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プロローグ 【敗北と望み】

 魔王城シュヴァインゼッタ 魔王の間


 魔族の男は大の字になって倒れていた。

 目を開くと、魔族と人間の戦いを描いた天井画がある。灯り1つない部屋で天井画がはっきりと見えるのは魔族領域を永遠に見下ろす月のせいだろう。

 少しせき込むと、口から大量の血が吐き出される。血の色は紅くはなく、魔族特有の黒い血だ。



 ——寒い



 魔族の男の服装はこの時期にふさわしいものだ。

 何故寒いのか。

 その答えはすぐにわかった。右手で自らの左胸に触れる。

 生温かい感触と共に己のおかれている状況を悟った。



 ——勇者にやられたんだったか……?



 左胸には大穴が開いている。

 魔族の自動回復で治らないということは、聖剣で刺された証拠。

 助けを求めるのも、気管に溜まった血塊が声を出すことを許してくれない。

 このままでは傷から血が全て出て死ぬだろう。

 生温かい感触を噛みしめ、這うことさえもままならぬ身体を無理矢理動かす。

 愛用していた絨毯の上へ移動する。絨毯はみるみるうちにどす黒い血に染まっていく。

 しかし魔族の男は不快に思わず、血で染まった絨毯の上に倒れ込む。



 ——配下にこのような無様な姿など見せられぬな。



 残された微力を全て右腕に込め、顔の前まで持ってくる。

 魔力を一点に集め、魔法陣を展開する。



「《転移》」



 魔族の男の身体が発光する。

 全ての力を失った彼は目を閉じる。



 ——こんなところでは終わらぬ。



 ——俺の望みをかなえるまでは……



「この世界を平和に……人間と魔族の共存を……あとは任せたぞ、テス——」



 コンマ03秒ほど後、魔王城は新たな存在を歓迎する。

 その者の手は黒い血へ伸ばされ、微小な魔力残滓を感じとる。

 偶然か、必然か。

 自分の主の声を聴いたような気がした。



「厄介な魔王様だ……」



 部屋にいる男は絨毯から手を離し、立ち上がる。



「しょうがないですね」



 その言葉は誰に送ったのか。それが明かされることは永遠にないだろう。

 その言葉を最後に、男は部屋を出ていった。



 それは、最凶最悪の魔王ゼイン・ヴィシュレイトが消えた後の出来事だ。



読んでくださり本当にありがとうございます。

次回から一人称になります。

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