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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

エッセイ

狂った心と奇妙な自叙伝

作者: 暮伊豆

私の名前はクレイ。なろうの片隅でタイトル詐欺の作品を細々と、ダラダラと書いている酔いどれ物書きだ。


以前友人から、エッセイでクソみたいな自叙伝を書くことが流行っていると小耳に挟んだ。だから自叙伝的な何かを書いてみたくなった次第である。


私の生まれや生い立ちを語ってもいいのだが、誰も興味などない。だからサクッと済ませることにする。




生まれは中東カダス。内戦の最中、母は廃屋で私を生んだ後、政府軍の砲撃で廃屋ごと吹き飛ばされたらしい。なぜか生き長らえた私は運良く革命軍に拾われたらしくゲリラ村で推定十歳まで生き抜くことができた。泥の中で生き残ったためかclayと名付けられていた。訓練ばかりの日々でいつも腹を空かせていた私だが、母親代わりの戦士(フェダイーン)アルケミーはいつも優しかった。


そんな平和な日々も唐突に終わりを告げた。そう……停戦協定の期限が切れ、第十六次中東革命戦争が始まったからだ。


その日の夜明け、アルケミーは私にこう言った。


「いいかいクレイ、私ら戦士は今から戦いに行く。もしかしたら帰ってこれないかも知れない。そうなった時、この村を守るのがお前の仕事だ。分かったかい?」


無言で肯くことしかできない私。朝日の中、仲間達と村を後にするアルケミーの背中。それが彼女の最後の姿だった。




一週間後、村は……


政府軍に囲まれていた。


そして声が聞こえてくる……


『我々はカダス神聖共和国政府軍である! この村は完全に包囲した! 三十分後に総攻撃を開始する! ただし、代表者が投降するのであれば他の者の命は保障する!』


私に選択肢はなかった。村には私より歳下の子供か戦士でない女性、そして老人しか残っていない。アルケミーの言いつけ通り、私が皆を守らなければならない。そうするより他なかったのだ……


「俺が代表だ! 抵抗はしない! 皆の命を助けてくれ!」


政府軍の前に手を挙げて歩み出る。


「ふん、お前がクレイだな? アルケミーの秘蔵っ子だそうだな?」


そう言って政府軍の軍曹は私を殴り飛ばし、首と腕にロープを回した。


『突撃!』


一斉攻撃が始まった……そんな、バカな……

抵抗する者はその場で殺され、女子供はなるべく捕まえようとしている……売り飛ばす気だ……抵抗しなくとも、役に立たないと見なされた老人は……殺された……


「やめろ! 約束が違う! やめろおおおおおーーーー!」


「お前らクズとの約束なんざ守るわけないだろ? そんなことも分からないから死ぬんだよ! 何が革命軍だ! 何が戦士(フェダイーン)だ! お前らみたいなクズは死ぬまで黙って働いてればいいんだよ!」


「やめろおおおおーーー!」


私は夢中で軍曹の首元に噛み付いた。死ぬならせめてこいつだけでも道連れに……


「ぎぁぁぁああばあーーー!」

「離さんか! このクズめ!」

「おい! ヤバいぞ! グンゾルの血が止まらない!」

「運べ! 早く!」


その後のことは覚えていない。




目が覚めた時、私はカダスの日本(ひのもと)大使館にいた。そこで聞かされたのは私の本当の両親のことだった。


父は柳生(やない)俊秋(としあき)、母は朱美(あけみ)。奇しくも育ての母アルケミーと似た名前の母だった。

二人は大使館で働いていたのだが、ある時政府軍でも革命軍でもない第三勢力、いわゆるテロリスト集団によって誘拐されたそうだ。もちろん身代金目当てだ。

本来の目的は大使夫妻だったのだが、父の機転で車を交換していたとか。そのため大使は助かったが引き換えに両親が誘拐された。後で分かったそうだが、その時母の胎内には私がいたのだ……


大使本人でないことがバレたら二人とも殺されてしまう。父は必死に演技をしながらも機を伺っていた。人質生活にもかかわらず、少しずつ大きくなる母のお腹に気付いた父の焦りはいかほどだったのか……


そしてある日、ついに父は、母を逃すことに成功したのだ。しかし自分は追手を、テロリストを食い止めるために……


そうやって逃れた廃屋での潜伏中、母は私を産み落とし、政府軍の砲撃に巻き込まれた……




以上の話は当時の駐カダス大使である澤ノ村(さわのむら)實徳(さねあつ)氏より聞いたものである。私にはそれを信じる以外に道はない。心の拠り所も……


その後、日本(ひのもと)へと連れ帰られた私の面倒を見てくれたのは父の両親だった。海と山に挟まれた田舎で高校を卒業するまで平和に暮らすことができた。日本語の不自由な私に対してイジメと言われるものはあったが、命の危険はない。これを平和と言わずに何と言おうか。素晴らしい日々を過ごしたものだ。




そして私が二十歳になる頃、なろうと出会いタイトル詐欺小説の執筆を開始したのだ。


当時の私は荒れていた。酒を覚えたばかりということもあるのだが、世の中にあまりにも約束を守らない人間が多いことに辟易していたのだ。その日も約束が履行されないことに苛つき、酒を飲んでいた。


ああ……世の中の人間が約束を守るようになったら、もっと暮らしやすくなるのだろうか……


酔った頭でそんなことを考えていた。


そうだ……現実なんてどうせロクなことがないんだ……

だったら……せめて物語の中だけでも約束を守らせてやる……


こうして生まれたのが『異世界金融』である。


その夜、勢いのままに書き始め……




当初は『ミナミの帝王』のようなストーリーにしたかったのだが……なぜか! 全然違うストーリーになってしまった……


どうもキャラクターが好き勝手に動いているらしい…….私にもどうにもできないのだ……


初めての作品なんだから、書けるところまで書いて、次回作の糧になればいいやと考えていたのだが……




あれから二年。

今日まで章と章の間で二、三日ほど間が空くことはあったものの、それ以外は休みなく更新を続けてきた。


その間、色んなことがあった。祖父母が亡くなり、母方の祖父母もなくなり。両親の兄弟姉妹も死んだ……


端金の遺産を奪いあったり、逆に負の遺産を押しつけあったり。


その結果、全てが私の所に来てしまったのは幸か不幸か……




こんな私ではあるが、せっかく生まれた異世界金融だ。もう、やめられなくなってしまった……


カースが、イザベルが、私に囁いてくる。

俺を動かせ、私に快楽を与えろ、と。


国王が、組合長が唸る。

余は征く、ワシぁ遊ぶ、と。




もう、金融要素などほとんどなくなってしまった異世界金融だが。私の頭がはっきりしている間は続けるつもりである。

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― 新着の感想 ―
[一言] タイトル詐欺と本文中に2回入れる潔さ。いいですね。(笑) 壮絶な過去をお持ちで。これがあの重層な年輪を感じさせる作品を…あれ?20代前半ですか?エッセイ本文によれば…おや、失礼しました。 …
[良い点] 暮伊豆さんの半生に涙で前が見えません。 壮絶な過去ですね。 [気になる点] 私は幼少期にカダス神聖共和国政府軍で洗脳教育を受けていたのですが、何かの間違いですよね? [一言] 昔のサン…
[一言] 壮絶な過去に言葉がありません……。 (ToT) 日々、特に不自由なく生きていることは、確かに平和で幸福ですね。 約束を守るという当たり前のことを守りつつ、平和を噛み締めて、生きていこうと…
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