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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

初めての地球侵略(入門編)


 暇つぶしに入った駅前の本屋は、俺の行きつけだった。

 いつも通りに、入口付近の新刊がまとめてある棚から順に回って、気になるものを流し読みしたりしながら、奥に進んでいく。

 最奥、大判の画集や図録が置かれている棚にたどり着いたとき、落ち着いた装丁が多いこの棚で、不自然なほどカラフルな本が目に付いた。


『ワークシートで簡単! はじめての地球侵略!! 入門編』


「なんだこれ」


 小学生の頃にやった問題集のような見た目の本。

 チープな背表紙に似合わない物騒なタイトル。

 思わず手に取ったそれを、俺は何も考えずそのまま会計に持って行く。

 店員は愛想よくそして手際よく本をレジに通すと、こちらを向いた電子画面に二千二百円と表示される。

 値段を見ていなかった、思ったより高い。財布の中を見て、顔を上げる。笑顔の店員と目が合って、驚いて思わず、財布の一番端のポケットから一万円札を出してしまった。


「一万円お預かりします」


 このよくわからない本に二千二百円、確実に無駄使いだ。

 店員から受けとった『ワークシートで簡単! はじめての地球侵略!! 入門編』と後悔を手に、俺は家路についた。



 帰宅してすぐに俺は、シャープペンシルと消しゴムを用意して机に向かう。せっかく買った二千二百円、やらないと損だ。


 一ページ目をめくる、こんなものでもしっかりと挨拶文から読みはじめてしまうのは本読みの性分だ。



――――

 本書は地球侵略を考えている方向けの参考書となっています。

 はじめて地球侵略をする方でも楽しく、わかりやすく、続けられることを目的として作成しました。

 本書を手に取ったみなさまがよりよい地球侵略ができることをお祈りしています。


 本書の使い方

 ワークシート形式になっています。

 毎日、四ページずつ、七日間、空欄を埋めて行くだけであら不思議!

 あなただけの侵略計画が完成します。

――――



 胡散臭さを感じながら、次のページをめくった。紙は普通の本より分厚く鉛筆で書きやすそうなザラザラとした質感で、本当に子ども向けの問題集のようだった。



――――

 一日目 地球の事を知ろう

 侵略対象のことを知らずに、侵略したところでうまくいきません。

 まずはデータを集めましょう。

――――



 説明文の下には四角い枠が十個ほど並んでいる。この空欄に地球のデータを書き込むようだ。

 地球の大きさから始まり、大陸面積、土地ごとの気候、生き物の数、地球上に多い生き物、などなど。次のページにも同じように枠が用意されており、合計で五十近く枠が用意されている。


「めんどくさ……」


 これは地球侵略と銘打った知育玩具ではないか。そう思いながらもスマートフォンを片手に枠を埋めていく。

 二千二百円を無駄にしたくない一心だった。七日かけてやるものの様だが、一気にやってしまおう。そう思って、次のページに手をかけた。



――――

 二日目 地球の文明を知ろう

 地球には高度な文明が発達しています。

 これは侵略の大きな壁となるでしょう。

 しっかりと知識を蓄え、文明を味方につけましょう。

――――



「調べ学習だな」


 人類の誕生から、文明の発達、現代までの年表を穴埋め形式で作っていくらしい。文字が細かくそして多いが、中学高校と歴史が好きだった俺はすこし楽しみながら、穴埋めをはじめる。

 取っておいていた高校の教科書やネットを駆使して空欄を埋めきると脳内が達成感でいっぱいになった。



――――

 三日目 地球の資源を知ろう

 侵略には道具が必要です。

 外部から持ってくるよりも、現地調達の方が楽でしょう。

 というわけで、地球で侵略に使えそうなものを考えてみましょう。

――――



「侵略っぽくなってきた」


 ワークシートには、使えそうな地下資源、システム、生物、など細かく分類された枠が用意されていた。


「地下資源、ガスとか……あ、いなごの大量発生って災害なんだよな。で、あとは南極は拠点にしたらバレにくそう」


 意外と埋まっていく空欄に、だんだん楽しくなって来て、わざわざ、このために、神話や伝説を調べ始めた。



――――

 四日目 侵略計画を立ててみよう

 ついに計画を立てはじめます。

 おおまかに始まりから終わりまで立ててみましょう。

 しかし、焦ってはいけませんよ。

 落ち着いて、今まで調べたものだけではなく、新たに知識を加えても構いません。

 まずは、何からしましょうか。

――――



「お、ついに」


 タイムテーブルのようなものがかかれたワークシートには七日間分のスペースがあり、そこに計画を立てていく様式らしい。


「まずは一日目だろ、うーん。あ、昨日埋めたので何か使えないかな。虫、あー虫嫌だな。虫の大量発生にしよう。次は……」


 一度思い浮かぶと、次から次に案が思いつく。俺はもしかして侵略の才能があるのかもしれない。



――――

 五日目 侵略計画を立ててみよう

 計画を立てはじめて二日目です。

 侵略者の自覚が出てきた頃でしょうか。

 さぁ、昨日立てた計画を細かく組み立てていきましょう。

――――



 ワークシートには一日目から七日目の欄。それぞれにその日に必要な道具と事前準備を書き込んでいく。ここまで来ると、何だか楽しい。


 どうやって地球を侵略しようかと、ワクワクしながら思考を廻らせる。



――――

 六日目 侵略計画を立ててみよう

 いよいよ侵略計画も大詰めです。

 地球も反撃の準備をしているようですよ。

 この最終局面、あなたはどうしますか?

――――



「おもしろくなってきた」


 ワークシートには、地球が企てるであろう反撃の数々が書かれていた。

 連合軍による総攻撃や、地下シェルターへの避難、こちらが使っている資源供給路の遮断。あらゆる局面を想定した反撃に、それぞれ対応策を考えていく。いくつか突拍子もない答えになってしまったがそれもそれでいいだろう。



――――

 七日目 侵略が終わったら

 おめでとうございます。

 ついに地球侵略終了です。

 しかし、ここからが我々の本番です。

 侵略が終わったこの地球で我々はどう暮らしていけばいいでしょうか。

――――



「なるほど、下手したら地球産の技術がほとんどなくなっちゃうな」


 俺は、すこし考えて殲滅せずに技術者を少し残しておいて共存する。復興を手伝わせる。と記入して、前日までの侵略計画を少し手直しした。


「これで完成か」


 書き終えて、あくびを一つ。もう夜も遅い。寝なくては。



 『ワークシートで簡単! はじめての地球侵略!! 入門編』を閉じる。これは良い出来だ。入門編だが、十分に実践が可能じゃないだろうか。


 外がやけに騒がしい。迎えが来たようだ。窓を開ける。大量のいなごが室内に入ってくる中、俺は『ワークシートで簡単! はじめての地球侵略!! 入門編』を大事に抱えて、外へ飛び出した。


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