第1章 10話
誤字報告お願いします。
出来るだけ直します。
#side フォールティア
「今日がお前に教える最後の日だ」
「ということで私たち2人でお前と戦う実戦訓練だ」
「どうしてそうなったんですか?」
「いや、最後くらいは2対1を訓練した方がいいと思い立ち、話し合った結果2人でするのがいいということになったのだ」
「その話し合った結果がこれだと」
「そう言うことだ」
「おうよ、サケリウス帝国最強の魔導師と鬼剣と2対1で戦えるなんざそうそうないことだぞ」
「それに、勇者の力も使って実戦してないだろ。この一週間で”聖”属性の鎖ーー聖鎖の力を使いこなせたのはこれまで魔力の扱いが長けていたお前だからできたのだ。だが、やはりまだ他の魔法と比べると甘い。それをここで私達が弱点などをついてやることで鍛えるということだ」
「もっともなこと言ってますけど僕をボコボコにしたいだけなんじゃないですか?」
「そんなことがあるわけないだろ。決して最近ボロボロになったお前を見る機会が少なくなったからなどという不純な動機などではない」
「自供してますよ」
「それは置いておいて」
「さっさと始めるぞ」
イバリ先生が木剣を抜き、イーザ先生が杖を構える。不承不承、僕は木剣を構えた。
「それでは、始め」
イーザ先生の掛け声と共にイバリ先生が先制攻撃を仕掛けてくる。体を屈め木剣を下に向け、斬り上げて来た。後ろにずれて避けようとするがイーザ先生の”地”属性の魔法で足を固定された。木剣でイバリ先生の木剣の軌道を逸らす。”聖”鎖でイバリ先生の動きを止め、”地”属性の魔術を魔技で砕きイバリ先生に剣を振り下ろす。しかし、イーザ先生の魔術が飛んできたので攻撃を中断して結界と空歩を使って空に逃げる。その間にイーザ先生がイバリ先生の”聖鎖”を”聖”属性の力で解いた。
”聖鎖”は他の属性、一切属性のない魔素には一切干渉されないけど、”聖”属性の魔素を放出されるだけで崩れてしまう。しかし、これを改良すればいいだけの話、”聖”と”魔”の複合属性の”混沌”属性の鎖ーー”混沌鎖”で今度はイーザ先生の動きを止めた。それだけじゃない。”聖鎖”と違い、”混沌鎖”は他の属性から影響を受けるも魔素を吸い取るので魔法を封じることができるのだ。自分以外に使ったのは初めてなので効果のほどは判らないけど。
その間にイバリ先生に”聖”属性の槍や弾丸ーー”聖槍” ”聖弾丸”で攻撃をしながら自分も木剣を使って攻撃をすることにする。恐ろしいことにイバリ先生は笑いながら”聖槍” ”聖弾丸”を斬り払っている。どうやら魔技で木剣に魔素を纏わせて僕の魔術に干渉しているようだ。あたりまえだ、ただの木剣で魔術を切られたら僕のプライドはポッキリ折れてしまう。僕はこれ以上試合を長引かせないように上空から全力で木剣をイバリ先生に振った。これまでで一番速いと思う。逃げられないように”聖槍”で全方位を囲む。そうしたらイバリ先生はとんでもないことをやった。”聖槍”をすべて剣を振り払い、纏っていた魔素で相殺し僕の木剣を防いだのだ。なにこの理不尽。だがただではやられたくないので木剣に”混沌”属性を纏わせ切れ味を増幅させ、イバリ先生の木剣を真っ二つに斬ってやった。これにはイバリ先生も驚いたのか後ろに飛び退る。けれど口には不敵な笑みができただけでなぜか追い詰められた感がするのはなぜだろ。
その時、凄まじい熱気が立ち上った。イーザ先生がなにかやばそうな黒炎を立ち昇らしていた。”混沌鎖”は燃え上がり消えていった。あの黒炎は間違いなく炎の概念魔法の一つだろう。そして嫌なことにイーザ先生も笑っていたのだ。あれ、イーザ先生もイバリ先生も戦闘狂か何かなんですか?と疑問を浮かべながら”混沌鎖”での先端を尖らして攻撃してみる。物の見事に原型を残さず燃え上がった。それなりに魔力を込めたのだが意味がなかったらしい。魔力の量で威力は相対的に上がるんだけどあの黒炎には効かないみたいだ。イーザ先生の魔法属性は事象属性の全六属性の”炎” ”水” ”氷” ”雷” ”地” ”風”と概念属性は”存” ”聖”の二つのみだった。イーザ先生がサケリウス帝国最強の魔導師と謳われるのは事象属性による概念魔術の腕、多彩さによるところが多いい。
「ふふふ、良いぞ、好いぞ。鍛えた甲斐があった」
