はま寿司から異世界へ
前回のあらすじ
はいさーいクボケンだぞ
はま寿司見てたら死んだぞ
「というわけでクボケンくん、死亡おめでとーございまーす」
そこ抜けに明るい死亡宣告を聞きながら俺は固まっていた。
はま寿司に殺された事実が、俺の胸に真実として重くのしかかる。
「いやはま寿司は殺してねーだろ。
逆に迷惑だよはま寿司も。
こんなバカの命をころした十字架をなんで背負わなきゃいけねーんだよ、このバカの」
「あっ!! いまバカって言った!! バカっていうやつがバカなんです〜バーカ!!」
「うるせぇおまえがバカじゃなければ人類残り50億ぐらい全部アインシュタインレベルだわバーカ!! おら三平方の定理の公式いえんのかおまえ!!」
「い、いえます〜。余裕です〜。
え、ええと3.1419……、ぱ、π!!」
うん、駄目だ絶対違う。
だってめっちゃドヤ顔で見くだしてるもんこの子。
「で、中学生でもわかる問題もわからない、クボケンくんはなにがわかるんでちゅか〜?
おバカじゃないんでちゅよね〜?
どうなんでちゅか〜?」
く、くやしい……!!
めっちゃ可愛くなければぶん殴るレベルでうざいが、めっちゃ可愛いから俺は耐えた。
可愛いは正義。孔子もそういってる。
ていうかいや俺文系だし? 忘れてるだけだし?
「は〜気持ちいいわ〜、やっぱこうやって生身の人間を煽るのたまんないわ〜
例えるなら格ゲーで顔真っ赤にして連コしてくるやつに、小足だけで勝って対面覗いてやったときの気持ちよさに似てる」
「ドSな上に、例えが特殊で俗的すぎる!!
てか君いったいなんなの、俺が死んでたとして、今目の前にいる君は誰で、一体何が目的なんだ」
俺はここに来てやっと本題に踏み込んだ。
死んだと言うなら、こうやって美少女と漫才をやってるのも変な話だ。
漫画じゃあるまいし。
「察しがわりぃなバカケン、おまえ事故で死んで目の前に美少女がいるって言ったらアレだろうが、あのオタク大好きの」
「またバカって言った!! ってえ、もしかしてまさか俺」
事故で死んで、目の前に美少女がいて、オタクが好きってきたらこの展開。
もうこれあれだろ。
「もしかしてこれ、アマガミの世界……!!」
「美少女とオタクが好きしかあってねーだろーが!! 誰が綾辻さんだ!!」
「いや俺はどっちかっていうと七咲のほうが好きです」
「聞いてねーよバカ!! どたまかちわんぞ!! 異世界転生だよ異世界転生!!
お前は選ばれたんだよ!!」
いやめっちゃキレるやんこの子。
まじ怖い……って異世界転生?
あの今流行の?
めっちゃ無双系の?
「でも俺トラックに引かれたわけじゃなくてはま寿司で死んだぜ? それって異世界転生的にはありなの?」
「いやトラック、そこまで重要じゃないし、お前が死んだのはおまえがバカだからだ。
で、重要なのはこっからだ。
お前を異世界に転生させてやる。嬉しいだろ?」
またドヤ顔を見せる美少女に俺は困惑した。
だって異世界ってお前……
漫画とか小説ならまだしも異世界って……
死んでる死んでないも本当かどうかもわからないし、
これ自体ドッキリか何かじゃないのか?
そんなことを考えてる俺をよそに、少女は話を進める。
「オレの名はトゥエリス。
まぁ他にも名前はあるが、今はこれで通してる。
こう見えて神様だ。えれーんだよ。
でこうやって死んだやつを異世界に送ってるわけ。
まぁこれはヒマだからだ」
まぁよくある異世界転生系のテンプレという設定だな。
少しフワッとした概要も説明も、可愛いから許そう。
「で、異世界に転生させてくれるってことはわかったしお前がろくでもないやつなのはわかったが……
拒否権ってあるのこれ」
「ない。
いやあるにはあるが、
おめー拒否してそのまま死んだ場合地獄行きだぜ?」
「えっ!?
いやいやいや確かにそんな聖人だった記憶はないが地獄に落ちるようなことはしてないよ!!」
「そうか〜? 地獄行きだからなんか理由あんだろ……ってあったあった。
罪状読み上げんぞ〜。
クレジットカード初めて作ったときに、
クレジットでいくら買い物してもお金が減らないと思いこんで、バカみたいに限度額まで使い込んで、
後々の請求きたときに親に土下座してお金返してもらった罪って書いてるが」
「うわぁあああああああ!!やめろぉおおおお!」
突然分厚い本をパラパラしたと思ったら、
なんでそんな黒歴史がその本に書いてるんだ!!
てかあれほんと一日中土下座してたから。
ほんと魔法のカードだと思ってたから。
お父さんお母さんごめんなさい。
「あとバカだから地獄行きって書いてるわ」
「存在自体が地獄行きかよ!!
あとほんとバカな子で大変申し訳ありませんでした!!!」
「というわけでお前は今から異世界行き。
まぁ安心しろそんな無茶なとこには行かせないからさ」
「そもそも異世界転生自体がムチャですけど……
で、なんですか俺。
そこに行ってなにすればいいんですか?」
「さぁ?」
「さぁ? ってお前……なんかこう魔王を倒せとかなんかあるんじゃないのか?」
「おまえ、今でもなんか目的持って生きてんのか?
それともなにか重大な使命を持って生まれてきたとか思い込んで生きてたのか?
うんなわきゃねーだろ。
まぁあれだ、サガ○ロンティアにもいたろ、ニートの主人公の。
あれみたいに自由に生きろ」
「いやだよ、あんな開始15分でラスボスと戦える冒険すんの!!
そもそも人のこと言えないが、例えが微妙に古いし、ゲームばっかやってんなこの神様!!」
ゲームの趣味が似通ってるのがなんか親近感わくが、
俗が服来て美少女になったみたいなこの神様、本当に大丈夫なんだろうか。
「ま、そういうわけだから早速行ってこい。
オレもちょこちょこ顔出すから」
ゴウンと後ろにあった扉が開く。
外はどこに繋がってるかもわからない真っ黒な虚空が見える。
「えっちょっまっ、心の準備が。
て、てか異世界ボーナス!!
なんかチート系の能力とかないの!?
沖縄生まれで田舎はなれてるけてけど、
水洗トイレがない世界はちょっと生きてける自信がないぞ!!」
「ボーナスぅ? チートぉ?
そんなもの……うちにはないよ」
「無慈悲!?」
そんなやり取りをしていると扉のほうから風が巻いてるような音が聞こえ、
そしてゴウンと、さながら宇宙空間で宇宙船に穴が空き、中の空気が吸い出されるが如く、
俺もすごい速度で扉に吸い込まれていく。
「じゃ頑張ってきてね〜」
「あああああああああ!!すっげぇすいこみあああああああ!!」
俺の体は完全に扉のうちに。
そしてトゥエリスはそんな俺にヒラヒラと手を振りながら、
そしてバタンと後ろ手で扉を締めた。