草の味
「ぐえっ!……ひっいひっ、いひ…カッ、カッ……」
扉に吸い込まれたと思えば今度は背中を強打。
その痛みと衝撃で息が吸えずに、地獄のような苦しみが全身を駆け巡る。
苦しい、辛い。
おうち帰りたい。
ガチャ引きたい。
痛みを雑念でかき消しながら、悶絶すること数分。
やっと立ち上がることができた俺は、ようやくここがどこなのかを確認した。
「いやー……めっちゃ草原」
もうあたり一面、草、草、草。
見渡す限り、地平線まで草原である。
正直こんな見事な草原、沖縄でも岐阜でも見たことはないぐらいだ。
「正直なんかのイタズラかもと思ったけど、マジで異世界っぽいなこれ。
完全に大自然じゃん」
しかし本当になんの説明もなく放り出したなあの神様。
しかも始まりの町とかそんなんじゃなくて草原だし。
見渡す限り草原だし。
人っ子一人いないし。
モンスターとかいるのかしらんがいるとしたら即効で死ぬ自信がある。
いやほんとどうしよう。
………………
「ま、なんとかなるか!」
沖縄生まれは細かいことは気にしないし、深く物を考えない。
まぁなんとかなるの精神こそが一番大事なことなのだと骨身に染み渡っているのだ。
「まぁいざとなったら野宿すりゃいいし腹減ったらそのへんの草でも食ってりゃなんとかなるなる」
沖縄生まれは地面があればどこでも寝れるし、なんか生えてればそれを食べて生きていける。
まぁなんとかなるの精神こそが一番大事なことなのだと、
「あっこの草、割とうまいわ」
「いや、草を食べないでください」
急に声をかけられ慌てて振り向くと、
メガネをかけたイケメンの兄ちゃんが、顔を引きつらせながら話しかけていた。
「あっどうもっす……はじめましてー、
い、いや普段から草食ってるわけじゃないんですよ?
たまたま目について食えるかなって、
あっ自分久保健二いいます、え、えと」
は、恥ずかしすぎる……
さっきまで誰もいなかったのになんなのもう。
草を食っていたことを見られ、恥ずかしさのあまりしどろもどろで自己紹介をしてしまう俺。
そんな俺を見かねて、まだ若干引き気味だがイケメンの兄ちゃんもニッコリ微笑み返してくれる。
「はじめまして、クボケンジさん。
私はニコラス・アズライト
ここアルム大草原から西に少し行ったところにあるベオサルで、市長秘書をしております」
スラスラとなんか異世界っぽい単語を並べながら笑顔で話しかけてくるアズライトさん。
てかめっちゃいい声やなこの兄ちゃん。
俺が女の子だったら一声目で抱かれている。
アズライトさんは更に言葉を続ける。
「異世界からの旅路お疲れ様でしたクボケンジ殿。
トゥエリス様の神託によりお迎えに上がりました」