「イーザ、これはお前だけが鍛えたわけではないぞ」
「そうだったな。つい高ぶってしまってな」
なにが⁉︎なんか怖いので”混沌波”を全力で放ってみた。”風”属性の魔術で相殺される。しょうがないので奥の手・其の1を使うことにする。さっきも使ったが魔術と魔技を合わせた”混沌纏”を木剣に纏わせる。これで相手の魔素を吸収したり、切れ味をよくしたりできる。これまで使ってなかった魔素感知を使い、”混沌纏”を体にする。疲労が回復し、身体能力が向上する。
「フォーティも本気でやってくれるらしいぞ。イバリ、お前も本気を出したらどうだ」
「そうだな」
そう言ってイバリ先生は木剣を捨て、手に大量の魔力を集めだした。できたのは炎と雷の剣。スパークしてるし。
「これでお前を殺れる」
「殺しちゃダメでしょう」
「いいや、大丈夫なのさ。イーザ」
「はいはい」
そうイーザ先生が言った瞬間今まで実戦訓練をしていた石畳を囲うようにして結界が展開した。
「この中だったら死んでもすぐ蘇生ができる」
「これを持ってくるのは大変だったぞ」
そうゆうことですか。前に一度イバリ先生が持ってきたことがあった。あの時散々蘇生させられた。なので、効果のほどは自分の身で持って体験済み。本来は闘技場くらいでしか使わないらしいが。
「これで全力が出せるな」
「さてと、すぐ死ぬようなら何度もやるぞ」
とんでもないことをさらっと言う二人。これが、本性を隠していたということか‼︎やられた。騙された。鬼、無慈悲、惨殺者、快楽殺人者。
そんなことを考えているうちにイバリ先生がスパークしている雷炎剣(仮)を持って攻撃してきた。今の僕の木剣は”混沌”属性のおかげで燃えることはないし、折れることはほとんどないので雷炎剣(仮)と打ち合っても大丈夫なのだ。
雷炎剣(仮)と混沌剣(笑)がぶつかり合う。空中を自由自在に動き攻撃を仕掛ける僕に、雷炎剣(仮)で受け流すイバリ先生。魔素感知でイーザ先生が魔術を打とうとするのを”混沌”魔法の槍や弾丸で邪魔をしながら機会をうかがう。魔力を体内に溜めて魔術の準備をする。詠唱の必要のない僕にはイメージが重要。イーザ先生に向けていた魔術を止め、イバリ先生に魔術を使って距離をとる。考えるのは混沌の渦。虚無に引きずり込むイメージで。
その魔術を使った途端地面が黒く染められた。僕が行使したのは”混沌”属性と”虚”属性の複合技。混沌としたところに虚無を作る。威力や指定範囲を広げればブラックホールのようなことも出来るかもしれない超危険指定の技。それをイバリ先生は空歩で、イーザ先生は”風”属性の空中飛行でやり過ごそうとする。なのでこの魔術を上に押し上げ、結界内に吹き荒れる雪のようにした。今度は飲み込むのではなく、侵食するようにイメージしながら。これは魔術を途中から改変する方法だ。空気中の魔素に干渉できなければこんなことはできない。”虚淵”と名付けた技だ。
魔素でイバリ先生の位置を感知して空歩と結界の応用をして空中を駆けながら攻撃を仕掛ける。理由は単純、イーザ先生は何かよくわからない水の結界で”虚淵”を防いでいるので攻撃はできない。対してイバリ先生は雷炎剣(仮)で防いでいる。狙うなら首だろう。どうせ死なないらしいし。勢いよよく木剣で薙ぎ払ったが防いだと思っただろう。片手で雷炎剣(仮)を円を描くようにして振り回し”虚淵”を防ぎ、もう片手で雷炎剣(仮)を作り僕の攻撃を防ごうとしたということだろう。けれど僕は実際に攻撃したわけじゃない。イバリ先生が雷炎剣で防ごうとしたのは”現世”の幻だった。僕は防御で防ごうとして振り払った雷炎剣(仮)を持って死に体のようになったイバリ先生に混沌剣(笑)で首を刎ねた……はずだった。木剣がイバリ先生の首に触れて止まっていた。その時、僕は魔素感知で後ろからイーザ先生が魔術を飛ばしたのを見た。結界を使ってイーザ先生の魔術を防ぎながらもう一度、今度は混沌剣の切れ味を上昇させ薄く伸ばして切り裂くようにしてやってみた。
「効かねえぞ」
