別に牛に引かせてるわけでもない。
俺を迎えに来たというアズライトさんに連れられて草原を歩くと、舗装された道に馬車が停められているのが見えた。
「へー馬車じゃん。うちの地元も牛がひいてたりしてたけど、やっぱ異世界は馬にひかせるんスね」
「え!? 牛に引かせるんですか!? 大丈夫なんですかそれ。あとでバチが当たってのたうち回って穴という穴から血が吹き出ません!?」
「何それ怖い!! てか牛の扱い異世界ではどうなってるの!!」
やばい初手からドン引きさせてしまった。
しかしやべーな沖縄ギャップ。
岐阜で働きに出たときも、習慣の違いから本土の人間にも驚かれたが、
まさか異世界に来ても驚かれるとは。
「ま、まぁ向こうの常識はこちらでは図れませんからね……すみません、必要以上に驚いて。さ、さ、馬車にお乗りください」
と若干引き気味ながら、笑顔を作るアズライトさんに進められるがまま馬車に乗る俺。
馬車は自分たちが乗り込むと、御者の人の合図でゆっくり進んでいく。
「ここから2時間ほど進んだ先に私達の街があります、あっなにかのどが渇いたとかお腹が空いたとかあります?」
「あっどもっす……いやご飯食べたばっかなんでその……」
「そうなんですか、わかりました……何かあれば言ってくださいね」
「うっす……」
いや気まずい。
ほら黙っちゃったよアズライトさん。
そりゃそうだろ。
仕事できてるんだろうけど、いきなり草食ってるやつに話す話題とかねーよな。
あと牛。
いや牛は知らないし。
オレ悪くないし。
ただこのままこの沈黙の中、2時間はつらすぎる。
なんとかしても話題、話題……
てかそもそも俺が話しかけるにしても、この世界のことなんも知らないから話す話題もないし。
また沖縄トークしたら引かれるかもしれないし。
って、そうだよ。
この世界のこと聞けばいいのか。
そもそもここどこなんだよって話だし。
「という訳でアズライトさん、ここどういう世界なんですかね」
「ん? ああこの世界のことですか?
ああ、よかった、ケンジさんでもそういうの気になるんですね。
最初見たとき草食べてましたし、
そういう話してもいいのか悩んでたんですよ」
「やっぱり変なやつだと思われてる!?」
初対面のイケメンに頭の具合を心配されていた28歳。
見れば一回りも年齢が違うのに、こんなに情けない話もあるまい。
ってケンジさん?
「あれ? そういや名前名乗りましたかオレ」
「ああ、名前を知っているのは、神託があったからですね」
「神託? それ会ったときも言ってましたよね」
「ええ、ではその話を含めて順をおって説明していきますね。
ではまずこの世界自体の話から」
そう言ってアズライトさんは話し始めた。