家族会議
「そういえば、来週の剣術大会、ユウくんも出るでしょ?」
その日の木剣での模擬戦が終わった後、突然リンがそんなことを聞いてきた。ちなみに木剣と言っても俺のはそこら辺あった丁度いい大きさと硬さの木の枝だ。リンは名前に苗字があるように、平民より少し階級が上の村長の娘だ。なのでそこそこの金はあるらしく、リンに木剣を買えたらしい。ちなみになぜ俺の両親と仲がいいのかは不明である。
「そうだな、一応出ようとは思ってるけど親次第だな」
リンは俺の微妙な反応を見て大体の理由を察したらしい。八歳の割に鋭い子だ。こういった歳の割に鋭かったりするところを見てると、昔の知り合いを思い出して顔に出そうになったがギリギリのところで堪える。
「まだ刃纏が使えること話してないの?いい加減言いなよ。家の手伝いしないでこうしてこっそり訓練するのも、もう厳しいんじゃない?」
そうなのだ。俺はまだ両親にこのことを話してないのだ。両親はとてもいい人達なので話せば納得してくれるだろうが、それでも出来る限り言いたくはない。
だけど·····
「そうだな、もうこれ以上は黙ってられないか。近いうちにタイミング見計らって言うことにするよ。」
と俺は言ったのだが、リンの顔はどこか不満げだった。なに、どうしたの?と視線で問いかけるとリンは溜息をついて
「今までそう言ってきてずるずる先延ばしになってきたんでしょ?だったらちゃんといつ言うか決めようよ。」
痛いところを突いてくるな、こいつ。まぁ確かにそうやって今まで引きずってしまったのでその方がいいだろう。
「分かった、そうするよ。今日晩飯食べたあとに言うことにするよ」
と言うと、リンは満足そうに頷いた。
*
「父さん、母さん、話したいことがある。少しいいかな?」
両親が夕食を全て食べ終わったのを確認してから、軽い談笑をした後に俺はその話を切り出した。真面目な声のトーンで、こんなふうに改まって話したことが今まであまり無かったので二人とも心配そうな顔をしている。本当に優しい人達だ。俺の前世では、俺に何があっても、どちらもこんなに心配してくれなかっただろう。
「どうしたの?何か困ったことでもあったの?」
母さんの問に俺はゆっくり首を振った。
「俺は、来週の剣術大会に出場させてほしい。多分、出場料や木剣の貸出で少なからずお金がかかると思う。」
その言葉に両親は驚いていたが、俺は自分に腹が立って仕方がなかった。昼間にあんなことを言っておいて、二人の優しさに甘えて、状況次第でまた本題を先延ばしにしようとしているのだから。
父さんは少しの間だけ、目を閉じて考えていた。俺は不思議に思って父さんを見ていると、ゆっくり目を開けて優しい声でこう答えた。
「いいよ。ただし、大会が終わったあとは仕事を手伝ってくれ。」
「ありがとう。約束する。大会が終わったあとは仕事を手伝うよ。だけど、多分継ぐことはできないと思う。」
俺がそう言うと両親が目を見開いて絶句した。さっきの一言で大体察したのだろう。しばらくして落ち着くと、今度は二人とも悲しそうな顔になった。
この世界では普通、親の仕事は長男が継ぐことになっている。そして、俺は長男だから本来なら仕事を継がなければならないのだが、例外が存在する。それは、刃纏を使える人間だ。この場合、十五をすぎて、教会にある学校のよなものを卒業すると、王都にある騎士養成学院に行き騎士にならなければ行けないのだ。そして騎士は人類を脅かす魔物を殺さなければならない。そしてその仕事は当然、命の危険と隣り合わせなのだ。
両親はその結論に達して悲しい表情になったのだろう。だから言いたくなかったのだ。この二人は、これまでの人生で唯一息子である俺を愛してくれていたから。俺みたいな人間には勿体ない両親だ。
「·····そうか。一応確認しておくがお前もリンちゃんと同じで刃纏を使えるのか?」
「うん、そうだよ。今まで黙っててごめんなさい。·····けど、王都に行くまでは家の仕事ちゃんと手伝うから。」
俺はできるだけ明るくそう言った。恐らくそれが逆効果だったのだろう。母さんがとうとう泣き出してしまった。俺が申し訳なく俯いていると、母さんが涙をふいて
「ごめんね、泣いちゃって。大会頑張って!」
「ユウ、出場するからには優勝しろよ。多分リンちゃんが強敵になるはずだが、遠慮せずに倒してしまえ!」
母さんに続き、父さんも激励してくれた。出場は許してくれるとは思ったが、応援してくれるとは考えてもみなかった。あまりの嬉しさに今度は俺が泣きそうだった。
「ありがとう。頑張るよ。·····それじゃもう寝るね。明日からは仕事手伝うよ。おやすみ。」
「よろしく頼む。だけど大会が終わってからでいいよ。おやすみ。」
と言って両親は寝室に向かっていった。大会に集中しろと言うことらしい。
ほんとに感謝しないといけないな。きっと親孝行しよう。そんなことを考えながら俺も自分の寝室に行きベッドに入った。
心配事は無くなっからか、身体が軽くなった気がした。明日はきっとこれまで以上に訓練に身が入るだろう。内容も大会に合わせて模擬戦をメインにしていこう。明日からのことを考えているとまるで遠足前の子供のように直ぐには寝付けなかった。身体が子供のせいか、精神年齢まで少し幼くなっていたのかもしれない。