イバリ先生はそう言い切ってきた。しょうがないので”虚淵”纏いバージョンで最後にやってできなかったら放置するつもりでやる。イバリ先生も雷炎剣(仮)を持って対峙する。いい機会だ。散々ボコボコにされた恨みと思い斬り合った。突きが来れば逸らし、振り払って来ればそれをうまく使い攻撃に転じる。イーザ先生はこれでもかというくらい魔術を乱射しているのを結界で防ぎながら斬り結ぶのはとてもではないが嬉しくない。いつ結界が壊れるかわからない程度には強度が落ちてきた。時間がないので攻めに出る。”虚”の属性で何度もタイミングを逃すようにして隙を窺うが1度見たのは2度は食らわないのか、から打っても体制が振れず隙が生まれない。考え事をしていたのでイバリ先生の剣が頬に薄く切り傷をつけた。長年戦った戦闘感には負ける。このままではじりびんなので、取って置きを使うことにした。
雷炎剣(仮)がぶつかり合い軋む。だけど僕の腕は止まらず雷炎剣(仮)を二つに斬り払い、そのままイバリ先生の腹に一本の線をつけた。何をやったのかというと簡単なことで、木剣には”虚淵”を纏いさらに”混沌”をその上から纏わせていざという時にその”混沌”の纏いを解除して”虚淵”を纏わしているところを表面にだす。”虚淵”の纏いは雷炎剣(仮)にも効いたようで、すっぱり斬れた。刃を返すようにしてイバリ先生の首を飛ばす。イバリ先生の体は粒子の光になって消えた。結界の外で蘇生しているだろう。
”虚淵”と僕が張っていた結界が吹き消え、あたりを覆っていた虚淵がなくなったことで視界が広がった。何が起こったのか判らなかった。けど、誰がしたのかは判った。
「フォーティ、甘いね」
「何がですか」
「イバリを倒したのはすごいけど、その時気が緩んだのは戴けないね」
「気が緩みましたか?」
「あぁ。一瞬、お前の魔法のイメージが揺らいだんでそこを突かせてもらったよ。普通にやったんじゃ1時間は解除するのに手間取っただろうけどね」
「それは惜しいことをしました」
「魔王の前でそれをやったら……死ぬよ」
「次がないように努力します」
「そうしな。けどそれと訓練は別だ」
地面から石礫が風で速くなって飛んでくる。空中を駆ける手段があって良かった。じゃないと地上に降りた瞬間に地中に足がずぶりと嵌まるようなこともできるからと思いながら魔素感知をして風の攻撃魔術も避ける。魔素が集まったと思った瞬間、黒炎の竜巻が生まれた。”混沌”を纏って黒炎に触れてもすぐに対処できるようにする。炎が地を這うようにして広がっていく。”虚淵”で迎え撃とうとした時、地を這っていた炎が空気中を駆け上った。蘇生の結界には触れないようにしながらも蘇生の結界内は黒炎で埋め尽くされた。
とっさの判断で”混沌”の纏いを拡張したのでどうにかなった僕だがタイミングが少しでもずれればイバリ先生と同じような末路をたどったことだろう。体内の魔素の量も少なくなってきたので奥の手・其の2を使う。自分の結界内の魔素を”混沌”属性に変える結界を蘇生の結界に重ならないように作った。
「この結界はなんだ?」
「それは見てのお楽しみですよ」
この結界が空気中の魔素を吸い取り”混沌”の属性を付与してから放出する。しかも、この結界は結果の外の魔素も吸い取って中に”混沌”の属性を付与してから放出する。相手が”混沌”の属性を使えなければ、一方的に倒すことができる。これが普通の魔法使いだったら。魔人などとなるとアホみたいに魔力を持っているのでこういうことをしないと勝負にならない。世知辛いと思うかもしれないがこれが一番確実そう思いながら魔術を行使した。”混沌砲”、これは混沌の力をレーザーとして打ち出す僕の必殺技の一つ、ちなみにこの上位の術に”虚淵砲”なんてものがあったりするけど今は魔力を温存するために混沌の魔素を使う。それに混沌の魔素が有り余っているうちに使い切る気構えで全力放射しないとイーザ先生が自分の持っていない属性でも使いそうで怖い。
「随分と鬼畜な魔法だね」
「イーザ先生の性格よりはマシでしょ?」
威力は山一つ消し飛ばすくらいあるエネルギーを結界でやり過ごすイーザ先生に言ってあげた。このまま勝てないかな、などと考えるがそう甘くないのがイーザ先生。結界で”混沌砲”を上に反らして何か魔術を行使しようとしている。僕ももしものために”虚淵砲”の準備をする。
「よく見な、これが氷属性による概念魔法の極致。私が『サケリウス最強の魔導師』を名乗っていられる魔術さ。喰らえ”絶対零度”」
