帰還
村に戻ってから四日目の早朝に両親に別れを告げて村を出てさらに三日が経っていた。
この時点で既に俺たちは王都手前の森の中にいた。以前よりも走れる距離が伸びていたため予定よりかなり早い今日にも王都につく事ができそうだった。
今回は盗賊に会う事もなく、つまりなんの問題も起こらずに王都に入る事ができた。
宿に戻ると俺達が使っていた部屋には俺たちの全く知らない荷物が置かれ、俺たちの荷物は無くなっていた。
「あ、あのすみません!数日前から部屋を借りていたんですが、しばらく帰らない間に俺たちの荷物がなくなってて、全く知らない人の荷物が置かれていたんですが·····」
慌てて部屋のある二階から降りてカウンターにいる店主に話しかける。
「あー、あんたらか。いまさら帰ってきたのかい?あんたらの荷物なら数日前に学院の人が来た全部持っていったよ」
「えっと、それって本当に学院の人でしたか?」
恐る恐る尋ねてみると店主は首を傾げた。
「本当にって国の機関の名前を嘘で使う輩がいるはずないだろ?確認なんてしてないよ。仮にそんな輩がいたら間違いなく死刑だよ」
そんな法律があるのは知らなかったが山賊がいるのだし恐らくそういった人たちも少なからずいるとは思うのだが。セキュリティが低すぎる。
宿にいても仕方ないのでとりあえず学院に向かってみる。
学院内の地図を確認して事務所のところに向かっていると選定した時の教員に出会った。
「あなた達は。戻ってきたのですね。事情はルス氏から聞いています。」
「お久しぶりです。私たちが泊まっていた宿に置いてあった荷物を学院の方が持っていったと聞いたんですがありますか?」
今度はリンが尋ねた。
「宿の荷物でしたら寮のそれぞれの部屋に置かれてますよ。」
それを聞いて二人でほっと胸を撫で下ろす。本当に泥棒じゃなかったらしい。
「そうですか。ありがとうございます。それで寮はどこにあるんですか?」
「案内しましょう。着いてきてください。」
そう言って俺たちの前を歩きはじめた。
寮に到着すると俺とリンはその優雅さに圧倒された。生徒の部屋だけではなく、休日学院の施設が閉まっている時などに使う修練場まであるらしい。
「あなた達の部屋はこの寮の最上階です。」
その言葉に少し違和感を覚えた。男女別ではないのだろうか?
質問しようとしたがその直前で答えに気づいた。そもそも人数がそこまで多くない上に敷地も限られているので何棟も建てられないのだろう。
「五階建てで一回は浴場などの共同の施設になっています。あなた達の部屋は最初からついていますがこちらも自由に使っても構いません」
寮に入るとまず一階の説明を受けた。
「二階から三階は下から順に一年生から三年生の部屋になっています」
そこでまた違和感を覚えた。確かこの寮は四階建てで俺たちの部屋は最上階と言っていた。
「なんで俺たちの部屋は二階じゃないんでしょうか?」
「それは·····」
俺の質問に答えようとした教員の声は後ろからの叫び声に遮られた。
「兄さーん‼︎」
そしてその声の主は俺に後ろからタックルをかましてきた。
突然のことすぎて全く反応できずに前に倒れ込んだ。
「ユウくん!?」
「·····」
突然すぎてリンは俺を呼んで、教員は絶句していた。
俺も訳がわからず倒れたまま固まっていた。俺にタックルしてきた奴は未だに俺の背中にくっついてる。
十秒ほどで離れたので起き上がりながら後ろを見ると長い銀髪の全く知らない少女がいた。
たしか兄さんと叫びながらぶつかってきたが、そもそもこの世界では俺に妹はいない。
「えっと、人違いじゃない?俺に妹はいないはずだよ」
と俺がいうと少女は笑顔で返答してきた。
「私が兄さんを他の誰かと見間違えるはずないじゃないですか。それとも兄さんはわたしのこと忘れちゃったんですか?」
「あっ!」
声を上げたのはリンだった。見てみると若干青ざめているように見える。
「まさか、彩華ちゃん?」
「は!?」
珍しく大声を出してしまった。
彩華は、柊彩華は俺とリンがいた世界で俺の妹だった人物だ。
「そうですよ。ここではサイって呼ばれてます。あなたはもしかして凛さんですか?久しぶりですねー。まさかとは思いますけど私がいない間にまた抜け駆けとかしてないですよね?」
その質問にリンは激しく首を縦に振る。言動からも若干わかるようにブラコンだ。しかも怒らせるとかなりやばい。
「で、なんで彩華がこっちにいるんだよ?お前も死んだのか?」
なんとか冷静を装って分かりきっている質問すると、意外なことに首を横に振った。
「違いますよ。私は直接神様からお声がかかったんですよ。ほんと素晴らしい神様ですよね」
やはりというか当然あの神が仕組んだ事だったらしい。
「あの、そろそろ案内を再開してもいいですか?というか再開させてください。時間もないので」
しばらく話をしていると職員が我慢の限界だったのかそう切り出してきた。
「あ、すみません。おねがいします」
慌てた俺たちが頭を下げるとため息をついて足早に歩きはじめた。
俺とリンを彩華に一旦別れを告げて後を追うと当然のようにその後ろを彩華はついてきた。