第1章 11話
誤字報告お願いします。
出来るだけ直します。
#side フォールティア
首都イルリアに行く当日の陽日、2時(陽日も陰日も10時間で1日)に教会からナータリウヌ家の前に馬車が来た。今の俺の服装は服なのに鎧と同じ強度になる魔法陣を付けているらしい。ちなみに魔法陣というのは魔力の効率が良い陣を記して、魔力の消費量を削減するためのもので、普段僕とかイーザ先生が使っていたのが意思魔術のこと。魔法陣は意思魔術と違って意思を魔素に込めるだけでいいが意思魔法は魔素に意思を込めてさらに魔素の動きまで扱わないといけない。まあ纏めると、魔法陣は時間がかかり魔術を発動したあとの改変が出来ないが安定性がある、意思魔法は安定性はないが魔術を発動したあとでも改変ができるという長所、短所がある。そんなイーザ先生の地獄の勉強で覚えたことを思い出していると話しかけられた。
「この度は、”聖”勇者様を首都イルリアに連れて行くことを任命されました。ガイラル・イーヌリアと申します」
「よろしくお願いします」
来たのは、聖サケル教会の聖騎士団の副団長とその部下5名。馬に乗っているのが2人、馬車に乗っているのが3人、副団長の人を合わせて計6名。いずれも立ち振る舞いから見て聖教会の聖騎士団かと納得出来る腕前のようだ。イバリ先生ほどではないのはやはり鬼剣なんて呼ばれるだけの実力があるということだろう。けれど、副団長のガイラルはやはり部下より抜きん出て強者のソレを持っていた。容姿は特にこれといった特徴のない普通の人と称するべきだろう。蒸栗色の髪に楊梅色の瞳。背は高くもなく低くもなく、平均的と言えるだろう。
「それでは」
と言い、馬車の扉を開けるガイラル。僕は後ろを振り向いた。父、母、ファー兄、ハー姉、シャー姉、ミナリー先生、イーザ先生、イバリ先生と僕の家族と家庭教師。他にも使用人のターニャさんなどが見送りに来ていた。僕は手を振って馬車に乗った。行ってきますの挨拶は済ませてあるし、どうせ会おうと思えば会えるんだし。
馬車の中の座席は綿の詰まっているシートがあった。木で出来ていなくてホッとした。もしも木だったらお尻がやばいことになるだろうから。”聖”属性の回復魔術を使えばいいのかもしれないけど、それだけのことに回復魔術を使うのはなんというか恥ずかしいこと間違いない。面白いことに、馬車の天井には光る魔道具があり、馬車内を照らしていた。僕は向かい合った馬車の席の前側の奥に座った。ガイラルは僕の前に座り、もう一人聖騎士団が僕の横に座った。少し待つと馬車が動き出した。
「珍しいですね」
「……僕に言ってるんですか?」
「半分は」
「残り半分は?」
「独り言です」
「そうですか」
沈黙が馬車内を支配した。暇なので魔素感知をしながら馬車外の周りを伺う。今はまだオマラリを出ていないようだ。そろそろ門に着くかなといったところ。窓にカーテンが引いてあるので、肉眼で見えないが魔素感知でどこにいるかわかるというのはいい事がわかったと思う事にしよう。ばれてないよね。チラリと横目でガイラルさんともう一人の聖騎士団の団員ほうを伺う。
「どうしました?」
「いえ、なんでもありません」
「何かあったら言ってくださいよ」
そう言うなら、暇だし質問するか。
「……さっき言っていた珍しいって何がですか?」
「あぁ、その事ですか。私も他の人から聞いただけですが、他の国の勇者で教会は5歳になるまでその勇者の加護を得ている子に対して孤児でもない限り引き取ってはいけないという国があるんですよ。そこの国の人曰く、大抵の勇者は愚図ったり泣いたりするんだって。参考になるかと聞いてみたんだけど当てが外れたなって思ったって事だよ」
「そうですか」
「他に何かあるかい?」
「特にないですが、話さなければいけない事があるなら話してください」
「君は知ってるかもしれないけど、途中で魔物が出たら君にも戦ってもらうけどいいかね」
「足手まといになるんじゃないですか?」
「もしもそうなるような魔物が出たら私たちが対応するので大丈夫ですよ」
「気を引き締めて待ってればいいと」
「そうしてくれると有り難いですね」
「解りました」
話している間に、門の前に着いた見たいだ。馬車が止まって何か外で確認をしているようだ。オマラリを囲う堅牢な外壁を魔素で感知して見る。これを見る事は少なくとも1週間はないだろう。と感慨に耽っているとガイラルさんが言った。
「なぜそれほど落ち着いてられるのですか?」
「僕がですか?」
「はい」
「不思議な事を聞きますね。あなた方にとってこちらの方がいいかと思ったからですよ」
「口で言うのと、実行できるのは違うと思うのですが」
