襲撃1
学院に到着して手紙を見せると村長の印鑑のおかげかすぐに受理され騎士を可能な限り早く派遣すると言われた。あとからわかったのだが学院は騎士団に直接繋がっているらしい。
俺は手紙が受理されたのを確認した後すぐに踵を返し宿に戻ろうとしたが、選定の時の教員に呼び止められた。
「待ちなさい。あなた方は村に戻るつもりですか?」
正直に答えるべきか少し悩んだが嘘は通じなさそうだったので無言で頷いた。
「では、リンさんを連れてもう一度ここへ来てください。実は数日前に神様が現れて全ての村などに繋がるという転移装置というものを置いていったのでそれを使うといいでしょう。」
止められるのかと思ったがどうやら協力してくれるらしい。転移装置の話が本当ならあの神はこの状況を事前に予見していたのかもしれない。だが嘘の可能性もあるので少し探りを入れてみた。
「·····どうして協力して頂けるのですか?」
「あなた方は新入生ですが恐らく百年に一度のくらいの逸材だと私は考えています。そのあなた方が先に向かわれれば騎士が到着するまでの時間稼ぎにはなると考えたからです。それにあの村を取られるとそこを拠点に周辺がどんどん侵略されていくのでどんな手を使ってでも阻止しなければならないのです。」
教員は真っ直ぐに俺の目を見てそう言った。嘘をついている様子はない。本当に多少の犠牲を払ってでもそしてしたいのだろう。
「分かりました。すぐ戻ります。」
俺は来た時よりも速度を上げて村に戻った。
五分程で学院に戻ると職員と思われる人達が慌ただしく働いていた。手紙は受理されたがそれ以外にも色々手続きなどがあるようだ。
教員の所に行くと地下に連れていかれた。そこには直径が五メートル程の台があった。これが転移装置だろう。
「転移には刃纏を使います。座標はこちらで合わせて村の中心に転送します。予めエスパーダを出していてください。」
言われた通りエスパーダを出すと違和感に気づいた。俺の剣、デュプリケートは抜き身で出現したがリンの刀のエスパーダは鞘に入った状態で出現したのだ。
それを考えるより先に別のことがおこった。視界の右上に文章が出てきたのだ。
『これから魔物を殺しに行くならいい加減この鎖といてくれないかな?色々制限されてて辛いんだけど』
制限てなんだよと思ったら直ぐに新しい文章が出てきた。
『例えば直接話しかけられないとか、刃纏や能力も機能低下してるよ』
それを読んで驚いた。デュプリケートを獲得した時点でかなり刃纏の最大量も増えていたので気づかなかった。今から敵のいる場所に向かうのにそれはまずいと思い渋々デュプリケートに巻きついている鎖が壊れるイメージをした。
すると宿と学院の往復で少しばかし減っていた刃纏が使う前より多くなった。さらに索敵の範囲が倍近くに広がったのだ。
「いやーキツかった。信用してくれてありがとね。安心して僕は完全に君に服従してるから主導権を奪おうなんて思っていないよ。君を全力でサポートするよ」
今度は頭の中に直接声が響いた。
「わかったから黙れ。うるさい」
あまりのうるささに思わず声に出して言ってしまった。リンと教員がこっちをみて驚いている。
「あ、すみません。エスパーダがうるさかったのでつい」
デュプリケートがくすくす笑ってるのが聞こえたので再び鎖で縛ろうとイメージすると直ぐに謝ってきたので今回は見逃すことにした。
「準備が整いました。一度使うと三十分は使えないのでそれまで頑張って村を守ってください」
それを聞き俺とリンが覚悟を決めて頷き転移装置の上に乗るとその台が輝き始めあまりの眩しさに目を瞑った。
目を開けるとそこは学院の地下ではなく、俺たちの村の剣術大会をやっていた広場だった。転移はちゃんと成功したらしい。
状況を確認すると転移装置を中心に村人が円形に集まりその周りを刃纏を持たない衛兵が魔物から何とか守っていた。既に防壁は壊されたらしい。
だがただの人間が敵うはずもなくゆっくり押し込まれていた。一気に皆殺しにするつもりなのだろう。
広がったの索敵範囲で村全体を確認してみると至る所に魔物が百体近く出現していた。そして防壁の外側にも五十体ほどの魔物が待機していた。その中の一体が異常な気配を発していた。
「リン、村の中にいる魔物は俺に任せてくれ。お前は外側にいるヤツらを頼む。直ぐに片付けて向かうから」
俺が指示を出すとリンが驚いたように言った。
「村の中全部をユウくんが?いくらなんでも無茶だよ」
「俺の固有型の能力だったら簡単だ。それより外側にいるヤツかなり強いけど一人でできるか?」
尋ねるとリンは納得したように頷いて答えた。
「わかった。取り巻きはすぐ倒せると思うけどボスみたいなのはひとりじゃ難しいかも。」
その答えに少し驚いた。リンが一人では難しいと言ったことにだ。リンは前の世界で剣道と居合切りの達人だったので簡単に首を落とせると答えると思ったからだ。
「そうか、じゃあ俺が行くまでに取り巻きは殺しておいてくれ。ボスはそれからだ」
リンは頷いて村人をとびこえて外側にいる魔物たちの方へ走っていった。それに村人が何人か気づき驚いていた。俺たちが突然現れ事に今気づいたらしい。村長も気づきなにか言おうとしているが無視してデュプリケートに話しかける。
「生成の能力で村の中にいる魔物を掃討する。できるか?」
「君一人じゃ難しいかもね。人間じゃ百本近い剣を操作出来ないから。だから僕が手伝ってあげるよ。僕が全ての魔物の頭に命中させよう。」
それを聞いて安心した。あんな大口叩いて失敗したらかっこ悪すぎる。
俺は深呼吸して剣を空に向かって掲げ目を閉じ夢でやった時と同じように何本もの剣を全力でイメージする。刃纏が一気に半分以上減っていく。
全部生成出来たのを感じ、目を開け空を見ると村の上空に魔物の数より多い剣が漂っていた。その剣先から赤い線が地上へと何本も伸びている。
「村にいる魔物に全部に狙いを定めたよ。余ったやつは全部村の外にいる強いやつに向けといた。後は君がイメージするだけだ。」
再び頭の中にデュプリケートの声が響いた。それに頷いて勢いよく掲げた剣を振り下ろす。
「降り注げ!」
あまりにも厨二病臭く自分でも引いてしまったがこうでもしないとイメージ出来なかったので仕方がない。
そのおかげか剣は勢いよく地上に向かって降り注いだ。魔物の悲鳴が村に響き渡る。衛兵と戦っていた魔物にも剣は突き刺さった。衛兵が驚いて腰を抜かしているのを少し笑いそうになったが(デュプリケートは笑っていた)、それより先に索敵で撃ち漏らしがいないか確認する。
村の中には魔物は一体も残っていなかった。どうやら全て命中したようだ。ただ余りを撃ち込んだボスは健在だった。
慌ててリンのところに向かおうとすると周辺で倒れていた魔物が黒い粒子になりデュプリケートの柄頭に嵌っている魔石に残らず吸い込まれていった。それだけではとどまらず村全体からその黒い粒子が集まって来ていた。どうするか悩んでいるとリンが向かった方から凄まじい爆音と衝撃が届いた。
それに驚いて俺は魔物の粒子の事を一瞬で忘れリンの方へ全力で向かった。