1 【フィエスナー家の歓迎】
「……うっ」
太陽の光が刺すように瞼を照らし、僕は目を覚ました。
「あっ、お母さん!目を覚ましたみたい!」
慌てた声と共に2つの足音が迫ってくる。僕は身を起こし、目をこする。
そこは見覚えのない風景が広がっていた。
「傷は大丈夫?何処から来たの?名前は?どうしてあんな所に血だらけで倒れて――」
「――そのくらいにしておきなさい、マリル。ごめんなさいね」
マリルと呼ばれた少女が頬を膨らませる。母親に怒られたことが気に食わなかったのだろう。
はっきりしない意識の中、僕は必死に記憶の中を探る。
「……名前は……ゼイン・ヴィシュレイト……何処から来たのか、自分が何者なのかはわからない……」
記憶を整理すると、意識もはっきりしてきた。
しかし何も思い出せない。身体の痛みからするに、かなりの大怪我だったのだろう。
戦士だったのか、それとも何者かに襲われたのか。記憶は深い闇の中に沈んでしまっているようだ。
「そっか、ゼインね!私はマリル。よろしくね」
「……ああ。よろしく」
彼女の髪は太陽のごとく、燃えるように紅い。マリルから香る甘い香りからは、どこか懐かしさを感じた。
「さあ、2人が仲良くなったところでお昼にしましょう!」
マリルはぱあっっと顔を輝かせ、階段を駆け下りて行った。
部屋の時計に視線を移すと、針はちょうど正午を指している。
開いた窓から料理の匂いがするのにも頷ける時刻だ。
「ほらほら、ゼイン君も。温かい料理が冷めないうちに食べなくちゃ」
「僕もいいんですか?」
おばさんはこくりと首をかしげる。
「もちろんよ。もうゼイン君は家族なんだから」
家族、か。自分にも家族がいたのだろうか。
気になるには気になるが考えても意味がない。今は考えないでおこう。
僕には新しい居場所ができたのだから。
記憶をなくした魔王は、人間に拾われる——.




