第1章 13話
誤字報告お願いします。
出来るだけ直します。
#side フォールティア
魔物の大群が目の前に迫ってきている。草が足に触れる。風が頬を撫でる。魔物が声をあげる。全てが手に取るようにわかる。心地よい緊張感。よく感知してみたら判る、魔物は不思議な魔力を出してる。これが多分魔物の体力をあげたりしているのだろう。もしかしたら、強さも上がっているのかもしれない。僕は”混沌結界”を展開した。半径は僕の背丈2人分ぐらい。イーザ先生やイバリ先生のときより結界を大きくしたのは、魔物が大きいのが多いいからだ。初めの挨拶代わりに”混沌波”を放つ。”混沌砲”が収束させたエネルギーなら”混沌波”は全方位に展開させてエネルギーを放っている。今回、”混沌波”は全方位じゃなくて前方だけど。
けれど、やはり”混沌波”で魔物達に死なすことも怪我をさせることもできなかった。そのかわり、僕に魔物達が注意を向けた。本当の狙いはこれ、”混沌波”でもちょっとした嫌がらせぐらいしかできないことは最初から解っていた。こっちに注意が向いてくれればよかったのだから。”混沌結界”で”混沌”属性だが”魔素は調達できるので魔力切れの心配する必要はない。
空を飛んでいる魔物がムライ都市の上空を舞っている。そのため、ムライ都市の魔法使いは空の魔物に手を取られて地上の魔物を倒すことができていない。なので、いま見える前方の範囲内の空を飛ぶ魔物に”混沌”と”虚”を混ぜ合わせて作った”虚淵”を全力で放つ。それはまるで一本の黒い柱のように見えただろう。”虚淵”は地上から離れたところから行使したので、地上には一切被害がないが、空には”虚淵”が穿ったところだけ魔物が一匹残らず消し飛んでいた。しかし、空を飛ぶ魔物が空いた場所にその空間を埋めるように移動していた。
一方地上の魔物は結界に入れないようにしているわけではないのでこれでもかというほど入ってくる。ゴブリンやオークなどの人型で弱点の判りやすい魔物は首でも刎ねればいいが、虫のような急所が判りにくい魔物は”混沌弾丸”や”混沌槍”、”混沌剣”で3等分に切り分けたり、蜂の巣のように穴を開けてやったりと殺すのが大変だ。倒した後に魔物の魔素が結界に吸収されて”混沌”属性に変換しているのに魔素の減る量が多い。仕方がないので、”混沌纏”で肉体を強化するだけで、放出系の魔法は使わないことにする。ゴブリンの体を真っ二つにし、剣を返すようにしてオークの首を刎ねる。上から飛び掛かってくるカナブンのような虫を縦に斬り捨てる。両脇から虫が飛び出してきた、片方の頭に”混沌波”を放ちつつを足蹴にし、飛び上がる。”混沌”属性を”聖”属性に近づけ、一つ一つの威力を圧縮し高め無数の光の雨を降らす。光の雨は魔物たちの体を貫き絶命に追いやっていく。
”混沌”の属性は不変的のように見えて、干渉すれば”聖”や”魔”の属性に近づけることができる。空から魔物が僕に向かって降りてきた。しょうがないのである魔法を使うことにした。即興で編み上げた魔法だ。結界内の魔素を全てかき集めて収束させて、放つ。それは空に昇っていく体の太い白い龍のようだった。魔法の効果は空の魔物にぶつかっただけでは終わらない。ぶつかった光線は魔物の体を塵へと変えただけでなく、方向を変える。それは空に円形の光の漣を作り広がっていく。空の上、魔法が通り過ぎた跡には魔法に耐えられた一握りの魔物しか残っていない。その魔物でさえ身体中に傷跡が見える。けれど一匹、森の上にでとんでいる魔物だけは違った。4つの首を持つ大きい竜。首下の体には”魔”属性の魔素が大量に溢れていた。そして異様なのはその可視化している魔素から、魔物が生まれ落ちていることだ。この存在に気づかなかったのは空の魔物とその竜の魔物の魔素が同じだったからだろう。竜の魔物の身体中から魔物が這い出すようにして魔物が生まれている光景は異常の一言に尽きる。
