表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/103

36通目

レフ・ティルグ・ネイラ様


 今日は、ひとつ質問をさせてください。神霊さんに関係することなので、簡単に答をもらえるとは思っていないし、聞いちゃいけない内容だったら、すぐに諦めます。そのときは、だめだよって叱ってもらえませんか?(やっぱり〈神威しんいげき〉であるネイラ様に、すぐ質問しちゃうのって、不精な感じがしますもんね。だめっていわれても、当然なんだって、ちゃんとわかっています)


 わたしが聞きたいのは、〈眷属けんぞく〉っていう言葉の意味なんです。クローゼ子爵家の事件が解決するまで、スイシャク様は、ずっとわたしのそばにいて、力を貸してくれるそうです。でも、神霊さんのご分体に、そんな労力をかけてもらうなんて、対価がすごいことになるはずですよね?


 不安になったわたしは、スイシャク様に聞いてみました。〈わたしでも、お渡しできる対価ですか?〉って。

 神霊さんたちは、わたしの髪の毛の色がお気に入りで、髪を対価にすると、大きな術を使わせてくれるんですけど、十日間もご分体に顕現けんげんしてもらえるだけの量なんて、さすがにちょっと怖いなって。

 あんまり見た目にこだわりのないわたしでも、一応は年頃の女の子なので、丸刈りとかは勘弁してもらいたいんです。大好きなアリアナお姉ちゃんのことなので、他に方法がなかったら、丸刈りでも全然かまいませんけど。


 あ。ちょっと話が逸れました。ともかく、対価のことを質問したところ、スイシャク様は〈大丈夫。眷属扱いで、お安くしてあげるから〉っていう意味のメッセージを、送ってきてくれました。

 ほっとして、ありがたくて、本当に助けていただいているんですけど……眷属って、何なんですかね?


 辞書で調べてみると、身内とかの血族、もしくは上下関係でつながった者って書いてありました。神霊さんは、人の遥か上位にいる存在なわけですから、言葉の意味としてはよくわかります。

 ただ、単なる上下関係のことだとすると、ルーラ王国の国民は、全員が眷属になっちゃうので、対価をおまけしてもらったりは、できないんじゃないかと思うんです。だったら、スイシャク様は、わたしのことを身内の端っこみたいに、考えてくれてるのかなって……。わたしのいってることって、やっぱり自惚れでしょうか?


 もしも、スイシャク様が、身内扱いしてくれたんだとしたら、何をお返しできるとか、真剣に考えるべきだと思うんです。上下関係にあったとしても、甘えっぱなしって、良くないことですよね? (そういう意味でいえば、ネイラ様へのご恩返しも、すごく大変そうです。日々、恩が積み上がっちゃってる状態ですからね。とにかく、絶対に、ネイラ様の役に立つ人になります!)


 あ。もうひとつ、質問がありました。ネイラ様は、アマツ様の眷属だったりするんですか? もしくは、他の神霊さんの眷属とか?

 差し障りがなかったら、教えてもらえると嬉しいです。わたしとしては、ネイラ様が誰かの〈下位〉になるとか、庇護ひごされるとかっていうのが、あんまりイメージできなくって、違うのかなって思っています。


 手紙を送る前に、窓を開けてみたら、今夜はすごく明るい月夜でした。お月様って、神秘的で、ネイラ様の銀色の瞳みたいで、本当に美しいですよね。


 では、また。次の手紙で会いましょう!



     毎日が激動に次ぐ激動で、ちょっと感覚が麻痺しそうな、チェルニ・カペラより



追伸/

 お月様には、うさぎを司る神霊さんが住んでいても、不思議じゃないと思いませんか?




        ←→




間違いなく〈スイシャク様の眷属〉である、チェルニ・カペラ様


 今回のきみの質問には、半ば答えることができ、半ば答えることができません。もちろん、きみに秘密を持ちたいわけではなく、きみ自身が答を探す過程こそが、魂の器を広げるための、貴重な契機になるからです。聡明なきみは、そのことにも、薄々気づいているのではありませんか?


 神霊の為すわざは、ときとして非常に思わせぶりなものです。故意に答を隠し、正解に至る道を引き伸ばし、いたずらに人を惑わせているようにさえ、見えるかもしれません。

 神霊は、時間や肉体にとらわれず、ときとして概念さえも超越します。そうした神霊と、肉体に縛られた人の子とでは、おのずと隔たりも出てきてしまうのも、無理のないところでしょう。魂の器を広げるとは、こうした神と人との隔たりを、少しずつ埋めていく行為でもあるのです。


 ここまで書いてから、久しぶりの感覚に捉われました。わたしの書く手紙は、教師のようではないか……という不安です。堅苦しくてつまらないと思ったら、すぐに教えてくださいね。約束でしたよ?


 少し、話が遠回りしてしまいました。結論からいうと、宛名書きにも示した通り、きみはすでに〈スイシャク様〉の眷属となっています。上下関係を意味する眷属ではなく、御方おんかたの身内、あるいは血族を意味する眷属です。

 これは、非常にまれなことで、わたしが知る限り、彼の御方が眷属を持たれたことは、天地開闢てんちかいびゃく以来初めてではないでしょうか。


 きみが、彼の御方の眷属となった理由や意味、これから為すべき役割については、今は話すことはしません。制約などに縛られてできないのではなく、きみ自身が探求してこそ、意味があるだろうと思うからです。

 説教じみた物言いを許してもらえるのなら、近い将来、きみが大きく成長してくれるだろうことを、確信していますよ。


 一方、わたし自身が、いずれかの神霊の眷属であるかどうかは、答を控えさせてください。きみになら、知られてもかまわないのですが、ひとつの物事を説明しようとすると、多くの物事に言及せざるを得なくなり、大変長い話になってしまうのです。本当に申し訳ないのですが、時が至れば、ゆっくりと話し合いましょうね。


 では、また。次の手紙で会いましょう。



     月にうさぎの神霊がいたら、さぞ愛らしいだろうと思う、レフ・ティルグ・ネイラ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 眷属=身内、とするとチェルニちゃんすごいしネイラ様は眷属というよりは現身…? うーんどういう言い方が合致するのか分からん
[一言] チェルニちゃん、この時期なかなか外に出ることもできなかったから、お手紙はかどりそうだな。 眷属は庇護下とかそういう感じなのかと思っていたのですが、身内・血族を意味するほうなのですね。 一つ謎…
[一言] おっと、ラブレター文通だと思って読んでいると、何気に重要事項が! スイシャク様の唯一の眷属らしいという、な、なんだってー!事案。 ネイラ様は……うーん、眷属ではなく、現世への……端末?窓口?…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