2.侍従
だが、そんな戦場が珍しく落ち着いた正午のある日、王国から直属の使者である勅使がやってきた。勅使は、そいつは今まで再々断ってきた帝国との会談を受けるように申し付けてきた。当然、それは勅使と言えど王様の勅命に等しいというか私にとっては王権並みの効力を持つのと変わりはしない。つまり、受ける、受けないの問題ではなくなったというわけだ。ぐはっ、胃が痛い。私の勅使の見る目が痛みで細目で見つめてしまったときになんかやたら早口で喋ったと思ったら、勅書を置いて早々に帰っていった。
私は置いていった勅書を見て、さらに胃が痛くなった。あの勅使、相手が誰かは省きやがった。
今回の会談の相手は今まで申し込んできた帝国の将どころではない。帝国の第二皇子クリス・ディ・アストガリア、帝国の第一騎士団、その黒い鎧の見た目から別名『黒騎士部隊』と呼ばれているを率いる騎士団長でもあり、戦場では『死神』と呼ばれているヤバい人ですね。
そんな高貴で怖い御方が何故に市井生まれとの会談を許可することになっているんですか?。しかも、この砦に今日来るって当日に言われる私の命の身にもなってください。というか、これ宰相様のお仕事ですよね、私も会うの嫌なんですけど。
取り敢えず、抵抗の意思表示をするためにも、まずは執務机に覆いかぶさるようにしがみつき、ここから離れないぞという形をとった。後ろから残念な目で見られながらもやめるつもりはなかった。しかし、溜息を吐かれた私は侍従たちに軽く執務机からぺいっと剥がされ、カーペットに転がされた。やっぱり無理だわ、まず、上下関係の前に力で勝てないわ、私。結局、侍従たちにせっつかれて会談場所の部屋に向かうのであった。
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従者が入れてくれたお茶を飲みながら、待っていると外で待機していた従者から皇子来着の知らせがやってきた。私が座ったまま扉が開くのを待っているとクリス・ディ・アストガリアその人がお連れの従者たちと共に入ってきた。
死神というからどんな顔なのかと思えば、まさしく、美形だ。さらにそのサラサラヘアーの金髪に宝石を思わせる蒼色の目に、あの全てを包み込む暖かい優し気な雰囲気に甘いマスクのような表情。私がこんな人生を歩んでおらず、市井の生活中に見かけたのならば、目が合っただけ即死させられていたことだろう。もう殺人兵器じゃん。
残念なことに私の後ろに今、私をここに無理矢理連れて来た四人の侍従たちがいるのだが、彼女らも同じく美形と評するに相応しい。さらに皇子側の従者たちも美形ぞろいだ。つまり、この部屋には約一名を除き、美の世界が体現しているわけだ。
私?私はその除かれた約一名の方です。子供の頃からバカにされてきた白髪の髪に暗く淀んだ瞳は自分でも陰湿な感じがすると思う。まぁ、彼女ら侍従と初めて出会ったときは妬ましいと思ったけど、今では美形を見てもほとんど何も思わなくなってしまった。慣れって怖いね。
ただ、今回は本物の皇子様がいる。それだけで胸が物理的に張り裂けそうだ。老衰で一生を終えたいのにやめてくれ。粗相しただけで首は飛ぶんだろうか。不安だらけで死ぬ。
クリス・ディ・アストガリアが座るまで私は先ほどまで飲んでいたお茶の味が分からなくなるほど緊張していた。少しばかり、緊張を和らげるために改めて皇子陣営を拝見するが、相変わらずの美形ですね、皆さん。でもこんな優男が銃火器やら剣で戦火を切り開いていたことを思い出すと背筋に嫌な汗が流れる。
「…しっかりしてください」
私の今の状態に気が付いたのか、私の斜め後ろから侍従の一人、ルメリ・アルバートことルメリが皇子側に聞こえない程度に声を掛けてくれた。
侍従一番、ルメリ・アルバート、元は伯爵家長女である彼女は侍従の中では最も位の高い人です。
髪は水色の長髪で常に優雅な立ち振る舞いで歩く姿はさすがは貴族の子女というところです。