厄介なのが出てきたと思った。あれの魔力が尽きない限り空を舞う魔物は増え続けるということがよくわかる光景だった。魔物が増えないためにはあれを速く倒さなければいけないようだ。”混沌砲(聖)”をその竜に向かって放つ。光の軌道を描き竜の体を飲み込む魔法は”混沌”を”聖”属性の”魔”を打ち払う力の比重を重くしたためあの魔物の”魔”属性の魔素を消し飛ばしただけでなく、魔素で覆われていなかった3つの頭をまるで焼いたように爛れさせた。魔素が吹き飛ばされたからか魔物は這い出てこなくなり下半身が見えた爬虫類のように4足で、鱗があり尻尾は首より長いと言う外見をしている。
その竜の魔物はこちらに向かって残りの1つの頭で咆哮する。遠目に見ていても爛れていた3つの頭が治っていくのが見える。まるでどこかのラスボスのようだ。だが”混沌”属性の”聖”の力に比重を置くことでダメージを増やせることが判った。もっと前に思いついていれば付け焼き刃で特攻する必要はなかったのにと心から思う。そう切実に。
空歩と結界の併合魔術で持って空を駆け上がる。剣には”混沌纏(聖)”を纏わせ、右手でしっかり握り、左手は添えるようにして右下に構える。体に纏っていた”混沌纏”を”混沌纏(聖)”に変えて速度を上げる。焼け爛れていた3つの竜の頭はほとんど癒っておりこちらを向いて歯を剥き出しにして威嚇をしている。それだけではない、口元に大量の魔力を溜めている。ブレスーー”属性波”でも打つのだろう。流石に4体同時で打たれたのを真正面で受けては敵わないので直線的に動いていたのを止め、少し曲線をつけながら動く。
竜が”属性波”を放とうとする。引きつけたところで横にずれながら結界で”属性波”を反らす。もちろん森の方に、剣を振り切り首に届こうとしたとき、真下からありえないほどの魔力が急速に迫っていた。剣の方向をずらしうまく逃れるように軌道を修正しながら、それでも竜の魔物に傷を付けることも忘れない。全ての首を刎ねることは出来なかったが、2本の首を刎ねることができた。そのまま空中で姿勢を整えて魔力を放ったものを見た。
それは虫だった。兜虫のような外見だが色は黒だけではなく所々に白色のメッシュのようのものが入っていた。2対の羽で羽ばたくその虫は竜よりは小さかったが、それでも3分の1ほどの大きさはあった。
2対1、戦いが長引けばこちらが不利になる。今の所一番威力がある”虚淵”を自分の体を中心として渦巻く水をイメージして行使する。黒く暗き魔力の渦は溢れ出る水のように少しずつその場を渦巻く。空気を虚無へと返し、空気の渦さえ引き起こす。自分を中心として引っ張られるように。竜と虫の魔物は危険を感じ取ったのか逃げようとするが空気の渦に翻弄され思ったように飛ぶことが敵わず次第に”虚淵”の蝕むところへ引き寄せられる。
最初に”虚淵”に触れたのは竜の魔物だった。触れた場所は最初から何もなかったかのように消し去った。虫の魔物も為す術もなく体を”虚淵”によって消し去られた。一方的な虐殺だった。そこにいたのは叫び踠くもできることはなく唯々(ただただ)死を待つだけの存在となった魔物だった。”虚淵”の魔法は竜と虫の魔物を飲み込んだと同時に消えて無くなった。
もう”虚淵”を使う必要のない魔物しか残っていないことを祈りながら空歩と結界の併合魔術で地上に降りる。地上ではムライ都市の騎士と思わしき人達が魔物を倒し、駆けていた。そのとき、
ドスン
ドスン
バキバキバキバキ
地を揺らし、木をなぎ倒しその木の丈ほどある魔物は森から戦場の平原に現れた。頭には王冠のようにいくつもある角。それ以外はオークの外見と酷似していた。実際オークの上位種なのだろう。他の騎士なども驚いているがちらほら「あれはオークの上位種のオークエンペラー」などと聞こえる。
『ガアアァァァァァァァァァァァァァ』