「会おうと思えばいつか会えるでしょう。永遠の別れでもないし」
「そういうものですか?」
「そういうものでは?」
馬車が動き出し、門を出た。門の外は草原が広がっていた。若葉色の草がどこまでも広がっている。目を前に向ければ森が広がっている。石畳が敷かれ整備されている道はその森に続いていた。馬車はガタゴトと音はなるが揺れはせず快適だった。代わり映えのしない景色を見ながらボーッと過ごす。する事はないし魔物の『ま』文字もない、すれ違ったり追い抜いたりする人もいない、大抵は転移門で移動するし、道を使うのは魔物を狩りに行く冒険者ぐらい、その冒険者も道から外れたところで魔物を狩るため道には移動のときぐらいしかいないだろう。平和な景色は終わり森に入った。気配はするがどれもこれも特にこちらには注意を払っていない魔物ばかり。
かれこれ、森に入って1刻ほど、門から出て3刻ほど過ぎたころゴブリンが森の中で待ち構えているのが判った。聖騎士団の人たちも気を張っている。試しに聞いてみた。
「ゴブリンを倒すんですか?」
「判るのか?」
「何言ってんですか?勇者ですよ、僕」
「いや、勇者でもそれは経験を積まないと判らないでしょう。それに、どうしてゴブリンだと?」
「見えるから」
「見える?」
「魔素の流れで判るでしょう?」
「「……」」
なぜかガイラルさんともう一人の聖騎士団の団員が唖然として僕を見ている。
「それで、やるんですか?」
「そうだな、やってもらおう」
「解りました」
僕は席を立ち馬車から降りた。ガイラルさんは他の聖騎士団の団員に僕の邪魔をするなとかなんとか言っている。木の後ろなどに隠れているゴブリンの数はおおよそ10匹。少し奥で待機しているのは20匹ほどいる。計40匹に届くかというぐらい。まずは”聖弾丸”で挨拶代わりに木の後ろに隠れていたゴブリンに当たるように調整してぶっ放した。”聖弾丸”は木を貫通させて狙ったゴブリンを仕留めた。待機していたゴブリンが仲間が倒れたことに気付き襲ってきた。さすがに全て魔術で倒したのでは戦いの空気がわかりにくいかと思い、数を間引くに止める。残りのゴブリンは一撃で決めようと思い剣を抜く。イバリ先生から餞別にくれた剣だ。僕の体の大きさでも振れる大きさと重さだ。別に”混沌纏”を使えば重くても使えるが……。一匹目のゴブリンが斬りかかってくる。それを危な気もなく躱しすれ違いざまに首に剣を当てるようにして刎ねた。あまり力を入れすぎず剣の勢いに任せただけなのに首を刎ねることができたのはこの剣が安物ではないからだろう。そう考えていると2匹のゴブリンが飛び掛かってきた。後退してゴブリンの持っている棍棒を避ける。剣を薙ぎ払い棍棒もろともゴブリンを斬り捨てる。剣の威力が判ったところで残りは殲滅戦。攻めに回り全てのゴブリンの首を斬り飛ばした。
剣に魔力を流してゴブリンの赤い血を振り飛ばし鞘に戻した。意外と人型の魔物を殺したのにあまり良心が痛まないのはゴブリンのいい話を一度も聞いたことがなく、悪いことばかり聞くからだろう。などと自己分析しながら、倒したゴブリンを聖騎士団の人が燃やして処理してくれているのを流し見て馬車へと戻った。
「初戦とは思えませんね」
とガイラルさんが言う
「本当の殺し合いは初めてですよ」
嘘は言っていない。イーザ先生とイバリ先生の実践という名の殺し合いを除けばだが。あれは最後は蘇生されるとわかっていたし。
「とてもそうは思えないのですが」
「僕は事実を言ったまでです」
「そうですか……」
僕は馬車の中に入った。そしてそれについていくるようにガイラルさんが乗ってきた。僕は元いた場所に座った。相も変わらず隣には聖騎士団の団員がいた。
「これからは、ゴブリンが出てきた程度ではあなたに戦闘はさせません」
「いちいち馬車を止めるのも面倒ですし、なによりゴブリンの群れ程度であれば簡単に君は倒せるということがわかったしね」
その言葉通りゴブリンが出てきても僕が出て行くことにはならなかった。時間は9時をすぎた頃。
「そろそろ夜営の準備をするか」
とガイラルさんが言った。そろそろ恒星ランヴォが地に沈もうという頃。多分この世界に来て初めて見た夕日を物珍しそうに眺めている僕の周りでは、夜営のための準備が着々と進んでいた。手持ちぶさたな僕は一番星を探そうと意気込み空を眺めてみた。
その後夜営の準備が終わり、晩御飯の時間になった。堅パンと干し肉、その場で粉を入れて作る温かいスープ(具材無し)があったのが唯一喜ばしいことだった。これに堅パンを漬ければ柔らかくなるのだから。もちろんこれより上級な保存食品もあるが大量生産商品ではないので高いのだという。その後、僕は寝てていいというのでお言葉に甘えて寝ることにした。この時僕は学習した、旅の時に入る布団は芋虫みたいだということを。なんて言うんだろこれ。などと思いながら僕は眠りについた。
