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7通目

レフ・ティルグ・ネイラ様


 わたし、チェルニ・カペラは、海よりも深く反省しております。誠に申し訳ございませんでした、ネイラ様。


 で、何を謝っているかというと、前の手紙で書いてしまった、〈住む世界がちがう〉っていう言葉です。自分とは関係のない人だよって、はっきりと線引きされているみたいで、いわれた方からしてみたら、確かにいい気持ちはしませんよね。


 ネイラ様は、王都の高位貴族で、王国騎士団長で、ルーラ王国の英雄です。改めて考えると、ちょっと顔が青くなるくらい、本当にすごい人だから、無意識のうちに書いちゃったんだと思います。

 でも、人と人が仲良くなるには、本当はあんまり関係のないことでした。〈そんなつもりはなかった〉を言い訳にしないように、ちゃんと反省しています。ごめんなさい。


 反省したついでに、わたしは密かに決意を固めました。王立学院に入学したら、一生懸命に勉強して、ルーラ王国にとって必要だと認められるくらいの人になれるように、頑張ってみます。そうしたら、ぐすぐすと遠慮なんかしないで、ネイラ様の役に立てますもんね!

 〈わたしは、何かの役に立ってもらおうと思って、きみを王立学院に推薦したのではありません。きみは、そんなことで自分の未来を縛ろうとせず、自由に、元気に、きみの望む道を歩いてください〉

 ネイラ様だったら、きっとこんなふうに書いてくれると思います。(自分でもびっくりするくらい、ネイラ様っぽさが出せたと思うんですが、どうですか?)でも、だから、わたしは自由に頑張ります。頑張るって、結構楽しいことだと思うんです。


 それから、ネイラ様が〈げき〉だっていうことをわからない人って、本当にいるんですか? 小さな子供たちならともかく、学校に通うくらいの年になっていたら、誰にでも一目瞭然じゃないんですか?

 ネイラ様の銀色の瞳は、とっても不思議だけど、とっても美しいと思います(美しいって、こういうときに使うべき言葉ですよね)。太陽に照らされて輝いている、強い力を持った鏡みたい。学校の教科書に載っていた、国宝の〈神照かみてらす〉の鏡って、きっとネイラ様の瞳に似ているんじゃないでしょうか。〈覡〉じゃない人が、そんな瞳を持っているなんて、ちょっと考えられないんですよね。


 大好きなアリアナお姉ちゃんは、もうセーターを編み上げて、わたしに贈ってくれました。今年はすごく手が込んでいて、りんご色のふわふわなモヘアで、ポケットは秋りんごの色と形になっていて、とっても可愛いんです。(モヘアって、わかります? 柔らかいアンゴラヤギの毛糸です。そういえば、貴族の人でも、セーターって着るんですか? いつもドレスとか着てそうなんですけど)

 今はまだ、ちょっと暑さが残っているから、着るのは先になりますね。今からその日が楽しみです。


 最後にひとつ。ご両親がお留守にするときに、猟犬の犬舎の中に放り込まれていたって、どういうことですか、ネイラ様? あと、〈覡〉である影響で、人見知りになるって、どうしてですか? 

 サラッと流さず、そこはちゃんと教えてくださいね。もちろん、聞いても大丈夫なことなら、ですけど。


 では、また。次の手紙でお会いしましょう!



     出世っていうのを目指すのも、おもしろいかもって思っている、チェルニ・カペラより




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素晴らしい観察力を持っている、チェルニ・カペラ様

 

 きみがくれた手紙の中の、〈ネイラ様っぽい〉という文章を読んで、一瞬、自分が書いたのではないかと、錯覚しそうになりました。いかにも、わたしが書きそうですし、本当に思っている通りの言葉でもあります。きみの観察力は、本当に素晴らしいですね。


 〈住む世界が違う〉という言葉に、わざわざ反応してしまったのは、わたしの未熟さに他なりません。きみに他意がないことくらい、わかっていたのですから、簡単に流してしまえばよかったのに。大人気なかったと、わたしこそ反省しています。

