあったんじゃないのかって思うんだ」
「他の道」
「もしかしたらその道は現実から目を背けることかもしれない。けどそうしたほうがいい時もあるっていうことは嫌という程知ってきた。そしてこれからもずっと向き合わなくてはいけないもの。いつまでも続く血に塗れた道。この道を僕は歩き続けることができるのかって考えたんだ」
「結論は」
「何事も為さなければ判らないということが解った」
「そう」
「というかシィも明後日は仕事でしょ?」
「いいのよ私はナタイよりは簡単な仕事だから」
「そう思ってると足を掬われるよ」
「そうだね。気を引き締めないとね」
二人の会話はそこで途切れた。見つめ合っていた二人はナタイが視線を再び夜空へと向けたことで自然とシィも同じ方向を向いた。満天の星空、クラミの黄色で冷たく澄んだ光が二人を照らしていた。
そろそろ第1章の修正を始めようと思います。
読みにくいところ、話が判りにくいところがありましたら感想などで教えていただけると幸いです。