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不意に何かがこちらに来ているということに気づいた僕は目を開いて起きた。芋虫みたいな布団から体を出して寝間着を脱いで服を着る。テントから出て森を眺める。外は暗くナツミラーゼが頭上に輝いている。まるでここの場所だけが外界から切り離されたように感じる。それは、静寂か暗闇がこの場を支配しているからだろう。その時、遠くに雲が見えた。夜空の星がその部分だけ雲に覆われていた。けれどよく目を凝らして見たら判る。それは魔物の集団だということが……。
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研究室のような場所で二人の男女がいた。
「ねぇ」
「なんですか?」
「あれだけの廃棄物をどうしたの?」
「ちゃんと活用したのですよ」
「どうしたの?」
「敵の人たちにぶつけて、片付けてもらうようにしたのですよ」
「そのまま敵が負けるとは考えないの?」
「その時はその時ですよ。もしそうなったら敵が減ったと喜べばいいじゃないですか」
「それもそうか。けどどうやって敵にぶつけたのさ?」
「それは転移の術でチョチョイとやったのですよ」
「うまくいくと思うの?」
「少しでも戦力が減ればいい程度ですからね、期待はしてませんよ」
「そう」
二人の会話は途切れ、男がなにかを弄っている音だけが研究室の部屋に響いていた。
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#side ナタイ
ナタイはシィと別れた後、自室には戻らず外に出た。複雑なスラム街の道を歩き大通りに出た。大通りを歩いて数分、ナタイが入った店は食べ物を売っている店だった。ナタイは店の店主の前に来た。
「いらっしゃい。久しぶりだね」
「久しぶりです。いつもと同じのをお願いします」
「ちょっと待ってな」
そう言うと、店主の女性は店の奥に入っていった。少しするといくつか食べ物を持って戻って来た。
「これでいいね」
「はい」
ナタイはそう言うと銅貨を出して机の上に置いた。店主は枚数を確認すると
「行っていいよ」
と言った。ナタイは食べ物ーーチーズ、芋、ネギ(持ちやすい用に切り分けた物)を上着の懐から出した袋に入れて店を出た。大通りを出た後、元来た道を戻り、扉の前で男といつもの確認をし、2階に上がり自室に戻った。買ってきた物を戸棚に入れる。そして、戸棚から古い食べ物をだして、机に並べる。机に並べた食べ物を食べた後、仮眠を取るためナタイは上着を着たままベッドの上に横になった。恒星ランヴォは空の上に輝いていた。
= = = = = =
恒星ランヴォが完全に地に沈んだ頃。ナタイは部屋の窓から出た。”空歩”を使い駆け上がり屋根の上に降り立つ。行く方向を確認し、走り出す。魔術を使い存在をなくす。屋根と屋根の間を”空歩”で走り抜け、スラム街を抜け町人街を抜き、貴族街に着いた。目指しているのはミーナムヌ・ヒールベイル男爵の自宅で、目的は下調べ。”虚”属性でこの世界からの存在を虚にしたためどんな魔道具でも感知するのはほぼ不可能と言っていいナタイは堂々とミーナムヌ・ヒールベイル男爵の自宅に入る。
広い貴族の家の中をブラブラ歩いているナタイは迷うことなく目的の場所についたようだ。一つの扉の前に止まったナタイはそのまま前に踏み出した。すると、ナタイは扉を通り抜け部屋の中に入った。部屋の中にいたのは40歳を越えようかという中年の男性だった。瑠璃色の髪に、白縹色の瞳。顔の彫りは地球の西洋人のように深い。がっしりとした体型で背は高い方だろう。その男は窓から空を見ていた。
「変更、か」
ポツリと呟いた彼の言葉は静かな部屋に響いた。苦渋の決断をしているような彼は、それでも目の光だけは失わずなにかを見ていた。それを見たナタイはなにもせず壁を通り抜けそのまま夜闇に紛れて自分の借り家に戻っていった。自室の空いていた窓を閉めナタイは今度は上着を脱いでベッドに入った。
問題です。
ナタイ・カータルの”仕事”とはなんでしょう?
また、ナタイ・カータルの義父で叔父のフイラーミ・カータルの立場はなんでしょう?
ヒント:9話目と10話目を読み返すとナタイ・カータルの”仕事”は解るでしょうが、フイラーミ・カータルの立場はちょっと予想をいくつか入れないといけないかもしれません。