エスパーダ2
気がつくと以前死んだ時に来た白い空間にいた。
「·····俺はまた死んだのか?けどなんでこの剣を持っているんだ」
あまりの出来事に思わず独り言を言ってしまった。周辺を見渡してもか神は見当たらない所か気配すらない。それに今までとは少し違う気がするが何がおかしいのか判然としない。
「その違いは君が死んでない所だろうね」
その声は先程まで何も無かった後ろから聞こえ、驚きながらも距離を取りながら振り返る。神の声なら距離をとる必要もなかったが、その声は変声機を使ったような声だったのだ。
「君転生者なんだね。初めてみたよ。おかげですぐ終わるはずの記憶の読み取りに時間がかかってしまって待たせてしまったよ。けど君の記憶が多いせいだから僕のせいじゃないね」
言動から分かるようにそれは神ではなかった。それと表現したのはこの声の主の姿が生物ではなかったからだ。それは、黒い球体だった。正確には、何かが一箇所に無数に集まって球体に見える何かだった。
「説明するよ、これは君が僕を手に取った時に刃纏を通して精神にこの空間を作ったんだよ。夢だと思ってくれて構わない。現実の方では君や別のエスパーダを手に取った女の子もただ寝ているだけだからね。」
「じゃあこれはお前の、と言うよりお前たちエスパーダの選定の最中ということか?」
俺は理解するために言った独り言のつもりだったが、黒い球体は話を進めるためかその質問に答えた。
「そういうこと。まぁメインは記憶の読み取りだけどここでの選定の仕方はエスパーダによって変わるけどね。そりゃ全てが完全に独立した自我を持っているんだから当然だね。そして僕のやり方は戦闘さ。僕に勝てたら君の剣となろう。けど僕が勝ったらその体貰うね」
最後の一言を聞いて俺はそんな事が出来るのかと驚きながらも直ぐに戦闘態勢に切り替え剣を構えた。
それと同時に目を疑う光景が立て続けに起こった。黒い球体はその形を作っていたものが拡散して再び集まり始め最初とは全く別の人型になった。そしてそいつの右手に突然俺が持っている剣と全く同じ剣が現れた。
驚きながらも動こうとすると更に驚くことが起きた。人型になったエスパーダの周囲に五つの黒い塊が現れ、形を変えてそれぞれが俺が持っている剣と同じものになり剣先が俺の方に向く。
嫌な予感がして前に出ようとしていた足を止め後ろに全力で下がる。直後俺がいた所に三本の剣が地面に突き刺さる。
それにも驚いたが俺はまた別のことに驚いていた。刃纏を使っていなかったはずなのに、使用時と同じくらいの距離を後ろに飛んでいたのだ。
その理由を考えるよりも先に残っていた二本の剣が再び俺の方に飛んできていた。今度はそれを冷静に剣を振って二本同時に叩き落とす。飛んできた剣は地面に落ちて動きを止めると黒い粒子になり消滅した。最初に飛んできた三本もいつの間にか消滅している。
それを完全に認識する前に全力で突進し、回避したために空いてしまった二十メートル近くの距離を一気に詰め、人型の胸の中心に突きを放つ。
狙いたがわず命中し、剣が当たった所を中心に数センチの体を作っていた粒子が吹き飛んだ。しかし、エスパーダは倒れることもなく右手に持っていた剣で切り上げる。それをギリギリの所で横にずれて避けて直ぐに水平斬りで反撃する。
エスパーダはそれを避けようともせずにそのまま真っ二つに切られそのまま全身が粒子になり俺の後方へと流れていく。
あまりの呆気なさに呆然としていると、突如後ろから嫌な予感と言うよりも殺気を感じ慌てて振り向くと切ったはずのエスパーダが剣を大上段に構え立っていた。貫かれた跡や切られても折らず完全にダメージが回復していた。この様子だとダメージになっていたかも曖昧だ。そして、大上段に構えた剣を振り下ろそうとしていた。
振り向きながらそれを視界の端で認識していた俺はそれを防ぐために振り向く回転の勢いを加えて剣を振る。あわよくば相手の剣を弾い上げてから切り返しで今度は首を落とそうとしたが、予想よりも力が強く、鍔迫り合いになった。
「意外とやるなぁ、こっちに来てからあまり実戦してないみたいだから楽に勝てると思ったんだけどな。それに感もいいし。けどそれだけじゃ僕には勝てないよ。仮に他の者が入ってきたとしても僕達には誰も勝てない。ここの神だからね。」
そう言いながら押し込む力が強くなりじわじわと押されていく。その重さに顔を顰めながらもエスパーダの言動にちょっとした違和感に囚われた。だが考えがまとまる前にどんどん押し込まれていく。