オークエンペラーとやらが咆哮する。というか唾を飛ばすな。汚いだろう。当たらなかったから良かったものの、これだからオークはなどと下らないことを考える。だがその強さは本物。なぜなら、尋常ではない魔力を纏っていることが判る。普段の自分の魔力では上だ。普段だったら、だが。そう今僕はこれまでの戦闘で大量に魔力を消耗した。特に4つ首の青い竜と黒と白のメッシュが入った兜虫を倒すために”虚淵”を使ったため、魔力はおおよそ3分の1まで減っている。けど戦わない訳にはいかないだろう。せっかくここまで頑張ったのだ、あとちょっとだと思って剣を構える。
”混沌結界”を張り、”混沌弾丸”をオークエンペラーに機関銃のように打ちまくる。体を貫通させることはできなかったが、傷をつけることはできた。僕はここで武技を使うことにした。武技は身体、剣に魔力を纏うことで起こす必殺技といってもいい。イーザ先生とイバリ先生と実戦訓練をした時はイバリ先生は使いまくっていて僕も対応せざるをえなかったけど普通は基本技以外は技名を言ったりする。僕も奥義とかじゃないと技名を言ったりはしない。けどこれは訓練として使うには向かない。理由は木剣が耐えられる魔力配分をしないと木剣が割れたり、弾けたりしてしまう。けれど、今僕が持っているのはイバリ先生がくれた真剣。全力で魔力を込めてもビクともしなかった。その剣にとても薄く、結界を張るようにして覆い、オークエンペラーと対峙する。
オークエンペラーは目の前の人が自分を傷付けたものだと判った。片手に持っている金棒を地面に叩きつけ咆哮を上げた。
『グオォォォォォォ』
そのまま、体を屈めその人間に向かって駆け出す。金棒を持っている手とは反対側の肩の上まで上げ、体に大量の魔力を纏い肉体の強度と体力を底上げし、突貫する。
『ゴガアアアァァァァァァァァァァァ』
その咆哮は魔力が込められた一種の波動といってもいいものだった。叩きつけられる波動を無視し迎え撃つ。剣を脇の高さまで上げ、オークエンペラーの攻撃範囲に入ったところで武技を振るう。武技の最上位に位置する”奥義”の下位にあたる”絶技”の一つ”断絶”。あらゆるものを全てを斬り伏せる技に”混沌纏”の剣はオークエンペラーの金棒をいとも容易くーーそうまるでバターのように斬って退けた。そして振り切った剣を返してもう一つの武技、”絶技”の繋ぎ技の”返し波”。その”返し波”は前に使った武技の威力を殺さずに返す技で、繋ぎ方はどの武技を使うかによって変わるためあらゆる体制を考慮しなくてはならない。なので体の動かし方一つで威力が殺されてしまう危険があるので完璧に使いこなせる人は少ない。イバリ先生でも「俺は”返し波”が苦手だ」という。しかも、その上には”奥義”の繋ぎ技”反技”がある。
そして僕の振るった”返し波”はオークエンペラーの金棒をさっきまで持っていた片腕を斬り飛ばーーさなかった。オークエンペラーの強化された肉体強度と魔力で阻まれた。そう、見ていた人の全員が思っていただろう。しかし、オークエンペラーの肉体には時間差で傷でもついたのかと思うように一筋の切り傷ができた。
”混沌剣”で本物の剣を纏わせ連続してオークエンペラーの肩の場所に攻撃をした僕は斬り飛ばせなかったことを残念に思いながらオークエンペラーが拳を振り被ったので退避する。その間にオークエンペラーの切り傷は何もなかったかのように塞がった。
「これは面倒だね」
僕は”虚”魔術でオークエンペラーに移動していない僕を見せ前方へ注意を向かせ、後ろに回る。そしてオークエンペラーの首に”奥義”の”筋斬り”を振るう。”筋斬り”は”断絶”の強化版といったところでやっていることはほとんど変わらない。ただ一つ違うのは”筋斬り”は決まった場所、筋にそって振るうことが付け足されるだけなのだが、これが難しい。長年研鑽を積んだ人だと、どこでも筋になるから斬れないところなしに成るんだけど、僕はそこまでじゃない。慎重にかつ大胆に、勢い良く振るった剣はオークエンペラーの首を撥ね飛ばした。
