9 【魔王みたい】
「何をするのかわからないのか?」
「え、ええ」
マリルは家から四角い箱を持ってきた。
「も、もしかして……打ち上げって……」
イリナも理解したようだった。
僕は箱に魔力を流し込む。すると、ドーンと大きな音を立てて空に一輪の花が咲いた。
「そっちの打ち上げ!?」
鋭い突っ込みである。
――その後、さまざまな種類の魔力花火を打ち上げた。
家の中ではイリナを含めた4人で食卓を囲む。
あとは、デザートを待つだけだ。
「ねえマリル、ゼインってずっとあんななの?」
「あんなって?」
「だからあれよ、あれ。何か、口調かしら?違和感あるのよね」
イリナが僕を不思議そうに見ながらいう。
「言われて見ればそうだね」
「変か?」
そう考えてみれば目を覚ましてからこんな口調だったな。おそらく記憶をなくす以前の名残だろう。
「変っていうか...... 」
「なんだ?」
二人は顔を見合わせ、少し躊躇いながら言った。
「「魔王......みたい」」
魔王?魔王って魔族の王っていうあれか?
僕はれっきとした人間だ。
「さすがにそれはないと思うぞ」
僕の魔力の波長は人間その物だ。
「わかっているわよ!それに此処に魔族なんていたらたまったもんじゃないわっ!」
「イリナの言う通りだよ。ゼインはこんなに優しいんだもん、魔族なわけないよ」
何故か一瞬、心にちくりと針が刺さった様な感覚がした。――罪悪感?いや、そんなものを感じる状況じゃないだろう。
「――安心してね!」
――こんな傷み感じた事がない。
嬉しさとは異なる何か――
マリルが僕の頭に手を伸ばし、ぽんぽんと撫でた。
マリルは、僕が自分の正体を必死に調べているのを見て気にしてくれていたのだろう。イリナは、僕のことをマリルに聞いたのか?――まあ、確かに毎日のように自室に籠っていたら心配になっても無理はない。
「ありがとう。――でも安心してくれ。僕は自分が何者であろうと、お前らを危険にさらすつもりはない」
僕はそうはっきりと言い切った。
「わかってるよ」
「当然だわ!」
思わず笑みを浮かべる。
こんなに良い仲間に恵まれるなんて本当にありがたい。
――何者なのかもはっきりとしない僕にこんなに優しく接してくれるのだから。
「俺はこんな平和な世界を創りたい...... 」
「ん、何か言った?」
「――えっ、いや、何か言っていたか?」
「うーん...... 確かに何か言っていた様な...... 」
「3人とも~、デザート出来たわよ~」
――おお、待っていたぞ!
「今日はみんな頑張ってきたからお母さん奮発しちゃった!――プリンアラモードよ!」
ぷ、プリンアラモードだとーー?!
ホイップクリームに輝く果実たち。これこそ神の恩恵だ!!
「頂こう」
何故か僕の顔を見ながら溜め息をついているイリナのことは、この際プリンに免じて見なかったことにしてやることにした。