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58通目

みなさま


いつもチェルニをお読みいただきありがとうございます!


『神霊術少女チェルニ(1)神去り子爵家と微睡の雛』おかげさまで好評発売中です!

また、電子書籍版は来年1月7日発売予定です!

(ただ、一部電子書店様では1月8日以降になるとのことですので、ご了承いただけましたらと思います)


こちらでの連載と併せて、どうぞよろしくお願いいたします!

レフ・ティルグ・ネイラ様


 お早うございます! 今回の手紙は、町立学校に行く前の時間に書いています。お父さんが作ってくれた、すっごくおいしい朝ご飯を食べたので、わたしは、今日も元気いっぱいです。ネイラ様はどうですか?

 どうして、朝のうちに手紙を書こうと思ったかというと、ちょっと面白い光景を見たところなので、お知らせしたかったんです。もう通常授業は終わっているから、町立学校に行くのは、わりとゆっくりで良いですしね。


 ネイラ様は、アリアナお姉ちゃんの子雀を覚えていますか? アリアナお姉ちゃんが、美少年のアリオンお兄ちゃんになって、フェルトさんと行動を共にしていたとき、胸ポケットに入っていた子雀ちゃんです。スイシャク様の御使みつかいとして、わたしがフェルトさんたちの状況を見るときの、〈目〉になってくれていましたよね。(あれ? わたし、子雀ちゃんのこと、手紙に書きましたっけ? あんまり手紙の数が多くなったので、ときどき何を書いたのか、わからなくなっちゃうんです)

 スイシャク様の場合、特定の眷属けんぞくはいないみたいで、いつもは近くにいる雀が、交代で〈目〉を担ってくれるんですが、子雀ちゃんだけは、何日間もアリオンお兄ちゃんの胸ポケットに入って、行動を共にしていたんですよ。


 クローゼ子爵家の事件が、一応の解決をげて、アリオンお兄ちゃんがアリアナお姉ちゃんに戻ってから、子雀ちゃんは、空へ飛び立っていきました。雀なんだから当たり前なんですけど、ちょっと寂しかったし、アリアナお姉ちゃんなんて、エメラルドみたいに綺麗な瞳に涙を浮かべていたくらいです。

 

 ところが、今朝、おいしい朝ご飯を食べていると、窓の外に子雀ちゃんがいたんですよ! 小ちゃくて、可愛くて、真っ黒な瞳をうるうるさせた子雀ちゃんは、窓枠にとまって、じっとアリアナお姉ちゃんを見ていました。

 冷静に考えると、雀って、みんな同じに見えますよね? でも、わたしたちは、一目で子雀ちゃんだってわかったし、スイシャク様も、ふっっすす、ふっすすって、肯定の鼻息を吹きかけてくれたんです。


 アリアナお姉ちゃんは、喜んで窓を開けて、子雀ちゃんを招き入れました。お姉ちゃんの手から、パンのかけらをもらいながら、満足そうにふくらむ子雀ちゃんは……ちょっとだけ、様子が変わっていました。

 小さくて可愛いのは同じとして、茶色の濃淡になっている羽根の中に、ちらほらと純白の羽根が混ざっていたんですよ。スイシャク様は、すぐにイメージを送ってくれました。〈われが司りし雀の内、頭抜ずぬけて賢き者なれば〉〈が姉たる衣通そとおりなつきたる〉〈衣通が身を守りし一助いちじょとして、近しくあるを望むもの也〉って。

 つまり、雀たちのなかでも特別に賢い子雀ちゃんは、アリアナお姉ちゃんが大好きになったから、お姉ちゃんのそばにいてくれるみたいなんです。子雀ちゃんがいたら、いつでもお姉ちゃんの様子がわかるし、何かあったら、すぐにスイシャク様に知らせてくれるそうです。もう、ありがたくてありがたくて、わたしとお父さん、お母さんが、深々とスイシャク様に頭を下げたのは、いうまでもありません。


 子雀ちゃんは、いつもわたしに抱っこされているスイシャク様と違って、お姉ちゃんの胸ポケットに入ったり、部屋の中にとまったり、空を飛んでいたり、自由に過ごすみたいです。アリアナお姉ちゃんが、家の外に出かけるときだけ、近くにいてくれるんですって。

