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剣術大会4

「出来たぞ!」

  控え室で体を休めるために寝ていると突然エレロが大声で入ってきた。

  驚いて飛び起きると、エレロの手には俺達が先程渡した木剣が握られていた。そして、その鍔には先程見た時より少し小さくなった魔石がハマっていた。形が整っているから加工して埋め込んだのだろう。

  「意外と早かったですね。まだ一時間経っていないと思いますが?」

「長く見積って一時間と言ったんだよ。それに試し振り時間が必要だと思ったから急いでやったんだよ。上手くできてると思う。」

  そう言って俺とリンに木剣を渡した。受け取ると前よりも少し重くなっていた。だが、特に違和感はなかったのでそのままリンも俺も刃纏を使う。俺とリンの周りに、濃紺と空色の靄のようなものが発生する。

「おお!」

 エレロが感嘆の声を上げる。この驚きを見ると刃纏を初めて見たらしい。

 最初は体の周りにあった靄が直ぐにに木剣にも伸びていく。ここからは初めての経験だ。木剣の先まで到達したのを確認し、まずは俺が木剣を上段に構え、全力で振り下ろす。

「きゃっ!」

「うわっ!」

 木剣を地面に当たる直前で止めると、一瞬遅れて凄まじい剣風が控え室のテントを揺らし椅子などを吹き飛ばし、リンとエレロが小さく悲鳴を上げる。俺は驚きすぎて声も出ず振り下ろした体勢のまま固まっていた。

「·····ど、どうやらちゃんと出来てるみたいだな」

  少ししてからエレロが驚きからか少し吃りながら言った。

「そ、そうですね。まさかこんな凄いことになるとは思ってなかったのでかなり驚きました。·····完璧です。ありがございます。」

  俺もなんとか硬直から脱してエレロに礼を言う。

  その後リンの試し振りも問題なく終わり(物は飛んだが)、エレロも満足した様子で控え室を出ていった。そこから試合開始直前まで、試し振りで散らかしてしまった控え室の片付けが終わらなかった。


「試合開始時間です。頑張ってください」

  片付けが終わると同時に係員が呼びに来た。係員について行くと、外はもう夕日が沈みかけていた。舞台まで行くと再びルールの説明が行われた。多分刃纏を使っているからだろう。

  大きな変更点は二つあり、一つ目は寸止めが無くなったことだ。ただ、運営側は可能なら寸止めとのことだった。二つ目は五分という制限時間だった。恐らく日没までの時間なのだろう。

  寸止めに慣れず少し苦戦していたリンは、いつもの模擬戦通りに出来るため調子が出てくるはずだ。

  俺達が開始線につき、審判員は舞台を降りた。いよいよ決勝戦が始まるせいか、観客もかなり盛り上がっている。正面の客席の最前列には両親が来ていて応援してくれている。それに頷いて、審判を見ると手を上げ始めた。

  それを確認し、木剣を半身で中段に構える。リンはやや上段で正面に構えている。恐らく縦切りと見せかけたフェイントだろう。二人が構えたのを確認し審判員が腕を下ろす。

「始め!」

  それを聞くと同時に刃纏を使う。全身に力が巡り始めるのを感じながら動こうとすると、既にリンが完全に刃纏を巡らし、二十五メートルの距離を詰めるため、木剣を横に構え直しながら走り始めていた。どうやら刃纏が全身に行き渡るまでの時間も才能の差がでるようだ。

  想定外の出来事に内心で毒づきながらも冷静に対処行動をとる。木剣の側面が正面に向くように持ち、剣先が地面を向くように構え、左手を添えて支える。

  その時にはリンは俺を間合いに入れていて、水平切りを打ち込もうとしていた。その時になってやっと俺の全身にも刃纏が巡った。開始の合図からまだ一、二秒程度しかたっていない。

  このままだと、エレロが言っていたように横をぶっ叩かれて木剣が折れてしまうため、タイミングを見計らい後ろに跳ぶ。

 ガァン!

  鉄と鉄を打ち合わせたような音が会場に響き渡る。車に撥ねられたような衝撃に俺は思わず顔を顰める。

  木剣からも軋むような嫌な音がしたが踏ん張っていなかったため何とか持ちこたえてくれたが、後ろに五メートル近く吹き飛ばされる。着地しようとすると、勢いを殺しきれず後ろによろめきそうになった為、再び後ろに跳ぶ。

  俺が二度目の着地をしようとしていた時にはリンは追撃のために距離を詰めてきていた。だが既に俺にも刃纏が巡っているため充分に対処することができた。

  リンの斜めの上段切りを、それに交差する軌道で同じ上段切りを放ち鍔迫り合いに持ち込む。両手剣の重さに一瞬押されそうになるが、何とか押し返し今度はリンが後ろに下がる。

  追撃を加えるため、剣を振り下ろした体勢のまま近づき切り上げを放ち、木剣を上に弾く。がら空きになった胴体に横切りを打ち込もうとした瞬間、左下から顔に向かって高速で近づいて来るものに気づき、その軌道に左手を上げてギリギリの所に割り込ませる。

  ガッ!