侍従それぞれに役割が存在し、彼女は特に私の補佐付きが多く、私が学院で勉強していたとはいえ、まだまだ荒療治な部分を徹底的に直すと同時に資料から執務面、今回のような会談などでのサポートの役割が多いです。
お茶を出してくれるのも彼女の趣味で我ながら虜になっている気がしないでもない。ちなみに彼女の腰には常に愛用する魔法武器の鞭があり、たまに怒らせると寸止めで放ってくるので要注意。
「そうだぞ、隊長はヘタレだが、なんだかんだできる奴だ。」
「ぷっ、ルギエは実直よね、ま、否定しないけど」
「頑張れ、フォル」
さらに後ろから小声で悪口なのか鼓舞なのか知らないが応援の声が掛けられた。
まず、私をヘタレだと言った彼女はルギエ・ラサース、栄誉ある騎士を排出してきたラサース家三女である。
彼女もまたクリス・ディ・アストガリアの金髪に劣らず、こちらは太陽のような輝きの金髪で首元まで伸ばしたショートヘアーをしている。本人曰く、動きやすいから切ったとのこと。
そのまっすぐな心は彼女らしい一面だ。
彼女の役目は私の側付き護衛や騎士隊を束ねたり、先鋒隊をするなど戦いを主としている。
彼女が愛用している魔法武器は剣だ。本人曰く、騎士なら剣しかないだろうとのこと。
ちなみに彼女は魔法を発動していない状態の剣で銃弾を切り裂くという荒技を持っている。騎士の印象から外れてる気がするけど気のせいなのかな?
次に私のヘタレ疑惑を否定しなかったレイア、王室で働いている文官の一人娘である。
髪は桃色のロングヘアーで人を魅了する雰囲気を醸し出しており、実際、私たちの初対面のときはまわりに男たちをわんさか侍らしていた。今はそんなことはしていないけど溢れ出る色気は男を今も狂わせている。ある意味、怖いわ。
そんな彼女ではあるが、以外にもおっとりしているようで細かいところを見る能力がある。彼女の役割は主に情報収集が主になっている。正確には外交面や各国の調査、幅を広げれば個人の情報まで調べ上げるなど徹底した調査力を誇っている。
そんな彼女の魔法武器は超長距離型射程の狙撃銃を扱う。その正確な狙いと相手の考えを読む殺傷能力が低い状態でも死ぬかと思いました。
そして、最後のおとなしい彼女ことシャウラだ。シャウラには身寄りがおらず、元々王都出身ではなく、別のところにいたらしいが記憶にはないとのこと。
髪は薄緑色でポニーテール、そのおとなしさと背丈と相まって小動物のように可愛い。お菓子が好きで特にチョコレートがお気に入り。そんなところも可愛い。普段は。
まずは彼女の役目から。彼女もまたルギエと同じく先鋒隊を務めたりする。さらに彼女は密偵なども兼ねており、レイアの情報収集にも役立っている必要な立ち回りをしている。
そして、彼女の魔法武器は量産型短剣を投げたり、切りかかったりと多様な使い方をしている。が、結局は使い捨てのものなので、なくなればその辺に落ちている石や木、はたまた敵兵すら武器にするので正直言って白兵戦のプロだよね。
だが、そんな彼女にも私を不安にさせる問題がある。それは、一度戦場に解き放つと、我先にと敵の懐に入っては敵兵力を鎮圧していく。この4人の中で最も暴れん坊である。ある一定距離にはいるのは理解しているものの、ある合図をしないと帰ってこず、遠距離でしか支援ができないので大変だ。
普段は子犬のようだが、戦場に入ると狂犬になるのだ、これが最近流行りのギャップ萌えっていうやつなのだろうか。
そして、この4人とは学院からの長い付き合いで、私の本性を知る数少ない者たちだ。最初は結構慕われていたんだけどなんだかんだしていく内に表面だけでも強制的に理想にしようと努力してくれている熱心な人たちになっている。後、何故か、だんだん積極的にしてくるようになっていった。私も最初は抵抗しようかなと思ったんだけど力と恐怖の前では無力でしたとさ。てへっ。