その瞬間、”混沌砲”が止まった。理由はイーザ先生の魔術だ。どうゆう理屈か分からないけど、魔素の動き、光まで止まっている。けれど、僕自身は”混沌纏”で効いていないけど僕の周りの魔素やら元素やらが止まっているから動くだけでも大変だ。鬼畜度でいえばそちらの方がやっぱ上ですよと思いながら”虚淵砲”を発射した。虚淵は全てを飲み込む魔術。イーザ先生の”絶対零度”を打ち破り全てを飲み込んだ。
”虚淵砲”を使ったせいで魔力がほとんどなくなった。5年頑張ってイーザ先生を超える魔力量になったけどまだまだ魔術を使うときのロスがある。それを再認識させられた。
「お前の勝ちか」
イバリ先生が疲れて座り込んだ僕に言った
「お前は私に見せていない魔術を幾つも出して」
「能ある鷹は爪を隠すですよ」
「お前の場合は爪ではなくて世界最終魔法レベルだろ。あの魔術の範囲を限定せずに使ったら国が一つ吹き飛ぶぞ」
「イーザ先生も似たようなものでしょう」
「私は良いんだよ。サケリウス帝国最強の魔導師なんだから」
「それじゃあ、僕も”聖”勇者だから良いんですよ」
「それもそうか。いや、そうかぁ?」
「良いじゃないですかなんだって」
「そういうことにしておこう」
その廻日の陰日は筋肉痛であまり動けなかった。次の日”聖”魔法で治せばよかったと後悔した。
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#side ナタイ
部屋の窓から光が差し込んでいた。光は義父に頼んでおいた小刀に当たり、ナタイは不思議な気分になった。顔に水をかけて寝起きの回っていない頭をシャキッとさせた。戸棚からパンとチーズを取り出して椅子に座って食べる。ポールハンガーに掛けておいたフード付きの上着を着てフードを被る。支度をしているとコンコンと扉を叩く音がした。
「だれ?」
「私でございます」
「あぁ、ハジリ。何の用?」
「旦那様がお呼びです」
「そう判った。今すぐ行けば良いの?」
「はい、連れて来いと言われましたので」
「ちょっと待って」
ナタイは小刀を上着の内ポケットに入れ、扉を開けた。
「それでは行きましょう」
そう、ハジリに言われたので、ナタイは扉を閉じてハジリの後を付いていった。
昨日の陰日と同じ部屋でナタイは彼の義父であり叔父のフイラーミは言った。
「今回の仕事はある人物の抹殺だ」
「誰ですか」
「ミーナムヌ・ヒールベイル、男爵だ。だが一つ条件がある。死体をわかる形で残せということだ」
「死体は見やすいように?」
「あぁ、それで頼む。情報はこの書類に書いてある」
ナタイは書類をとって見始めた。紙を捲る音が部屋に響いた。そうして、数分経ったあと。
「判った」
「3日後までは手を出すな。それまでは準備の期間とする」
「うん」
そう答えてナタイは部屋から出て行った。
「フィラの野郎はなんて言ってたの」
ナタイに声をかけたのは同じ仕事をしている一人。茶色の瞳と髪の女性で、背は低い。髪から覗いている猫の耳は彼女が獣人の猫族だということを判らせる。
「仕事」
その彼女にそっけなく答えるナタイ。
「ねぇねぇ、今日暇?」
「違う」
「そんなことないだろ。最近開いた武器屋があるんだよ。一緒に行こうぜ」
「間に合ってる」
「あぁあぁ、悲しいね。あんな可愛かったのに。お姉さん泣いちゃうよ」
「背の高さが同じくらいになってきている人がお姉さん?」
「なっ、なっ…ナタイ。今君は決して言ってはいけないことを言ったよ。僕は背が低いんじゃない、これが僕の種族じゃ普通なの」
「背が低い」
ぼそっと言ったその言葉が彼女の心に火をつけた。
「君も低いじゃないか」
「僕はまだ成長期だ」
「そうだね〜、精々フィラと同じくらいじゃないの」
「もっと伸びる」
「ふ〜ん、牛乳を飲んだらいいと進言するよ」
「シィもな」
「だから、僕の背の高さはこれが普通なの‼︎」
ナタイはシィを可哀想な人でも見るようにして肩を叩いて、去っていった。
「……なんで可哀想な目で人を見るにゃ〜‼︎」
独り叫ぶシィの声が廊下に響いた。部屋にいる人たちはいつもの事と思って無視を決め込んでいるようだった。それが余計にシィの背に哀愁を漂わせることになるのだった。
ここで第1章終わりでいいのかもしれないですが実際はまだまだ続きますので宜しくお願いします。