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33通目

レフ・ティルグ・ネイラ様


 ネイラ様が、わたしの名前の意味を考えてくれるなんて、ものすごく贅沢で、ものすごく特別な気がします。一言でいうと、嬉しいです。ありがとうございます。


 わたしの名前って、実はちょっとだけ変わっているみたいなんです。わたしの大好きな、おじいちゃんの校長先生が、むにゃむにゃいいながら、首を傾げていたことがありました。〈母上がローズ、姉上がアリアナ。それなのに、サクラっの名前がチェルニとは、響きが違う気がするのう。チェルニよりは、チェルシーかレイチェルの方が、並びが良いのにな〉って。

 そういわれてみると、ちょっと外国風の名前な気がしますね。それも、アイギス王国やヨアニヤ王国みたいな大国じゃないところ。自分では、わりと気に入っている名前だし、生まれたときからチェルニに慣れているので、別に問題はないんですけど。(アイギス風やヨアニヤ風の名前は嫌なので、小国っぽい名前でいいです)


 ちなみに、お父さんに名前の由来を聞いたら、〈わからない〉っていわれてしまいました。わたしが生まれた瞬間、お父さんとお母さんの頭の中に、〈チェルニ〉っていうイメージが流れてきたんだそうです。

 お父さんは、〈ご神霊が名付け親になってくださったのかもしれない〉って、真面目な顔でいってました。現世うつしよを遠く離れた神霊さんが、そんな人間みたいなことをするんでしょうか? わたしは、仲のいいお父さんとお母さんが、似たような名前を思い浮かべただけだと思うんですけどね。


 ちなみに、ネイラ様のお手紙を読んで、わたしは〈後ろの方のレフ様〉と、呼ばせていただくことにしました。〈獅子の中の獅子〉だから、前の方は〈獅子全体〉で、後ろの方がより〈特別な個体〉っていう気がするからです。

 自分でも、よくわからないことをいっていると思いますので、聞き流してもらえると嬉しいです。それでいいでしょうか? だめだったら、教えてくださいね。


 ヴェル様とは、仲良くさせてもらっています。わたしを不安にさせないように、ずっとそばにいてくれて、たくさんお話を聞かせてくれます。主な話題は、王立学院のこととネイラ様のことです。


 ネイラ様の執事さんって、ヴェル様が二人目だそうですね。ネイラ様が生まれてすぐ、一人目の執事さんが選ばれて、十五歳になってから、ヴェル様になったんだって、教えてもらいました。

 ヴェル様は、〈わたくしの上司が、執事の職を賜っていたのですが、別の役目に就くことになり、わたくしがその栄誉に浴しました〉って、にこにこ笑っていました。子爵様であるヴェル様の上司って、ちょっと意味がわからないんですが、そのうちに説明してくれるそうです。わたしは聞き分けの良い少女なので、気長に待っていようと思います。


 ヴェル様は、ネイラ様のことが大好きみたいで、いろいろなことを覚えていて、わたしに聞かせてくれます。

 前の執事さんが〈じい〉って呼ばれていたから、自分もそう呼んでもらえると思っていたら、ずっと〈パヴェル〉呼びで、ちょっと寂しいこと。服装に関心のないネイラ様は、出された服をそのまま着るだけなので、周りの方が準備に神経質になっていること。お休みの日は、わりと長い時間、犬や猫と遊んでいること。甘いものは好きじゃなくて、デザートにはほとんど手をつけないこと……。

 ヴェル様のおかげで、わたしはネイラ様のことに詳しくなっちゃいました。なんだか、ネイラ様が身近な人になった気がして、とても嬉しいです。


 ということで、また、次のお手紙で会いましょう!



     ヴェル様がネイラ様に叱られないか、ちょっと心配なチェルニ・カペラより




        ←→




少しずつ真理に近づきつつある、チェルニ・カペラ様


 他でもないきみが、わたしを〈後ろの方〉のレフだと考えてくれるのなら、その名で呼ぶことを認めるのは、家族ときみだけにしましょう。これ以後、他のものには〈前の方〉のレフと呼んでもらうよう、説明したいと思います。イメージの問題ですが、きっとわかってもらえるのではないでしょうか。


 そして、きみの可愛らしい名前には、そんな事情があったのですね。わたしが予測していた名前とは、少し違っていましたので、きみのご両親が、わざと変更したのだと思っていました。納得です。


 きみが生まれたときに、ご両親へと与えられたイメージは、神霊の〈声〉に他なりません。神ならぬ人の身で、神霊の〈声〉を正確に理解することはできませんので、〈響きの似た名前〉になったのでしょう。

 あるいは、神霊によって伝えられた、きみの〈存在の在り方〉から、ご両親が今の名前を選ばれたのかもしれません。


 いずれにしろ、〈チェルニ〉ちゃんという名前は、とても可愛らしく、生き生きとして元気の良いきみに、ぴったりですね。

 きみの許しを得ましたので、わたしも、今度会えるときまでに、きみをチェルニちゃんと呼べるようになりたいと思います。(嬉しい反面、恥ずかしくて仕方がないというきみの気持ちが、とてもよくわかります。副官に聞いたら、とても自然な心の動きだそうです。それ以上の説明は、してくれませんでしたが)


 きみの名については、ときが至れば、いろいろと解き明かされることもあるでしょう。仮に、何ひとつわからないままだったとしても、きみの存在そのものに影響があるわけではありませんので、気にする必要はありませんよ。


 そして、パヴェルです。パヴェルは、守秘義務というものを、何と心得ているのでしょうか。たった一日の間に、わたしの私生活を暴露するとは、少々呆れてしまいました。きみが心配していますし、わたしも本当に腹を立てているわけではないので、特に責めたりはしませんが、不公平感は禁じ得ません。

 きみが、パヴェルからわたしのことを聞くように、わたしもきみのことを教えてもらってもいいでしょうか? 何しろ、わたしのかたわらには、きみのいうアマツ様がいるのですから。


 年頃の少女に対して、失礼になるような質問はしないと約束します。できるなら、了承してもらえると嬉しく思います。


 では、また。すぐに次の手紙で会いましょうね。



     パヴェルの実態を、きみに暴露したい誘惑にかられている、レフ・ティルグ・ネイラ

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― 新着の感想 ―
[一言] 尊敬を通り越して信仰している上司から、14才の少女をちゃん呼び出来る事になって、嬉しいけど恥ずかしくて仕方ないと相談された副官さんの精神状態よ… 副官日誌すんごい事になってそうですね! ネ…
[一言] チェルニちゃんの名前の意味はいつ明かされるのかなー ネイラ様の嫉妬&八つ当たりを受け止めるヴェル様、ご自身が爺と呼ばれるような外見じゃないことはいいのか 他の方もおっしゃってますが副官さん方…
[一言] 名前の色々設定があるんだね!チェルニの意味はなんだろね??パッとは思い付かないなぁ…… 好きな女の子(若干無自覚)の私生活が知りたい思春期の男の子的な心理だな!もしや初恋? 周りの人間のニ…
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