ホームレスじゃなくなった男の娘
「えっと。それでは、寮の一部屋を使用する、という事ですか?」
「はい。そこに一名、住むという事になります」
僕はヒノの紹介で、兵士達の寮に住まわせてもらう事となった。
早速、皆で寮の管理担当者さんの所へ向かい、部屋の申請をしに来たのだが。
「申請される方は、兵士ではない方ですね? おまけに・・・身元不明?」
寮の管理担当の女性が、悩んだ様子で申請書に目を通す。
申請書にはなんの偽造もないく、全て、正直に記入した。
つまりこの世界に戸籍も何もない僕は、正体不明の謎の人物だ。
「いくらヒノさんの紹介とはいえ、身元も分からない方をこの寮に入れるなんて事は・・・」
流石に、許可は貰えないか。
そう思っていると。
「待ってください。ちょっと、この子を見てもらえませんか?」
ヒノが僕を、管理担当の女性の前へと立たせる。
「この子をちゃんと見てください。こんな可愛い子が困ってるんです。助けてもらえませんか?」
「はい! わかりました! 承認します!」
僕を目の前にした瞬間、女性は二つ返事で返事を返し、書類に印を押した。
「えぇ・・・」
最早、魔法の濫用である。
「良かったですね、莉灰さん」
「あー、うん」
本当に、恵まれた魔法を授かってしまった。
・・・今までの、何の楽しみも無い人生を思うと、逆に申し訳なくなってくるくらいには、恵まれている。
「それでは部屋に戻り、生活用品の整理をしましょう。
とはいえ、莉灰さんは荷物が無いので、あまり片付けるものはありませんが」
「うん、そうだね」
本当に、僕は何一つ持っていない状態で異世界に送られてしまったのであった。
「あ、そうよ。私ちょっと用事があるわ。皆は先に帰っててくれない?」
「ん、そうですか?」
ミナトは突然そう言うと、廊下を駆け足で去って行った。
何かあっただろうかと気になったが、彼女は騎士でもあるし、色々と用事があるのだろう。
「あー、そういえば。私も用事を思い出した。ちょっと館に帰らせてもらうよ」
「・・・あ、はい。お疲れ様です」
続いて、エルカも何か思い出したらしい。
小走りで廊下を駆けていく。
「・・・それでは、私達は先に、部屋へ帰っていましょうか」
「・・・そうですね」
***
「うーん」
ベッドだけが置かれた、生活感のない部屋に戻ってくる。
色気は無いが、ヒノ達の様な"騎士"という位の者が使う部屋だけあって、作りはとても綺麗である。
それにトイレと浴室付き。
広さも十分で、下手なホテルよりも住み心地は良いだろう。
「莉灰さん、とりあえずシャワーを浴びてはどうでしょうか?
今日一日、色々な事があったでしょう? 身体も服も、汚れていると思いますので」
「うん、そうする。シャワー浴びる」
良く考えれば、今日一日で色んなことがありすぎた。
異世界に来たと思ったら、いきなり殺人鬼とデカイ魔物に襲われ。
なんとか倒したと思ったら、帰る途中で大剣を振り回す少女に襲撃され。
街に着いたと思ったら、ドSの女王様が兵士達を甚振っているし。
とりあえず、まずはシャワーを浴びて身体をすっきりさせたい。
後の事は、お風呂に浸かりながら考えるのも良いだろう。
「では、莉灰さんがシャワーを浴びている間に、私は服を洗濯しますね」
「えっ、洗濯して貰うなんて、わざわざ申し訳ないですよ!?」
「気にしないでください。丁度、服を洗濯したい気分だったので」
・・・洗濯したい気分なんて、あるのだろうか。
それは疑問だが、ヒノという少女は責任感が強い少女なのだろう。
ここは素直に、任せた方が良いかもしれない。
「それじゃあ、お言葉に甘えて。
・・・ところで。
洗濯してくれるのは助かるんですけど、このままだと僕、着る物が無いんですよね。
シャワーから上がったら、すっぽんぽんなんですよね」
「ああ、それでしたら心配しないでください」
どうやら、そこはちゃんと考えてあるらしい。
出会ってまだ一日も経ってないが、やはりヒノはしっかり者で、抜け目ない子だと確信した。
「ここは部屋の温度を調節する魔術器が備えられてます。
それで部屋を暖かくしておきますので、風邪を引くことはないでしょう」
「ちょっと待って、そういう問題じゃないから!?
僕、服が乾くまで全裸で過ごさなきゃいけないの!?」
「冗談です」
・・・しっかり者だけど、たまに本気か冗談か分からない事を言う子だった。
「私の服を持ってきましたので、これを着てください」
「え・・・」
そうしてヒノが広げて見せたのは、明らかに女物である服。
ひらひらとしてて、育ちのいい子が着てそうな清楚感のある、そして、何かいい匂いのしそうな上着と・・・スカート。
間違いなく、彼女の私物だろう。
「えーっと、これも冗談ですか?」
「いえ、これは冗談ではありませんよ?」
これは冗談ではなかったらしい。
本当に、本気なのか冗談なのか分からない事を言う子だった。