 わたしが生きてきた二十五年間の人生において、たくさんの人たちに、数え切れないほどの回数、〈住む世界が違う〉という意味のことをいわれてきました。今までは、気にしたことなどなく、それが当たり前だと思ってきました。

 ですが、わたしが〈覡〉であると一目で理解し、その上で普通に接してくれるきみには、距離を置かれたくなかったようです。自分でも、そうした感情があったことに驚いています。わたしこそ、申し訳ありませんでした。


 きみが一生懸命に勉強して、出世をしてくれるのであれば、もちろん大歓迎です。わたしのことはともかく、ルーラ王国にとっては、素晴らしい人材を得ることになりますから。

 きみが、生き生きと王城を駆け回る姿が、今から目に浮かぶような気がします。無理をせず、けれども一生懸命に学んでほしいと思います。心から応援しています。


 さて、〈覡〉といえば、きみはごく自然に、人にはわからないはずのことを書いていることに、気づいてはいないのでしょうね。

 きみには、わたしの瞳は銀色に見えているのでしょう(ほめてくれて、どうもありがとう)。しかし、神霊王国たるルーラ王国でも、〈神霊術を使っていないとき〉のわたしの瞳が、銀色に見えている人は、十人ほどしかいないのですよ。

 わたしの両親であるネイラ侯爵夫妻、神霊庁の最高位神官である七人の〈神使〉、国王陛下と王太子殿下。確実にわかっているのは、この方々だけです。他の人には、普段のわたしの瞳は、淡い灰色に見えているのだそうです。


 彼らによると、わたしが神霊術を使うと、瞳は少し銀色を帯びるそうです。そして、強い神霊術を行使したときには、完全な銀色になるのだと聞いています。自分の瞳の色は、自分では見えませんので、伝聞ではあるのですが。

 

 そうそう。猟犬たちのことでしたね。我が家では、屋敷の防犯も兼ねて、ずっと訓練された猟犬たちを飼い続けています。少ないときで十頭、多いときには二十頭以上はいるので、犬舎もかなり大きいのです。

 幼い頃のわたしは、自分の力を上手く制御することができず、常に暴走してしまう危険性がありました。ご神霊も、わたしを止めようとはしませんでしたので、〈わたしを嫌うもの〉〈わたしを恐れるもの〉〈わたしを害そうとするもの〉が近づくと、暴力的に排除してしまいかねなかったのです。

 ですから、わたしの両親は、わたしが好まないものたちを、わたしから守るために、猟犬たちに守護を頼んでいったそうです。

 

 大きな犬舎の中に置かれた子供用寝台の中に、わたしを寝かせておくと、犬たちが総出で子守をして、わたしを遊ばせてくれたのだとか。猟犬たちは、すっかり代替わりをしてしまいましたが、今でもかけがえのない友人でいてくれます。

 いつか、きみにも、我が家の犬たちを紹介させてください。きっと仲良くなれると思います。


 では、また。次の手紙で会いしましょうね。



     残念ながら、セーターを着たことがない、レフ・ティルグ・ネイラ

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― 新着の感想 ―
[一言] 灰色と銀色って、光沢があるかないかの違いだと考えていましたので困惑しました。目は潤いがあるのに変わるのか?と。 ボヤっとしてる目か輝くハッキリとした目という違いなのでしょうか?
[一言] ペアのセーター着ちゃえばいいじゃないネイラ様( ˘ω˘ ) あかんモヘアのセーター着たネイラ様の絵面めちゃくちゃ面白いわ あーーー瞳の色を見抜くイケメン美少女に住む世界が違う言われてすね散…
[良い点] こちらの連載を知った頃はチェルニちゃんがネイラ様の誠実さとかにときめく様が見れるのか~とか思ってたのですが、スーパー超ウルトライケメン美少女チェルニちゃんの無自覚な言葉にネイラ様がぐずぐず…
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