そうして、オークエンペラーは死んだーーはずだった。剣を仕舞おうとしていた僕はオークエンペラーが倒れずに拳を振り下ろした。攻撃を避けるも剣を落としてしまった。これまでの人生最大の失点だと思うが、僕にはイバリ先生の教えて貰った雷炎剣(仮)、正式名称は”属性剣”がある。”虚淵”で”属性剣”を作り出す。残りの魔力はないからこれで止めを刺せなかったら終わりだ。これに”奥義”の連撃技”八連”。名前の通り8回連続して斬る技。一振りで右腕、二振りで左足、三振りで右足、四振りで左腕を斬り飛ばし、五振りで再生しかけていた頭を撥ね飛ばし、六振から八振りで体を四つに斬り分ける。最後に”浄化の炎”という”聖”属性魔術を行使し肉体に宿っている魔素を正常に戻す。
平原と森は蹂躙され、見るも無惨な光景が広がっていた。草原に生えていた草は踏みにじられ、森の木々は倒されている。要塞には魔物の死骸が所々落ちていた。空はいつの間にか白み始め、恒星ランヴォが昇ろうとしていた。
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#side ナタイ
恒星ランヴォが地上に顔を見せ始め空は黒から青に移り変わろうとしている。冷え切った陽日。道路は凍結しているところが見受けられる。そんな朝方のこと。パーゴジウム王国の貴族街、それなりの大きさを誇っている家の一つ。深緋色屋根に女郎花 (おみなえし)色の外壁。その家の地下で3人の男がいた。
「あの件は、闇ギルドに依頼したか?」
一人目の男がいった。横に長い体型ーー肥ったその男は、金銀の装飾のある服装を見ただけで貴族、もしくはそれに準ずる地位に立っていると一目でわかる。煙草を吹かしている唇は出っ張り、鼻は低く、
「はい、ちゃんとやっております」
二人目の男が答える。こちらは肉付きが良いことが全身に纏った黒い服にコートの上でも窺える。立ち振る舞いから戦いを専門としている職についていることが判る。
「バレることはないんだな?」
「闇ギルドですよ。あういうのは信用が第一ですから」
「そうか、作戦は?」
「少し早めることになりました」
「何かあったのか?」
「いえ、準備が早く整っただけのことです。実行はいつでも出来るようになっておりますし」
「そうか、いつだ」
「二日後です」
「わかった」
「それでは、吉報をお持ちしますよ」
そういうと男はまるでそこに最初からいなかったように消えた。
「ふん、あやつめが調子に乗りよって。不快だな、なにが『吉報をお持ちします』だ」
貴族、もしくはそれに準ずる地位に立っている人物(貴族街にいることから貴族と判る)の後ろに控えていた三人目の男がそれに答える。
「彼らは実際そう思っているのでしょう」
「ふん」
つまらなそうに鼻を鳴らし背後に控えていた男を流し見て、机に置いてあったワイングラスを持ち口につけ一気に飲み干す。ワイングラスを机に置くと’タン’とこ気味良い音を立てた。
「戻る」
「自室ですか?」
「そうだ」
「お伴します」
「いらん」
ーーふん、忌々しいーー
ーー俺は敬われるべき存在なんだーー
ーーどいつもこいつも俺を馬鹿にしやがって、俺は侯爵なんだぞーー
ーー表面的になにをいっていようと心の中ではそういうやつらばかりーー
ーー今に見ていろ、見返してやるからなーー
背後に控えていた男が扉を開ける。扉を出るとすぐ前に階段に出る。その階段は石をいくつも並べてつくられており、左右には魔道具の光が灯してあり足元が見えるようになっていた。その光を頼りに侯爵ヒートライ・ヤ・ウールダウヌはその階段を上っていった。コツコツと足音を鳴らしてーー。
戦闘シーンが意外と早く終わった。