 という鈍い音がして俺は再び飛ばされる。リンが右足で蹴りを放ったのだ。今度は着地出来ずに地面を転がったが直ぐに立ち上がり木剣を構える。

 最初のフェイントもそうだが今の蹴りも俺は教えた事がないし、模擬戦で使ってもいない。恐らく決勝戦までの試合で相手にやられ、そこから盗んだのだろう。俺はフェイントなどに対処出来るようになるまでかなり時間がかかったが、リンは今日一日で身につけ自分のものにしたようだ。

「俺に攻撃当てられたのはじめてだな」

「うん」

  感心して声をかけると短い返事が返ってきた。

  さすがに本気でやらないと負ける可能性がかなり高いな。それぐらいの差が今の攻防ではっきり分かった。

「さすがに負けそうだから今回は本気でやってやる。」

  リンも俺が今まで本気で戦ってないのが分かっていたのだろう。返事の代わりに身を引き締めたのが分かった。

 それを見て軽く頷き構えを変える。一試合目の時のように、肩の高さに木剣を上げ、地面と平行にして右腕を引く。その動作を見てリンは下段に構え直す。それが完了するのとほぼ同時に一気に踏み込み顔と胴体を狙い二連突きを打ち込む。

 リンは俺の一試合目を見ていたにも関わらず、あまりの速さに反応が一瞬遅れギリギリで横に顔をずらして回避するが髪が数本突きによって切れた。ほとんど間をおかず二激目を下段に構えたことによってがら空きになった胴体に向かって突き込む。

「ッ!」

  その突きをまたも当たる直前のとこで短く声を漏らしながらも切り上げを俺の木剣に当て上に弾き上げて回避する。

  そのまま切り替えして二激目の縦切りを俺に当てようとしたが、俺は弾き上げらた勢いを利用して上段に持っていき直ぐに縦切りを放つ。

 ガァァン!

  二人の木剣が交差し先程よりも凄まじい音が再び会場に響く。あまりの衝撃に二人とも踏ん張りきれずに後ろによろける。辛うじて転倒はしなかったが体勢を立て直すのに時間がかかった。

  最初に動けたのはリンだった。今のうちに決着を付けようと大上段に構え一気に距離を詰めてくる。リンが一歩踏み出した時にようやく動けるようになった俺はすかさず縦切りを放つ。

「やぁぁ!」

「はぁ!」

 今度は弾かれることもなく鍔迫り合いになった。一瞬お互いの力が均衡したが、直ぐに両手剣の重さや、ダッシュの勢いを利用したリンが俺の剣を押し込んでいく。

 ギリギリまで押し込まれた所でリンは勝ちを確信したのか一層押す力が強くなる。そのタイミングで俺は瞬時に体を横にしながら剣を後ろに倒す。

「え?」

  支点が傾いたことでリンの木剣が俺の木剣の上を勢いよく滑り、リンは前のめりになり倒れそうになり、一瞬何が起こったのかわからなかったのか声を上げる。

  リンは木剣が勢いよく地面に刺さったおかげでそれを支えに転倒お回避したが、その時にはもう

 俺の木剣がリンの首筋目掛けて動き出していた。

  それを体を逸らしてギリギリ回避し、リンが木剣を抜きながら切り上げを放ち、それを迎え撃つため先程と同じ軌道で木剣を振り下ろそうとする。

「そこまで、時間切れのため判定により勝敗を決定します。」

 その声で集中により狭まっていた視野が一気に広がる。あたりは日が沈みかけ暗くなり始めていた。剣を下ろし待っていると

「勝者、ユウ選手!」

 審判が決着を告げる。それを聞いた観客達が今日一番の歓声を上げる。

 突如戦闘の余韻からか頭が痛みよろめくが直ぐに回復するがなかなか息が整わなかった。リンの方を見ると、地面に膝をつき俯いて浅い呼吸を繰り返していた。

  リンは先に戻り、その後審判に挨拶をして舞台から降りると左腕が突然痛み始めた。アドレナリンが切れたせいか、ヒビが入っていたのか少し腫れている。まぁすぐ治るだろう。

  表彰式はすぐだが少し休みたかったので控え室に入ろうとすると奥の方でリンが泣いてるのが聞こえた。

 気にせず入ろうとも思ったが、さすがにデリカシーが無さすぎるなと思い休むのを諦め両親がいた客席の方に歩いた。

 客席に向かっていると反対側からちょうど両親がこちらに歩いていた。俺に気づくと走り出し俺に抱きついた。あまりの勢いにそのまま倒れそうになる。

「優勝おめでとう!凄かったぞ。とても誇らしいよ。どうやってあんなに剣術を磨いたんだ?」

  二人は一気にまくし立てた。剣術について聞かれ一瞬焦ったがどうにか適当なことを言って誤魔化し、お礼を言う。

  そのまま五分ほど話していると、

「ここにいましたか。もうすぐ表彰式のが始まります。舞台に来てください」

 後ろから係員に呼びかけられた。ずいぶん探していたようで息を切らしている。謝罪と返事をして両親に別れを言って急いで舞台に向かう。

 舞台に上がると既にリンが椅子に座っていた。隣にも椅子があったのでそこに座る。リンを見ると目の周りが少し赤くなっていた。

「次は絶対勝つ」

  小さな声でボソッとギリギリ俺に聞こえる声で言った。少し心配だったがもう立ち直ったらしい。

「いつでも相手になるよ」

  少し格好をつけすぎた気がした。けど実際今回の試合で自分の剣術が少し上達したように感じられたから、時間がある時はこちらから頼みたいくらいだった。

  直ぐに表彰式が始まり、俺は優勝賞金と約束通り魔石ごと木剣をもらった。リンも取り付けた魔石と俺の半分くらいの賞金を貰っていた。

  後夜祭では俺とリンは観客や協賛者たちから沢山の賞賛をもらった。

  その後七年間俺は優勝を一度も逃さなかった。準優勝は当然リンだった。

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