 そして、そんな子雀ちゃんは、やっぱり普通の雀ではなくなってしまいました。一回や二回、スイシャク様の御使みつかいとして働くならともかく、長くそのお役目を務めていると、眷属の扱いになって、ほんの少しだけ霊力をさずかるんだそうです。子雀ちゃんてば、わたしたちのせいで、存在のあり方が変わっちゃったんですね……。


 ということで、子雀ちゃんのことを書くだけで、予定の行数になってしまったので、そろそろ学校に行ってきます。では、また、次の手紙で会いましょう。人が〈人でないもの〉になるとどうなるのか、教えていただくのを楽しみにしていますね。



     子雀ちゃんと〈眷属仲間〉になったのか、少し悩んでいるチェルニ・カペラより




        ←→




正しく□□□□□□□□の眷属たるチェルニ・カペラ様


 朝から楽しい手紙を送ってくれて、ありがとう。小さな雀にパンを食べさせている姉上と、それを嬉しそうに眺めているきみの姿が目に見えるようで、とても微笑ましい気持ちになりました。

 そして、きみの父上のパンを口にできる子雀は、本当に幸せ者ですね。パヴェルや王国騎士団の者たちから、何度も父上の焼き立てパンの話を聞かされて、少し辟易へきえきとしていたところでしたからね。雀をうらやましく思う日が来るとは、想像もしていませんでした。いつか必ず、きみの愛する〈野ばら亭〉にお邪魔しようと、決意を新たにしています。


 アリアナ嬢の胸ポケットに入っていた子雀が、〈スイシャク様〉の眷属になった原因の一つは、クローゼ子爵家の息女であったカリナ・クローゼが、〈鬼成きなり〉したことだろうと思います。目の前で〈鬼成り〉のけがれにさらされたら、恐怖と嫌悪感のあまり、子雀の小さな心臓が止まってもおかしくはありません。

 慈悲深い〈スイシャク様〉であれば、当然、神力によって子雀を守ったのでしょうし、神力を注がれた子雀は、たとえ大河の一雫ひとしずくともいえる力だったとしても、雀を超えた眷属へと変質させるには、十分なものだったのです。


 ちなみに、人が〈人でないもの〉に変わるのも、変質の一つです。恨みや憎しみ、悲しみや絶望が深ければ、人は〈鬼成り〉して鬼となります。また、〈鬼成り〉するほどの情念のないまま、魂を穢し続ければ、魂魄こんぱくは形を留められずに粉々(こなごな)に砕け散り、大気に漂い出るのです。

 砂粒よりも細かなちりとなった魂魄は、すべての記憶と意識を失い、黒い〈穢れ〉そのものとなって、新たな人の心に沈殿ちんでんしていきます。心正しい者であれば、穢らわしい塵など、決して寄せ付けはしないのですけれど。


 それにしても、きみが気軽に描いてくれた手紙を読むのは、大きな喜びですね。また、次の手紙で会いましょう。



     きみと文通を始めてから、街にいる雀が気になり出した、レフ・ティルグ・ネイラ



追伸/

 きみの父上が送ってくださった、特製ベーコンと魚の燻製くんせいは、正に絶品でした。父と二人、あまりのおいしさにうなりながら、楽しく酒杯をかたむけています。ありがとう。

※前書きと同内容です


みなさま


いつもチェルニをお読みいただきありがとうございます!


『神霊術少女チェルニ(1)神去り子爵家と微睡の雛』おかげさまで好評発売中です!

また、電子書籍版は来年1月7日発売予定です!

(ただ、一部電子書店様では1月8日以降になるとのことですので、ご了承いただけましたらと思います)


こちらでの連載と併せて、どうぞよろしくお願いいたします!

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― 新着の感想 ―
[一言] 以前子爵家の使者Bから出てた黒い砂粒みたいなの、鬼成りになるほどの情念がないまま魂が穢れたための魂魄の成れの果てだった…?  おおおお踏みとどまれて良かったねB……!! そして小雀くんランク…
[一言] 小雀ちゃん!! 蛇に一人(一羽)だけ気づいちゃって、ぶわっと膨らみながら頑張ってた姿が思いだされる…。 雀の中でも賢い子だったのかw 私もチェルニちゃんのお父さんのパンが食べたいです。 レフ…
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