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1通目

『神霊術少女チェルニ』シリーズの主人公チェルニと、王国騎士団長ネイラ様との、往復書簡です。


『神霊術少女チェルニ 〈連載版〉』内で文通をしているふたり。

ふたりの間で交わされる手紙を、少しご紹介します。



『神霊術少女チェルニ 〈連載版〉』は、作品タイトル上に表示されているシリーズタグ『神霊王国物語』からお進み下さい。

レフ・ティルグ・ネイラ様


 晩夏の穏やかな日差しにも、遠く秋の気配を感じ始めた今日この頃、いかがお過ごしでいらっしゃいますか? この度は、ご丁寧なお返事をいただき、誠にありがとうございました。ご親切なお言葉に甘えて、またお手紙を書かせていただきます。(本屋さんで〈手紙の書き方〉の本を買ってきて、そのまま真似してみました。手紙の書き出しって、特にむずかしいです。まだまだ暑くって、全然秋の気配なんて感じませんよね?)

 

 ともかく、お忙しいネイラ様から、まさかお返事をいただけるとは思っていなかったので、とても驚きました。そして、とてもとても、嬉しかったです。


 うちの父が、ネイラ様からのお返事を渡してくれて、またお手紙を書いてもいいといいましたので、こうしてペンをとっています。(この表現も、一度使ってみたかったんですけど、ありふれてます?)

 わたしのような、田舎街の平民の少女が、ネイラ様に何度もお手紙を出したりして、本当に構わないのでしょうか? 社交辞令とか、適当な儀礼とか、わたしにはまだむずかしいので、これくらいの頻度だったらいいよって、教えていただけると嬉しいです。


 ネイラ様のお手紙を運んでくれた紅い鳥は、炎を司る神霊さんのご分体なんですね。余りにも尊くって、綺麗だったので、すぐにわかりました。

 お手紙を運んでほしいときは、紅い鳥を思い浮かべるようにって、ネイラ様が書いてくださったので、早速やってみました。そうしたら、わたしはいつの間にか、何もない空間に立っていて、身体を包む〈業火〉の熱気だけを感じていたんです。

 すごく怖かったけど、この炎は、わたしを守ってくれるものだって、心から信じられました。それで、わたしが炎に身を委ねると、炎はポーンと弾け、無数の朱色の火の玉になって、くるくるくるくる、わたしの周りを嬉しそうに回りました。

 しばらくして、いくつかの火の玉が、わたしの頬に吸い込まれていったときには、魂にくっきりと印が刻まれていたんです。


 ネイラ様のおかげで、ご分体にお目にかかれて、印までいただいてしまって、何だかズルをした気になっています。王立学院に推薦していただいただけでも、過分なこと(お父さんが、そういっていました。意味は辞書で調べたので、知っています)なのに、いいのかなって。

 あまりにも厚かましかったら、遠慮なく叱ってください。ネイラ様に呆れられるのは、とても嫌なので、どうかよろしくお願いいたします。


 そういえば、今日の夕飯に出てきたパンの中には、早採りのりんごが練り込まれていたものがありました。真っ赤でツヤツヤした秋のりんごじゃなくて、優しい黄緑色をしたりんごです。甘酸っぱくて、美味しくて、わたしは三つも食べてしまいました。大好きなんです、りんごパン。これが出てきたということは、本当に秋が近づいているのかもしれませんね。今さらですけど。


 ネイラ様みたいな偉い方にお出しする手紙が、こんな感じでいいのでしょうか? 失礼がありましたら、どうかご容赦くださいませ。かしこ。(手紙の本には、こんな感じの終わり方がいいって書いてありましたけど、何となくしっくりきませんね。かしこって、変な言葉だと思います)


     毎日、ネイラ様のご健康とご活躍を祈ることにした、チェルニ・カペラより




     ←→




チェルニ・カペラ様


 早速、手紙を書いてくれて、どうもありがとう。もしかして、わたしと文通をしてくれるつもりで、〈手紙の書き方〉を買ってくれたのでしょうか? そうであれば、とても嬉しく思います。


 きみが成長していく上では、儀礼に沿った手紙を書けるようになることも、それなりの意味があると思います。けれど、わたし宛のときは、きみの心のおもむくまま、自由に書いてください。生き生きとして、明るくて、元気なきみの様子を教えてほしいのです。


 手紙を書いてくれる回数は、本当に何回でも構いません。たくさんもらえれば、とても嬉しいけれど、きみの負担になることを望んではいないからです。時間のできたときに、短いものでも結構ですから、きみの近況を教えてもらえれば十分です。


 紅い鳥は、きみのことがとても気に入ったそうですよ。お礼状の次の手紙を運んできてくれたとき、それはもう、上機嫌で部屋中を旋回していました。紅い鳥とは、十数年の付き合いになりますが、あれ程喜んでいる姿を見たのは、初めてかもしれません。鱗粉の量が多すぎて、わたしの部屋が朱色に染まっていましたからね。

 きみだったら、あの鮮やかな朱色の奔流を、きっと美しく伝えてくれるのでしょう。文才のない自分が、少し恥ずかしくなります。


 紅い鳥に巡り合ったのは、わたしの仲立ちだったとしても、印を授けられたのは、きみ自身が認められたからです。安心して、御神霊の御好意を受け取ってください。これから先も、きみはもっと多くの御神霊と縁を結んでいくのでしょうから。


 ここまで書いたところで、わたしの方こそ、こんな手紙でいいのかと、心配になってきました。堅苦しくはありませんか? むさ苦しい男ばかりの騎士団にいるので、きみのような少女に喜んでもらえる手紙の書き方など、想像もつかないのです。何か問題があったら、きみの方こそ、遠慮なく教えてください。よろしくお願いします。


 最後に、りんごパンのことを教えてくれて、どうもありがとう。定型的な時候の挨拶よりも、遥かに季節を感じました。いつか、わたしも〈野ばら亭〉のりんごパンを食べさせていただければ、と願っています。


     レフ・ティルグ・ネイラ


いかがでしたでしょうか?


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― 新着の感想 ―
[一言] ネイラ様との書簡気になってました♡ チェルニちゃんのお手紙は生き生きとしてて読んでて楽しいですね。ネイラ様も楽しみするのがわかります。 あと、閑話もいいけどこういう風に別立てになっているのも…
[一言] 甘酸っぱい! 可愛い!
[良い点] 甘酸っぱいです! 甘酸っぱいりんごパンです!
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