「そうかよ!」
返事をしながらありったけの力を込めて押し返し、少し力が弱くなったタイミングを見計らい距離をとり、違和感の招待を探る。
その間も攻撃が来ると覚悟していたが追撃はなく、変わりに周囲に剣を生成し始めていた。けどそれもすぐに終わるだろうから急がなければならない。まず違和感を感じたエスパーダの言葉を思い出す。そしてその違和感の招待に気づいた。だがそれと同時に剣が射出さた。
射出された剣を落とすために構えながら、先程気づいたことを実行に移すため準備をする。成功すれば形勢は一気にこちらに傾くはずだ。
そして俺の準備が整うとほぼ同時にエスパーダが生成した五本の剣一気に射出された。俺は失敗していた時のために気を引き締める。だが、その必要はなかった。
剣は俺の一メートル手前で何かに弾かれた。それを見たエスパーダが舌打ちをして凄まじい殺気とともにこちらを睨む。
「お前、気づいたみたいだな。」
「あぁ、お前のおかげだよ。さっきなんで僕達って複数形を使ったのが引っかかったんだよ。考えて見たら簡単だった。確かにここはお前の作った世界だろうが、俺の夢を元に作ったものだ。だったら俺もこの世界の神ということになる。だからお前は僕達と言ったんだろう?そしてこれが夢なら明晰夢に近いものだと思ってな。強くイメージすれば何か起こると思って試しに透明で硬い壁をイメージしてみれば予想通り上手くいったって訳だ」
エスパーダは更に舌打ちをする。この反応は俺の推測が全て当たっていたのだろう。俺は思わず笑ってしまった。
そして俺は次の行動に出る。今度は鎖をイメージした。エスパーダの動きを止めるため、粒子化を出来ないように効果を付けてみる。可能かは分からないが多分できるだろう。
完全にイメージするとエスパーダの足元に突如金色の鎖が現れエスパーダの全身に巻きついた。もがいているのを見るとちゃんと粒子化を防げているようだ。
この戦いを終わらせるために次の行動に入る。今なら攻撃を注意する必要もないので、イメージしやすいように目を閉じる。そしてエスパーダがさっきまで使っていた能力をイメージする。そしてその本数をイメージ出来る限界まで増やしていく。
目を開けて後ろを見てみると百本近くの剣が宙に浮きその全てがエスパーダに剣先を向けている。どうやら上手くいったようだ。エスパーダも目を見開いている。
「嘘だろ·····、ま、待った!降参だ。お前を主と認める」
意外とあっさり負けを認めたので今度は俺が驚かされた。
「分かった。剣は消すよ。けど鎖は解かない。不意打ちされそうだからな」
それにエスパーダは頷いた。
「で、何かやることとかあるのか?主に認めるとか言ってたけど契約とかがあるのか?」
「契約みたいなのはないよ。僕は君が死ぬまでここに住み着いて君に力を貸すだけだ。君が魔物を倒せばそのエネルギーを僕が吸い取って僕自身に使ったり、君に与えたり、倒した魔物の能力を君にも僕を通して使えるようにしたり。」
「そんなことまで出来るのか。けどお前にメリットはあるのか?」
尋ねてみるとエスパーダは首を振った。
「そんなにないよ。まぁ強いていえば魔物のエネルギーが食べられるって事だけどこれは僕の強化に繋がるわけだし、食べなければ死ぬ訳でもないからメリットとは言えない気がするな」
「そうか、まぁこれからよろしく。そう言えば名前ってあるのか?」
「僕の名前はデュプリケート。よろしく。僕を使いたい時は刃纏を使って剣をイメージすればいいよ。あとは外にいる人にでも聞いて」
外にいる人とは教員のことだろう。そう言えばリンはもう目覚めているのだろうか。まぁあいつなら大丈夫だろう。
「ねぇそろそろこの鎖消してくれない?さっき負けを認めた時点で僕は君の刃纏に完全に繋がったから不意打ちなんてしないよ」
デュプリケートが無駄だと分かりながらももがきながら言ってくる。さすがに可哀想だったがまだ信用し難いので無視して質問をする
「どうやってここから出ればいいんだ?」
「無視ですか、ひどいなぁ。まぁいいや。戻るのは僕に主導権があるんだ。君の連れの子ももう目覚めてるよ。待たせるのは可哀想だし君もそろそろ戻すよ。じゃあね」
いいのかよ!と突っ込もうとするより早く俺の体が透け始め、視界が真っ暗になった。
目を開けると目の前にリンの顔があった。
「あ、起きた!良かったー!聞きたいことがあったんだ。君は、柊悠だよね!」
俺は驚きのあまり絶句した。リンが口に出した名前は元の世界に居た時の自分でも忘れかけていた名前だったからだ。