表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
75/103

62通目

レフ・ティルグ・ネイラ様


 前回のお手紙では、町立学校の同級生で、小さな蛇を肩に乗せちゃってた女の子のことで、いろいろと教えていただき、どうもありがとうございました。真剣に検討した結果、町立学校の卒業までに、彼女と話をすることにしました。一度だけ〈自分を振り返ってみた方が良いよ〉って、伝えてみようと思うんです。

 わたしは、同級生にお説教をするほど偉くないし、必死に説得するほど、女の子に親近感を持っているわけでもありません。でも、いつも神霊さんに助けてもらっている者の責任として、やっぱり完全に無視したりはできませんから。


 十四歳で心に蛇を飼ってしまう少女に、わたしの言葉が響くかというと、すごくむずかしいはずです。そもそも、蛇の女の子は、わたしを嫌っているみたいなので、逆効果になる可能性が高いんですよね、きっと。

 そのときは、きっぱり、あっさり、女の子から距離をおくつもりなので、安心してください。わたしは、蛇の女の子の将来よりも、自分の身を守ります。だから、間違っても、町立学校ごと浄化の炎で燃やすなんて、過激な冗談を実行に移さないでくださいね。(あれって、冗談……ですよね?)約束ですよ。


 それはそうと、一つ、ネイラ様に質問させてほしいんです。町立学校の階段で、三人の女の子に囲まれ、小さな蛇と対峙たいじしたとき、怖くなったわたしは、反射的に〈嫌だな〉って思いました。次の瞬間、女の子の肩の上の蛇も、別の女の子の胸元でうごめいていた泥色のもやもやも、綺麗さっぱり見えなくなりました。ようやく安心して、もう女の子たちから離れようかとしたら、肩に蛇を乗せていた子が、震える声でいったんです。〈さっきの目の色って、何なの、カペラさん?〉って。

 不思議に思って聞き返すと、青っぽい色のわたしの瞳が、一瞬、ぴかぴかと光ったっていうんです。ぴかぴかして、鏡みたいで、すごく不気味だったって。女の子の言葉に驚いて、少し傷ついて、よく確認してもらおうとして近寄ったら、彼女たちは叫びながら逃げていきました。〈来ないで、気持ち悪い!〉って。


 ネイラ様にだけ、正直に告白します。思春期の少女であるわたしは、同級生に〈気持ち悪い〉っていわれて、少し……かなり傷つきました。勝手に寄って来て、勝手に怒って、勝手に逃げ出して、挙げ句の果てに〈気持ち悪い〉って、さすがにひどすぎませんか? 十四の女の子に〈気持ち悪い〉って!

 傷ついたし、ものすごく腹が立ちました。もう、勝手に蛇に取りかれたら良いのにって、そのときは本気で思いました。自分でも性格が悪い気がするし、ネイラ様にはそういう自分を知られたくないんですけど、正直な気持ちなので仕方ありません。ネイラ様が思ってくれているような、良い子じゃないんですよ、わたし。(でも、ネイラ様に嫌われるのはつらいです。だめだよって怒られたら、生まれ変わりますので、見捨てずに教えてください。お願いします)


 ただ、ある事実に気がついた途端、わたしは落ち込みから一気に復活しました。ぴかぴかと光る、鏡みたいな瞳って、ネイラ様と同じなんじゃありませんか? 一度だけ、ネイラ様にお会いしたときもそう思ったし、元大公が捕まったときに、鏡越しにみたネイラ様の瞳も、ご神鏡しんきょうそのものみたいに輝いていましたよね?

 新聞とか雑誌とか、ネイラ様について書いてある文章を見ると、ネイラ様の瞳は、〈世にもめずらしい灰色の金剛石の色〉とか、〈唯一無二の美しきグレー〉とか表現されていました。これって、すごく綺麗で輝きの強い灰色の瞳、っていう意味ですよね? 近いといえば近いけど、わたしが見たご神鏡みたいなネイラ様の瞳とは、やっぱり別だと思うんですよ。


 ネイラ様の瞳は、あまりにも美しくて、尊い光に満ちていました。ネイラ様と同じなわけはないけど……少しでも似ているのであれば、わたしはうれしいです。今はもう、蛇の女の子たちに逃げられても、全然、まったく、これっぽっちも気になりません。えへへ。


 ちょっと長くなったので、今日はこのあたりにしておきます。読み返すと、出すのが恥ずかしくなる気がするので、すぐに封をしてしまいますね。次の手紙は、きっと楽しい話にします。また、そこで会いましょう!



     肩に蛇を乗せている方が、よっぽど気持ち悪いと思うチェルニ・カペラより




        ←→




微塵みじんも性格の悪いところなどない、チェルニ・カペラ様


 キュレルの街の町立学校は、そろそろ建て替えた方が良いのではないでしょうか。何年前に建てられた建物なのか分かりませんが、学校というものは、大抵が古くなっていますからね。更地にしてしまって、新しい校舎にしたら、きみの後輩にあたる生徒たちも、気持ち良く学べると思うのです。

 わたしは、炎の神霊術だけでなく、力の神霊術も得意としています。わたしが使えない神霊術も、得意としない神霊術も存在しないということは、一応脇に置いておいて、一般に知られている認識として、わたしは、力を司る神霊からも印を得ているのです。校舎を一つ、一瞬でちりにするくらいは、苦でもありません。校舎を燃やされるのは嫌でも、倒壊させるのは許容できるということなら、すぐに教えてください。約束ですよ。


 さて、腹の立つ話はともかく、きみの質問に答えましょうか。手紙を読んで、さすがに神霊の眷属たるきみは、素晴らしい感性を持っていると感心しました。きみの指摘の通り、わたしの瞳は、見る者によって色を変えるようなのです。

 多くの者たちにとって、わたしの瞳は〈灰色の金剛石〉であり、とてもめずらしくはあるけれど、特殊とまではいえない色をしています。一方、強い神霊術を使える者や、神霊の加護かごの厚い者にとって、わたしの瞳は極めて表現の難しい、神鏡そのままの色に映っているのです。神の裁きを受ける者にもまた、わたしの瞳が神鏡に見えるのは、何とも皮肉なことですけれど。

 神霊の愛子まなごたるきみに、わたしの瞳が〈ご神鏡みたい〉に見えるのは、当然の結果でしょう。現世うつしよに於いて、きみほど神霊に鍾愛しょうあいされる魂はなく、きみほど強い神霊術を使える者はいないのですから。


 わたしの瞳を美しいといってくれて、どうもありがとう。わたしの目にも、きみの瞳は、美しく輝いています。清々しい夏空の色であれ、強い意志をたたえた神鏡の色であれ、チェルニ・カペラ嬢の瞳は、この上もない宝玉だと思っていますよ。



     きみが〈良い子〉でなくても、まったく問題ないと考えている、レフ・ティルグ・ネイラ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] よし壊そう\\\└('ω')┘//// [一言] 異分子を排除したがる、とは言うけども、勝手に寄って来といてその対応はそりゃチェルニちゃんでも不快に思うわな しかし放火はダメで爆破ならいい…
[良い点] 燃やすのは駄目で倒壊ならいいよってどんなシチュエーションですかネイラ様w [気になる点] 1箇所だけネイ様になってるね、これはこれで愛称っぽいけど。
[良い点] レフ様の中でどんな思考をしたら、燃やすのがダメなら壊すのはどう?になったのか聞きたい…。 チェルニちゃん、恋心を自覚してからのこの手紙最後の内容は、ほんと後から読み返したらゴロンゴロンしそ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